【本編完結】ぎゅってしないと好きになる魔法   作:酉柄レイム

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第20話 可愛い頃と可愛くない頃

 男の子の名前は、九条(くじょう)愛斗(まなと)というらしく、年齢は9歳で小学三年生。さっき彩芽を『不審者』と言ってお仕置きされたからか、彩芽と繋いでいる方とは逆の俺の手を握って、じっと睨みつけている。

 

「もう、そんな警戒しなくてもいいのに。ほら、こっちおいで?」

「やだ。ほっぺぷにぷにしてくんだろ」

「そうだぞ彩芽。男のほっぺをぷにぷにするなんて失礼だろ」

「そうだ! 失礼だ!」

 

 お仕置きとは言ったが、実際には可愛らしい光景だった。彩芽は正面から愛斗のほっぺに触れると、「柔らかくて可愛い!」とぷにぷにした。もちろん年頃の男の子である愛斗はめちゃくちゃ恥ずかしがって、「可愛いのは姉ちゃんだろ!」と言って俺の方へ避難。おい待て、お前さてはモテるな?

 

 彩芽は自分じゃなくて俺に愛斗が懐いているのが不満なようで、むっとした顔で俺を睨んできた。実際には懐いてるんじゃなくて俺を盾にしてるだけだけどな。この年頃の男の子は恥ずかしいことを嫌うし、よっぽどさっきのほっぺぷにぷにが嫌だったんだろう。俺も姉ちゃんの友だちと夏祭りに行ってたから似たような経験あるし。あれ、中学生高校生くらいの男から見たら羨ましい光景でしかないけど、当人からすれば苦痛でしかないからな。

 

「愛斗、何か食いたいもんとかやりたいものとかあったら遠慮せずに言えよ?」

「超ド級ハイパーマックスすくい!」

「それはトリケライナーHDMIだろ。スーパーボールすくいな」

「ほんとに好きなんだねぇ、HDMI」

「そこだけ切り取るとゲキ渋小学生になるから、トリケライナーHDMIって言ってやれ」

 

 HDMIが好きな小学生なんていねぇだろ。いるとしてもHDMIはHDMIでも超ド級ハイパーマックストリケライナーHDMIだ。なんで俺は名前覚えちまってんだ?

 

 愛斗は元気にスーパーボールすくいの屋台へ飛んでいき、屋台のおっちゃんに「金はあそこの兄ちゃんから受け取って!」と俺を指す。すみませんと頭を下げながらお金を渡せば、「わけぇ夫婦だなぁ」とからかい交じりに言われた。

 

「夫婦だって、修也」

「え! じゃあ二人も林の中に行くのか!?」

「おじさん、俺ら夫婦じゃないですし、この子が言ったことは聞かなかったことにしてください」

「警察には気をつけな」

 

 ありがたい助言とともに、ポイと器が愛斗に手渡された。なんか違う。夫婦だって言われて覚える気まずさってこういう種類のものじゃないと思うんだよ。もっとなんかこう、付き合う前の恥ずかしさというかそういうのがほしかったんだけどなぁ。マジでなんで愛斗の親は林の中に行っちまったんだ。そのせいで愛斗の中で『夫婦=林の中に行く』の等式ができあがっちまってるじゃねぇか。

 

「愛斗くん、目標は何個?」

「ちんこ!」

「こら、そんなこと大声で言っちゃダメでしょ?」

「ちんこ……」

「小声でもだめ!」

「なんだよ、父ちゃんは外で出してんのに」

「それ以上はやめとけ、愛斗」

 

 もしかして出した状態で「一人で遊んで来い」って言ったのか? もしくは外でそういう行為するのが日常的なのか? とんでもねぇ親だな。俺の父さんのがおかしいと思ったけど、やっぱり愛斗の親の方がおかしい。新婚でも付き合い立てでもそんなハッスルしねぇぞ。

 

「んなことよりスーパーボールすくいやらねぇの?」

「やる!」

 

