【本編完結】ぎゅってしないと好きになる魔法   作:酉柄レイム

22 / 66
第22話 裏切りと教育

 一階、3-Aの教室の前。らしくもなくド緊張している廻に呆れながら、そっと教室を覗いた。

 

「おった。あの綺麗な黒のロングヘアーの人」

「美人じゃねぇか」

 

 窓際の席、友だちと和やかに話しているおとなしそうな人が雪野さんらしい。めちゃくちゃ優しそうな目をしていて、笑う時は口に手を当てるおしとやかさ。協力するって言ったけど、廻と喋らせることが申し訳ないと思ってしまうほど清潔で綺麗な人だった。

 

「ほら、ここにずっといるわけにもいかねぇし行ってこい」

「雪野さん!」

「バカ行き過ぎだお前!!」

 

 緊張しすぎている廻の背中を押してやれば、大声で名前を呼びながら入室。受験期でピリピリしている教室に飛び込ませるには刺激的すぎる。慌てて俺も教室に飛び込んで、廻の頭を掴んで「お騒がせしてすみません」と一緒に頭を下げさせた。

 頭を上げて雪野さんのところへ向かえば、雪野さんが廻を見て目を丸くしている。クソ、忘れられてたら一番よかったのに、どうやら覚えてるみたいだ。貴重な脳のリソースを廻に割くなんて、雪野さんは優しい人らしい。

 

「雪野さん、俺覚えてますか? 駅で迷ってたやつなんすけど」

「覚えてますよ。忘れようとしても忘れられませんもの」

「おい、脈ありや」

「嬉しそうにしてるとこワリィけど、確実に悪い意味だぞ」

 

 そうか、廻のために貴重な脳のリソースを割いてたんじゃなくて、廻が勝手に脳のリソースを持って行ってたのか。こんなガタイのいい悪人顔なんてそうそういないし、そう考えたら納得がいく。言葉交わすだけで人に迷惑かけられるって才能だろもはや。

 

「それで、ご用は?」

「あの時はありがとうございました!」

「赤谷廻さん、ですよね」

「おい、俺の名前知ってくれとる。脈ありや」

「嬉しそうにしてるけど、多分悪名が広まってるだけだぞ」

 

 こんな悪人顔、噂になって然るべきだしな。今もそこら中から「雪野さん守らなくていいのか?」「親に借金が……?」「とりあえず警察に電話を」「バカ! 刺激するな!」って聞こえてきてるし。

 それを気にしてか、雪野さんはため息を吐いて「場所を変えましょうか」と言って立ち上がり、教室を出ていく。後を追って向かった先は、いつも俺たちが使っている空き教室だった。

 

「ここ、開いてます?」

「あ、鍵俺持ってるんで開けます」

 

 ポケットから鍵を取り出してドアを開け、ドアを抑えながら「どうぞ」と促せば、「ありがとうございます」とおしとやかに笑って雪野さんが入室し、「ご苦労さん」と言って廻が入室。ムカつくから去り際にソフトモヒカンから毛を一本抜いてやった。

 

「さて、赤谷さん。私があなたの名前を知っていたのは、ある話を先生方から伺っていたからです」

「ほう。もしかして優秀すぎる生徒があるとかですか?」

「いいえ、その逆。このままでは社会に出せないとんでもない問題児がいる、と」

 

 にっこり微笑んだ雪野さんは懐から鞭を取り出し……ちょっと待て、鞭? なんで学校に武器持ってきてんだこの人。流石の廻も様子がおかしいって気づいてるぞ。さっきまで「場所変えてまで俺と話してくれるんやったら、ほんまに脈ありちゃうか?」って舞い上がってたのに、今じゃこの先に起こるであろう何かを察して、視線で俺に助けを求めてきてる。

 

「大学からは推薦をいただいていますし、少し暇がありまして。そこで、先生方はある提案がありました」

「提案……」

「私、教師を目指していまして。二年生にいるとんでもない問題児二人の躾をお願いできないか、と」

「修也! 逃げるで!」

「舞坂さん」

「はい!!」

 

背を向けて逃亡しようとした廻を羽交い絞めにする。クソ、体が勝手に動いちまった! というかやっぱり雪野さん俺の名前知ってんのかよ! マズい、このままじゃ「問題児二人と一緒にいて、野放しにしていたあなたにも責任があると思うんです」って言って俺までひどい目に遭いかねない!

 

「離せ修也! 友だちちゃうんか!」

「諦めろ廻! 報いを受けるときが来たんだ!」

「あら、私の教育が報いだと仰るんですか?」

「とんでもございません! 今すぐ拓斗も呼んできますね!」

「おい待てこの裏切り者が!」

「言っただろ、この世には因果応報って言葉があるんだよ!」

 

 廻を雪野さんの方へ転がして、急いで空き教室を飛び出した。俺が教育されるような事態を避けるためには、雪野さんの言う通り動いて廻と拓斗を生贄として献上するのが最適解。

 雪野さんを待たせるわけにはいかない。廊下を走ったら雪野さんに知られて「あなたにも教育が必要ですね』って言われる可能性があるから、早歩きで自分の教室へ向かう。焦る気持ちが現れたのか勢いよく教室のドアを開けると、彩芽と中条と話す拓斗の姿があった。テメェ!! 俺がいねぇ間に彩芽と話してんじゃねぇぞ!!

