【本編完結】ぎゅってしないと好きになる魔法   作:酉柄レイム

3 / 66
第3話 仲良くなろう case:友だちの義妹

 放課後。拓斗から義妹ちゃん……凪咲(なぎさ)ちゃんの写真を入手し、彩芽と一緒に三階へ向かう。三階から降りてくる一年生に不思議そうな目を向けられるが、彩芽が「さようなら!」と笑顔で挨拶すれば、一発で警戒は解けた。流石彩芽だぜ。

 

「さて、1-A行くか」

「うん。……あと、教室でのことごめんね」

 

 しゅんとして謝る彩芽。教室のこと……あぁ、あれか。別に、何かに感づいた廻と拓斗が俺を殺害しようとしてきただけで、直接的な被害はそれ以外なかったから気にしてないのに。二人の殺気の流れ弾がクラスメイトに当たってしまったから、それはちょっと迷惑かけたなぁって思ったけど。

 

「いいって。ぎゅってしてるところ見られたわけじゃねぇし」

「……ん」

「なんだお前。可愛いぞ」

「軽率に好きになるな!」

 

 とん、と胸を押されて怒られてしまった。仕方ねぇだろ、そういう魔法にかかってんだから。クソ、前までの俺なら「は? 何しおらしくしてんだお前、気持ちワリィ」くらい口から飛び出してたのに。昨日ぎゅってしてから約一日経っているからか、結構好きになってしまっている。

 ……今は考えないようにしよう。帰りにぎゅってしてリセットすればいいしな。凪咲ちゃんから好きなもの聞き出して、さっさとぎゅってしよう。

 

「1-Aだっけ?」

「おう。放課後時間とらせんのもなんだし、ちゃちゃっと済ませようぜ」

「だね。失礼しまーす」

 

 彩芽と一緒に1-Aの教室に入る。凪咲ちゃんを探そうと見渡せば、いた。教室の後ろの方の席で、友だちと談笑している。ふわふわした髪の毛先は内巻きに、大きくくりくりした目に小さい鼻。座っているからわかりにくいけど、背も低め。なるほど、廻を連れてこなくて正解だった。並んだら確実に事案だ。

 

 後輩男子が彩芽を見て、「俺か……?」「いや、あのかわいい先輩は俺に用があるはずだ」と期待しているのに申し訳なく思いつつ、彩芽と一緒に凪咲ちゃんのところへ向かえば、俺たちの接近に気が付いた凪咲ちゃんがきょろきょろした後、首を傾げた。

 

「倉敷凪咲ちゃん?」

「え、あっ、はい」

「ちょっと時間いい? ついてきて!」

「え? は、はい」

 

 ぐっとパーソナルスペースを侵害し、彩芽が凪咲ちゃんの手を取って教室を出ていく。凪咲ちゃんと話していた友だちに「ごめんね?」と手を合わせてから、俺も二人の後を追った。

 三階は一年生に見られて凪咲ちゃんが可哀そうだからと、俺たちが勝手に管理している空き教室に入る。鍵は毎朝先生から俺たちの誰かに渡されるから、ここを使うのは俺たちだけだ。なんで俺たちに渡されるかって言うと、「ある程度自由を約束しないととんでもないことになりそうだから」らしい。見上げた教育方針だぜ。

 

 目を丸くしている凪咲ちゃんを座らせて、その向かい側に俺と彩芽が座る。なぜこんなことになっているのかまったくわかっていないであろう凪咲ちゃんは、落ち着かない様子で目線をあっちへこっちへと投げている。

 

「急にごめんね? 私は2-Aの真咲彩芽。こっちは私の舞坂修也」

「私の……?」

「同じクラスの舞坂修也だ。よろしく」

「よ、よろしくお願いします……?」

 

 迂闊に好きと独占欲が漏れ出た彩芽に目線で「何やってんだ」と言うと、縮こまってしまった。こいつ、最近重症なんだよな……。このままじゃいつボロを出すかわからない。いや、今ボロ出てたけど、これを自分のクラスでやられたら一瞬で終わりだ。俺の命が。

