【本編完結】ぎゅってしないと好きになる魔法   作:酉柄レイム

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第23話 魔法のせいだから

 『魔力が溜まった』と父さんから連絡があってから三日後、いつかのように俺の家に父さんと俺、彩芽が集まっていた。俺たちの正面に座る父さんは「大変だったな……」と魔法をかけた張本人のくせに他人事のように俺たちを労い、無意識に俺たちの怒りのボルテージを上げている。

 

「さて、魔法を解く前に。魔法にかけられてから今までで、気持ちに変化はあったか?」

「御託はいいからさっさと解け、引きちぎられてぇのか?」

「ちょっと修也。いくらなんでも引きちぎるのは生ぬるいよ」

「はっはっは。お父さんやりすぎだよって言ってくれるかと思ったよ。いやぁ、二人で冗談を言うなんて仲良くなったんだなぁ」

 

 冗談じゃねぇけど……。

 

 俺たちはさっき、『魔法が解けても仲がいい』ことの証明として、父さんの目の前でぎゅってするっていう拷問を受けた。そうしないと「やっぱり口で言ってるだけで、魔法が解けたら仲が悪くなるんじゃないか?」なんてほざきやがった父さんを納得させるために。こいつ、俺たちをおもちゃにして遊んでるんだ。マジでそういうとこ姉ちゃんに遺伝してるよなぁ。

 

「まぁ、安心したよ。これで仲のいい幼馴染に元通りだ。本当にいいんだな?」

 

 俺と彩芽は、即答はできなかった。確かに魔法は解けた方がいい。解けた方がいいけど、彩芽のことを好きになっていた時間は、大切で心地よかったのも事実。それが魔法によって作られたものだとしても、ちゃんと好きになってもこんな感じなんだろうな、っていう漠然とした確信があった。

 

「あぁ、頼む」

「お願いします」

 

 けど、そう思ったんならなおさら魔法によって『好き』を作られちゃいけない。魔法が解けてから彩芽のことを好きになるかはわからないけど、好きになるならちゃんと好きになりたい。

 俺と彩芽が頷けば、父さんも力強く頷いた。そして両手でハートを作ってそこに口づけを落とし、ハートの中に俺たちを収める。なんだそのクソキメェ魔法の手順。

 

「どっっっっっっっきゅん!!」

 

 この世の物とは思えない悍ましい言葉が父さんから放たれる。

 俺の中から、何かが抜けていくのがわかった。今までずっと感じていた、彩芽に対する好きっていう気持ち。形には見えないそれが抜けていく。彩芽と目を合わせても、好きっていう気持ちは湧き上がってこなかった。

 

 そしてなぜか、俺と彩芽がぎゅってしていた。

 

「!!!!???」

「!!!!???」

「ふぅ、どうやら、俺が魔法をミスってしまったことが気になるようだな」

「どういうことか説明しろ!!」

「なんなんですかこれ! その、なんか、いきなり『ぎゅってしたい!』って気持ちが……」

「魔力の回復が不十分で、『ぎゅってしないと好きになる魔法』の『好きになる』だけ消えて、『不定期にぎゅってしたくなる魔法』になってしまったんだ」

「『好きになる』のが消えるのはわかりますけど、いらないもの増えてるじゃないですか!!」

「うん」

「あっさりしてんじゃねぇよ!!」

 

 彩芽をそっと離し、まだ俺の腰に回されている腕をタップすると、彩芽も慌てて俺から離れていった。何可愛いことしてんだ、今の俺はそんなんじゃ好きにならねぇぞ!!

 しかしこいつ、どうしてくれようか。マジで引きちぎるのが生ぬるいことしてくれてんじゃねぇか。自分でかけた魔法が解けないって本当に魔法使いなのか? 本当に魔法使いなんだろうな! ぎゅってしたくなったのは事実だし!

 

「本当に悪気はないんだ。お詫びに、お前たち二人がいつでもぎゅってできるように同棲の準備とカメラの設置を進めよう」

「思いきり楽しもうとしてんじゃねぇか!」

「ちなみに、ぎゅってしたいときにぎゅってできなかったら、できなかった分長くぎゅってしないといけない。そして、その長さは互いの気持ちの強さに起因する。言ってしまえば、ぎゅってしたいっていう思いが強ければ強いほど、長くぎゅってしたくなるってことだな」

 

 彩芽と目を合わせる。そういやさっき、彩芽の方が長くぎゅってしてた、よな……?

 

 みるみる顔を赤くする彩芽にこのことは触れないようにしようと彩芽から目を逸らす。なんかそれに触れたら俺まで気まずくなるし恥ずかしいし、あれだよな? もうすぐ秋になって一肌恋しい季節になるし、大体いつもぎゅってしよって言ってくれたのは彩芽だし、癖になってたからとかそういうのだよな。そう思っておくから、そんな恥ずかしそうにしないでくれ。俺まで意識しちまうだろうが。

 

「本当にすまん。ただこれは気持ちを作り上げるような魔法じゃないから、これから先芽生える好意は本物だ。その点は安心してくれ」

「……マジで悪気ねぇんなら許すけど、ミスった割に随分詳細に魔法の内容言えるのはなんでだ?」

「俺の魔法『解析』により、かけられた魔法の内容の詳細まで把握できるんだ」

「急にバトルマンガみたいな魔法……」

 

 よく見れば父さんの目に魔法陣みたいな模様ついてるし。なんでそんなバトルマンガによくある魔法があるのに、俺たちにかけたバカみたいな魔法もあるんだよ。多種多様すぎだろ魔法。文明とともに多様性の時代に突入してんじゃねぇぞ。

