【本編完結】ぎゅってしないと好きになる魔法   作:酉柄レイム

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第15話 勘違いモンスター

「……」

「……」

「……ぷっ」

 

 居間。本来であれば俺たち家族と結菜の家族、そしてじいちゃんばあちゃんで囲むはずだった食卓には、俺、姉ちゃん、結菜しかいなかった。

 姉ちゃんに相談という名のおもちゃ提供をした後、まさかおばさんとかに相談してないよな、と酒盛りをしている居間へ向かえば、『大人だけで大酒盛りしてくるから、子どもは留守番頼んだ!』と父さんの字で書かれていた。

 

 つまり、今この家には俺と、俺から告白されたと勘違いしている結菜と、その状況を面白がって今まさに笑いをこらえきれなくなった姉ちゃんしかいないというわけだ。

 

 大人がいないとわかって、姉ちゃんが結菜と一緒に晩飯を作ってくれて、今三人で食べているというのが今の状況。クソ気まずいんだけど。笑ってんじゃねぇよコラ。年長者らしくなんとかしてくんねぇかな?

 

 ……あ、いや、別に気まずくなる必要なくねぇか? だって今、告白が勘違いだって知ってる姉ちゃんしかいないし、今ここで「あれは勘違いだった」って言えばいいんだ。なんでそんな簡単なことに気づかなかったんだ俺は。

 

「結菜って好きな子とかいるの?」

「えっ、べ、別にいないけど?」

 

 しかし姉ちゃんがおもちゃを手放すわけがなく、声をかけようとした俺を遮るようにさらに気まずくなる質問を投げ飛ばす。結菜がちらちら俺を見ながら答えたのを見て姉ちゃんはにやにやを深め、「そっかぁ」と言って意味ありげに俺を見た。

 ……! まさか、『弟からいとこが好きだと相談を受け、さりげなくそれを応援する姉の動き』をして、更に結菜の勘違いを深めようとしてやがんのか!? なんてやつだ、この厄介ごとを引き起こす性格、間違いなく父さんの血を引いてやがる……!

 

「ふーん。可愛いのにもったいない。ね、修也」

「ん? 別にもったいないとは思わねぇけど」

「!!」

 

 結菜が固まったのを見て、失言を悟った。俺は『別に好きになるとかそういうのは本人の自由だし、可愛いからってもったいないってわけじゃねぇだろ』と思って言ったことだけど、今の結菜からすれば『好きな子いないのか、よかった』って意味に捉えられたんじゃねぇか!? 結菜は勘違いしやすい、というより妄想癖が激しいと言ってもいい。俺から告白されたと思ってるから精神状態は普通じゃないだろうし、そういう風に思っても無理はない。

 これ以上姉ちゃんの好きにさせるわけにはいかない。そういう意味じゃないって伝えないと。

 

「結菜、今のはそういう意味で言ったんじゃねぇからな?」

「!!」

 

 今のはなんで固まったんだ? 結菜のことだ、まためちゃくちゃな解釈をして勘違いしたに決まってる。

 もったいないとは思わないっていうのをそういう意味じゃないって言ったのは理解してるはずだ。でも反応は同じ。だとすると、『好きなやつがいないってことは、俺のことを好きじゃないってことか』っていう意味だと思ったんじゃないか? だとしたら無敵じゃねぇか。好きって言ったのは結菜に対して言ったんじゃないって言っても、『ちゃんとしたシチュエーションで告白したいから、さっきのは聞かなかったことにしてくれ』って思われるんじゃねぇか?

 

 ……ここは、落ち着いて作戦を練る必要がある。手を合わせてぎこちなくごちそうさまをしている結菜を正面から見て、「な、なによ」ともにょもにょ言っているのに果てしない気まずさを覚えながら、

 

「結菜、先に風呂入ってきてくれ」

「っ!!!!」

 

 落ち着いて考えるために結菜を先に風呂へ勧めると、顔を真っ赤にして食器をものすごい勢いで重ね、走って居間から去っていった。姉ちゃんは腹を抱えて転げまわっている。

 

「……今の、そういう誘いだって勘違いしたわけじゃねぇよな?」

「ヒー!!! おもしろ!! どうすんの修也? お姉ちゃん外行った方がいい?」

「マジでそういうとこ父さんと似てるよな」

「本当にごめん。なんとか解決しよ」

 

 人の不幸というか、厄介ごとに巻き込まれている様子を面白がる姉ちゃんですら、父さんと似てるって言われるのは我慢ならないみたいだ。すぐに笑いを引っ込めて、正座して背筋を伸ばした姉ちゃんを見て、でも姉ちゃんが父さんを嫌がってると父さんの気分が最高潮になんねぇんだよなぁと複雑な気分になる。

 

「でもなんか意外だねぇ。結菜なら修也に告白されたとしても『は? キモ』って言うと思ってたのに」

「なまじ彩芽に対する気持ちが溢れて出た『好き』だったから、本気って思われたんじゃねぇかな」

「あー、本気を無下にするような子じゃないしね」

 

 だからこそ本当に申し訳ない。こうしている間にも、結菜は『どうしよう……修也への返事……』って考えてるんだ。時間が経てば経つほど、勘違いだって伝えた時の反動が大きいような気もするけど、それは甘んじて受け入れよう。この件に関しては俺が悪い。あと面白がってややこしい方向に持っていこうとした姉ちゃんも悪い。

 

「あの分だと勘違いだって言っても、なんかさらに勘違いされちゃいそうだし……いっそ好きだって言ったのは勘違いってだけじゃなくて、彩芽ちゃんのことが好きっていうのも伝えたら?」

「まぁ、それなら……」

「修也!!」

 

 彩芽には申し訳ないけど、と続けようとした時、結菜の声が聞こえた。見れば、顔を真っ赤にしたまま決意の表情で俺を見つめている。姉ちゃんはそれを見てそそくさと立ち去って、去り際に「食器よろしく」とこんな時にもクソみてぇな自堕落を見せつけた。

 結菜は大股で俺の隣に来て正座する。あまりの真剣さに気圧されて、俺も思わず正座してしまった。マズい。このままじゃなんか、告白の返事されるんじゃねぇか?

