【本編完結】ぎゅってしないと好きになる魔法   作:酉柄レイム

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第26話 気まずい水族館

 修学旅行二日目。俺たちは今、超巨大な水族館にいた。五階建てでロビーは五階にあり、上から眺める水槽は、まるで海を見下ろしている気分になれる。

 

「神になったわ」

「なった気分とかじゃねぇのかよ」

「でも、気持ちはわかるよ。こうしてじっくり海を眺めることはないからね」

 

 厳密に言えば海ではないのだが、それを指摘する無粋なやつはこの場にいない。「これ海ちゃうで? アホやん」と言っているのはどうしようもないバカだからノーカンだ。

 水族館では班行動。学年全体で団体行動したら他の客の迷惑になるから当然と言えば当然。ではある。でも、今の俺からすれば団体行動の方が嬉しかった。

 

「……」

「……」

 

 なぜなら、彩芽とものすごく気まずいからだ!!!!!!

 

 昨日、仲直りした時に彩芽は『修也のこと好きかも』と伝えてくれた。その上、返事は魔法が綺麗に全部解けた後だと。あの時も可愛すぎてどうにかなるかと思ったけど、部屋に戻ってからも廻と拓斗のバカ二大巨頭に気持ち悪がられるくらいに俺は悶えていた。

 父さんが「これから先抱いた気持ちは本物だ」みたいなこと言ってたから、彩芽が言っていた『好き』は本当なんだと、思う。そして俺が彩芽に抱いている感情も多分本当で、でも、彩芽が魔法が解けてから返事をしてほしいって言った気持ちもわかってしまった。

 

 俺たちは元々嫌い合っていた。父さんの魔法のせいでというべきか、おかげでというべきか。急激に距離が縮まって、好きっていう感情を植え付けられて、今持っている感情はそれの延長線上にあるんじゃないかって考えてしまう。要は、魔法の効力が残ってるんじゃないか? って不安になる。

 

 まぁそうやってごちゃごちゃ考えても彩芽から好きって言ってもらえたことに変わりはないし、その返事を保留にされたせいでめちゃくちゃ気まずいのには変わりないんだけどな!!

 

「わ、わぁー。かおりが綺麗だね」

「あんたなんかあったっしょ」

 

 しかも彩芽すぐに看破されてるし。あいつの動揺がすぐ表れるクセどうにかしろよ。中条ただでさえ察しいいのにわかりやすいって、もう本音喋ってなくても本音喋ってるようなもんじゃねぇか。中条俺の方見てるし。絶対『昨日の夜何かがあった』ところまでは察しついてるだろアレ。

 

「こっから飛び込んだら怒られるんかなぁ」

「悩みどころだね」

「明らかに怒られるだろうが。絶対にやめろよ?」

 

 よかった、俺の友だちはバカで。こいつらに気づかれたら、「恋応援するって決めたからな」「僕たちに任せなよ」って言って的外れな応援をされるに決まってる。どこかから手錠を持ってきて俺と彩芽にはめて、「これでよし!」とかは平気でやりそうだ。そんで多分手錠の鍵はなくす。

 こいつらにはバレないようにしようと心の底から誓った瞬間だった。

 

「上から眺めてばっかりもなんだし、そろそろ下行かない?」

「反省!」

「別に彩芽は悪くないから、できれば賛成してほしいかな」

 

 彩芽の動きがぎくしゃくしている。同じ側の腕と足を同時に出して歩く姿は、カチコチと擬音が聞こえてきそうになるくらいだった。

 

「……まさか」

 

 そんな彩芽の姿を見て、拓斗がぽつりと呟く。まさか、気づきやがったのかこいつ! なんか俺を見てきてるし、それにつられて廻も彩芽と俺を見て「嘘やろ……」って言ってるし。こいつら絶対気づかないと思ってたのに、流石に彩芽がおかしすぎたか……?

