【本編完結】ぎゅってしないと好きになる魔法   作:酉柄レイム

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第11話 死を覚悟する

 4人乗りのものはことごとく俺が高宮さんと2人で楽しんで妨害し続け、昼を迎えた。初めはどうやって殺してやろうかと考えていたけど、高宮さんはめちゃくちゃいい人で、俺が女だったら惚れてるどころか、あの手この手を使って結婚まで持ち込んでいただろうっていうくらいにはいい人だった。あのクソ親父がいなけりゃ姉ちゃんをもらってくださいって頼み込むところなのに……。ほんと邪魔だな父さん。

 

「そろそろお昼か。どうする? フードコートあるけど」

「適当に食べてちょちょっと遊んで、温泉行きたいなぁ。彩芽ちゃんと裸の付き合いしたいし?」

「お、お手柔らかに……」

「そりゃ柔らかいだろうなぁ」

 

 思わず彩芽の胸を見ながら言ってしまい、「しまった!」と思った時には全力で姉ちゃんに叩かれていた。彩芽は自分の胸を庇って「さいてー」と俺を睨み、高宮さんは爽やかに笑っている。よかった。彩芽は俺のこと好きになってるからなんとかなるし、高宮さんはいい人だから俺の評価が下がることはない。この内心を知られたら評価は地に落ちる。

 

「そんじゃ行こっか」

「あ! えっと、そのー、私実は……」

 

 殴り足りなかったのか俺をビンタした姉ちゃんがフードコートへ向かおうとした時、彩芽が待ったをかける。別にいいけどちょっとは姉ちゃんを咎めてもよくないか? 俺二発も全力で殴られてるんだぞ。

 彩芽の静止に姉ちゃんが足を止める。彩芽は止めたのもじもじしながら俺をちらちら見るばかりで、何も言い出さない。

 

 そこで俺は思い出した。彩芽が弁当を作ってきているということを。そして俺は気づく。今この状態で彩芽の弁当を食べてしまったら、それは『好き』を食べるのと同義だということを。

 あの魔法のせいで彩芽は俺のことが好きになっていて、そんな状態で作った弁当だ。当然好きで溢れていて、それを食った俺も彩芽への好きが蓄積されていく。そうなったら、俺は高宮さんと温泉に入りながら、彩芽のことを考えて臨戦態勢に入り、結果高宮さんが『狙われてるんじゃないか?』って勘違いしてしまう。

 

 まぁでもせっかく作ってきてくれたものを食べない選択肢なんかねぇし、ありがたくいただこう。

 

「彩芽弁当作ってきてくれてるんだよ。だから姉ちゃんたちは先フードコート行って席とっといて」

「そういうことねぇ? 了解!」

「せっかくならお昼は分かれる? 真咲ちゃんも修也のために作ってきたんだろうし」

「いえ! 修也と二人きりだと『あーん』とかしちゃいそうなので、一緒にいていただけると助かります!」

「なにそれ面白そう。私たちと一緒にいてもやってよ」

「彩芽におさわりして『あぁん!』しちまうかもな! ガハハ!」

 

 あの場に居続けると姉ちゃんが面倒そうだったから冗談を飛ばせば、姉ちゃんから「いい加減にしろよ」とありがたい言葉を頂戴した。ごめんて。

 

 あとで合流する約束をして、彩芽と二人で弁当を取りに戻る。もちろん彩芽の方は一切見ない。だって今の状態で水着姿の彩芽を二人きりで見たら好きから大好きになってしまう。しかも姉ちゃんのことだから『面白そう』っていう理由でしばらくは俺たちを観察しそうだし、迂闊な真似はできない。

 

「……ねぇ修也」

「なんだ?」

「今さ。修也、私のことすごい好きでしょ」

 

 だって言うのにこの可愛らしい悪魔は俺を惑わせにきやがった。何? 「私のことすごい好きでしょ?」だと? そんなもんだいちゅきに決まってるだろうが。そういう魔法かけられてるんだよ。魔法の効力がすごすぎてちゅきって言っちまうくらいなんだよ。マジで早くどうにかしてくれこの魔法。俺が俺じゃなくなる。

 

「俺そんなわかりやすいか?」

「だって、鬱陶しいくらい壁になってくれてたし」

 

 彩芽は、可愛い。だから男からの視線を集める。それなら壁にならない理由がない。今日一日、俺は彩芽の優秀なボディガードと化していた。もし大統領が今日の俺を見ていたら、即決で俺を側近にして命を守らせるくらいには完璧なボディガードだった自覚がある。

 

「二人になった途端私のこと見ないし。どうせもっと好きになっちゃうからでしょ?」

「あぁ。今彩芽を見たら『かわいいぃぃぃぃんん!!!!』って言っちまう」

「絶対見ないでね」

「だからずっと前見てんだろうが」

 

 この魔法、好きになるばかりか正気を奪う効果がある。俺がさっきから彩芽をちゅきって言ったり、かわいいぃぃぃぃんん!!!! って言ってしまいそうになったりしているのがその証拠だ。父さんも俺と彩芽の仲直りは望んでいても、俺がド変態になるのは望んでいないはず。自分の魔法のせいで息子がド変態になったら流石の父さんも後悔するだろうから、俺は俺自身と父さんのために理性を保たなきゃいけない。

 