 自分の父親が外で放りだしているのに、自分は注意されることに納得のいっていない様子の愛斗の興味をスーパーボールへと移す。いつまでもあんな話してると営業妨害になるからな。あと普通に俺と彩芽が愛斗の両親のせいで恥ずかしい目に遭ってるから。彩芽、「父ちゃんは外で出してんのに」って愛斗が言ってから、めちゃくちゃ恥ずかしそうに俺の服の裾握ってるし。

 

「よーし! とるぞー!」

 

 子どもらしく意気込んだ愛斗は、器を水槽に付けて勢いよくスーパーボールの悉くを回収。そしてそれを俺に見せつけて、「どうだ!」と胸を張った。

 

「愛斗。スーパーボールをすくうのはそっちのポイでやるんだ」

「チンポイ?」

「一旦ちんこから離れろ」

「別に触ってねぇけど……」

「物理的にじゃねぇよ」

「二人とも、恥ずかしいからやめて……」

 

 とうとう恥ずかしくなりすぎた彩芽は、俺の背中にくっついて顔を埋めた。周りから見られるのが恥ずかしいんだろう。

 大丈夫、そんなに恥ずかしがる必要はない。小学生低学年の男の子なんて下ネタが大好きな年頃だし、大体の人は微笑ましい目で見てくれる。屋台のおっちゃんも「ポイっつーのは、今坊主が右手で持ってるやつのことだぜ」って優しく教えてくれてるし。

 

「え、これ紙じゃん。水につけて大丈夫なの?」

「それを破らないようにすくうから面白いんだよ」

「なるほどな! やってみる!」

 

 器のスーパーボールを水槽に返し、右手で強く握ったポイを勢いよく水へぶち込んで、乱暴に掬いあげた。ポイに引っかかったスーパーボールが奇跡的に三個ほど器の中に入るが、破れる心配をしていたとは思えないほどの勢いで動かされたポイはあっという間に破けてしまう。川でクマが鮭取るときの動きでスーパーボールすくいやるやつ初めて見た。

 

「あー! 破けた!」

「残念だなぁ坊主。器に入ったスーパーボールは持って帰っていいぜ」

「いや! まだできる!」

「諦めろ愛斗。完全に破けてるから100%無理だ」

「100%無理でも残り数%にかける!」

「残りはねぇよ。今度一緒に数字の勉強しような」

 

 それに、たとえ技術的にいけたとしても破けきったポイを使うのはマナー違反だ。「ほんとに勉強教えてくれんの!?」と興味が俺との勉強に移って、破れたポイと器はやっと復活した彩芽に渡された。「嬢ちゃん、大変だな」とおっちゃんに労われながら透明な袋に入ったスーパーボールを手渡される彩芽を見ながら、愛斗の頭を撫でる。

 

「愛斗のお父さんとお母さんがいいって言ってくれたらな」

「やった! 絶対だぜ!」

「約束する」

「ふふ、よかったね愛斗くん」

「あ! 俺のスーパーボール! 返せドロボウ!」

「私が代わりに受け取ってあげたんでしょ! そんなこと言うなら渡しません!」

「じゃあそれあげる。一緒に遊んでくれてるお礼!」

「なにもうめちゃくちゃ可愛い!」

 

 彩芽に抱き着かれて「離せ!」と暴れる愛斗を見ながら、やっぱこいつモテるなと感心した。なにせちゃんと躾しようとした彩芽がこのザマだ。愛斗からすれば「怒られたから言い返すのもめんどくさいし、あげちゃえ」って感じなんだろうけどな。

 「微笑ましいのはいいけど、どいてくんねぇかな」と笑いながら言ったおっちゃんに頭を下げて屋台から離れる。その間も愛斗は彩芽に抱っこされたままで、抵抗は無駄だと悟ったのか、抱っこされながら「可愛い髪型してる」と無意識に口説いていた。「ありがとー」と言いながらちらちら俺を見てくる彩芽に、まさか愛斗の前で歯の浮くようなセリフを言うわけにもいかず話題を逸らす。

 

