【本編完結】ぎゅってしないと好きになる魔法   作:酉柄レイム

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第30話 アニキ!

 天ケ瀬を連れて中庭のベンチに並んで座る。なんで朝っぱらから顔も知らねぇ後輩、しかも男とベンチで並ばなきゃなんねぇんだ。つかクラス大丈夫か? 俺が出る直前は拓斗と俺がまるで恋仲みたいな気色の悪い勘違いをされてたような気がするけど、彩芽がなんとかしてくれていると信じたい。中条も手助けしてくれるだろうし、大丈夫だろう。多分。

 

「で、なんで決闘?」

「さっき言ったっスよ。倉敷が一番仲いいって言った舞坂先輩と戦って、俺の方が男だってことを証明するためだ!」

「あのなぁ、まず凪咲ちゃんは妹みたいなもんで、そういう対象じゃないんだよ」

「女のことを妹みたいって言うやつにろくなやつはいねぇんスよ!」

 

 気が合いそうだな……。俺もそう思ってる。そう思ってるけど、凪咲ちゃんのことはそうとしか見れないから仕方ねぇだろ。実際、友だちの義妹なら妹みたいなもんだ。それに俺には彩芽がいるし、凪咲ちゃんもそれをわかってる。

 で、天ケ瀬が凪咲ちゃんの言っていた『告白してきた相手』だろう。友だちから初めて、その中での会話で天ケ瀬が凪咲ちゃんに仲のいい男がいるかって聞いて、俺の名前が出てきた。凪咲ちゃんのことが大好きで仕方がない天ケ瀬は、そのまま俺に決闘を挑みに来た、と。行動力の化身かよ。好きな人が一番仲のいいって言った男を確かめにくるって、まっすぐ好きって感じがしてむしろ好感が持てる。

 

 あとなんか背がちっちゃくてかわいい。

 

「大体、俺が聞きたいのはそういうことじゃねぇんスよ。あんたにその気がなくても、倉敷にその気があったら可哀そうだろうが!」

「真正面からないって言われたことあるぞ」

「わかってねぇなぁ。ないって言われてもあるってこともあるし、一回聞いたからってそこから心変わりがねぇとは限らないんスよ?」

 

 バカみてぇに突撃しにきたくせに、言うことがいちいち一理ある。確かに、俺からすればそれはないって思っていても、凪咲ちゃんが俺のことが好きになってる可能性もなくはない。まぁ、実際には俺と彩芽が仲良くしてると栄養が補給されるっていうくらいだからないんだろうけど、そんなことを言っても天ケ瀬は納得しない。

 ただ、だからと言って決闘する必要はないし、言わなきゃいけないことがある。

 

「天ケ瀬。お前がマジで凪咲ちゃんのことが好きで、その凪咲ちゃんが仲のいい男が俺だって言って焦る気持ちもめちゃくちゃわかる」

「えっ、好きって言いましたっけ俺!」

「誰でもわかんだろうが。舐めてんじゃねぇぞ」

「これが経験値か……!!」

 

 ぐぬぬ、と悔しがっている天ケ瀬を撫でそうになって、男にそれは失礼かと思い直して手を引っ込めた。俺が一瞬腕を上げたからか、「なんだ、やるんスか!」とやる気を見せている天ケ瀬に「やらねぇよ」と言ってから続ける。

 

「でも、天ケ瀬こそ凪咲ちゃんの気持ち考えたのか?」

「倉敷の気持ち?」

「おう。凪咲ちゃんが『舞坂先輩と仲がいい』って言ったから天ケ瀬が俺のところにきたんだろ? それを凪咲ちゃんが知ったら、『私のせいで舞坂先輩に迷惑かけちゃった』って思うんじゃねぇの?」

「……確かに、倉敷めちゃくちゃ可愛くていいやつだし」

 

 天ケ瀬のことよく知らねぇけど、多分お前も可愛くていいやつだぞ。

 

「迷惑っちゃ迷惑だったけど俺は別に気にしてねぇから結果的にはまぁ大丈夫なんだけどさ。この先似たようなことがあったとして、お前の気持ちを優先してその結果、凪咲ちゃんにとって嫌なことやっちまうのって、男らしくないって思わねぇか?」

「男らしくないっス」

「だよな。だからって俺が凪咲ちゃんとそういう仲にならねぇってのを信用してくれとは言わねぇよ。好きな子の近くにいる男を敵視するのはわかるし、納得もできる」

 