「……仕方ないなぁ。ね、修也。ぎゅってしよ?」

「おい! あんまり可愛いこと言うなよ!! 胸がぶちゅんってなっただろうが!」

「ドキンでしょ。ぶちゅんだと潰れて死んじゃうよ?」

「死んでしまいそうになるくらい可愛かったってことだ。自分の可愛さ舐めてんのか? コラ」

「すごい斬新な怒られ方……」

 

 何言ってんのかわかってんのかこいつ。今ぎゅってするのは、いつもぎゅってしてる時と状況が違う。詳しく言えば、いつも肌と肌を隔てている服はなく、素肌で触れ合うことになる。しかも周りには人がいて、もしかしたら同じ高校の誰かがいるかもしれない。そいつに目撃されて俺と彩芽が付き合ってるって噂が流れたら終わりだ。

 

「確かに、このままじゃ好きすぎるからそうした方がいいってのはわかる。でも、状況が状況だからやめた方がいいだ、ろぉおおおおお!!!?」

 

 理性的な思考の結論『やめた方がいい』を伝えている途中で、彩芽が俺の目の前に現れた! 咄嗟に横を向いて彩芽を視界に入れないようにしても、彩芽が俺の顔を掴んで無理やり正面に向けられる。目だ、目を見るんだ! 視線を下に向けたら、俺が俺でなくなる!

 

「何すんだ彩芽! 俺がこれ以上好きになってもいいのか!?」

「私も好きだから、お相子でしょ」

 

 真っ赤。真っ赤だった。水着がじゃなく、彩芽の顔が。熱が出てるんじゃないか? なんて俺の脳が勘違いするはずもなく、完全に恥ずかしいやら好きやらそういう感情が彩芽の顔を赤くさせていると理解してしまった。

 顔に熱が集まっていくのがわかる。ただでさえ今の俺は彩芽が好きで、見るだけでドキドキするのに彩芽のこんな姿を見たら余計に意識してしまう。マジで顔いいなこいつ。マジで顔いいなこいつ!!

 

「お、お相子、っていうか、なんでこんなことしたんだ?」

「……」

 

 おい、黙るな。何か喋んねぇとこの状態で固定されちまうだろうが。いいか? 今お前は俺の顔を両手で掴んで自分を見るように固定してんだぞ。で、俺と彩芽の顔は真っ赤。周りから俺たちを見たら、『初デートで気分が盛り上がり、キスをしようとするもあと一歩が踏み出せず動けていない初々しいカップル』に見えるだろ! 彩芽には聞こえねぇのか、妬みに溢れた男どもの舌打ちが!

 

「……水着」

 

 かといって現状を打破できるような脳は今の俺にはなくて、情けなくも硬直していると、やっと彩芽が声を絞り出した。

 

「水着、ちゃんと正面からかわいいって言ってもらってない」

 

 ──想像してみてほしい。大好きな子が顔を真っ赤にして、聞き取れるかどうかギリギリの小さい声で、いじらしいことを言われる。それを現実で受けて、衝動的に叫んだりキスしたりしなかったことを、俺はこの先一生褒められるべきだと思う。

 

 通常の俺たちはきっと、お互いのことを好きじゃない。でも、今の俺たちはお互いのことが好き。だからかわいいって言ってもらいたい。そういうことだろう。そういうことなのか。そういうことなんじゃないか? いやでもムズイって。元に戻ったら好きじゃないのに、そんなかわいいとか……。

 

「こんなこと女の子に言わせるって、どういうつもり?」

「待て、彩芽、本当に待ってくれ。これ以上かわいいこと言われたら俺は今日彩芽の両親に挨拶しなきゃいけなくなる」

 

 俺はこんなにも自制できる人間だったのか。こんな破壊兵器とも呼べる彩芽を前にして、指先一つ動かしていない。いや、それは嘘。めちゃくちゃ自分の太ももつねってる。だって無理だろ。無理だろ! こんな可愛いの目の前にして痛みに頼らず自制するなんてよぉ!

 

「……」

「おい、それもいいなみてぇな顔してんじゃねぇよ」

「し、してない!」

「してただろうが! わかるんだよ俺にはよ! 好きを舐めんじゃねぇぞ!」

「してないから! それより、どうなの!」

 

 このままじゃ埒が明かない。持ってくれ! 俺の理性!

 

 俺は意を決して、目線を下に向けた。何っ、オフショル!? フリル!? ビキニ!? どういうつもりだこいつ、こんなあざとかわいい水着! まさか俺の理性を破壊して殺すつもりだったのか!? 父さんが魔法を解けないなら、俺を殺して魔法を無意味なものにしようとしてやがったのか!?

 ……まぁ、そんなわけがないってことはわかってる。あんな真っ赤な顔見たら、俺を殺すための演技だなんて思えない。

 

「めちゃくちゃ可愛い。やっぱ好きだ」

「……そっか、ありがと」

「アァアアアア!! もういいだろ! これ以上こんなことやってたら死ぬ! 早く行くぞ!」

「あっ、待って!」

 

 正面から肌に直接伝わる柔らかい感触。離れようとした俺を止めるためか、いつもよりも強くぎゅってされている。

 

「ぎゅってしよ?」

 

 一刻も早く好きをリセットするために、一言も一文字も一音も返事せず彩芽を抱きしめた。

 

 ぎゅってすれば好きがリセットされるはずなのに、なぜかドキドキは完全に収まらなかった。ま、まぁ、男女ですから? 肌と肌ですからね、そりゃ意識するわな。ハハハ。

 

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