【本編完結】ぎゅってしないと好きになる魔法   作:酉柄レイム

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第18話 命の軽さ

 彩芽と夏祭りに行くことが決まって、翌日。

 

 あの後、姉ちゃんに動画を消せと詰め寄るも、「もうお母さんに送っちゃったから、完全消去は無理」ととんでもないことを言われ、諦めた俺は甘んじて姉ちゃんと母さんからの生暖かい視線を受け入れることにした。うちの家族はプライバシーを破壊する点において右に出る者はいないと確信した瞬間だった。

 

 そんなプライバシーを破壊された俺は、母さんと姉ちゃんと顔を合わせたらにやにやと鬱陶しいからという理由で部屋に引きこもり、宿題を片付けていた。向こうでも結菜と一緒に消化してたからそれほどたまってはないものの、夏休み後半になったらどうせバカどもからSOSがくるってわかってるから今のうちに全部片づけておいた方がいいっていうのは、去年の俺が教えてくれた。

 

 そうしていると、ふと一枚の用紙が目に入る。何の気なしにそれを手に取ってみると、『進路希望調査』と書かれていた。それを見て夏休み明けに提出しなければいけないことを思い出し、うーんと悩んでみる。

 

「別に、これといってなりたいもんもねぇし、進学でいいか」

「僕はお姉さんの奴隷になりたい」

「俺は国がほっとかんやろうから、総理大臣やろなぁ」

「なんでいるんだお前ら」

 

 背後から聞こえてきたのは、バカの声。振り向けば廻がアイスの棒を咥えながら妄言を吐いていて、拓斗が「それより僕の雅さんはどこだい?」とこれまた妄言を吐いていた。

 

「姉ちゃんはいねぇよ。友だちと遊びに行くってさ」

「へぇ。雅さんの部屋は?」

「教えるわけねぇだろうが。何するつもりだよ」

「そんな! ちょっと犯罪行為をしようとしただけじゃないか!」

「犯罪行為にちょっともクソもあるか」

 

 こいつらがきたなら宿題なんてできるわけがない。広げていた宿題を片付けて、進路希望調査は忘れないように机の上へ置いておく。別に提出しなくても問題なさそうだけど、こういう提出物とかは期限守っておいた方が印象いいからな。普段ちゃんとしておけば、何かあったときに融通してくれる。

 

「拓斗、そんな話しにきたんちゃうやろ?」

「あぁ、そうだった。修也、君なら言われなくてもわかると思うだろうけど、夏祭りに現れるカップルを殺戮しなきゃいけないだろう? その作戦会議にきたんだ」

「言われなきゃわかんねぇし言われても理解できねぇよ」

 

 あとそれでいうと俺も殺害対象だ。絶対こいつらには彩芽と一緒に夏祭りに行くのバレないようにしねぇと。

 いや、守りに入ってちゃダメだ。バレちゃダメなんじゃなくて、もしバレたとしても問題ないように立ち回るのがいいんじゃないか? こいつらは今、モテなさ過ぎて僻みで夏祭りをぶち壊そうとしている。だとすれば、こいつらも女の子と夏祭りに行けるようにすればいい。そうすれば嫉妬も薄れて、カップルを殺戮するなんていうバカなことはやめるはずだ。

 

「待てお前ら。カップルを殺戮するって言ってるけど、もう諦めてんのか?」

「なんやて?」

「まだ夏祭りまで時間はある。だから、恋人とまでは行かなくても、女の子と一緒に行けるチャンスはまだあるんじゃないか?」

「確かに、俺ほどの男が女の子と夏祭りに行かんのは不自然やもんな」

「確かに、僕を弟として可愛がってくれるお姉さんが現れないのも不自然だね」

 

 それはめちゃくちゃ自然なことだとは思うけど、今それを言うとこいつらが敵になるから「あぁ」と適当に返事しておく。なんでこいつらこの年でまだ現実を見れてねぇんだ。まだ学生だとはいえ、見る夢のレベルがドギツすぎる。

