【本編完結】ぎゅってしないと好きになる魔法   作:酉柄レイム

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第32話 ハイパーブラックすごろく

 姉ちゃんからとんでもないことを告げられて、翌日。学校を終えて帰ったらやっぱり一人。帰ってもおかえりがないのは案外寂しいもんだなぁ。そう思えるってことは、口ではなんと言ってても家族のことは好きらしい。「それに気づいてもらうために出て行ったんだ。ワッハッハ!!」とか言ったらぶっ飛ばすけど。

 

 一人の間の飯は『計画的に使うように!』というメモ書きとともに両親が置いて行ったお金をやりくりしている。残った分は迷惑料としてお小遣いにしていいとのことだったが、むしろムカつくから散財してやろうと出前を取ろうとした時、チャイムが鳴った。

 

 ……まさか、まさかなぁ? そんな、なぁ? 今日が金曜だからって、泊まりに来ちゃったみたいなことないよなぁ? へへ、まったく可愛いやつめ。いやらしいこととか言ってたくせにやっぱりきてんじゃねぇか。

 

 るんるん気分で玄関に向かい、ドアを開ける。

 

「宴だー!!!」

「うおおおおおおお!!!!」

 

 バカ二人がいた。何が宴だよ海賊王に俺はなるの人かテメェは。

 そういや、学校で『俺一週間くらい家一人なんだよなぁ』って言っちゃったなぁ。そりゃくるわ、こいつらなら。

 

「突然こんな狭い家にすまないね」

「おい、帰れ」

「まーまー。土産も持ってきたんやで?」

 

 俺には土産と一緒にお泊りセットも持ってきているように見える。本当に帰ってほしい。

 廻が得意気に掲げたのは何かが入った袋。その中を覗けば高そうな肉。もう片方の手には紙袋。中を見ようとしたら「こっちは向こうで見せるわ!」と言って隠された。

 

 ……肉があるなら仕方ねぇか。

 

「しゃあねぇ、入れよ」

「おじゃまします!」

「おじゃまします!」

 

 『おじゃまします』でほんとに邪魔しにくるやつらっているんだな……。二人を家に上げると、廻がキッチンへ突撃して冷蔵庫の前で待機。何してんだと声をかければ「雪野さんから人んちの冷蔵庫は勝手に開けんなって」と躾の成果を披露した。感動したぜ、俺は……!

 

「別にんなこと気にするような関係でもねぇだろ。勝手に開けていいよ」

「ガンキュー!」

「随分怖い感謝だね」

 

 多分サンキューと言ったつもりの廻は冷蔵庫に肉をぶち込み、リビングへ戻ってきた。そのままの勢いでテーブルに紙袋を叩きつけると、中身を取り出して俺に見せるよう大げさに掲げる。

 取り出されたのは平らな四角い箱。表面には『ハイパーブラックすごろく』と書かれている。

 

「ハイパーブラックすごろく?」

「そう! 肉買いに行く途中にあったおもちゃ屋さんに置いてて、おもろそうやから買ってきてん」

「それで、こういうのはどうかと思ってね。すごろくでビリになったやつが、肉の代金全額を支払う」

「乗った」

「流石修也や!」

 

 こんなバカどもに負けるわけがない。最悪負けそうになったら1が出ても6って言って納得させりゃいいだろ。

 

 廻が箱を開け、中身を引っ張り出す。箱の中身はマスが描かれたボードと、これまた小さな箱。開けてみればおはじきのようなコマが八種類、サイコロが一つ、ゴムパッチン、黒いカード、ピンク色のカード、ドクロが描かれたカードがそれぞれ束になって入っており、それらの下敷きになるようにしてゲームの説明書が入っている。ゴムパッチン……?

 

「説明書はわからんことある度確認すりゃええやろ」

 

 ゴムパッチンはまぁ、使う時がきたら廻の言う通り説明書を見りゃいいか。飯も食いてぇし早く始めようと、俺は青、廻は赤、拓斗は黄色のコマを手に取って、スタートに置こうとした。

 

「……おい、なんかスタートのコマに二つスタートって書いてるぞ?」

「いや、よう見たら片っぽ『ヌタート』って書いてるわ」

「今説明書を見たけど、特に意味はないらしい」

 

 ほんとに大丈夫かこのすごろく。聞いたこともねぇしちゃんとした商品なんだろうな?

