【本編完結】ぎゅってしないと好きになる魔法   作:酉柄レイム

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第31話 予測できない出来事

「え! アニキと真咲先輩も実行委員なんスか!」

 

 ある日の放課後。文化祭準備期間で伸ばされた下校時刻を迎えた時、天ケ瀬が凪咲ちゃんを引き連れて、というよりはまた何かやらかさないか心配になった凪咲ちゃんが自主的についてきて、教室にやってきた。彩芽と一緒に帰ろうとしていた中条は「ダブルデートってことね」と勝手に納得して彩芽が引き留める前に廻と拓斗を引っ張ってダッシュで帰宅。

 そんなこんなで、俺と彩芽、天ケ瀬と凪咲ちゃんの四人で駅まで向かっていた。

 

「も、ってことは天ケ瀬と凪咲ちゃんもか」

「っス! ここだけの話、倉敷が実行委員やるってなって、話しかけるチャンスだと思って立候補したんスよ!」

「ここだけの話の声量じゃねぇな」

 

 凪咲ちゃんも知らない話だったのか、目を丸くして驚いた後、やはり好意を伝えられ慣れていないからか恥ずかしそうに俯いた。おい、俺じゃなくて凪咲ちゃんを見ろ天ケ瀬。好きな子の可愛い姿見逃してんじゃねぇよ。

 

「1年生は劇だよね?」

「はい。その、できれば見に来ないでくださいね」

「……修也、凪咲ちゃんに嫌われちゃった」

「あっ、違います! えっと、その」

「俺らラブロマンスやるんスけど、ヒロイン役が倉敷なんスよ」

 

 天ケ瀬のフォローに、「なんだ、そういうことね!」と凪咲ちゃんに嫌われたと勘違いした彩芽がすぐに復活。いじけた感じで俺の裾握ってきたのが可愛かったからちょっと残念に思ったのは内緒の話。

 

 ラブロマンスねぇ。ねじ曲がった大人が見たら心折られそうだな。現役高校生のラブロマンスってキラキラしてしょうがねぇだろうし。

 

「つーか、凪咲ちゃんがヒロインっていいのか? 天ケ瀬」

 

 彩芽が凪咲ちゃんを撫でまわしている隙に天ケ瀬へ話しかける。天ケ瀬は凪咲ちゃんのことが好きだ。だったらたとえ劇であろうと、凪咲ちゃんと誰かのラブロマンスなんて絶対見たくないだろ。俺ももし天ケ瀬の立場ならもう文化祭行かねぇぞ。

 気遣いと心配を込めた俺の質問に、天ケ瀬はピースサイン。なんだ? 器のデカい男はそんなこと気にしねぇってか?

 

「俺じゃんけん強いんっスよ!」

「別にじゃんけんの強さは聞いてねぇぞ」

「そうじゃなくて、倉敷ってほら、めっちゃ可愛いじゃないスか。クラス全員からヒロイン役に推薦されて、じゃあ相手役誰にするってなった時立候補が死ぬほど出て」

「あー、それでじゃんけんでその役を勝ち取ったってことか」

「そっス!」

 

 とんでもねぇな凪咲ちゃん。いや、この場合とんでもないのは天ケ瀬のクラスメイトか。

 凪咲ちゃんは可愛い。確かに可愛いけど、その相手役に立候補するって結構勇気いると思うんだけどなぁ。思春期だし恥もある。もしかして凪咲ちゃんってサキュバスかなんかなのか? ちょくちょくあざといことやってくるし、魔法使いがいるこの世界ならありえるかもしれない。

 

「ねーねー修也。凪咲ちゃんの相手役天ケ瀬くんなんだって!」

「聞いた。相手役の立候補の数すさまじかったらしいな」

「えっ、天ケ瀬くん! 恥ずかしいから教えないで!」

「ごめん! 倉敷とラブロマンスってめちゃくちゃ嬉しいから舞い上がっちゃって!」

「……いいけど」

 

 可愛くない? あぁ、可愛い。彩芽と目を合わせて頷いて、ほっこりを提供してくれる後輩二人に微笑んだ。ちなみに、可愛いのは凪咲ちゃんだけじゃなくて天ケ瀬も。マジでまっすぐだよなぁこいつ。なんでこんなやつがこの時期になるまで告白しなかったんだ? あれか、むしろ今まで我慢してきた分が今になって解放されて、なんでもかんでも正直になってんのか。

 

「でも、結構ノリみたいなとこあったんスよ。男子だけじゃなくて女子も立候補してたし」

「人気者だな、凪咲ちゃん」

「やめてください……」

 

 凪咲ちゃんをからかえば、ただでさえ恥ずかしそうに縮こまっていたのに更に縮こまった。そんな可愛いことをするもんだからまた彩芽にぎゅってされてよしよしされている。

 ……なんか彩芽とぎゅってしたくなってきたな。魔法の効力か? まぁ魔法の効力だろうな。

 

 凪咲ちゃんにぎゅってする彩芽を見て湧き上がってきた嫉妬みたいな何かを魔法のせいにして、「あぶねぇからあんまり凪咲ちゃんに抱き着くなよ」と言えば、「あれー? 私にぎゅってしてもらえなくて嫉妬してるんだ?」と俺を挑発しやがった。テメェ……! そっちがその気ならやってやろうじゃねぇか!

