今日も今日とてやることがないからと姉ちゃんたちの部屋に集まり駄弁っている8月13日。そう、8月13日だ。
俺は今、彩芽がものすごく好きだ。
「ねぇ雅さん。修也が胸抑えてるんだけど、持病あったっけ?」
「恋」
「へぇ、キモ」
今暴言吐かれたのは多分気のせいだろう。そんなことより、早くこの気持ちをどうにかしないといけない。このままじゃ帰って彩芽に会った時、勢いのまま大好きって言ってキスしてしまう可能性がある。それは俺の本意じゃないし、そんなことしたら魔法が解けた時の罪悪感が半端ない。
でも、打つ手がないのが事実だった。俺は彩芽への気持ちに震えるしかないんだ……!
「修也。そういえば彩芽とどんな連絡取り合ってるの?」
「あ? してねぇけど」
好きすぎて我慢できなくなるから。
「えぇ……あんたたち付き合ってるんでしょ? 無理にとは言わないけど、連絡してあげなさいよ」
「だからそれ勘違いだって。俺たちは付き合ってねぇし、連絡する義理がない」
「連絡は義理でするものじゃないと思うけどねぇ。私はちょくちょく連絡とってるし」
ほら、と見せられた姉ちゃんのスマホには彩芽とのトーク画面が映しだされていて、そこには『今何してるのー?』という姉ちゃんのメッセージに対し、『かおりと遊んでます!』という彩芽の返信と、中条とのツーショット写真が送られてきていた。彩芽ッ!!
「なんかうずくまったけど、これ大丈夫なの?」
「彩芽ちゃんには『写真見せたら、可愛すぎて修也がうずくまっちゃった』って送ったね」
「そういうのって普通『送っとくね?』って言って、『やめろよ!』っていうやり取りを楽しむもんじゃねぇのか?」
マジで送ってるし。中条と遊んでるからかすぐに既読がつかないのは助かった。リアルタイムでラリーができるってなったら、姉ちゃん絶対遊びだすし。
すぐに返事がこなかったことが面白くなかったのか、姉ちゃんはぶすっとして、何かを思いついたのかにんまりと笑みを浮かべる。とてつもなく邪悪な表情の姉ちゃんはそのまま「結菜、修也に近づいてみて」と言って、素直な結菜は俺の側にきて、肩に寄りかかった。『近づいてみて』のレベルじゃなくねぇか?
そして聞こえたのはシャッター音。今から何をしようとしているのかを完全に理解した俺が止める前にスマホを操作して、画面を見せてきた。
『こっちも遊んでるー』とう姉ちゃんのメッセージとともに、俺と結菜のツーショットが送られていた。
「何してくれてんだテメェ!!」
「えー? いとこ同士仲良しなのはいいことじゃないかなぁ?」
「……!」
「結菜、違うからな? 『修也が私に告白したのは実は本当で、これは彩芽への牽制……?』って思ってる顔してるけど、完全に姉ちゃんの嫌がらせだからな?」
「ちょっと待って。合ってるけど、私どんな顔してんのよ」
推理だよ。結菜が固まった時は勘違いしてる時だから、状況と発言と過去のデータから『こういう勘違いしてそう』みたいな。伊達にいとこやってるわけじゃねぇからな。こんなことしてると「私のことこんなに理解してるって、やっぱり……」って勘違いされそうな気もするけど、そうなったらもう知らねぇよ。自発的に勘違いされたら手に負えない。
とりあえず、このままじゃ彩芽に勘違いされる。ただのツーショットならまだしも、何を血迷ったのか結菜が肩に寄りかかってるのがまずい。VEINを開いて、彩芽に『さっき姉ちゃんからきた写真、あれ姉ちゃんのいたずらだから』と送ると、電話がかかってきた。姉ちゃんのにはすぐに反応しなかっただろうが!!
「もしもし」
『修也?』
瞬間、俺は彩芽の声が可愛すぎてその場に倒れこんだ。まずい、電話の特性上、彩芽の声が耳元に……! ただでさえ大好きなのに、耳元に彩芽の声なんて気が狂う!!
『あれ、修也? ……んー? もしかして、声かわいいーとか思った?』
「ばっ、バカお前、今姉ちゃんも結菜もいるんだぞ。そんないやらしいこと言うな」
「あんたらどんな会話してんの?」
「傍から聞いたら可愛らしい会話だと思うから、修也の頭がおかしいだけじゃない?」
俺の頭がおかしい? 認めよう。今の俺の精神状態で彩芽の声を聞いたらおかしくなるに決まってる。むしろ死んでいないだけ褒めてほしい。今俺の胸に耳を当てたら、心臓の音がうるさすぎて鼓膜が破れるくらいドキドキしている。
しかし、クソっ、いつもなら「あぁ、可愛い」って肯定してるのに、姉ちゃんと結菜がいるから恥ずかしくてできない。でもよかった、恥ずかしくてできないっていう理性がまだあって。もっと彩芽のことが大好きになってたら、そんなことも関係なくイチャイチャしたくなってただろうからな。
『ふふ、知ってるよ。それより、さっきの雅さんからの写真』
「あ、あれは違うんだ! あれは、そう……そういやなんで寄りかかってきたんだ? 結菜」
「え? ……なんか近くにいたら安心しちゃって」
『修也、何が違うの?』
「待て彩芽。知ってるだろ? 結菜はちょっと頭弱いだけなんだ。それにほら、俺と結菜はいとこ同士だし、家族なら安心するのなんて普通だろ?」
俺の心情を彩芽に共有できるなら何もないことの証明になるのに……! 肩に寄りかかられても「なんか近くね?」くらいしか思わなかったんだぞ? これで何かあるなんて思えるか? 何かあるとしたら、それくらいの距離感が日常になっているからっていうくらいだろ。
いやでも、彩芽が相手だったらそれが日常だったとしても毎回ドキドキするだろうから、何にせよ俺と結菜の間には何も……なかったわけじゃないけど、結果的に何もない!
