【本編完結】ぎゅってしないと好きになる魔法   作:酉柄レイム

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第13話 仲のいい二人から摂取できる栄養素

 仲睦まじげに手を繋ぐ彩芽と凪咲ちゃんに連れまわされ、ブティックに入れば似合ってるかどうかと参考にするのかどうかもわからない俺の意見を聞いてきて、適当に、少し本心から「可愛い」「似合ってる」「好き」と言い続ければ、機嫌をよくしてくれたのかそこで俺の財布が寂しくなることはなかった。待て、もしかして好きが溢れてなかったか?

 

 ペアルックしてみたいねー、と可愛らしい話をしながら次に向かったのは、ペットショップ。明らかな冷やかしにも店員さんは笑顔で対応。「彼女さんが二人いるんですか? やりますね!」と言ってきた店員さんの名前は覚えた。覚悟しとけよ?

 

「私、将来ワンちゃん飼いたいんですよね」

「可愛いよねー。修也、お手!」

「ワン!」

「やめて、気持ち悪い」

「後輩の前でぶん殴られてぇのか?」

「落ち着いてください舞坂先輩! 今のは舞坂先輩が悪いです!」

「後輩で女の子だからって容赦しねぇぞ」

 

 舞坂先輩……と上目遣いされた俺は、「いいけどさ」と頬をぽりぽり掻いて、今日二度目の敗北を喫した。クソ、こいつ、自分の可愛いを自覚してやがる……!

 

 情けない俺を見て、「ふふ、やっぱり修也も凪咲ちゃんが可愛いんだね?」とにやついている彩芽に「当り前だろうが」と返しながら、そういえばと考える。

 なんとなく、凪咲ちゃんと一緒にいる彩芽は好きが控えめな気がする。先輩としていようっていう気持ちが強いのか? この分なら、今日一日は大丈夫そうだな。

 

 なんであのクソみてぇな魔法が状況によって効果変わるんだよ。ちょっと考えるの楽しいじゃねぇか。

 

「舞坂先輩は、将来飼いたいペットいます?」

「んー? あんま考えたことなかったなぁ」

「だねぇ。修也がいればそれでいいかな?」

「わ。見せつけてくれますね!」

「あ、今のは違うの! 詳しくは言えないけど違うの!」

 

 返せよ、俺の『今日一日は大丈夫そうだな』を。早速漏れ出してんじゃねぇか。なんだ? ペットっていう単語で明るい家族計画でも立てたのか? それにしても急速に好きが溢れすぎだろ。さっきまで俺のことキモいって言ってただろうが。

 まぁ、凪咲ちゃんに今更付き合ってるって思われたところで構わない。凪咲ちゃん、この前「舞坂先輩と彩芽先輩が仲良くしてると、多分ご飯食べなくても一か月分の栄養は補給できます!」って言ってたし。なんか微妙に拓斗の影響受けてねぇか?

 

「ふふ、わかってますよー? お二人はまだ付き合ってないんですもんね?」

「絶対わかってない……! 修也も何か言って!」

「うさぎの消化器官って8mくらいあるんだぜ」

「そういうことじゃないんだけど、え、ほんと?」

 

 ほんとほんと。繊維質のものを消化するためにそれくらいの長さがあるらしい。実際にみたことないけど、理屈としてはわかるから本当だと思う。てか8mって長くね? うさぎって大体30cmとか40cmとかそんなもんだろ? 生物の神秘だな。まさか廻と拓斗以外に生物の神秘を感じる日がくるなんて。

 

「へー。舞坂先輩、物知りなんですね」

「結局やめたけど、一時期うさぎ飼いたいって姉ちゃんがうるさかったからな。飼うならちゃんと知識つけて、きっちり世話しねぇとって」

「舞坂先輩って、なんで義兄さんのお友だちなんですか?」

「凪咲ちゃん。修也のまともなところ見てその疑問持つのはやめてあげて」

 

