【本編完結】ぎゅってしないと好きになる魔法   作:酉柄レイム

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第27話 ミッション:先生の監視を搔い潜れ

「修也、このままで修学旅行終わってもええんか?」

 

 二日目、夜。生徒がちゃんと部屋にいるかどうか、先生の見回りの時間が終わってホテルの部屋でだらだらしていたら、廻が何か盛り上がり出した。俺のベッドの枕の上で胡坐と腕を組み、鋭い眼光で俺を睨みつけている。廻のことを知らない人が見たら裸足どころか全裸で逃げだす威圧感。拓斗も同じことを思ったのか、「命乞いの準備をしておいた方がよさそうだね」と耳打ちしてきた。リアルで命乞いする機会なんてそうそうねぇよ。

 

「このままでって、別に後悔残るようなもんなんてねぇぞ」

「アホか!! 修学旅行と言えば、男女がどっちかの部屋にこっそり行って楽しい時間を過ごすためだけのイベントやろうが!!」

「『学』を『修める』って書いて修学って読むんだぞ」

 

 こいつは修学旅行をなんだと思ってんだ。まぁ、俺も行く前はそういうこと思ってたけど、学校側も面倒ごとは避けたいのか男子は東棟で女子は西棟。そもそも棟が違うし、棟を行き来するにはロビーを通らないといけない。そこに先生たちが交代で見張りを立てるという徹底ぶりだ。女子の部屋へ行くなんて不可能だろ。

 

 しかし、こんなことを言い出したこいつらにそんなことを言い出しても無駄だってわかってる。気づけば拓斗も俺のベッドの上で胡坐と腕を組んで俺を睨み、「一理あるね」と頷いていた。そういやテメェら俺のベッド乗ってんじゃねぇよ。

 

「いいかい修也。君は真咲さんのことが好きだ。これは間違いないな?」

「……まぁ」

「ほなできることなら真咲さんに会いに行きたいやろ。ちゃうか?」

「会いに行けるならな。でもお前らも知ってるだろ? ロビーには先生がいて、女子の部屋に行くにはロビーを通らなきゃいけない。普通に考えて無理だろ」

「それもそうやな」

「無理だね。寝ようか」

 

 廻と拓斗は俺のベッドから降りて自分のベッドに潜り込み、「おやすみー」と声を合わせて就寝準備。

 

「待てコラ!!!」

「なんやねん。発情期か?」

「だとしても今ここで発散はしねぇだろうが。いや、今の流れは『俺たちがどうにかしたるからお前は真咲さんとこ行ってこい!』って流れじゃねぇのかよ!」

「無理だって言ったのは君だろ?」

「それで引っ込むようなやつらだったのかよ! 見損なったぜ!」

「その言葉が聞きたかったんや」

 

 廻と拓斗が同時に立ち上がって、俺のベッドに移動する。だから俺のベッド乗るんじゃねぇよ。

 

「そのセリフが出てくるってことは、本心から真咲さんと会いたいって思ってるってことや」

「それなら僕たちはいくらでも協力するさ。行こう修也。真咲さんが君を待っている」

「お前ら……!」

 

 三人で抱き合って、部屋を出た。すべては彩芽に会うために。

 

 

 

 

 

 エレベーターホール。そこからロビーの様子を見ることができる。バレないようにゆっくり覗き込めば、ちょうど東棟と西棟のエレベーターホールから出てくる人を確認できるような位置に先生がいた。

 

「担任の蒲澤先生や」

「くっ、僕らの顔を知ってる人か……」

「お前らの顔は学校中の先生が知ってると思うぞ」

 

 あと俺の顔も。問題児すぎるこいつらと、こいつらの手綱を握っている俺。どんな先生が見張りにいようと、素通りは確実にできない。

 ただ、自分のクラスで問題を起こしたくないっていう意味では、担任が見張りにいるのは運が悪い。あの人そこそこ適当なのに、こういう自分の評価に直結しそうなことに関してはちゃんとするからな。

 

「二人は待っといてくれ。俺の作戦で行く」

「廻に作戦だって?」

「正気か?」

「雪野さんに学んだんは、常識だけちゃうんやで? 頭脳プレー見せたるわ」

 

 指で自分の頭をこつこつと二回叩いて、廻は堂々とロビーに出た。当然蒲澤先生に捕捉されて、「犯罪行為はやめておけ」と何を言ったわけでもないのに説得され始める。わかってたけど信用ねぇな。

 

『先生』

『なんだ』

 

 エレベーターホールから廻のところまでは少し距離は離れているが、声は聞こえる。雪野さんの教育を疑ってるわけじゃないけど、それ以上に廻の異常性を信用している俺は、嫌な予感がして仕方がなかった。

 

『ここで『きゃー! 襲われるー!』って叫んでもええねんで?』

『脅迫から入らずにまず用件を言え』

 

 俺は頭を抱えた。やっぱり、あいつが『作戦』なんてわけのわからないことを言った瞬間に止めるべきだった……! 頭脳プレーなんてできるわけがない。あいつの取柄なんて面白いこととパワーくらいしかないんだから、なんでそれを使わなかったんだ! あとどう見ても廻が襲う側だから脅迫にもなってない!

