【本編完結】ぎゅってしないと好きになる魔法   作:酉柄レイム

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第2話 終わってる友だち

 俺と彩芽が定期的に抱き合っているというのは、今のところ姉ちゃん以外にバレていない。姉ちゃんは適当な人間だから「節度は守ってね」と一言言って、それきりだった。母さんの様子も変わってなかったし、どうやら秘密にしてくれているらしい。

 バレても付き合ってるって勘違いされるだけとはいえ、そうなってしまえばお互い恋愛ができなくなってしまう。本来好意を寄せてくれるはずの人が、彼氏/彼女がいるからと身を引いてしまう。それだけはだめだ。俺は普通に彼女がほしいし、彩芽との関係がバレるのは絶対に避けたい。

 

「なぁ修也。いい人質の取り方知らん?」

「まだそんなこと言ってるのか。僕は最近催眠術に目を付けたところさ」

 

 そして、バレたくない理由がもう一つ。こいつらの存在だ。

 

 赤谷(あかたに)(めぐる)。今俺に人質の取り方を聞いてきた、なんとしてでも彼女がほしい危険思想の持主。ソフトモヒカンで目つきが悪く、さらに体がごつい。

 倉敷(くらしき)拓斗(たくと)。怪しげな催眠術の本を手に得意気な表情をしている、なんとしてでも彼女がほしい危険思想の持主。黒縁丸眼鏡の高身長、そしてイケメンではあるが、普段の言動が終わっているためかまったくモテていない。

 俺たち三人は、昼休みは色々な理由があって勝手に空き教室を使い、こうして集まっている。色々な理由っていうのは、廻は頭がおかしいからで、拓斗は頭がおかしいからで、俺は彩芽に会いたい……違う、会いたくないからだ。俺が彩芽のことが嫌いだっていうのはこいつらにも話してるし、それに納得してくれているからこうして俺が無事なんだ。

 

 俺は確信していた。こいつらに彩芽との関係がバレたら殺される、と。

 

「俺が人質の取り方知ってるわけねぇだろ」

「冷たいこと言うなや。人質取ってるから真咲さんが幼馴染でおってくれるんやろ?」

「廻、修也は幼い頃真咲さんに催眠術をかけて幼馴染だと誤認させてるんだ」

「どっちでもねぇよ。俺を何だと思ってるんだ?」

 

 人質はともかく、父さんが魔法使えるから俺に何かしらの怪しい才能がないとは言い切れないけど、今のところそれを行使していない。っていうか人質とか催眠術とか使えるなら、彩芽と付き合ってないとおかしいだろ。非合法な手段取ってるくせに奥手って意味わかんねぇよ。

 

「はぁ、催眠術じゃないのか……せっかく教えてもらおうと思っていたのに」

「普段ちゃんとすれば、お前の顔なら彼女の一人や二人できるだろ」

「いや、少し悩み事があってね」

「聞く価値ないやろうけど、一応聞いたるわ」

「実は結構前に親が離婚して、最近再婚して義妹ができたんだけど、どうすれば仲良くなれると思う?」

「もしもし、警察ですか?」

 

 犯罪の匂いがしたから警察に電話をかけるが、拓斗に一瞬でスマホを奪われ通話を切られてしまった。警察への連絡を妨害してくるっていうことは、やはり黒……?

 

「何してるんだ!」

「どう考えても犯罪だろ」

「待てや修也。義妹ができたんやったら性的な目で見るのは正常な判断やろ」

「テメェら自分が正常じゃないってこと自覚しろ」

「義妹とはいえ家族なんだ。性的な目で見るわけないだろう?」

 

 まぁ、確かに。いくらこいつの頭がおかしいからとはいえ、血がつながっていないとはいえ家族なんだ。勘違いをしてしまったことに対して謝罪し、警察に電話をかけ直して「さっきの件なんですけど、誤解でした。申し訳ございませんでした」と謝罪しておく。悪いと思ったことは素直に謝る。これ、人間として当然の行為。

 

「どうやって仲良くなればええかって、そもそも嫌われるような真似したん?」

「いや、それが一つも心当たりがないんだ。義母さんがとてつもなく好みで、初対面で求婚したのはむしろプラスだろうし」

「お前さっきの発言と矛盾してんじゃねぇか」

「僕の純粋な恋を性欲と一緒にするな!」

「義母に対して純粋な恋すんなよ」

 