「そういや愛斗、勉強好きなのか?」

「なんでー?」

「さっき勉強教えてくれるってなって喜んでただろ」

「あー、別に好きじゃねぇけど、また兄ちゃんと会えるんだってなって、そっちで喜んでた!」

 

 言った瞬間あまりの可愛さに彩芽が愛斗を抱きしめた。その愛斗の頭を俺がぐしゃぐしゃに撫でると、「やめろー!」と言いながら笑顔を咲かせる。なんだこいつ、あと数年もしたら周りに女の子いっぱいいるんじゃねぇか? なんで子ども残して林の中に行くような親からこんな子が生まれるんだ。

 

「ね、愛斗くん。その時は私も一緒に勉強してもいい?」

「仕方ねぇなぁ。姉ちゃんも兄ちゃんと一緒にいたいだろうし、いいぞ」

「ふふ、そうだね。愛斗くんと一緒だ」

 

 もし可愛さで人を殺せるなら、今俺は死んでいただろう。よかった、可愛さで人を殺せる世界じゃなくて。もしそうだったら彩芽と愛斗が殺人犯になるところだった。彩芽の好意と愛斗の純粋さがこんなにも可愛い。あと愛斗のポケットから飛び出している超ド級ハイパーマックストリケライナーHDMIの右足がちょっと面白い。

 

 これ以上話していたら可愛さで人を殺せる世界じゃなくても俺が死ぬからと、次どこに行きたいか愛斗に聞こうとした時、愛斗が「父ちゃんと母ちゃんだ!」と言って彩芽の腕の中から飛び降りた。

 

「どの人?」

「んー、ずっと向こう! 多分兄ちゃんと姉ちゃんじゃ見えねぇ!」

「家族の絆ってやつか。俺らも一緒に行くよ」

「遠慮しとく! 父ちゃんと母ちゃん恩義のある人に大げさなくらいお金積むから! それより電話番号ちょうだい!」

 

 流石にそれを言われてついていくほど無縁慮な人間になった覚えはないから、財布の中にあったレシートの裏に俺と彩芽の電話番号を書いて手渡すと、超ド級ハイパーマックストリケライナーHDMIが入っているポケットにレシートを突っ込んだ。

 

「じゃ、遊んでくれてありがとう! またな!」

「またね、愛斗くん」

「父ちゃんと母ちゃんと仲良くな」

「あと、二人の邪魔してごめん! ごゆっくり!」

 

 手を振りながら去っていく愛斗に手を振り返し見送った後、「どこで覚えてくんだそんな言葉」と言おうとして、すぐに答えに辿り着いて咄嗟に口を閉じる。両親からに決まってるわな。もしかしたら愛斗が節々でモテるような言葉言ってたのも、父ちゃんの真似をしていたのかもしれない。そう考えたら、別に悪い影響ばっか与えてるわけじゃないのかもな。

 

「可愛かったね、愛斗くん」

「俺もあんくらいの時は可愛かったっけか」

「可愛くなかった! すごく意地っ張りだったもん」

「どの口が言ってんだ」

 

 俺たちがお互いのことを嫌い合ったのは、ちょうど愛斗くらいの頃だった。確かに、そう考えたらお互いがお互いに可愛いなんて思うわけがない。言い返してきた彩芽を見れば同じことを考えたのか、目が合った瞬間同時に笑った。

 

「昔は可愛くなかったけど、今はめちゃくちゃ可愛いからな」

「修也も、可愛いっていうよりは断然カッコいいけど、時々可愛いもんね」

 

 自然とどちからともなく手を握って歩き出そうとしたら、それを邪魔するかのようにスマホが震えた。彩芽を見れば「見てもいいよ」と言ってくれたからスマホを見れば、VEINで結菜からメッセージが届いていた。

 

「……」

「どうしたの?」

「『遅くなっちゃったけど、出産祝い送るわね』って」

「今度二人で勘違いだって話そっか」

「そういや地元同じだもんな、あいつ……」

 

 多分この祭り会場のどこかにいるんだろう。とんでもない勘違いをした結菜にまた二人で笑った。

 

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