「来月は文化祭があります」
『ウオオオオオオオオオ!!!!!!』
修学旅行、終了。
文化祭準備期間、開幕。
修学旅行を終えて、二日の休日を挟んだ登校日。教室に入った瞬間、俺を見つけて手を振ってくれた彩芽に早速殺されて、あまりの可愛さに意識を飛ばしていた俺は、テンションがぶちあがったクラスメイトの叫びによって意識を取り戻した。
文化祭。修学旅行のように高校生で一度だけとはいかないまでも、それでも高校生にとって重要なイベントの一つ。クラス一丸となって文化祭に取り組み、放課後に残って文化祭の準備をするっていうのは、なんかこう、日常とは違った特別感がある。
「2年は模擬店だから、今日はその内容を決めてもらう。舞坂、まとめろ」
「なんで俺が?」
「赤谷と倉敷が積極的に意見しそうだから」
見れば、廻と拓斗が張り切って挙手していた。あぁ、あいつらと真っ向からやり合えるのが俺しかいねぇからってことか。じゃあ先生がやってくれません? めんどくさい? そう。
先生に代わって教壇に立ち、クラスを見渡した。普通こういうのってクラス委員とかがやるもんじゃねぇのかなって思ったけど、廻と拓斗の処理はクラス委員には荷が重い。俺はその重荷を背負うためにここへ通っているって言っても過言じゃないからな。
過言だわクソが。
「さて、模擬店やるっつっても、まずジャンルから絞らないと話にならねぇ。べたなので行くと食いもんとか、あとはお化け屋敷とか迷路とかアトラクション的なやつか。他何か思い浮かぶ人いる?」
「はい!」
「どうせろくなこと言わねぇだろうけど、廻」
「へへ、手ぇ挙げてみただけ!」
「呼んでみただけの派生か? ぶっ飛ばすぞ」
クソムカつく。あとよかった俺がまとめ役で。これを俺以外の誰かにやってたらと思ったら恐怖でしかない。あの強面にあんな気色悪いことをされたら、もう学校にきたくなくなってもおかしくない。
「はい!」
「お姉さん関連以外なら発言していいぞ」
拓斗がゆっくりと手を下ろした。どうせそんなことだろうと思ったよ。
ジャンルを絞るので時間を使っても仕方がない。チョークを持って黒板に『食品系』『アトラクション系』と書いて、『ぎゅって』と書いて急いで消す。危ねぇ。魔法の効果が発動して彩芽とぎゅってしたくなったから、思わず発散のために黒板に書きそうになっちまってた。幸いにも、俺の右手は本能に従って書いていた『ぎゅって』という字は、俺の左手が理性に従ってほぼ書くと同時に消したから、クラスのやつらにはバレていないようだ。
でも、このままじゃマズい。ぎゅってしたい気持ちを放置すると、何かしら理由をつけて彩芽をこっちに呼んで、みんなの前でぎゅってしてしまう可能性がある! であれば、短期決戦! 話し合いをすぐに終わらせて、彩芽とぎゅってするしかない。
「まず多数決とるか。食品系の方が楽そうだから、食品系に決定」
「多数決は!?」
「お化け屋敷とかやってみたーい!」
すぐに終わらせようとするがあまり独断で食品系に決定しようとすると、一部クラスメイトから異議を申し立てられた。チッ、こっちは早く彩芽とぎゅってしたいってのに……!
「男ども! 俺に続け! 食品系にすれば、制服だっていう理由で女子に可愛いカッコさせられるぞ!」
「お前はこの国を背負って立つ男だ!!」
「舞坂に従え!!」
「見失ったぜ舞坂!!」
見直せよ。俺はここにいんだろうが。
廻と拓斗の影響か、思春期なら「可愛い制服? いや、別にいいよ」ってすかすような場面でも、俺たちのクラスならそれが合法だとわかればノリよく飛びついていく。ただ、それだと女子がついてこない。文化祭はみんなで楽しむものだ。男子を納得させた後は、女子を納得させる。
「こうやって俺たち男子が大盛り上がりする理由がわかるか? 俺たちのクラスの女子が可愛い服きたら、ただでさえ可愛いのに無敵になっちまうって思ってるってからだ。可愛い服着るの別に嫌いじゃねぇだろ? 文化祭っていう特別な日に着飾ってより可愛くなってみたくないか?」
「まぁ、そこまで言うなら」
「いいじゃん! いろんなお店の制服とか見てみようよ!」
教壇の下でガッツポーズ。今なら中身のないスカスカなセリフも、ノリと勢いと熱気で密度を増す。こういう時によく回る口でよかったぜ。唯一ダメなところと言えば、俺がクラスの女子全員に対して『可愛い』って言ったから彩芽がちょっと不機嫌になってることくらいだ。めちゃくちゃダメじゃねぇか。早くぎゅってしないと……!