 自分のクラスではないとはいえ、凪咲ちゃんは拓斗の義妹。彩芽から出たボロが拓斗に伝えられたらマズいから、ここは俺が話すべきだろう。元はと言えば彩芽は手伝ってくれているだけだから、それが筋なはずだ。

 

「凪咲ちゃん、でいいんだよな? 好きなものって何?」

「な、なんでそんなこと聞くんですか……?」

「君と仲良くなりたいんだ」

「修也?」

 

 間違えた。年下の女の子がびくびくしてるからあまりにも庇護欲が沸いて、俺自身が仲良くしたいっていう願望が表に出てしまった。俺には彩芽がいる……いや、いない。いや、彩芽はいるけどそういうことじゃなくて。

 

 ぐちゃぐちゃになりかけた思考を頬の内側を噛んでリセット。変なことを言ったからか彩芽の視線が痛い。

 

「……え、えっと、好きなもの、ですよね? ……ちょっと恥ずかしいけど、お母さん、です」

「何が恥ずかしいんだ? 家族のことが好きって何もおかしなことじゃないだろ。ところで彩芽、お母さんってどうやってプレゼントすればいいんだ?」

「無理」

 

 こまった。計画が終わってしまった。まさか好きなものがお母さんなんて……。いや待て、『お母さん』は何も、『自分のお母さん』じゃない可能性がある。『お母さん』という概念自体が好きなら、まだアプローチできるんじゃないか?

 とりあえず拓斗に「凪咲ちゃんはお母さんが好きらしい」とメッセージアプリ『VEIN』で送ると、「僕に任せろ」と力強い返信がきた。よし。

 

「プレゼント?」

「ん? ……隠してても仕方ねぇか。実はさ、拓斗から凪咲ちゃんと仲良くしたいって相談されて」

「あぁ、義兄さんの」

 

 すん、っと目から光が失われた。さっきまであんなに可愛い目をしていたのに、今は見ただけで凍り付かせてしまいそうな冷たい目をしている。一体拓斗は凪咲ちゃんに何をしたんだ? あぁ、そうか。凪咲ちゃんのお母さんに求婚したのか。それも、凪咲ちゃんが好きな『お母さん』に。

 詰んでね?

 

「……プレゼントでご機嫌とろうってことですか?」

「ちっ、違うよ! その、ね? あのー、修也!」

「ご機嫌取ろうって言うのはまぁそうだろうけど、誠意だよ。拓斗が死ぬほど失礼でとんでもなくバカなことをしたのは事実だから、まず謝罪が必要だろって」

「私はあんな人と仲良くしたくないです」

「別に仲良くはしなくてもいい」

 

 え? と目に光を少し戻してきょとんとする凪咲ちゃん。フォローしようとして慌てていた彩芽も一緒にきょとんとして俺を見る。いや、だってそりゃあな。あんなのがいきなり兄になって、はい仲良くしてくださいって言われても大体の人が無理だって言うだろうし。

 

「家族だから……正確に言えば家族になったからって仲良くしなきゃいけないってわけじゃねぇし。でも、お母さん好きなんだろ? だったら、少しでも再婚は間違いじゃなかったって思ってもらいたくないか?」

「……それは、そうですけど」

「拓斗は仲良くしたいみたいだけど、無理に仲良くする必要ねぇよ。ただ、お母さんを安心させてやってほしい。凪咲ちゃんが好きだって言うくらいだ。お母さん、いい人なんだろ? きっと、凪咲ちゃんが拓斗を邪険に扱い続けてたら、悲しむんじゃねぇかな」

「……努力します」

「よし、ありがとな」

「こちらこそ、ありがとうございます。他人の家庭事情なのに」

「拓斗は友だちだからな。友だちが悩んでたら助けるのは当然だろ」

 