『いくらいとこでも、私以外の女の子とあんなことしてほしくないんだけど』
「くっ、可愛い……!」
『かっ、可愛いって言われても誤魔化されないよ!』
「仕方ないなぁ。原因は私みたいなものだし、修也。スピーカーにして」
「みたいなものじゃなくてそうだろうが」
なんでやれやれみたいな顔されなきゃなんねぇんだよ。マジで収集つけてくれよ?
スピーカーにして、俺たちの中央に来る位置にスマホを持っていく。音質が変わったことが伝わったのか、『あれ? スピーカー?』という彩芽の超絶可愛らしい声が部屋に響いた。こいつ、部屋を惚れさせる気か?
「やほ、彩芽ちゃん」
「久しぶりね、彩芽」
『こんにちは雅さん』
「結菜、悲しそうな目でこっちを見るな」
姉ちゃんのせいで結菜は彩芽から敵認定されたようだ。マジで可哀そうだ。結菜は何もして……まぁ俺の肩に寄りかかってきたのは大目に見て、何もしてないのに。優しい彩芽が結菜だけ無視するっていうわかりやすい敵対行動に出てるから、彩芽は今相当俺のことが好きなんだろう。かくいう俺も、彩芽と他の男のツーショット写真見たら確実に男の息の根を止めに行くから気持ちはものすごくわかる。
「あのね、彩芽ちゃん」
『なんですか?』
「結菜ね、修也に脈ありっぽいよ」
「テメェ!! ぶっ殺してやる!!」
怒りのあまりスマホを結菜に預け姉ちゃんにとびかかると、腕を抑えられてくるりと反転させられ、後ろから抱きしめられた。クソッ、離しやが……力強くね? 何? 魔法でも使ってんの? 素の筋力でこれだったら俺男としての自信無くしちゃうけど?
「ち、違うのよ彩芽! 今のは嘘で、修也のことはお兄ちゃんみたいだなとしか思ってないから!」
『修也、窓開けてる? 蝉の鳴き声がうるさいんだけど』
「え、ごめんなさい。田舎だしスピーカーにしちゃったから、窓閉めてるけどうるさいのかも」
『ごめんね結菜。そうだよね、いとこ同士だもんね』
「え? う、うん」
怒りのあまり発した暴言は、結菜の天然により砕け散った。あまりの天然、見方を変えれば素直な言動に結菜は何も悪くないと理解した彩芽が謝罪する。結菜が天然でよかった。あとお兄ちゃんみたいって言われてきゅんってきた。ちょっと憧れあるんだよな、妹。姉ちゃんが俺をおもちゃにするような化け物だから、俺は下のやつには優しくしたいみたいな、そんな感じの。
『修也、ごめんね? 会えてないときにあの写真見ちゃったから、もやもやしちゃって』
「いや、彩芽は悪くねぇよ。俺が……俺も悪くねぇよ。姉ちゃんだろ悪いのは。謝ってくんねぇか?」
「何? 謝れとでも言いたいわけ?」
「今そう言っただろうが」
姉ちゃんは「仕方がないなぁ」と言いたげに息を吐いて、「ごめんね?」と一言。耳元でやってんのはわざとか? 気色ワリィんだよ。彩芽に癒してもらった耳を汚すんじゃねぇよボケが。
『いいですよ。それじゃ、修也。急に電話かけちゃってごめんね?』
「いいよ。こっちこそ悪い、姉ちゃんが毎度毎度」
『んーん。それに、ラッキーだったかも』
「ラッキー?」
『うん。修也の声が聞けたから』
またね。そう言って切れた電話。顔を見なくてもにやにやしてることがわかる姉ちゃん。「よかったわね」と純粋に言ってくれる結菜。
……なんで彩芽はこう、俺の男心をくすぐってくるんだ。くすぐられすぎて俺の男心が爆笑してる。マズいな、帰って彩芽に会った時、正気でいられる自信がない。あれだろ? さっきみたいな言葉に表情と仕草がついてくるんだろ?
帰って彩芽に会ったら、何も言わずぎゅってした方がいいかもしれない。そうすれば暴走せずに済む。
「付き合ってないって噓でしょ? 彩芽、完全にあんたのこと好きだったじゃない」
「詳しくは聞かないでほしいんだけど、付き合ってねぇのはほんとだよ」
「えっ……」
「『元々結菜のことが好きで、それを清算するまで彩芽とは付き合えない』とかじゃないからな」
「なによ。ややこしい言い方しないでくれる?」
「これ以上ねぇくらいわかりやすかっただろうが」
おかしいだろ。なんで考えてることがわかるのに会話が難しいんだ? 普通考えてることがわかるなら会話量少なくて済むはずだろ。むしろ俺の喋る量が多くなってんじゃねぇか。
姉ちゃんに離してもらって、結菜に預けていたスマホを受け取る。画面を切る前に見てみると、彩芽から『寂しかったら、一人の時電話かけてもいいんだよ?』と送られてきていた。
「好きだ」
「えっ!?」
「結菜。今の彩芽ちゃんに対してだからね」
「あ、そ、そうなの。まったく、同じことしないでくれる? 学習能力ないんだから」
「お前だろうが」
『耐えられそうにないから、電話するわ』と返せば、『待ってる』と簡潔な返事がきた。好き。