【本編完結】ぎゅってしないと好きになる魔法   作:酉柄レイム

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第19話 胴体と右足

 地元にある神社、その周辺。いつもは街灯もほとんどなく、飲み込まれるんじゃないと思ってしまうほど真っ暗なそこは、ぼんやりとした光を灯す提灯と、我が屋台が一番だと主張するかのような屋台の電飾、そして人々の笑い声で賑わっていた。

 

 8月22日、夏祭り。彩芽がうっかり漏らした『お祭り楽しみにしてる』という言葉を聞き逃すはずがなかった廻と拓斗には、父さんが大事に保管していた秘蔵コレクションを譲ることで目を瞑ってもらった。これで父さんの気分が落ち込んでしまうが、自分の命と比べたら大したことじゃない。

 

 そんなこんなで、俺は祭りを楽しむ家族やカップルをぼんやりと眺めながら、神社へと続く階段の前で彩芽を待っていた。「一緒に行けばよくね?」と言った俺に、「……」と無言の抗議を送ってきた彩芽に負けた結果だ。どうやら可愛い俺の幼馴染は、待ち合わせってやつをやりたかったらしい。

 それを母さんに伝えたら面白がって甚兵衛を着させられた。楽でいいけど、これで彩芽がまさかの私服できたらマジで恥ずかしいぞ俺。絶対「そんなに楽しみにしてたのー?」って可愛くおちょくられる。まぁ可愛いからいいか。

 

 やることもないから、スマホをいじって時間を潰す。甚兵衛にスマホって風情が台無しなような気もするけど、現代人だから仕方ない。それに、彩芽から連絡がくるかもしれないし、気にしておいた方がいいだろう。

とりあえずすぐ反応できるように彩芽とのトーク画面を開いた瞬間、ふわりと甘い花の香りが鼻腔をくすぐり、かと思えば柔らかい感触が目を覆った。

 

 ……まさか、だーれだってやつか!!!??

 

「わっ、もう、後ろ振り向いたら意味ないじゃん」

 

 あまりの興奮と驚きに後ろを向けば、「あ、好き」と呟いてしまった。

 

 落ち着いた色合いのピンクの生地。柄は百合。『純粋』や『無垢』を花言葉とする百合は彩芽によく似合っていて、しかし落ち着いた色合いだからか、どこか大人っぽさや色っぽさを感じさせられる。いつもは正面から見える後ろ髪はまとめられていて、藍色のかんざしが覗いていた。

 

 浴衣。浴衣だ。好きだ。

 

「……いきなり好きって、そうならないように今日の朝ぎゅってしたんじゃなかったっけ?」

「は? 自分の責任棚に上げるなよ。見た瞬間好きって言っちまうくらい可愛いぞお前」

「ふふん。ま、彩芽ちゃんは可愛いからねー」

 

 わかりやすいくらいにご機嫌になった彩芽は、笑顔で「ありがと」と俺を殺しに来て、それから俺をじっと見てきた。

 

「修也も……えっと、んー」

「ん?」

 

 何かを言おうとしてやめて、可愛らしく考え込んでから、彩芽がそっと体を寄せてきた。そのまま俺の肩に手を置くと、そっと俺の耳元に顔を寄せる。

 

「好き」

「っ」

「へへ、おかえし」

 

 は? なんだこいつ。俺が好きって言ったから好きって言っておかえしってか? そうならないように今日の朝ぎゅってしたってさっき自分で言ってたじゃねぇか。そんなことされたら急激に好きになるぞ俺は。もう大好きだぞコラ。帰るころには愛してるぞ? わかってんのかオイ。あまりにも可愛くて幸せすぎてお花畑にいるのかと思っちゃったじゃねぇか。

 このままだと終始彩芽にペースを握られる。別に握られてもいいけど、彩芽が調子に乗るのは可愛い。そうじゃない、気に食わない。

 

 反撃として彩芽の手を握る。案の定彩芽の肩が跳ねて、じとっとした目で俺を見てきた。ここで俺が終わるわけがなく、普通のつなぎ方から指をからませるつなぎ方、所謂恋人つなぎへと変える。

 

「おいおい彩芽。浴衣暑いんじゃねぇのか? 顔赤いぞ」

「バカ。ド変態」

「ドをつけるな。途端にマジに聞こえるだろうが」

 

 変態ならまだ可愛らしい抵抗に聞こえるけど、ド変態はマジだろ。あれ、俺ド変態じゃねぇよな? わかんねぇ。あの二人といつも一緒にいるから、俺にとってド変態のハードルが高すぎるのかもしれない。もしかして彩芽からしたら俺はド変態なのか?