 

『ここで『きゃー! 襲われるー!』って叫んでもええねんで?』

「まずい! あいつのプランあれだけしかねぇぞ!」

「なんであれで自信満々だったんだ……!」

 

 なんならまだ自信満々な顔してるし。あいつの思考回路はどうなってんだ? あれでいけるって思った理由がわからない。クソ、あいつに先陣を切らせたのが間違いだった。あんなことをされたら先生の警戒心が強まって……。

 

「いや、拓斗!」

「わかった。次は僕が行く」

「傷口を開くような真似はするな。そうじゃなくて見てみろ」

 

 廻は、先生の背後から話しかけている。つまり今、先生の視線はエレベーターホールに向いていない。

 自分の危険度を逆手に取った作戦! あいつ、俺が知らない間にどんどん成長してやがる……!

 

「そういうことか、廻!」

「行くぞ拓斗。あいつの作戦を無駄にするな!」

 

 廻が先生の気を引いている間に西棟のエレベーターホールへ移動する。ちらりと廻を見れば、更に先生の気を引くために浴衣を脱ごうとしていて、必死に先生がそれを止めていた。あいつ、俺のために自分の体を売るような真似を……! 売れるようなもんじゃねぇけど。

 エレベーターのボタンを押して、到着を待つ。やってることの重さは全然違うけど、スパイにでもなった気分だ。

 

「ところで修也。真咲さんの部屋はどこか知ってるのかい?」

「あぁ。彩芽がわざとらしく『私、507なんだよねー』って俺に聞こえるように言ってたからな」

「いや、僕は真咲さんの部屋がどこか知ってるのかって聞いたんだ」

「だから今答えただろうが」

 

 他の何に聞こえたんだよ。

 

 到着したエレベーターに乗り込んで、5階を押す。一度縦に揺れてからエレベーターが動き出し、上部のパネルに表示されている数字が1から2、2から3へとゆっくり変わっていくにつれて、緊張感が増してきた。

 ていうか俺、彩芽に今から部屋行くって連絡してなくね?

 

「拓斗。俺、彩芽に部屋行くって連絡してねぇ」

「何!? スマホは!」

「忘れた!」

「何をやってるんだ! この掃除していない三角コーナーにこびりついたカビが!!」

「そこまで言われるようなことか!?」

 

 拓斗に胸倉を掴まれて激怒される。確かにこんなに協力してもらっておいて悪いとは思ってるけど! でも仕方ねぇだろ! 彩芽のところに行くってなったら緊張しちまって、正常な判断できなくなってんだよ! よく考えたら「それで引っ込むようなやつらだったのかよ! 見損なったぜ!」ってセリフいつもの俺なら絶対言わねぇし!

 

「まぁ、ここで怒っていても仕方がない。いいかい修也。この先、もしフロアを見回りしている先生がいたら僕がなんとかする。その隙に修也はなんとかして真咲さんに部屋へ入れてもらうんだ」

「悪い……火葬がいいか?」

「できれば生存を祈ってくれ」

 

 到着を告げる音が鳴って、ドアが開く。ひとまずホールに先生はいない。胸を撫でおろして、俺が右側を、拓斗は左側を、そっと覗き込むようにして確認する。

 

「問題なし」

「問題あり」

 

 え? と拓斗を見れば、思いきり保健の先生がいた。俺たちの冒険はここで終わった。

 

「……クソッ、万事休すか! 西棟までくれば修也も追ってこないと思ったのに!」

 

 拓斗の言葉に目を見開く。俺が驚いている間にも拓斗は動いていて、先生の隣をすり抜けて走り出した。

 

「ハッハッハ! まだ見ぬお姉さんが僕を待っている!」

「あっ、ちょっ待ちなさい! 犯罪行為はやめなさい!」

 

 あいつ、まさか、そういうことか? 自分の危険度を逆手に取って、危ない行動を取ろうとしている拓斗を俺が追いかけているように見せるために?

 

「舞坂くん! あとのことは私に任せて! 何かあっても責任は私がとるから!」

「あっ、はい」

 

 俺を気遣うセリフの後で、先生は拓斗を追いかけて行った。あいつらの頭がイカレてて助かることなんて絶対にないと思ってたのに……俺は、いい友人を持った。そして多分失った。廻はまだしも拓斗はだめだ。きっと反省文は免れない。

 

 拓斗の犠牲を無駄にしないために、俺は507へと向かった。そういや部屋誰と一緒とか聞いてねぇけど、あんだけわざとらしく部屋番号を言ってきたってことは、中条と二人部屋の可能性が高い。っていうかもう誰と一緒でもいい。俺は彩芽に会いたい!