 さっきの謝罪を撤回し、警察に電話をかけ直して「さっきの件なんですけど、勘違いじゃないかもしれません」と事件性を伝えると、なぜか名前と学校を聞かれてしまった。俺が将来有望すぎて、今から唾をつけておこうってことだろうか。電話を切る前に「いい加減にしろ」と怒られたから、恐らく悪い意味で名前と学校を聞かれた気もする。

 しかし、義母に求婚か。そりゃ嫌われても仕方ない。親が離婚して再婚なんて子どもからすれば受け入れ難いことだろうし、義兄になるやつが自分の母親に求婚したとなれば更に受け入れ難い。

 

「そういや義妹ちゃん何歳なん?」

「一つ下で、この高校に通っている」

 

 可哀そうに……。流石に他の学年に拓斗の異常性は伝わっていないだろうけど、拓斗が何かやらかしたら「あいつあの倉敷拓斗の妹なのか……」って変な目で見られるのは確実だろう。そうならないように俺が拓斗の暴走を止めないといけない。こいつ、年上が好きすぎて綺麗なお姉さんを見たら求婚するクセがあるからな。だから姉ちゃんにはまだ会わせていない。

 

「まず誠意をもって謝罪するべきだろ」

「あとプレゼントも一緒にするとかどうや?」

「でも僕はあの子の好きなもの知らないし、義母さんに聞こうにも近づこうとするだけで威嚇される。……そうだ、修也が聞いてきてくれないか?」

 

 俺? と自分を指すと、拓斗は頷いた。

 確かに俺はイケメンで人当たりがよくて、こいつらと一緒にいなきゃ彼女を作るどころか結婚してるだろうけど、違う女の子と話してると彩芽が……いや、俺元々は彩芽のこと嫌いなんだった。気にしなくていい。むしろチャンスだ。拓斗を義兄さんと呼ぶことになるのは癪だが、女の子との出会いを潰すよりはマシ。

 

「待て、なんで俺は行ったらあかんねん」

「考えてみてよ。ガタイのいいソフトモヒカンの異性の先輩に話しかけられたらどう思う?」

「あぁ、確かに惚れられてもおかしくないな」

「お前の頭はほんとにお花畑だな」

「ソフトモヒカンやで?」

「見た目の話はしてねぇんだよ」

 

 廻は今の会話でもわかる通りかなりバカだ。そして威圧感のある見た目。年下の女の子と話すには荷が重すぎる。それに学年ごとに一年は三階、二年は二階、三年は一階とフロアがわかれてるから、廻が三階に現れただけで阿鼻叫喚になることが容易に想像できる。

 でも、それは俺にも言えることか。俺があまりにもイケメンすぎて、一年生の女子が全員俺に惚れてしまう事態が発生してしまうかもしれない。そうなったら義妹ちゃんと話す暇もなくなるな……。

 

「……癪だが、彩芽にもついてきてもらうか」

「なんで?」

「ほら、俺に彼女がいるってなったら一年女子が俺に惚れて阿鼻叫喚にならなくて済むだろ?」

「修也の妄想は片腹痛いけど、女性の先輩もいれば警戒が薄くなるかもしれないし、いいかもね」

「昨日変なもんでも食うたんか?」

「物理的に片腹痛いわけじゃないんだよ」

「なんや、心配して損した。ややこしいねんカス」

 

 僕が悪いの? と俺に聞いてくる拓斗に頷きで返す。このバカと話すときはそのレベルを受け入れなきゃいけない。喧嘩したら勝てないし。待て、俺たちほんとに友だちか? パワーバランスが存在する友だちってなんだ?

 

「じゃあ俺、彩芽に声かけてくるわ」

「頼んだ。それと真咲さんと恋仲になったら殺すからそのつもりで」

「まぁ普段から嫌い言うてるから、そんな心配ないやろけどな」

 

 ……ぎゅってする頻度多めにしようかな。

 

 

 

 

 

「彩芽」

「!??」

 

 教室に戻って彩芽を呼んだら、教室中がどよめいた。ノリのいいやつは椅子から転げ落ち、バトルマンガみたいに壁に叩きつけられているやつもいる。

 俺と彩芽の仲が悪いっていうのは同学年では有名な話で、ほとんど話さないし、話したとしても大喧嘩。だから俺が彩芽を呼んだのが信じられなかったんだろう。彩芽本人も、目を丸くしている。可愛い。