 予鈴が鳴った。これ以上天ケ瀬を拘束したら、先輩である俺がめちゃくちゃ怒られる。それは別にいいけど、できれば凪咲ちゃんに天ケ瀬が俺のところに突撃してきたことは内緒にしておきたいから、ちゃんと返してやらねぇと。

 立ち上がって、天ケ瀬に手を伸ばした。さっきは俺が腕を上げただけで警戒していた天ケ瀬は、伸ばされた手の意味を理解して、じっと俺の目を見てくる。

 

「だから、友だちになろうぜ。ほら、ありがたいことに凪咲ちゃんは俺と慕ってくれてるし、天ケ瀬が俺と仲良くしてたら喜んでくれると思うんだ」

「……うっす!」

「よろしく、天ケ瀬。よかったら今度、凪咲ちゃんのどこを好きになったのか聞かせてくれよ」

「わかりました! あとすんませんでした! 突っ走って迷惑かけちまって!」

「いいよ。好きって気持ちは抑えられねぇもんな」

 

 天ケ瀬が立ち上がって俺の手を握り、頭を下げる。なんか、話せばわかってくれるやつが希少すぎて変な感動を覚えてしまった。

 

 ……なんか、今の俺ら、周りから見たら『頭を下げて告白して、それをオッケーした』ように見えねぇか? 見えねぇか。流石にな。ははは。

 

 

 

 

「修也! 朝きてた天ケ瀬くんと付き合ったってほんと!?」

「んなわけねぇだろうが」

 

 これが、俺が教室に戻ってすぐの彩芽との会話。

 どうやら俺が流石にねぇかと切り捨てた勘違いをしていたみたいで、はっきり否定したら「よかった……流石にないと思ったけど、ちょっと不安になっちゃって。ごめんね?」と可愛らしく首をこてんと傾げて謝罪を一つ。もちろん許した。

 

 俺が教室を出て行った後、彩芽がなんとか誤解を解いてくれたようで、「よく考えたらたとえ男でも女でもどっちもいけるとしても、倉敷はないよね」というのがクラスの総意。急に巻き込まれた上にバカにされた拓斗は、「そもそも、修也はお姉さんじゃないからね」とズレた回答を披露した。

 

 そんなこんなで昼休み。廻と拓斗が俺の席にやってきて、彩芽と中条も「そろそろ危なくなさそうだから」と、近くの席をくっつけて5人で昼飯を食おうと弁当を取り出した時、また嵐がやってきた。

 

「失礼します! 1-A天ケ瀬葵っス!」

「今度はなんだ……?」

 

 頭を下げてから教室に入ってきたのはご存知天ケ瀬。その手には弁当があって、よく見れば後ろに凪咲ちゃんがいた。めちゃくちゃ申し訳なさそうな顔してるから、あ、朝のことバレたんだなと察しがつく。

 

「みなさん、朝はお騒がせしてすみませんっした!」

 

 天ケ瀬は教室に入ってすぐ頭を下げた。

 ……めちゃくちゃまっすぐだなぁ。廻と拓斗もまっすぐだけどそもそものベクトルが違うし、あぁも正しくまっすぐなやつなんて、どこを探しても見つからないくらい珍しい。

 天ケ瀬が頭を下げた後、凪咲ちゃんもぺこりと頭を下げる。ちょっと待っても頭を上げる様子がないのは、こっちの許しを待ってるんだろうなと思って、立ち上がって天ケ瀬のところへ向かった。

 

「別に、もう気にしてるやついねぇのに。ありがとな、わざわざきてくれて」

「いえ! 俺めちゃくちゃ迷惑かけたんで、けじめっス!」

「凪咲ちゃんも、悪いな。俺マジで気にしてねぇし、クラスのやつらもちょっとした日常のスパイス程度にしか思ってねぇから、凪咲ちゃんも気にしないでくれ」

「ほんとすみません……」

「おう。弁当持ってきてるなら一緒に食うか?」

「はい! 俺、アニキと友だちになったんで、今日からご一緒するっス!」

「アニキ?」

 

 ちょっと待て、なんか雲行きが怪しい。いや、悪い方向に怪しいわけじゃないと思うけど、雨降って地固まるかと思いきや、思った固まり方と違うような気がする。凪咲ちゃんはまだ申し訳なさそうにしてるから、多分天ケ瀬のこれがどういうことなのか知ってるんだろう。

 

「朝のアレ、めっちゃ尊敬できる人だなって思って、そんでアニキみてぇだなって思って! 勝手に呼ばせてもらったっス!」

「あー……うん。とりあえずこっちこいよ。飯食おうぜ」

「っス!」

 

 後輩二人を引き連れて自分の席へ戻る。彩芽は「また懐かれてる……」とちょっとだけ不満気で、廻と拓斗はもしゃもしゃと弁当を頬張り、中条は笑っていた。廻はともかく拓斗、お前凪咲ちゃんがきてんだからもうちょっと興味持ってる感じに見せらんねぇか?