 

 彩芽への想いを胸に、廊下を走り出す。そして俺は、目の前でいきなりドアが開いて、そこから伸びてきた腕に掴まれて部屋へ引きずり込まれた。

 

「は?」

 

 気づけば、誰かの腕の中。柔らかな感触は、相手が女性であることを意識させる。

 

「ふぅ。間一髪だったわね」

 

 聞きなれた声に視線を上へ向ければ、やりきった表情をした結菜がいた。

 

「ま、まったく。私に会いたいからって無茶しちゃって。ま、まぁ? 嬉しくないことは、ないけど」

「マジでいい加減にしろよ?」

「えっ」

「いや、『急に抱かれたら女を意識しちまうから、いとことはいえ自分が女だってこと自覚しろよ』って意味じゃねぇからな」

「なんだ。それならそう言いなさいよ」

「だからそう言わなきゃいけねぇ理由を教えてくれよ」

 

 こいつ、もしかして外の騒ぎを聞いて、俺が無理して結菜に会いに来たって勘違いしたのか? どんだけ妄想たくましいんだよ。マジでちゃんと学校生活送れてんのか? 友だちいたから多分大丈夫だろうけど、その友だちに苦労かけていないか心配になる。

 

「あれ、そういや結菜一人だけか?」

「彼氏のところ行くって言って出て行っちゃった。だから私一人。どうせ朝まで帰ってこないから、バレる心配しなくていいわよ」

 

 結菜の友だちは随分アグレッシブらしい。やっぱり、高校生は考えることが同じなんだな。

 ……てか、今結菜一人か。うん、なんかあれだな。いくらいとことはいっても流石に気まずい。普段なら意識してねぇだろうけど、初恋だなんだって聞いたから余計に気まずい。

 

「結菜。部屋に引きずり込んだとこワリィけど、俺彩芽に会いに来たんだよ」

「……なんだ、そうなの。悪かったわね、勘違いしちゃって」

 

 俺を解放した結菜は、口先を尖らせて、眉尻を下げ、もう顔に『寂しい』って書いてるのと同じくらい寂しそうな表情でそっぽを向いた。

 なんだこいつ、可愛いな。よく考えたらせっかくの修学旅行なのに、友だちが部屋からいなくなって一人ってめちゃくちゃ寂しいよなぁ。こいつ、友だちが彼氏に会いに行くって言ったら絶対笑顔で送り出すタイプだし、寂しいとか言えなかったんだろうし。

 

「……結菜。スマホ貸してくれるか?」

「えっ」

「いや、二人で写真撮って『これで寂しくねぇだろ?』って言うわけじゃねぇからな?」

「べ、別に寂しくないわよ! 勝手に使えば! この変態!」

「結菜のが素質あるだろ」

 

 ばしばし叩いてくる結菜の腕を掴んで抑え込み、「えっ……」と『私を拘束してそれを写真に収めて脅すつもり……?』と勘違いしている結菜を無視しして彩芽に電話を掛ける。少しも待つことなく電話に出た彩芽は、『はーい!』と可愛い声で俺を殺しにきた。

 

「彩芽、俺だ」

「えっ……」

「結菜。別に『今から君の前で結菜を襲っちゃいまーす』って言うために連絡したわけじゃねぇからな?」

『あの、修也? どういう状況?』

 

 寂しいっていう図星をつかれてパニックになっているのか、勘違いのスパイラルに入っている結菜を撫でて落ち着かせながら、困惑している彩芽へ状況を説明する。

 

「結菜の同室の友だちが彼氏んとこ行っちまったらしくてさ。結菜が寂しがってるからきてやってくんね?」

『え、行くー! 部屋どこ?』

「512だな」

『同じ階だ! ……ところで、なんで修也は結菜と一緒にいるの?』

「彩芽に会いに来たら、勘違いした結菜に引きずり込まれた」

『……ふーん。へへ、待っててね! すぐ行くから!』

 

 電話が切れて、スマホを結菜に返す。結菜はスマホをじっと見てから俺をじとっと睨んできて、思わず「なんだよ」と返せば。

 

「あんた、あんなに可愛い彼女がいるのに私と浮気しようとすんじゃないわよ」

「妹と浮気するバカがどこにいんだよ」

「お姉ちゃんでしょ!」

「は? 明らかに俺のが面倒見てんだろうが」

「ハァー。まったく、修也はいつまで経ってもガキなんだから」

 

 開戦。俺は結菜が妹だと、結菜は俺が弟だと認めさせるために始まった口喧嘩は、彩芽と中条の到着で終わりを告げた。ちなみに終わったきっかけは、中条の「そんなことにこだわるって、どっちもガキっぽいね」という心無い一言だった。ぐぅ。

 

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