 

 待て。彩芽と恋仲、いや、彩芽と仲良くするだけであのカスどもが俺を殺してくる。好きっていう気持ちは抑えておかないといけない。彩芽が「えっ、名前呼んでくれた。嬉しい!」って顔してても可愛いなんて思っちゃだめだ。

 平然を装って彩芽のところへ行き、近くの席に座る。そうして始めて、彩芽の隣に中条がいることに気づいた。

 

 中条(なかじょう)かおり。艶のある黒髪ショートボブに三白眼が鋭くありつつも、顔のパーツ配置が完璧で意外とある胸に腕と足がすらっと綺麗に伸びているため、男子の中で密かに人気な女の子。あれだ、男子は友だちとして接してるけど、「こ、こいつ、女なんだな……」ってドキドキするタイプの女の子。

 彩芽とは大の仲良しで、前ちょっと話した時に「彩芽あんな可愛いのに、嫌いとかバカじゃん?」とバカにされたのを覚えている。こいつムカつくな……。

 

「どしたん舞坂。彩芽に声かけるとか珍しいじゃん」

 

 俺に声をかけられてびっくりしている彩芽に代わり、中条が口を開く。彩芽は俺をちらちら見て、どう話せばいいか迷っている様子だった。仕方ないから、俺をバカだと言ったこの失礼なやつと話して彩芽を待つとするか。

 

「ちょっと頼みがあってな。ほら、拓斗いるだろ?」

「あぁ、あの年上好きのド変態?」

 

 中条が「ド変態」って言った瞬間、男子の一部が俺に親指を立てたのを見て、俺も親指を立てる。中条が首を傾げるが、「気にするな」と返した。

 

「その認識で合ってる。その拓斗に最近義妹ができたらしくて」

「複雑な家庭事情を、天気の話題みたいに軽々しく言わないでくんない?」

「中条なら別に気にしねぇだろ。んで、拓斗がその義妹と仲良くしたいらしくて。もちろん家族的な意味でな? でもちょっと怒らしちゃったから、プレゼントと一緒に謝りたいってなったんだけど」

「その義妹ちゃんの好きな物がわかんないから聞きに行こうってなったけど、女の人いた方が警戒心薄れるから彩芽に頼もうとしたってとこ?」

「話が早くて助かる」

 

 うん、失礼なやつだって思ってたけどいいやつだ。偏見なんか持たないし、自分の友だちが大嫌いだって言っている俺とも普通に話してくれるし、誰だ中条のことを失礼なやつだって思ったりムカつくって思ったりしたやつは。俺がぶっ飛ばしてやるよ。

 

「そんなら私が一緒に行こっか? あんたら嫌い合ってんじゃん。無理して一緒に行く必要ないじゃんね」

「ん? ……あぁ、まぁそうか。そうだな。じゃあ」

「だ、だめ!!」

 

 話がまとまりかけたところで立ち上がったのが、彩芽。思っていたよりも大きな声を出してしまったのか、びっくりしてまた目を丸くしている。

 っていうか、おい、何やってんだお前。『俺と彩芽が嫌い合ってるから中条がついていく』のをダメって言ったら、なんかその、無粋な勘違いするやつ出てきてもおかしくねぇぞ? そうなったら俺があいつらに殺されんじゃねぇかふざけんな!!

 

「どったの彩芽」

「え、えっと、修也はその、い、いやらしいから!! かおりがどんな目に遭わされるかわかんないし!」

「なんかする気なの?」

「いや、まったく」

「まったくはムカつくわ」

 

 中条に肩を殴られた。なんだ? じゃあ「俺はお前に発情するけど、弁えてるから手は出さない」って言えばよかったのか? 女心って難しいな……。

 

「……! と、とにかく! 私が一緒に行くから! それでいいよね、修也!」

「お、おう。元からそのつもりだったし」

「じゃあよろしく!!」

 

 彩芽は叫んで、これ以上この場にいることが耐えられなくなったのか、教室を出て行った。結構な大声だったからか、彩芽に注がれていた視線はそのまま俺に注がれている。

 

「……なんかよくわかんないけど、彩芽可愛い」

 

 わかる。と言いかけた俺は自分をビンタした。

 

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