 とりあえずまぁいいかとそれぞれコマを置き、サイコロを振って大きい目が出た拓斗、廻、俺の順でスタート。

 

「ふっ、まずは僕からだ。一撃でゴールして見せよう!」

「無理だぞ」

「無理やで」

 

 サイコロを振って出目は6。意気込みに相応しい数字を出した拓斗が動かしたコマは、『罰ゲームマス』と書かれたコマに止まる。待て、罰ゲーム?

 

「えーっと、『罰ゲームマスに止まれば、黒いカードを引いて、そこに書かれてある罰ゲームを実行します』らしい」

「まぁすごろくの罰ゲームなんかかわええもんやろ」

 

 ははは。お前ら生きてるだけで罰ゲームみたいなもんだもんな。という一言は流石に飲み込んで、拓斗がへらへらしながら束になっている黒いカードを一枚引いた。

 

『急所に向かってゴムパッチン! 痛すぎて一回休み』

 

 やめてくれ! 許してくれ! うるせぇ、ルールなんだから仕方ねぇだろ! おとなしくせぇ!

 

 ギリギリギリギリ、パチン!

 

 そして、拓斗はうつ伏せになって尻を高く突き上げ、ぴくぴく震えるだけのナマモノになった。

 

「それぞれのカードは同じ内容が書かれたやつはないらしいぞ」

「おっしゃ。ほな次は俺の番やな」

 

 あまりにも恐ろしい罰ゲームが執行され、その内容に不安を覚えながらすごろくを再開する。見たところ罰ゲームマスばっかりじゃねぇし、運が良ければ罰ゲームを受けずに済むはずだ。なんか罰ゲームマスの量多い気がするけど気のせいだろ。

 

「おっしゃ6や! めっちゃ進めた!」

「バカお前、6なら罰ゲームだぞ?」

「あんなきっつい罰ゲーム、一枚しか入ってへんやろ!」

 

『一回前の罰ゲームと同じものを実行!』

 

 一緒のもんは入ってへん言うたやろ! 一緒のもんじゃなかっただろうが!

 

 ギリギリギリギリ、パチン!

 

 そして、廻はうつ伏せになって尻を高く突き上げ、ぴくぴく震えるだけのナマモノになった。

 

 バカ二人がしばらく死んでいる間にサイコロを振る。何も書かれていないマスに止まって、俺以外は一回休みだからもう一回振ると、罰ゲームマスに止まってしまった。

 

「まぁ、もう軽い罰ゲームしかねぇだろ」

 

『二回前の罰ゲームと同じものを実行!』

 

 ガシッ。

 

 待て、離せ! おとなしくしなよ! そうや、俺らと同じ気持ち味わえ! チクショオオオオオオオ!!!

 

 ギリギリギリギリ、パチン!

 

 そして、俺はうつ伏せになって尻を高く突き上げ、ぴくぴく震えるだけのナマモノになった。

 

「これでトントンや」

「シャッフルしておこうか。『三回前の罰ゲームと同じもの実行!』とかが出たらシャレにならない」

 

 ちくしょう、まだ使ってねぇのに、致命傷を負っちまった……! なんで俺は自分の家のリビングでこんな無様な姿晒さなきゃいけねぇんだ……! この場に彩芽がいたら「あ、あはは。……ごめんね」って言って悲しい目で帰られるところだった。悲しくて涙が出る。

 

 その後、順調に罰ゲームを消化していき、俺の番。上半身裸で胸板に『勘合貿易』と書いている拓斗と、上半身裸で背中に『断固たる決意』と書かれている廻を見ないようにしてサイコロを振る。止まったマスには、『ご褒美マス』と書かれていた。

 

「ご褒美マス!?」

「そんなもん存在してええんか!?」

「悔しかったらお前らも止まってみろよ!」

 