 

「あのね!!」

「お、おう」

「さっきの、ことなんだけど」

「あぁ、そのことなんだけどさ」

「確かに、小さい頃は身近な男の子で同い年で、雅さんの教育がしっかりしてたからか女の子扱いしてくれたし優しかったし、学校の愚痴とか口では『へーへー』とかめんどくさそうにしながらちゃんと聞いてくれたりしたし、そりゃいいなって思ったこともあったけど、それでも私たちはいとこ同士なわけで、法律的には結婚できるって言ってもやっぱり血はつながってるから社会的な障害も多いし、い、嫌なわけじゃないのよ? でも好きかって言われたら、はっきり頷けないっていうか。修也はその、雅さんの弟だからカッコいいとは思うけど、それとこれとは別なの。だから」

「俺好きな子がいて、その子に対する気持ちがうっかり漏れた時に結菜がそれを聞いちまったんだ。めちゃくちゃ長いこと返事しようとしてくれたとこわりぃけど、それ勘違いなんだよ」

「……」

 

 怒涛の勢いでもはや殺されそうになり、これ以上結菜に傷を負わせるわけにはいかないと反撃すれば、結菜は口を開いたまま固まった。こいつ、一日に何回固まるんだ?

 時間にして数秒、しかし俺にとって、もしかしたら結菜にとっては数時間。それくらいの沈黙の後に結菜はぷるぷる震えだし、復活の兆しを見せた。

 

「……」

「……」

「聞かなかったことにして」

「あの、結菜」

「聞かなかったことにして!!!!!」

「はい!!!!」

 

 元気よく返事すれば、結菜は勢いよく立ち上がって食器を片付け、台所へ持って行ってくれた。こんな時までいいやつかよ。

 

 

 

 

 

「大体ややこしいのよあんた!! 久しぶりに会って好きだなんて言われたら、そりゃ勘違いしちゃうじゃない!!」

「それは結菜だけだろ」

「それは結菜だけだね」

「そんなことないもん!!」

 

 結菜の勘違いが解け、「さっきの先にお風呂入れっていうのもそういうことじゃないわよね!」とまた勘違いするのが怖かったのか、そう聞いてきた結菜に「んなわけねぇだろ」と返して殴られて、順番に三人が風呂に入った後。姉ちゃんの「久しぶりだし話さない?」という提案に乗って、姉ちゃんと結菜に割り当てられた部屋に集まっていた。

 会話の始まりはやはり、今日の勘違い。憤る結菜に対し、俺たち姉弟が否定で返すと、結菜は両手で勢いよく床を叩く。いやまぁ、勘違いすることはないって思ってもさせたのは俺だから強くは言えねぇけど。

 

「ちゃんと考えた私の時間返しなさいよ……!」

「結菜。これ聞いてみて」

「?」

 

 姉ちゃんがスマホを取り出し、画面を見せる。それは何かの録音のようで、首を傾げる結菜に姉ちゃんがにやけながら再生した。

 

『確かに、小さい頃は身近な男の子で同い年で、雅さんの教育がしっかりしてたからか女の子扱いしてくれたし優しかったし、学校の愚痴とか口では『へーへー』とかめんどくさそうにしながらちゃんと聞いてくれたりし』

「わー!!!!」

「悪魔じゃねぇか……」

 

 結菜が姉ちゃんに飛びついてスマホを奪い、俊敏な動きで録音を消去する。その間姉ちゃんは乙女がしちゃダメな表情で爆笑していた。高宮さんに見せてやりたいぜ、今の姿。

 

「よかったねー修也? 結菜が好意的に想ってくれてるみたいで」

「ち、違う!! 嫌いじゃないけど、そういう意味じゃないから!! 第一、修也には好きな子いるんでしょ!! どんな子!!」

「教えねぇよ」

「えっ……」

「『まさか私!?』って顔してんじゃねぇよ。そういうつもりで濁したんじゃねぇからな?」

 

 油断も隙もねぇ。結菜の前でははっきり物事を喋った方がよさそうだ。しばらく会ってないうちにとんでもない勘違いモンスターになってやがった。

 でも彩芽の名前をはっきり出すと、魔法でそうなってるだけだから申し訳ないなと悩んでいる間に、姉ちゃんがスマホで彩芽の写真を見せながら「この子、彩芽ちゃん。知ってるでしょ?」と素早い情報連携。ぶっ飛ばすぞマジでテメェ。

 

「え? あんた、彩芽のこと嫌いって言ってなかった?」

「……色々あったんだよ」

 

 色々じゃ済まされねぇ色々がな。

 

「ふーん。ま、彩芽なら好きになるのも無理はないわね。で、どういうところが好きなの? 私だけに恥ずかしい思いさせて、逃げられると思ってるんじゃないでしょうね?」

「えぇ……つっても、いきなり聞かれてもなぁ」

「じゃあ、彩芽の印象的なところは? 多分それが好きなところじゃない?」

 

 彩芽の印象的なところ……。あぁ、

 

「体だな」

 

 日常的にぎゅってしている弊害が出た俺は、結菜と姉ちゃんからパンチを喰らった。

 

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