 

「んなこと言うなら、俺は天ケ瀬をぎゅってするぞ!」

「舞坂先輩、流石にそれは……」

「え! だめ! 修也がぎゅってするのは私だけ!」

「効くんだ……」

 

 俺も冗談で言ったのに、彩芽に効果は抜群だった。俺たち二人が仲良くしてるところを栄養にしてる凪咲ちゃんですら困惑してんじゃねぇか。あと天ケ瀬は「いいんスか! どうぞ!」って俺に向かって両腕広げてんじゃねぇよ。お前のラブロマンスの相手は凪咲ちゃんだろうが。

 

「あっ、その、今のは違くて! 私たちの間でぎゅってして相手に致命傷を与えるのが流行ってるの!」

「そんなバイオレンスな流行りに乗った覚えねぇよ」

「へー! それでアニキは男らしいんスね!」

「天ケ瀬くんの男らしいの定義って何?」

 

 それぞれのパートナーのボケにそれぞれのパートナーがツッコんで、「修也もなんとか言ってよ!」と俺に突っかかってきた彩芽に『あとでな』とあの時の口パクの仕返しをしてやると、顔を真っ赤にして逃げ出し、凪咲ちゃんを壁にした。勝ったな。

 

「アニキ。どうやったらそんな人前で恥ずかしげもなくイチャイチャできるんスか?」

「……?」

「天ケ瀬くん、やめた方がいいよ。二人ともイチャイチャしてる自覚ないから」

 

 えっ……、と俺を見て硬直する天ケ瀬。別にイチャイチャはしてねぇだろ。ただ彩芽が挑発してきたから調子に乗らねぇよう照れさせようって思っただけで……イチャイチャしてんじゃねぇか。マズい。まさか俺たちは、周りから見たらバカップルに見えてるのか!?

 由々しき事態だ。父さんの魔法を知らない間に使われてたのか? そうに違いない。じゃなきゃ無自覚にイチャイチャするわけがない。ってことは、『無自覚にイチャイチャする魔法』……? マジで許せねぇな、あのクソ親父。

 

「アニキたちは何するんスか?」

「カフェだな。暇あったらきてくれよ。天ケ瀬と凪咲ちゃんなら奢ってやるから」

「いいんスか! やった! 一緒に行こうぜ倉敷!」

「えっ、あ、う、と、友だちも連れて行っていいですか!」

「もちろん」

 

 残念だったな、という意味を込めて天ケ瀬の肩を叩けば、「っス」と低めのテンションで返事があった。遠回しに『二人でこいよ』って言って、そのパスを受け取った天ケ瀬がシュートを打ったが、凪咲ちゃんは優秀なゴールキーパーだった。でも凪咲ちゃん照れてるから、完全に脈なしってわけじゃないと思うぜ。ほら、告白されてから意識し始めるみたいなこともあるし。

 

 まっすぐな分結構ショックを受けやすいのか、ちょっとテンションが下がった天ケ瀬を慰め続け、駅に到着する。どんだけショック引きずってんだテメェ。

 

「……あれ? あそこにいるのって」

「ん?」

 

 同じく、駅に到着するまで恥ずかしがっていた彩芽が復活し、俺の隣にきて指した先を見れば、バイクに寄りかかる姉ちゃんがいた。家族が見てもカッケェなオイ。

 

「誰っスか?」

「俺の姉ちゃん」

「へー! 綺麗な方ですね!」

 

 褒めてくれる凪咲ちゃんに「ありがとな」と言って、声をかけに行く。少し近づけば俺たちに気づいた姉ちゃんは、薄く微笑んで手をひらひら振った。よかった、ここに拓斗がいなくて。これ見たら間違いなく死んでただろうな。

 

「こんなとこで何やってんだ?」

「ひどーい。可愛い弟に会いに来ちゃいけないの?」

「あんま外でべたべたすんな!」

 

 姉ちゃんの近くまで行った瞬間に腕を肩に回して引き寄せられて、頭をガシガシ撫でられる。おい、助けろ彩芽! 「ふふ、仲いいですね」って和んでんじゃねぇよ!

 

「舞坂先輩可愛い。お姉さんの前だとあんなのなんだ」

「倉敷、可愛い人がいいのか!?」

「えっ、そ、そんなことないよ?」

「修也、そこの可愛い二人は後輩?」

 

 自分たちの話を姉ちゃんが口にした瞬間、礼儀正しく姿勢を正し、「天ケ瀬葵っス!」「倉敷凪咲です!」と自己紹介。『倉敷』と聞いた瞬間に姉ちゃんが悲しそうな顔をして、凪咲ちゃんもそんな姉ちゃんを見て「恐らくご迷惑をおかけしました」と頭を下げた。本当に苦労してるな、この子は……。

 

「可愛い弟の後輩も気になるけど、ちょっと修也に用があって。スマホで連絡してもよかったんだけど、運転中だったからそのままきちゃった」

「俺がいなかったらどうするつもりだったんだよ」

「いたからいーじゃん。そんで、本題ね。お父さんとお母さんが一気に有給取って、一週間くらい旅行行ってくるからお留守番よろしくねーだって。で、私も大学の課題でちょっと家空けるから、一人でお留守番よろしくー」

 

 じゃ、と言って、姉ちゃんは俺が内容を理解する前に去っていった。

 

 ん? なんて? 今もしかして、俺に相談もなく父さんと母さんが旅行に出かけて、同じタイミングで姉ちゃんも家を空けるって言ったか? 台風でも直撃する日は予測できんだぞ。どんだけ自由奔放なんだあのクソ両親!

 

「……! 彩芽先輩、チャンスですよ! チャンス!」

「え、なにが?」

「なにがって、舞坂先輩しばらく一人なんですよ? これで押し掛けない選択肢ないでしょう!」

「……そ、そんないやらしいことできないよ! だめだめ! むり!」

「なんでいやらしいことになるんスか?」

「妄想たくましいんだよ、あいつ」

 

 ……なんて言いながら、ちょっと期待した俺がいる。いやでも、付き合ってるわけじゃないしね? はは。

 

 ちら、と彩芽を見れば、目が合ってお互いに目を逸らす。バカなこと考えるな、バカなこと考えるな!

 

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