【本編完結】ぎゅってしないと好きになる魔法   作:酉柄レイム

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第24話 魔法のせいで……

「えー、今日のLHRですが、修学旅行の班決めをします」

『うおおおおおおおお!!!!!!!』

 

 先生による宣言に、教室中が揺れた。

 

 修学旅行。学生の一大イベントであり、青春の代名詞。友だちとの一生の思い出や、彩芽との、じゃない、恋人との! 一生の思い出を作れるそれに、俺たち学生が沸かないわけもない。

 

「男女混合でもそうじゃなくてもいいけど5人1組。それさえ守れば好きに決めていいよ」

 

 男女混合。それを聞いた瞬間、男子に緊張が走った。男女混合でなくていいとはいえ、せっかくの修学旅行。きっとこれから「自由行動どこ回る?」とか「夜、そっちの部屋行くね……?」とか、女子と一緒になれば楽しすぎる会話ができる、と。

 しかし現代日本の男子はほとんどがシャイだと相場が決まっている。きゃっきゃと姦しく楽しそうにしている女子をちらちら見て、「お前いけよ」「いや、お前がいけよ」と言うのみで、先陣を切る勇者はいなさそうだった。

 

「さて、僕ら三人は決定として」

「あと二人誰にしよか」

 

 まぁこいつらの面倒を見ることが決定している俺に、まともに青春が送れるとは思えないから女子がどうとかはまったく関係ない。こいつらがいて一緒の班になってくれる子なんているわけねぇしな。

 

「あまりもんでいいだろ。罰ゲームみてぇなもんだし」

「修也、そう自分を卑下するものじゃない」

「修也はええやつやで」

「テメェらのことだよ」

 

 雪野さんの指導により「最近あの二人マシになった?」とよく聞かれる。この前も「義兄さんが勉強してるんです!!」と凪咲ちゃんがこの世の終わりみたいな表情で助けを求めにきたし。

 ただ、マシになったからといって元々あった評価が完全に覆るわけじゃない。修学旅行なんて大事なイベント、こいつらの問題行動で潰されたらたまったもんじゃねぇからな。

 

「それにしても不思議だよね。修学旅行なのに雅さんが一緒にこられないなんて」

「修学旅行だからに決まってんだろ」

「相変わらずバカな話してんね」

 

 拓斗の冗談か本気かよくわからない、恐らく本気の発言を打ち返していると、中条が女子の大群から抜けて俺たちの方へ歩いてきた。周りの男子の「あいつら、まさか……!?」と俺たちに注がれた視線は、「お? 何ガン飛ばしとんねん」と廻が睨み返すことで一蹴された。

 

「どうした中条。地獄に飛び込む趣味でもできたのか?」

「確かに赤谷と倉敷がいんのは地獄だけど、舞坂がいるっしょ」

「地獄っていい意味やっけ?」

「確かね。広義ではそう言われてるはずさ」

 

 バカは放っておいて中条が指した先を見れば、女子に囲まれている彩芽がいた。彩芽は人当たりがよくて可愛くて男子女子問わず人気がある。俺ら以外の男子ももっぱら彩芽狙いのように見える。よし、顔は覚えた。あとでぶっ飛ばしておくか。

 

「彩芽、誘わなくてもいいの?」

「え? なんで」

「なんでってあんた」

「中条。ここは僕たちに任せて」

「俺らはお互いの恋愛を応援するって決めたからな」

「おい、お前ら何を」

 

 廻に右腕、拓斗に左腕を抱えられ、持ち上げられる。まさかと思って暴れようとすれば、中条が俺の足をロックした。三人の無駄な連携により、死ぬほど情けない姿で彩芽のもとへ運ばれて、あまりの異常事態に彩芽の周りに集まっていた女子が蜘蛛の子を散らすように逃げ出していく。

 

 教室中の注目を集めているのは、十字架に磔されているような格好で持ち上げられている俺と、何が起こっているのか脳で処理しきれていない彩芽。

 

「彩芽。後生だから、同じ班になってくれ」

「修也!! おろしてあげて!!」

 

 俺が不甲斐なさに涙を流した瞬間彩芽が動き出し、廻と拓斗から俺を引きはがした。そのまま俺は彩芽に抱かれて「神にでも背いたの?」と心配される。心配のベクトルおかしくねぇか?

 

「ええことした後は気分ええなぁ」

「最初から素直に誘えばいいのに」

「はぁ、雪野さんに言っとくか」

 

 土下座する廻と拓斗は無視して雪野さんに連絡しておいた。地獄に落ちろ!!

 

 

 

 

 

「水着ぃ?」

「そ! 修学旅行沖縄に行くでしょ? だから新しい水着買おってかおりと話してて」

「せっかくなら班で一緒に行こって」

「お前ら正気か?」

「まぁ、班行動するなら慣れておいた方がいいし……」

 

 放課後。いつも集まっている空き教室は監獄と化しているため、彩芽と中条と修学旅行のことを話していた。

 水着と聞けば、プールのことを思い出す。あの時は好きすぎて正直どんな水着を着てたかなんて正確に思い出せない。そう考えれば、今回の沖縄はちゃんと彩芽の水着姿を見られるチャンス? いや、好きじゃないけどね? ほら、可愛い女の子の水着姿って男なら誰でも見たいもんだから。

 