 

「そんなのどうでもいいから、行こ? 修也」

「彩芽は俺がド変態でもいいって言うのか?」

「捕まらなければ……」

 

 ならよかった。もし俺がド変態だとしても、そういう行為をするのは彩芽にだけ……じゃねぇよ。彩芽にもしねぇよ。最近時々忘れそうになるんだよな、魔法で好きになってるってこと。なんかずっと昔から好きだったけど今まで好意に蓋をしていて、最近それを開けたみたいな感じがする。紛れもなく魔法のせいだからそんなことはありえねぇんだけど。

 

 無意識なのか、俺の手をにぎにぎしてくる彩芽の手を引いて屋台へ向かう。まずチョコバナナはやめておこう。俺好きだけど、さっきの流れから行ったらまたド変態だって言われちまう。

 

「どうする? 彩芽」

「ポテト食べたい!」

「いきなり飯ですか……」

「なに? いいじゃん別に。おいしそうなんだから」

 

 いっぱい食べる女の子は可愛いから文句はない。フライドポテトの屋台へ向かって一つ注文し、財布を出してお金を払う。祭りへ来る前に「今日は俺が払う」と言っていたからか、いつもはちょっとくらいは申し訳なさそうにしている彩芽も「ありがとうございます!」と言って金を払った俺の前に出てポテトを受け取った。

 人込みで食べると危ないからと、人の流れから外れた場所へ移動する。その間も彩芽の視線はポテトに注がれていて、食い意地張ってて可愛いなぁと微笑ましくなるも、一切食べ始めない彩芽に首を傾げた。

 

「彩芽? 食わねぇのか?」

「……困った。手をつないでたら食べられない」

「それで固まってたのか。しゃあねぇなぁ」

 

 彩芽の持つ容器からポテトを一本抜きとって、彩芽の口元へ運ぶが、口を開けない。なぜ?

 

「おい、俺の手が汚ぇってのか?」

「そ、そうじゃなくて、なんか、恥ずかしいと言いますか……」

「さっき俺の耳元で好きって言っといて?」

「自分からやるのとやってもらうのじゃ違うじゃん」

「ノーガード? プロレスでもしてんのかよ。いいから口開けろ」

「て、手を離すっていう選択肢は」

「ない」

 

 ぐ、と悔しそうに呻いてから、彩芽が小さく口を開ける。さっきのおかえしだ、くらえ!! とポテトを差し込めば、小動物のようにちまちまとポテトを食べ始めた。あまりにも可愛かったから次弾を装填し、食べ終わったのを確認してまた差し込むと、またちまちまとポテトを食べる。

 

「なんだ、可愛いな彩芽」

「調子乗んな!」

 

 俺の手を振り払って、ご立腹な様子でポテトを独り占め。さっき会った時はまだ余裕そうだったのに、今は攻められたらめちゃくちゃ恥ずかしがってる。こいつ、もしかして自分から攻めて俺のことが急激に好きになったな? なんて愛らしいやつなんだ。

 

「喉乾いた!」

「暴君かよ。ほら、水」

 

 熱中症になるといけないからと母さんから渡された水のキャップを開けて彩芽へ渡せば、お礼も言わず受け取って二口飲み、俺へ返却、するかと見せかけて俺がキャップを閉めると強奪してきた。

 

「泥棒? 別にいいけど」

「か、間接キスとか言って興奮されたら困るし」

「なぁ、なんか俺をド変態に仕立て上げようとしてないか?」

「でも男の子ってそういうので興奮するんでしょ?」

「女の子の唾液を摂取したがるのはあいつらくらいだ」

「なんでキモい言い方するの。間接キスでよくない?」

 