 一般的に言えば友だちにならない方がいいやつだとはいえ、拓斗はいいやつだ。ちょっとどころかかなり年上好きで、年上を見たら求婚するクセがあって、そのせいでモテなくて俺とか廻にちょっと女の子とのいい噂が立ったら殺しに来るってだけで、そこに目を瞑れば急にできた義妹と仲良くしたいって頭を悩ませて、それをちゃんと相談できる立派なやつなんだ。

 ……ウィークポイントがウィークすぎるな。むしろストロングなのか? ウィークポイントには間違いないから、ストロングウィークポイント? どっちでもいいや。

 

「……びっくりした。修也って、ちゃんとできるんだね」

「俺を幼児だと思ってんのか?」

「んーん。見直した」

 

 俺に微笑みを向ける彩芽にうっかり「は? 好き」と言いかけたが、凪咲ちゃんがいるからと頬の内側を噛んで耐える。そろそろ俺の頬の内側が剥がれ落ちて、一人食物連鎖をする羽目になるかもしれない。何が嬉しくて自分の頬を食わなきゃなんねぇんだ。

 

「あの、お二人ってどういう関係なんですか?」

「ただの幼馴染! そう、ただのね!」

「そ、そうですか」

 

 ……こいつ、誤魔化し方下手すぎねぇか? 普段彩芽が誰と何を話してるか知らないから、彩芽が俺とのことを聞かれた時にどういう反応するかも知らなかったけど、こんななのか。もしかして中条何かしら勘づいてんじゃねぇか? ……今度それとなく聞いてみる、いや、やめておこう。俺までボロを出して確信になったら困る。

 

「よかった。それなら、えっと、舞坂先輩、真咲先輩。VEIN教えてください」

「オッケー」

「……もしかして、付き合ってるって思った?」

「はい、すみません。なんか、仲良さそうに見えたので」

 

 彩芽は一瞬「えへー」と頬を緩ませて、はっとして引き締め直した。よかった。凪咲ちゃんが俺のQRコード読み込んでて彩芽を見てなくて。っていうかマジで大丈夫かこいつ。もっとぎゅってするべきか? 前よりも好きが漏れ出てねぇか? ちょっと前なら、付き合ってるなんて言われたら乙女なのにも関わらず吐いてたのに。

 

「義兄さんのことで何かあったら、相談乗ってください」

「うん! とはいっても、私はあんまり倉敷くんと仲いいってわけじゃないけど……」

「拓斗のことじゃなくても、誰かに相談しにくいことがあったら壁打ちだと思って遠慮なく言ってくれ」

「ふふ。はい。じゃあ、遠慮なく壁打ちさせてもらいます」

 

 可愛い。可愛いよね? と俺を見る彩芽に頷くと、彩芽は少し不機嫌になった。テメェが同意求めてきたんだろうが。

 ただ、ちょっと気になる。今のところ凪咲ちゃんは拓斗のことが嫌いで、俺は拓斗の友だち。それなら、俺とも距離を取りたくなると思うんだけど、VEINを交換してよかったんだろうか。さっきの「お母さんを安心させる」っていうのを受け止めて、俺と仲良くしてくれようとしてるなら、めちゃくちゃいい子だなこの子。

 

「でも凪咲ちゃん。修也と距離とりたいって思わないの? 倉敷くんと友だちだし、凪咲ちゃんからしたら嫌かなって思ったんだけど」

 

 彩芽も同じことを思ったのか、凪咲ちゃんの手をふにふにと触りながら言った。距離の詰め方えぐいな。女の子ってそんなもん?

 

 彩芽の疑問に、凪咲ちゃんは俺を見て微笑んだ。

 

「あんな義兄さんのためにここまでしてくれるなら、いい人なんだろうなって思ったので。それに、義兄さんのお友だちですけど、ちゃんと中立で正しい方の味方してくれそうだなって」

「こんなにいい子なら、私たちが今日話す必要なかったかもねー」

「だな。よっしゃ、今日はお兄さんが甘いものでも奢ってあげようかな?」

「あ、じゃあ友だちも連れてきますね!」

 

 結構たくましいんだなこの子……。

 

 男に二言はないからと強がれば、彩芽と凪咲ちゃんに笑われた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。