「まぁ、あいつらと一緒に行動する予行演習は必要か」

「それに、自由行動はあんたら二人きりにするつもりだし。手綱の握り方教えてよ」

「かおり!?」

「遠慮しない。せっかくの修学旅行なんだから、二人で回りたいっしょ?」

「いや、せっかくの修学旅行なんだから、中条も彩芽と一緒に回りたいだろ」

 

 確かに高校二年生の修学旅行は人生に一度きり。意中の人と思い出を作りたいっていうのもわかる。でも、それと同じくらい、もしかしたらそれ以上に友だちとの思い出は大事だと思う。廻と拓斗との思い出なんて別にいらねぇけど、彩芽と中条はめちゃくちゃ仲がいいし、俺と彩芽のためにあいつらの手綱を握らせるくらいなら、俺があいつらの手綱を握って二人で楽しんでほしい。

 

「……舞坂、あいつらと一緒にいなきゃモテただろうに」

「ふふ。よかったねー修也。かおりが惚れちゃいそうだって!」

「あ、ごめん。全然タイプじゃない」

「全然はいらねぇだろうが」

 

 けらけら笑う中条に気づかれないよう彩芽を見る。前までなら「だ、だめ! 修也、赤谷くんと倉敷くんとずっと友だちでいてね!」って『モテたら困るから』っていう意味で言ってきただろうに、それがなかったってことはやっぱり魔法はちゃんと解けて……内容が変わっているようだ。なんだ、普通に会話できるって素晴らしいな。

 

「ま、そう言ってくれるなら舞坂にあいつらの手綱握らせんのも悪いし、みんなでまわろっか」

「うん。そうしよ!」

「おう」

「待って。なんであんたらぎゅってしてんの?」

 

 中条の言葉に首を傾げると、気づけば彩芽が座っている俺の上に座ってぎゅってしていた。あぁ……。甘い匂いするなぁって思ったらそういうことだったのか。ははは。

 

「え、えぇっと!! その、えっと」

「中条。実は俺女の子なんだ。だからこれは仲良しな女の子同士のスキンシップなんだよ」

「そう! 本名もシューバッハって言うんだよ!」

「お前それが女の子らしい名前だと思ってんのか?」

 

 これが、不定期にぎゅってしたくなる魔法の効力……! 俺たちも気づかないうちにぎゅってしてしまっていた。慌てまくった彩芽をフォローするように吐いた俺の言い訳はめちゃくちゃで、それに乗っかってきた彩芽もめちゃくちゃだった。あと早く降りてくれ。放課後だから人が少ないとはいえ、まだ教室に人残ってんだよ。めちゃくちゃ注目浴びてんだけど。

 仕方ないから彩芽の脇を抱え、「ひゃっ」という可愛らしい悲鳴は聞かなかったことにして膝の上から降ろす。不測すぎる事態に顔を真っ赤にした彩芽は中条の下へ逃亡し、意外とある胸に飛び込んだ。

 

「ま、いちゃいちゃすんのはいいけど場所を選びなよ」

「悪い中条。ただ俺は、彩芽とぎゅってしたくなっちまっただけなんだ……」

「私もなの! ごめんかおり!」

「なんの言い訳されてんの」

 

 彩芽を撫でながら困惑する中条に、心の中で改めて謝罪する。

 

多分、不定期にぎゅってしたくなる魔法は他人に言っても死ぬことはない。でも、言ったところで信じてもらえるとも思えないし、「あんたら、そんなバカみたいな理由つけて所かまわずいちゃつくつもり?」って呆れられること確実だ。そんなバカップルだと思われたくないし、第一まだ彩芽とは付き合ってない。

 ……冷静に考えたら、前の魔法よりひどくないか? 好きになるだけなら行動にはっきりとは出なかった。でも、この魔法はさっきみたいに気づいたらぎゅってするってことがありえるなら、余計言い訳できなくなる。

 

 それなら、ダメ元で中条に事情を説明すれば、俺たちが気づかないうちにぎゅってしてしまった時にフォローしてもらえるかもしれない。

 

「中条、魔法って信じるか?」

「は?」

 

 ダメだった。とんでもなく怖い顔で「は?」って言われた。そんなにキレなくてもよくないか? まだ現実ばっかり見るには早いだろ。魔法を信じたっていいだろ! 魔法はあるんだよ!

 

「あぁ、魔法にかけられたくらい好きで、気づかないうちにぎゅってしちゃったみたいな言い訳しようとしてた? バカじゃん」

 

 しかも看破された上に罵倒された。なんで中条はこうもものをはっきり言うんだ。美徳だけど心が痛い。よく見てみろ、お前の親友もダメージ受けてるぞ。めちゃくちゃ恥ずかしそうにぷるぷる震えてるぞ。

 図星を悟られないよう「んなわけねぇだろ。魔法でも使ったんじゃねぇかってくらい彩芽が可愛いからって言おうとしただけだ。今のは聞かなかったことにしてくれ」と完璧なフォローを入れて、彩芽が逃げ出した。何か俺は致命的な間違いをした気がするけど、心当たりはまったくない。一体何が起きたんだ……?

 

「あんたって意外とクソバカだよね」

「意外に思ったのにクソをつけることある?」

 

 俺の言葉を無視して「追いかけよっか」と言った中条の背中を追って、教室を後にする。

 

 翌日、俺と彩芽が付き合っているというのがクラスの共通認識になったのは言うまでもなかった。ははは、殺せ。

 

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