 

「水族館ではアレが正しいマナーなんか?」

「修也も真咲さんを気にしているようだし、真似した方がいいかもね」

 

 同じ側の腕と足を同時に出すやつが二人増えた。もう否定するのもめんどくせぇから放置でいいや。

 

 

 

 

 

 二階。そこには海のトンネルと呼ばれる場所があり、そこは天井がアクリルパネルになっていて、下から魚を見ることができる。地上にいながら海の中にいるような感覚を味わえる、幻想的な空間。

 

「ジンベエザメや! ジンベエザメ! 俺とどっちが強いんやろ!」

「バトルフィールドは? 武器の使用は? ルールによってはわからないね」

「それ長くなりそうなら置いてくぞ」

 

 下からジンベエザメを見て普通とは違ったはしゃぎ方をする二人には俺の声が聞こえていなかったようで、仕方ねぇなとあいつらが満足するまでここにいることにした。

 それを伝えようと彩芽と中条のところへ向かう。中条が俺と彩芽に何かあったと気づいたからか、気を遣って少し距離をとってくれていた。いつまでもそれを甘えるわけにはいかないからと、気まずさを引きずらないように喋りに行った。んだけど。

 

「中条。あいつらジンベエザメに夢中だから、ある程度満足するまでここでいいか?」

「ん、オッケー。長くなりそうならぶん殴って連れてこっか」

「思い出は残しておいてやってくれ」

「そんなとんでもない暴力振るうつもりないけど……」

 

 彩芽じゃなくて、中条に話しかけてしまった。何やってんだ俺のカス! バカ! 人類最底辺で驚くほど矮小な存在! こんなことして彩芽が傷ついたらどうすんだ! 例えどれほど人類に貢献していても、女を泣かせるやつはクズだ!

 急いで彩芽に話しかけようと彩芽を見れば、めちゃくちゃ悲しそうな顔をしていた。そして俺の視線に気づくと、ふいっ、とそっぽを向かれる。

 

 ここでくじけたら、昨日の二の舞だ。

 

「彩芽。今のあいつら話聞きゃしねぇから、一緒に見て回ろうぜ」

「! うん!! 一緒に見よ!!」

 

 可愛すぎて膝から崩れ落ちかけて、咄嗟に中条が支えてくれた。そのまま背中をぽんぽん叩いて「よくやったよ」と労ってくれる。ありがとな、中条。彩芽の親友がお前でよかったよ。ごめんな。俺に唯一無二と言えるべきイケメンで頭がよくて運動神経がよくて性格のいい親友がいたら紹介したのに、俺の友だちがカスばっかりで。

 

「見て修也! マンタこっちきた!」

「うんうん」

「ナンヨウマンタ? って言うらしいよ! ここ来るときに調べたの!」

「うんうん」

「……その、修也。私、マンタじゃないん、だけど」

 

 はしゃいでいる彩芽が可愛すぎて、マンタじゃなくて彩芽をずっと見てしまっていた。すぐに謝って彩芽にマンタの位置を教えてもらうが、あまりにも彩芽を見すぎてうまく見つけられない。

 そんな俺に痺れを切らしたのか、彩芽が俺の腕をぐいっと引っ張って「ほら! あそこ!」と指を指す。ふふ。っざけんじゃねぇよ近いんだよテメェ。マンタ見てほしいなら適切な距離と適切な可愛さで俺に接してくれ。余裕無くなるだろうが!

 

「まぁ、仕方ないよ」

「わかってくれるか……」

「? なんの話?」

 

 俺の肩を叩いて頷く中条。地味にこいつもマンタじゃなくてずっと彩芽見てたし、実は今この場において俺の一番の理解者かもしれない。てかなんで中条もマンタじゃなくて彩芽見てたのに注意しなかったんだよ、って思ったらあぁそうか。そういうことか。もう考えないようにしよう。これ以上余裕がなくなったら保留にされた返事を口走っちまう。

 

「……なんか二人で分かり合ってるみたいでやだ」

「心配しなくても彼氏は取んないよ。別にいらないし」

「一言多いってよく言われないか?」

「えー! いらないのは絶対嘘!」

「一言多くて助かった。ありがとう」

「どういたしまして」

 