 

 さて、こいつらと一緒に夏祭りに行ってくれる女の子。そんな聖人君子みたいな女の子が探しても見つかるはずもなく、ナンパしても拓斗はまぁ、本性を隠せばいけるかもしれないが、廻は怖がられて終わり。それに拓斗が本性を隠しきれるとは思えない。

 だとしたら、こいつらのことを知っていて、なおかつ交友関係が広そうで、優しいやつに頼むのが一番の近道だ。もしかしたら人数合わせをしてくれるかもしれないし。

 

 そうと決まればと、俺は中条に電話を掛けた。

 

「もしもし、中条?」

『おっす。どしたん? 私に電話なんて珍しいじゃん』

「生贄が趣味の友だちいないか?」

『いたとしてももうこの世にはいないと思うけど』

 

 ということは、いないか……。残念だ。もしいたとしたらこいつらと夏祭りに行くなんて、めちゃくちゃ喜んでくれただろうに。

 そうなると、ちゃんとした子にこいつらと夏祭りに行ってくれって頼まなきゃいけないのか……。それは申し訳なさすぎる。ダメ元で聞くのも憚れるからと、「いきなり悪かったな」と言って電話を切ろうとすれば、中条から待ったがかかった。

 

「なんだ?」

『今彩芽と、舞坂のいとこ、えーっと、結菜と一緒にそっち向かってるから』

「それはなんで?」

『聞いたよ。彩芽と一緒に夏祭りに行くんでしょ? ちょっと冷やかしてやろーって思って』

 

 よく耳を澄ませば、電話の向こうから「やめてー!」「おとなしくしなさい!」という声が聞こえてくる。恥ずかしがって抵抗している彩芽を、結菜が押さえつけてるんだろう。っていうかもう友だちになったのか。最近の若い子はすごいねぇ。

 じゃねぇよ。今こられたらマズい。幸いにも「生贄って、それを代償に廻の彼女を召喚しようとしてるのか」「いや、俺は実力でいけるから拓斗のためやろ」と戯言をほざいているから電話は聞こえていないようだが、家にこられたら確実にバレる。あのわかりやすい彩芽と、別ベクトルでわかりやすい結菜がいるから。バレないとしても女の子三人が家にくるってだけでこいつらには殺害の理由になる。

 

「中条、俺の命に関わる話だ。絶対くるな」

『って言ってももうきちゃったけど』

 

 言葉と同時、チャイムが鳴る。俺は二人を放置して部屋を飛び出し、階段を駆け下りてドアを開けた。

 

「わっ、びっくりした」

「どしたん舞坂、めっちゃ慌ててるけど」

「……!!」

 

 俺がいきなり出てきたからか驚いている彩芽と中条、『え、そんなに急いで迎えてくれるって、もしかして本当は私のこと……?』って勘違いしている結菜。本当なら家に上げてもてなしたいところだが、今はそんな場合じゃない。

 

「詳しい話は後だ! 今すぐこの場を離れろ! じゃないと」

「修也ー? なんや楽しそうやん」

「僕らも混ぜてくれない?」

 

 聞こえてきたのは死の足音。俺は諦めとともに、「まぁ、上がってってくれよ」と吐き捨てた。

 

 

 

 

 

「見苦しいところを見せたな」

「マジで命に関わってんじゃん。ウケる」

 

 廻と拓斗にボコボコにされ、ぐちゃぐちゃになった俺を見てウケている中条は、やっぱりこいつらを受け入れる素質があると思う。

 

 結菜は高校に入って俺と会わなくなった原因を目の当たりにし、彩芽の後ろに隠れている。そんなものはものともせず、廻と拓斗はニコニコと俺を挟むようにして座っていた。別に俺たちの仲がいいから並んで座っているっていうわけじゃなくて、いつでも俺を殺せるように挟んで座っているっていうことを完全に理解した俺は、頼むから口滑らせないでくれよと祈りを込める。