「んじゃ食品系に決定! んで、可愛い制服着るならがっつり系はミスマッチ。焼きそばとかたこ焼きとかはナシだな」
「せっかく制服用意するんだし、カフェとかは?」
「ありだな。あとで掃除がめんどくさいから、極力うちで出るゴミは教室の中だけにしたいし、色んな人の食の好みに合わせられる。採用!」
他に決めなきゃいけないことはまだまだある。メニューと制服と、あとは提供する食品や飲み物をどうやって調達するか。どういうものなら商品として提供していいのか。俺たち学生には責任能力がないから、俺たちが出すもので何かがあったら責任は学校へ行く。その可能性を少しでも減らすためには、衛生的に問題のないものを選ばないといけない。
「舞坂!! 制服は俺たち男子で要望募り合うってのはどうだ!!」
「バカ野郎が! まず前提として、女の子は着たい服着んのが一番だ! 制服は女子で話し合ってもらってある程度統一、あとは個人でアレンジを加える! その女の子の細かなオシャレに気付いて、見た目ももちろん努力もまるごと可愛いねって言うのが男だろうが!! 舐めた口利いてんじゃねぇ!! ってわけで、悪いけど制服どんなのにするかは女子で話し合ってくんねぇか?」
手を合わせて頼めば、オッケーの大合唱。廻と拓斗は「流石親友」と頷いている。ちょっと女子全体に媚び売りすぎて彩芽を見るのが怖くなってきた。今のうちに謝罪の言葉を考えておいた方がいいかもしれない。
「で、こっからが宿題。みんな、家族にカフェで頼むメニューを聞いてきてくれ! 文化祭は一般の人も入場する。せっかくなら色んな人に楽しんでもらいたい。その中から採用できそうなメニューを俺と先生で考える。先生、衛生管理的なところは流石に生徒だけで考えるわけにもいかないんで、協力してもらえますか?」
「いいよ」
「あざす! ってわけだ。まずは制服とメニューの調査、この二つを今週までに! 制服は別に決定するわけじゃねぇから、あくまでイメージがわかればいい。それがわかれば店内レイアウト、雰囲気に合わせたメニュー作りができる!」
他に決めることはないか!? 懸念事項が後で出てきたらめんどくさい! いや、懸念事項が出てきてもよくすればいいんだ。俺がここまで進めたなら、俺が責任を持てばいい!
「今この時から、文化祭実行委員はこの舞坂修也だ! こうしたいああしたいって要望は俺に相談してくれ!」
「舞坂ー」
「なんだ中条!」
「実行委員って一人で平気?」
にやにやしながら俺を見る中条に、すべてを察した。あいつ、彩芽と一緒に実行委員をやれって言ってるのか? 俺と彩芽の時間を増やしてくれようとしてんのか? なんていいやつなんだ!
彩芽も察して、俺と彩芽が付き合ってると勘違いしているクラスメイトも理解したのか、男子は俺に嫉妬の視線を、女子は彩芽に小声で応援を送っている。
「……そうだな。よし、じゃあ彩芽。俺とぎゅってしてくれ」
「うん! ぎゅってしよ! え!!!??」
最後の最後で間違えた、チクショウ!! もうすぐ終われると思って安心したらぎゅってしたい気持ちが顔どころか全身出してきやがった! 彩芽も俺につられてぎゅってしよって言った後、とんでもないことを言った自覚でめちゃくちゃびっくりしてるし。可愛い!
数秒遅れて、黄色い声。男どもの叫び声。彩芽は顔を真っ赤にして俯いて、中条は爆笑していた。彩芽、ほんとにごめん。でも俺頑張ったんだよ。あんまり責めねぇでくれ。
「……実行委員!!!! 私もやるから!!!!」
「はいっ!! よろしくお願いします!!」
「よし、お疲れ。戻っていいぞ」
めちゃくちゃ気まずい思いをしている俺に、先生が助け船を出してくれた。よかった。これ以上教壇に立ってたらクラス全員に煽られて教壇でぎゅってさせられるところだった。廻と拓斗が『ぎゅってして!』って書いてあるうちわ準備してたから嫌な予感してたんだよな。なんで学校にうちわ持ってきてんだよ。秋の持ち物じゃねぇだろ。
自分の席に座って、さっきの問題発言のせいでめちゃくちゃ視線を浴びる。彩芽に悪いことしたな、と彩芽を見れば、彩芽も俺を見ていた。
そして、口をゆっくりと動かす。口パクだ。ちょっと怒りながら4回口を動かすと、俺から視線を外して前を向く。
……見間違いじゃなきゃ、「あとでね」って言ってたか? 今。いや、見間違いじゃない。だって、自分も注目浴びてるってのに口パクしたもんだから当然周りにバレてて、「あとでねって、あとでぎゅってしてもらうのかな」「いいなー! 仲良さそうで羨ましい!」って女子がきゃっきゃしてるし。
……好きな子からの口パク、破壊力やべぇな。死んだわ。