 俺も知りてぇしな、それ。口では色々言ってるし内心では色々思ってるけど、友だちとしては面白いから嫌だってわけじゃない。ただ、疑問を持たれるのはわかる。あいつらと比べたら並外れておかしいわけじゃないからな、俺。クラスのやつらにも最初の方は「家族を人質にとられてるのか?」って心配されたし。どんだけ人質が身近だと思ってんだ俺たちの高校は。

 

「うーん、そう考えると、義兄さんをまともにするためにペットを飼うのありかも……?」

「間違いじゃないかもな。拓斗も悪人ってわけじゃねぇから、ちゃんと世話するだろうし」

「ご両親と相談だね。飼うとしたらやっぱりワンちゃん?」

「ですね! 家に帰ったらてててーって出迎えてもらうのが夢なんです! ……義兄さんも、お母さんが帰ってきたらそんな感じですけど」

「なんてもん思い出させてんだ。謝れ彩芽」

「ごめんね」

「い、いえ! 全面的に義兄さんが悪いので!」

 

 悪くはないけど悪いな。凪咲ちゃんのお母さんからしたら義理の息子が懐いてくれてるから嬉しい……いや、求婚されてるんだったな。じゃあ恐怖か。早めになんとかしないと、ついにちゃんとした性犯罪者として拓斗が捕まるかもしれない。そうなったら凪咲ちゃんがあまりにも可哀そうだ。

 とりあえず拓斗には『凪咲ちゃんがいないからって、お義母さんに手ぇ出すなよ』と送っておくと、すぐに『聞いてくれ修也。僕は今父さんと義母さんのいちゃいちゃを見せつけられている。もしかして、これが噂に聞く寝取られ……?』と返ってきた。寝取ろうとしてんのはお前だろうが。

 

 ただ、あんな性犯罪者がいても夫婦仲は良好らしい。よかった、凪咲ちゃんのお母さんの心が広くて。

 

「ん、そろそろお昼ご飯だね。いこっか」

「だな。凪咲ちゃん、何食べたい?」

「えーっと、舞坂先輩が奢ってくれるんですよね?」

 

 誕生日だしな、と答えると、凪咲ちゃんはうーんと可愛らしく悩んだ後、申し訳なさそうに、

 

「あまり高いのは申し訳ないので、回らないお寿司……」

「申し訳ないの意味知ってるか?」

「冗談ですよ! 回る方のお寿司がいいです」

 

 甘え上手な後輩に「了解」と返して、ペットショップを出た。

 

 レストランのフロアは五階。今は三階にいるから、エスカレーターに乗って五階へ向かう。凪咲ちゃんと彩芽を先に乗せて後ろに乗ると、彩芽がじっと俺を見てきた。何だ? またお手とか言ってきたら手を取ってキスするぞ。間違えた。ぶっ飛ばすぞ。

 

「またやってる」

「また?」

「や、女の子を先に乗せるって紳士的だなぁって思いまして」

「なんで敬語なんだよ……。まぁ、そういうのは大体姉ちゃんから叩きこまれたからな」

 

 修也は私の弟だから顔は悪くないけど、だからって女の子に何してもいいわけじゃないからね? と、最低限の女の子に対するマナーは叩きこまれた。あの父さんの血が流れているのに俺が比較的まともなのは、姉ちゃんのおかげだと思ってる。

 俺がそう言えば彩芽も納得しつつ、なんとなくほっとしているような気もする。まさかこいつ、俺が結構女の子と遊んでるんじゃないかって心配してる……? そんなわけ、ありそうだな。こいつ、程度はわからないけど、俺のこと好きなはずだし。

 

 エスカレーターに乗りながら追及すると彩芽が恥ずかしがって暴れ出した時に危ないから黙っておいて、五階で降りる。やはりお昼時だからか結構人がいて、回転寿司は家族連れが多く利用するからか結構並んでいた。

 