 

「拓斗!」

「どうしたんだ修也。廻の姿が見えないっていうことは、うまくいったのかい?」

 

 ここで正直に言えば、拓斗はついてこない。許せ拓斗。嘘はよくないとは言うが、それでも嘘が必要な時はあるんだ。

 

「あぁ、信じられないことにな。今空き教室に二人がいて、雪野さんが友だちの拓斗にも挨拶したいって言っててさ。悪いけどきてくれるか?」

「悪いなんてことはないさ。むしろ友だちを祝福したいから、僕からお願いしたいくらいだよ」

 

 じゃあね、と彩芽と中条に言って、拓斗は教室を出ていく。さて、逃げないようについていかないとな。ドアを開けた瞬間すべてを察して逃げることも考えらえる。そうなったら「人を連れてくることも満足にできないなんて、あなたにも教育が必要ですね」って雪野さんに教育されるかもしれない。

 

「ねぇ、マジで成功したん?」

「詳しい話はあとでするけど、ざっくり言うとあの空き教室は今日からあいつらにとって監獄になる」

「あとでするには気になりすぎる内容だね……」

「悪い彩芽。I’ll be back」

「え? うん……」

 

 危ない。地獄を味わった後に彩芽に会ったもんだから「愛してる」って言いかけた。咄嗟に軌道修正したにしてはよく誤魔化せた方だろ。中条はにやにやしてるから気づかれたみたいだけど。きっとこの後彩芽に今のこと言って、彩芽が恥ずかしがって顔真っ赤にして、あとで「ちゃんと言って」ってむすっとしながら言ってくれるんだろうなぁ。うおおおおおおお!!

 

 いっそ気持ち悪いともいえる妄想でエネルギーをチャージし、先に出て行った拓斗を追う。少し急げばすぐに追いつけて、「遅かったね、何かあった?」と聞いてくる拓斗に「いや、おめでとうって伝えてくれって言われてな」とまた嘘をついておいた。まぁ、廻と拓斗が教育されるってなったらどっちにしろおめでとうだし、あながち嘘でもねぇだろ。

 

「それにしても、雪野さんってもの好きなんだね。もしかして脅したとか?」

「まさか。廻を見てもちっとも怖がらないいい人だったぜ」

 

 代わりに廻と俺が怖がってるけどな。

 

 空き教室の前について、拓斗が逃げた時に防げるよう拓斗にドアを開けさせる。

 拓斗がドアノブを回し、ドアを開くとそこには。

 

 椅子に縛り付けられている廻と、その後ろで鞭を持って微笑んでいる雪野さん。机にはこれでもかと勉強道具が散乱していて、廻が白目を向きながらペンを握っていた。

 

「連れてきました!」

「おい裏切ったな修也!」

「バカ野郎が、見えねぇのか今の廻が! あんな状態にしてくるような人の言うことを聞かねぇなんて命を無駄にすんのと一緒だろ!」

 

 一目散に逃げようとした拓斗を羽交い絞めにし、教室へ引きずっていく。行儀が悪いとは思いながらもドアを開けていると拷問が行われてると他の人たちに勘違いされるから、足でドアを閉めた。

 

「あら、ありがとうございます。そしてはじめまして、倉敷拓斗さん。私は3-A雪野雫。今日からあなたたちの矯正を行うこととしました」

「離せ修也! 僕はまだ死にたくない!」

「よかったじゃねぇか、えぇ!? 大好きなお姉さんと一緒にお勉強できるんだぜ? 何がワリィことあんだよ!」

「そうですよ。ただ私は教師を目指しているので、その予行演習も兼ねさせていただければと思っているだけです」

「ならその鞭はなんですか!」

「教鞭です」

「教鞭っていうのは普通片手で収まるんですよ! 雪野さんが持っているそれは拷問で使われるタイプの」

「いいから、座りなさい」

「修也。凪咲ちゃんには『ダメなお兄ちゃんでごめんね』って伝えておいてくれ」

 

 戦士の顔をした拓斗は廻の隣に座って胸の前で十字を切る。死ぬ気か、あいつ……。なんてかわいそうなんだ。ここに連れてきたのは俺だけど。

 

 俺の役目はこれで終わりだ。あとは雪野さんに気にされないようこっそり出て、彩芽に癒してもらいに行こう。ゆっくり背を向けて、ドアノブに手をかけて、音を立てないようゆっくり回す。

 

「舞坂さん」

「はい!」

 

 しかしすんなり退出するのは許されなかった。姿勢を正して振り向けば、もう拓斗が白目を向いている。俺が背を向けた間に何があったんだ……!?

 

「あなたのことも先生方から聞いています。あなたがいるから問題児がある程度おとなしいと感謝していましたよ」

「ど、どうも」

「ですが最近、真咲彩芽さんと随分仲を深めているそうじゃないですか。……不純異性交遊は、教育対象です」

「肝に銘じます! 失礼しました!」

 

 敬礼を返せば「行っていいですよ」と仰ってくださって、最後に一礼してから教室を出る。

 マズい、彩芽とのことがバレてる? 確かに帰る途中とか、我慢できなくなって学校の人目がつかないところでとかいろんなところでぎゅってしてたけど、それを見られてたのか?

 このままだと俺も教育されちまう。早くどうにかして魔法を解かないと……!

 

「ん?」

 

 絶対にバレずぎゅってできる場所はないかと脳をフル回転させていると、スマホに通知が届いた。見れば、父さんからのVEIN。

 

 『魔力が溜まった』。父さんからきたメッセージには、そう書かれていた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。