 

「ほんで、三人はこの顔面ボコボコでブサイクな修也のところに何しに来たん?」

「原因はあんたらだと思うけど」

「それに、真咲さんの後ろにいる可愛い子は誰かな? 年上には見えないからさほど興味もないけど」

「結菜、話せそう? ごめんね、赤谷くんと倉敷くんってその、言いにくいけど社会不適合者でまともじゃないから、怖がっちゃってるみたいで」

「いいにくいとは思えんほどすらすら暴言吐かれたな」

 

 結菜が正常だ。いとこがボコボコにされるところを見せられて、ボコボコにしたやつらと怖がらずに話せって無理に決まってる。むしろ、まだこの場にいてくれることをありがたがるべきだ。俺としては一刻も早く帰ってほしい。一番口を滑らせそうだから。

 

「……えっと、修也のいとこの、郭結菜、です」

「へー、いとこか。俺は赤谷廻。よろしく」

「僕は倉敷拓斗。ごめんね、怖がるようなことしちゃって」

「え、や、別に、こっちこそ、いきなりきちゃってごめんなさい」

「ところで美人なお姉さんかお母さんいない?」

「お前さっき怖がるようなことしちゃったことを謝ってたよな?」

 

 ほら、結菜がめちゃくちゃ警戒してるじゃねぇか。こりゃ後でちゃんとメンタルケアしねぇと。せっかくこうして会いに来てくれたのに、また距離取られちまう。そうした方が結菜にとって平和だと思いつつも、やっぱり会えないのはちょっと寂しい。だって可愛いし。やたらめったら勘違いされるのは疲れるけど、なんか癒されるんだよなぁ。

 

「そんで結局何しに来たん?」

「雅さんに用あったんだけど、今日いないみたいだね」

 

 さっきの電話とは違うことを言った中条に驚いて目を向ければ、ぱちりとウィンクを返された。なんて頼りになるんだ……! 彩芽は「ど、どうしよう! 正直に言ったら修也がまたボコボコにされちゃう!」って慌ててたのに。結菜はウィンクした中条を見て『もしかして、修也のこと……!』って勘違いしてるのに。現状を見れば、中条に俺たちが付き合ってるって勘違いされてよかったかもしれない。まさか異性からのフォローがこんなにも心強いとは。

 

「でも俺らがおったんやからむしろめっちゃラッキーやと思わん?」

「最悪」

「そんなに喜ばれると照れちゃうね」

「最悪って言ったのが聞こえなかった?」

「悪い中条。こいつら女の子からの罵倒は全部褒め言葉に聞こえるんだ」

「聞いていいのかわかんないけど、なんで言動行動終わってる上に自分のことボコボコにしてくるようなやつらと友だちやってんの?」

「……」

「やっぱ聞いちゃいけなかったか」

 

 退屈しないから、くらいしか……。結構重要だと思うぞ? 人と人だったら飽きがきてもおかしくないけど、こいつらに飽きるなんて一生ないだろうし。人の道から外れたことを平気でやろうとするから、なんか面白いんだよ。そうやって一緒にいるせいで、俺からも人が離れていくけど。なんだこいつらいいとこねぇじゃねぇか。

 

「ま、雅さんいないし私らは帰るよ。行こ、彩芽、結菜」

「せっかくならもっと話したかったけど、また日を改めるわね」

「うん、またね、修也。お祭り楽しみにしてる」

「あ」

「あ」

「へぇ」

「ふぅん?」

 

 じゃあ私らはここで失礼して。と足早に彩芽と結菜を引き連れて中条が退散し、リビングには死刑を待つ罪人と執行人二人が取り残された。

 

「許してくれ」

「無理」

「無理」

 

 痛む体に鞭打って土下座まで披露した命乞いは、あえなく却下された。

 

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