 

「じゃあ父さんはこの後魔法学校の生徒に魔法を教えなきゃいけないから、あとは二人でごゆっくり」

「流れるように新しい情報提供してんじゃねぇよ」

「できれば次魔法を解くときまで顔見せないでください」

 

 父さんは手をひらひら振りながら足元に魔法陣を展開し、姿を消した。なんなんだよ本当に。っていうか魔力使ってんじゃねぇよ。俺たちにかけた魔法解くまで一切使うなよ。

 

 父さんがいなくなって、リビングに二人きり。母さんと姉ちゃんは「彩芽がくるから、ちょっと家空けてくんね?」と言って出て行ってもらったから、本当に二人きりだ。一応カメラがないかどうかチェックして一つもないことも確認できている。

 

 ……なんか、気まずい。今まではお互い好きになってるっていうことがわかってたからそれでからかったりできたけど、今はそれもない。

 

「……ね、修也」

「ん?」

 

 俺たちって普段何話してたっけ、と割と焦っていると彩芽から声をかけてくれた。彩芽を見れば、さっきまで真っ赤だった顔はちょっと頬が赤い程度に収まっている。

 

「学校でぎゅってしたくなっても我慢しようね」

「あぁ。絶対そうしよう」

 

 なんか俺も雪野さんに目ぇつけられてるみたいだし。人目に付かないところでなら何も言われないかもしれないけど、言われないようにするに越したことはない。

 それに、ぎゅってしなくてもその分長くぎゅってするだけ……するだけじゃねぇよ。今の俺は彩芽のこと嫌いじゃないし、可愛い幼馴染だって思ってる。そんな可愛い幼馴染と長時間ぎゅってするって、正気でいられる自信ねぇぞ。

 

「ね、修也」

「それ可愛いからやめてくんねぇか? 魔法関係なくぎゅってしたくなっちゃったらどうすんだよ」

「うわ、もしかして私のこと好きなのー? その時はよしよししてあげるから、いっぱいぎゅってしようねー?」

「言ったな?」

「え、あ、う……ごめんなさい、調子に乗りました」

 

 俺が好きになっていた時と同じ調子で攻めてきた彩芽に反撃すると、赤くなって縮こまる。ふん、好きにならなくなっても、攻められると弱いのは変わんねぇようだな。

 そして今わかったことがある。俺たちは恐らく好きになっていた時のクセが出てしまっている。可愛いって正面から言えたのもそうだし、彩芽が挑発してきたのもそう。もしかしたらそれがデフォルトになって、学校でもこれが出る可能性もある。どんなバカップルだそれ。

 

「でも、実はラッキーとか思ってない? また私とぎゅってできる! って」

「生憎だけど、苦労すんだろうなぁって気持ちのがデケェよ」

「私は、ちょっと嬉しいなって思ったけど」

 

 俺から目を逸らし、尻すぼみになりながら言った。言葉が出てこない。前までならぎゅってしてリセットしてたのに、今はぎゅってしたらリセットどころか加速する気がする。いや、加速ってなんだ? 俺別に彩芽のこと好きじゃねぇし。何も加速するものなんて……そう、恥ずかしさ、恥ずかしさが加速すんだよ!!

 

「な、なーんてね? どう? ドキドキした?」

「めちゃくちゃ顔真っ赤だぞ!」

「40度の熱が出てるだけ! ほっといて!」

「40度の熱出てるやつはもっとほっとけねぇよ」

「うっさい! 出てって!」

「ここ俺の家だぞ」

「じゃあ出てく!」

 

 勢いよく立ち上がって彩芽がリビングから出て行った。あれだな、彩芽が可愛すぎて焦ってたけど、俺より彩芽が焦ってるから逆に冷静になれる。むしろ今は和やかな気持ちだ。

 

 そんな和やかな俺の気持ちを乱してきたのは、見送るためにリビングを出た時、胸に飛び込んできた彩芽だった。いつものように俺の腰に手を回し、俺の胸に顔を埋めている。表情を見られないようにしているというのは、乱されに乱された俺にでもなんとか理解できた。

 

「魔法のせいだから」

「……」

「魔法のせいだから!」

「わかったわかった」

 

 俺がぎゅってしたいってなってないから完全に嘘だってわかってるけど、あまりにも彩芽が可愛すぎてそういうことにした。まぁ、いきなり魔法が解けた……正確に言えば変わったんだけど、そうなってもすぐには慣れねぇよな。

 

「……修也」

「ん?」

「ぎゅってして」

「え」

「魔法のせいだから、修也もぎゅってしたいでしょ」

 

 おい、なんだこいつ? なんで俺は今まで彩芽のことを嫌いだなんて言ってたんだ? 俺の前につれてこい、ぶっ飛ばしてやる。こんなに可愛いやつのことを嫌いになるなんて何考えてんだ昔の俺。もしタイムマシンがあるなら過去に戻って「彩芽は可愛いだろうが!!」って説教してやる。

 いや、やめておこう。そんなことを思ってたら父さんが思考を読み取ってきて、『時間を超えないと好きになる魔法』をかけられるかもしれない。『好きになる』いらねぇだろうが。

 

 彩芽の背中と腰に腕を回す。彩芽に俺の手が触れると少し肩を揺らして、抱き寄せる力を強めてきた。

 

「随分強力な魔法だな」

「……ほんとにね。強力だから、もうちょっと」

「さっきまで『私のこと好きなのー?』って言ってたのにな」

「うっさい」

「いてぇな」

 

 腰をつねってきた彩芽に少し笑って、俺も抱き寄せる力を少しだけ強めた。

 

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