 中条の余計な一言のおかげで彩芽の可愛いセリフが聞けた。もしかして中条は彩芽の可愛いを引き出す天才なのか? 伊達に親友やってねぇってことか、恐れ入ったぜ。っていうか彩芽、俺に好きって言ったからか好意を隠さないようになってねぇか? いや、今テンション上がってるからか? できれば、テンションが上がってるから隠していないっていうなら、普段は好意を隠してくれそうだから俺の精神状態が安定する。

 

「修也! あっち! あっち行こ!」

「おう」

 

 だって、好意を隠さない彩芽がこんなにも可愛い。こんなの好きになるに決まってんだろバカが。

 ……なんとしてでも、早めに魔法解いてもらわねぇとな。彩芽、魔法解ける前に返事しても絶対納得しねぇだろうし。変なとこ頑固なんだよなぁ。

 

 前を歩いて「修也! かおり! 早く!」と俺たちを呼ぶ彩芽に笑いながら、中条と並んで海の中を進んでいく。「イチャイチャすんのはいいけど、彩芽は舞坂だけのものじゃないかんね」と言う中条に「当り前だろ」と笑っていると、「何仲良ししてんの! いいけど!」と言いながら、彩芽が走ってきてちっともよくなさそうに俺たちの間に入る。

 

「なに」

「いや、なんにもねぇよ」

「彩芽が可愛いなって思ってただけ」

「なんにもあるじゃん。うそつき」

 

 マジで軽率に可愛いのやめてくんねぇかな。俺を殺す気か?

 

 

 

 

 

 彩芽が「はしゃぎすぎた……」と頬を赤くしたのは、大体回り終わってお土産コーナーに入った時だった。

 

「なんかおっきい子どもおるって周りの人がクスクスしとるって思ったら」

「やめて赤谷くん……」

「俺のことやったらしいわ。まだまだ童顔で売っていけそうやな」

「童顔で売ってたつもりだったのか? 死ぬほど厚かましいなお前」

 

 おっきい子どもと聞いて自分のことを言われていると思ったのか、縮こまった彩芽はそれが勘違いだとわかってさらに縮こまった。バカの言うことを真面目に聞くから……。

 

「修也。ちょっといいかい?」

「どうした? 拓斗」

「凪咲ちゃんへのお土産を買おうと思うんだけど、何がいいかなって」

「VEINとかで聞きゃいいんじゃねぇの?」

「なるほど! 盲点だった!」

「本当に現代人か?」

 

 拓斗がスマホを取り出し、凪咲ちゃんと数回やり取りした後、急に涙ぐみ始めた。何があったんだと聞けば、「無事に帰ってきてくれればそれでいいです、だってさ……!」という拓斗に、多分それ何も問題を起こさずっていう枕詞つくぞ、とは流石の俺でも言わなかった。

 

「舞坂舞坂。あれ見てみ」

「ん? ……おいおい」

 

 男泣きしている拓斗は放置してお土産を見ていると、中条に声をかけられ、指した先を見れば彩芽がキーホルダーやストラップが置かれている棚を見ながらうんうん唸っていた。

 

「あれ、お揃いほしがってる可愛い女の子に見えない?」

「めちゃくちゃ見える」

「そんじゃどうすんの?」

「行くしかねぇだろうが」

「頑張って」

 

 ぽん、と背中を押され、そのまま彩芽のところへ行く。途中で「友情の証に修也の分もジンベエザメクッキー()うとくわ」と言ってきた廻に「普通友情の証で食ったら無くなるもん買わねぇだろ」と返し、彩芽の隣に立った。

 

「なんかほしいもんあったか?」

「わっ、修也。えーっと、その……」

「ん?」

「……絶対わかってるでしょ」

 

 少し頬を膨らませて俺を睨むあざとい彩芽に、少し笑って謝罪した。

 

「悪い。どれがいいんだ?」

「……あのね、修也が選んでくれたものがほしい」

「じゃあ俺のは彩芽が選んでくれ」

「! うん!」

 

 パッと見て、直感でこれいいなと思ったものに手を伸ばすと、彩芽と手が触れ合った。

 

「……」

「……」

「……お揃い、だね?」

 

 恥ずかしそうに笑う彩芽の可愛さに動揺してふらつくと、デフォルメされたマンタのキーホルダーが俺たちの手の中でからん、と音を立てて揺れた。

 

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