 

「ってわけで、一緒に食うことになった」

「1-A天ケ瀬葵っス!」

「聞いてたよ。私は中条かおり」

「私は真咲彩芽。よろしくね?」

「俺は男の中の男」

「僕は倉敷拓斗。ちなみにこっちは赤谷廻」

「よろしくお願いしまス!! ……倉敷?」

 

 頭を下げてから近くにあった椅子を二つ引っ張ってきて、そのうちの一つを凪咲ちゃんに渡し、あまった一つを俺の隣に持ってきて座ってから、そこで初めて『倉敷拓斗』の名前をしっかり認識したのか、聞き覚えのある苗字に首を傾げ、それから凪咲ちゃんを見た。

 ……まぁ、言ってないんだろうな。兄ちゃんがいるって。正確には義兄がいるって。そりゃあ拓斗だしな。言いたくないのはわかる。

 

「私の義理の兄なの」

「マジ!? へー! お義兄さんイケメンっスね!」

「ありがとう。凪咲ちゃんとはどういう関係なのかな?」

「友だちっス!」

「そうか。天ケ瀬くんみたいないい子が凪咲ちゃんの友だちなら安心だね」

 

 あざっす! とまた頭を下げる天ケ瀬には、拓斗が『いい子』って言ったのは自分のことをイケメンだって言ってくれたからだっていうのは黙っておこう。こいつ、基本的に自分をどう扱ってくれるかでしか人の善悪を判定しないからな。

 

「ほえー」

「どうした彩芽。バカみてぇな声出して」

「ん? えーと、倉敷くんがまともなこと言ってるーって思って」

「凪咲ちゃんの前で変なことはできないからね」

 

 お前凪咲ちゃんの前で義母に求婚しただろうがというのは、流石に天ケ瀬の前で言うわけにはいかないから言わないでおいた。拓斗にとってアレは未だ『変なこと』じゃないらしい。

 ……でも、ちょっと安心した。もしかしたら「君にお義兄さんと呼ばれる筋合いはない」くらい言うかなって思ってたから、思ったよりもずっとまともな対応だった。

 

「つか、赤谷さんもマジカッケーっスね。すげー強そう」

「君にお義兄さんって呼ばれる筋合いはないで」

「誰も呼んでねぇよ」

 

 俺と拓斗じゃないとわからないくらいの照れ隠し。こいつが照れ隠しするなんてめちゃくちゃレアじゃねぇか? 思えば大体バカにされたり罵倒されたりしてそれをポジティブに捉えるっていうことばっかで、真正面から褒められてるところ見たことがなかったし、案外普通に褒められたらこんな感じなのかもしれない。

 

「てか、ほんとに舞坂って年下に懐かれんね。聞いたよ? 夏祭りでも子ども手懐けたんだって?」

「舞坂先輩ってなんか安心感あるんですよね。なんかお兄ちゃんみたいだなーっていうか」

「お兄ちゃんは僕だけど?」

「義兄さんは義兄さんです」

「俺はどうなん?」

「赤谷先輩は赤谷先輩です」

「俺は!」

「天ケ瀬くんは天ケ瀬くん」

「私はー?」

「中条先輩は中条先輩……なんですかこのやり取り」

 

 廻が悪ノリし、天ケ瀬と中条がそれに続いたところで凪咲ちゃんが打ち切った。続こうとしていた彩芽が地味にショックを受けているのが見える。彩芽、凪咲ちゃんから先輩って呼んでもらうの好きだから言ってもらいたかったんだろうなぁ……。

 仕方ないからと凪咲ちゃんの肩をちょんちょんと突いて、その指で彩芽を指せば、ちょっと寂しそうにしている彩芽を見て察し、「彩芽先輩、大好きです!」と大サービス。「私もー!」と言って凪咲ちゃんに抱き着く彩芽と、凪咲ちゃんが言った「大好き」に反応した天ケ瀬がどっちも可愛かった。

 

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