「やっぱり並んでますねー」

「どうしよっか。時間ずらす?」

「お二人となら並んでいても退屈しませんし、並んじゃいませんか?」

「うっ、かわいい……」

「凪咲ちゃん、責任もって彩芽見といてくれ。名前書いてくる」

「はーい」

 

 凪咲ちゃんの可愛さにノックダウンした彩芽を任せ、順番待ちの記名用紙に記入しにいく。テーブルに丸をつけ、3名と書いたところで、ふと考えた。

 3名様でお待ちの舞坂様って呼ばれるのか? もしかして。それはつまり、彩芽が舞坂だっていうことにならないか? そうなると凪咲ちゃんは俺か彩芽の妹で、俺と彩芽は夫婦……?

 

 はっ、危ない。油断していた。別にこれは代表者の名前を書くだけだ。そんなことになるわけではない。

 でもちょっと考えちゃうからフルネームで書いておこう。こうすれば代表者感がより演出される。やはり俺は天才だな。

 

 せっかくフルネームで書くからと綺麗な字になるよう意識して記入を終え、二人のところに戻る。凪咲ちゃんが退屈しないと言っていたのは本当のようで、なにやら彩芽が凪咲ちゃんににやにやしながら詰め寄られていた。

 

「何してんだ?」

「あ、聞いてください舞坂先輩! さっき彩芽先輩が」

「凪咲ちゃんストップ! なんでもないからね!」

「もしかして舞坂って呼ばれるから家族になったみたいって言ってたとか?」

「おー、正解です」

「それなら安心しろ。ちゃんとフルネームで書いておいた」

 

 俺がそう言えば、彩芽はちょっとしゅんとして、凪咲ちゃんからは「ないです」と言われてしまった。いや、仕方ねぇじゃん。ほら、本当にそうなった時また行けばいいからさ。本当にそうなった時ってなんだ!!!!!

 

 

 

 

 

 今日はありがとうございました! と頭を下げる凪咲ちゃんと別れ、帰り道。彩芽は凪咲ちゃんにおすすめのバスオイルをプレゼントして、予想していなかった形で彩芽が使っているバスオイルを知った俺は、プールの時と同じように太ももをつねって自制した。

 

「相変わらず凪咲ちゃん可愛かったねー」

「これでサプライズが成功してたらなぁ」

「あはは、まぁ、パーティってだけで嬉しいだろうから」

 

 せめて拓斗が暴走してパーティがおかしくなるってことはないと願いたい。あいつのことだから、「凪咲ちゃんが生まれた日なら、お義母さんも労うべきだ」とか言い出して、お義母さんにプレゼントしそうだし。……そうなったら凪咲ちゃんがまた愚痴ってくれるだろうから、彩芽と一緒にいくらでも付き合おう。

 

 結構楽しんでいたから、赤い空は段々黒へと色を変える時間になっている。まだ少し明るいから大丈夫だろうとは思いつつも、凪咲ちゃんが心配なのは後輩の女の子だからか、帰った先で待っている先の見えない不安からか、どちらかと言えば後者なのは本当にそろそろ拓斗をどうにかしないとと思い直すいいきっかけになった。

 

「そういや彩芽。今日あんまり好きが溢れてなかったな」

「そのバカみたいな言い方やめない?」

「バカみたいな魔法にかけられてんだから大目に見てくれ」

「それは確かに」

 

 ふふ、と彩芽が笑って、それから唇に指を添えて何か考えるような仕草をする。大目に見るかどうか考えてるのか……と思いきや、彩芽はにやにやと俺をからかう表情で俺の正面に立った。

 

「私が修也のこと好きじゃないかもって不安になっちゃった?」

「彩芽、俺の心を壊す気ならそう言ってくれ。流石に持たねぇよ」

「安心して。ちゃんと好きだから」

 

 ほら、ぎゅーしよ? と腕を伸ばす彩芽を見てさっきのは本心だと確信し、彩芽の背中に腕を回す。

 

「リセットするためだからね」

「わかってる」

 

 俺たちが離れたのは、多分十秒くらい経った後だった。

 

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