 ん、と口元に持ってきてくれたポテトを咥えて、飲み込んでから「ごめん」と素直に謝罪した。いや、違うんだよ。あいつらなら間接キスのことを『女の子の唾液の経口摂取』って言うだろうからつい口にしちゃったんだよ。わかってくれるか? わかってくれねぇよな。それが普通だ。

 

 ポテトを片付けて、軽い腹ごしらえは済んだ。近くにあったゴミ箱にポテトの容器を捨てて、持ってきたウェットティッシュでお互い手を拭いてから自然と手を繋ぎ、次の屋台へ向かう。

 

「あ、くじ引き」

「なんかほしいものあったのか?」

「んー、ほしいものはないけど、あぁいうのって見たらやりたくなっちゃうんだよね」

「わかる。行くか」

「うん!」

 

 彩芽に手を引かれてくじ引きの屋台へ行き、二人分のお金を払う。ラインナップの中で特に目を引くのは、一等の家庭用ゲーム機。ドックから外せば持ち運びもできるタイプのもので、パーティ用のゲームもついてくるおまけつき。

 

「修也。これ何?」

「さぁ……」

 

 一足早くくじ引きを引いて彩芽が交換してもらった景品を見れば、何かしらのロボットの模型の右足だった。何等だったのか聞けば四等だったらしい。四等を何回か当てればロボットが完成するシステムなのか? だとしても一人が四等を何回も当てることはないだろうから四等はゴミっていう認識で間違いなさそうだ。っつか一等と四等で差ありすぎだろ。ゲーム機と何かしらのロボットの右足って、子どもなら泣くぞ。

 

「なんか修也、こういうの運よかったイメージある」

「四等だったわ」

「はいよ、ロボットの胴体」

 

 景品を交換すると、ロボットの胴体を手渡された。彩芽と目を合わせ、考えていることは同じったのか彩芽が俺の持つロボットの胴体に右足を差し込む。

 右足だけ生えたロボットの胴体が完成した。

 

「……運いいのか? これ」

「ふふっ」

 

 まぁ、彩芽が持ってた右足の用途ができたから運がいいっちゃ運がいいのかもしれねぇけど、総合的に見て運悪いだろ。いやでも、彩芽にウケてるからやっぱり運がいい。

 

 右足だけつながったロボットを見ながら、「いる?」と彩芽に聞けば、当たり前のように首を横に振られた。だよな。こんなのこのロボットが何かわからなきゃ金積まれても辛うじていらねぇし。

 そんな右足だけつながったロボットを手の中で遊ばせていれば、ふと視線を感じた。見れば、俺の手の中にある右足だけつながったロボットを小学生くらいの男の子がじーっと見つめている。

 

「……ほしいのか?」

「え! いいの! 超ド級ハイパーマックストリケライナーHDMIの胴体と右足!」

「名前に通信規格入ってんの? 現代のセンスバカになんねぇな」

 

 しゃがんで男の子に目線を合わせて手渡せば、「ありがとう!」と言ってロボットの右足を掴んだ。おい、いいのか? そんな乱暴に扱ったら超ド級ハイパーマックストリケライナーHDMIの右足取れちまうぞ。

 

「君、お父さんとお母さんは一緒じゃないの?」

「なんか一人で遊んできなさいって言って林の中消えてったから、遊びに来た!」

 

 彩芽が男の子から顔を逸らして顔を赤くする。子どもを放置して盛り上がるって、とんでもねぇ親だな。そう考えたら息子とその幼馴染に魔法をかけてくる親はまだマシ……いや、実害出てるからうちの方がとんでもねぇわ。

 でも子どもを一人にするのはいただけない。彩芽と目を合わせると、微笑みながら頷いてくれた。

 

「よし、じゃあ俺らと一緒に遊ぼうぜ」

「いいの? デート中に悪いよ」

「いいよ。私たちが君と遊びたいんだから」

「兄ちゃん助けて! この姉ちゃん不審者ってやつだ!」

 

 最近の子どもは賢いんだなぁと感心していると、彩芽から逃げるように俺の陰に隠れた男の子が彩芽に捕まった。

 

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