 勢いをつけてピンク色のカードを引く。カードを引く時に俺の腕に書かれた『パラダイス・アロマ』という字は見なかったことにして、カードを見た。

 

『好きな子に電話して、あなたの好きなシチュエーションの自撮り写真を送ってもらおう! シチュエーションは具体的に伝えること! このすごろくのことは言っちゃダメ!』

 

「これやんなきゃダメか?」

「今説明書見たけど、ルールに従わなかったら庭に埋めていいらしい」

「これ本当に日本で売られてていいのか……?」

「ごちゃごちゃ言うてんと電話せえ!」

 

 でーんーわ! でーんーわ! 鬱陶しいバカのコールを背に、庭に埋められたくはないから彩芽に電話をかける。頼む、出ないでくれ!

 

『もっ、もしもし!』

 

 早い……そんで可愛い……これ絶対俺から電話がきたのが嬉しい感じじゃん……。

 

 でも、ルールは絶対。俺は覚悟を決めた。

 

「彩芽、突然悪い。今何してるんだ?」

『えっと、家族で外にご飯食べにきてるとこ』

「そうか、悪いな。じゃあ手短に済ませる。部屋着でベッドに女の子座りしながら、上目遣いになるアングルで自撮りして送ってくれ」

「具体的かつキショイな」

「流石僕たちの親友だ」

 

 電話の向こうで彩芽が『なっ、え、え?』と困惑する声が聞こえる。今だ、困惑している今が畳みかける時!

 

「頼む、どうしても必要なんだ!」

『ばっ、バカじゃないの! バーカ!』

「彩芽? 彩芽!!!」

 

 クソッ、電話を切られた! 何がいけなかったんだ!? 心当たりはめちゃくちゃある!

 いや、でもご褒美を受け取れなかっただけで、先に進めばいい話。ちょっとどころか大分とんでもない傷がついたけど、すごろくが終わってから説明すればいいんだ!

 

「あ、ご褒美は受け取らないと先に進めないって書いてるよ」

「チクショウ!!」

「ワハハ! ええご褒美やなぁ!」

 

 俺を置いて二人がどんどん先に進む。クソッ、このままじゃ負ける! 彩芽は電話かけたらキャンセルされるし、どうすりゃいい……そうだ! 彩芽の親友である中条なら彩芽を説得してくれるはず!

 

「中条! 突然悪い!」

『どしたん舞坂。なんかあった?』

「彩芽に『部屋着でベッドに女の子座りしながら上目遣いになるアングルで自撮りして送ってくれ』って頼んだのに送ってくれないんだ! なんとか言ってやってくれ!」

『は? キモ』

 

 ポロン。という電話が切れる音とともに、中条から『あったかくして寝なね』と体を気遣うメッセージが送られてきた。病気だと思われてんじゃねぇか。

 

「ハッハッハ! 哀れだね修也! もう僕たちはゴールの近くにいる!」

「よっしゃいったれ拓斗!」

「クソッ、いやでもお前ら、ゴールの一つ前は『最後の関門』だ!」

 

 『最後の関門』。ゴールの前で強制ストップし、ドクロのカードを引いてそこに書かれてある罰ゲームを実行するもの。だからまだ1ターンは猶予がある! 1ターンじゃどうにもなんねぇよ!

 

「じゃ、先に行くよ!」

 

 拓斗がサイコロを振り、コマを動かす。もちろん止まったのは『最後の関門』。にやけ面を俺に向けた拓斗は、見せつけるようにカードを引いた。

 

『スタートに戻る』

 

「ふざけんな!!!!!!!」

「ギャハハ!! 因果オホォ!! ってやつやな!」

「因果応報な?」

 

 スタートに戻った拓斗に爆笑しながら廻がサイコロを振り、コマを動かす。もちろん止まったのは『最後の関門』。にやけ面を俺に向けた廻は、見せつけるようにカードを引いた。

 

『ヌタートに戻る』

 

「なんやねんこのキショイ伏線回収!!!!!」

「おっしゃあ!! 俺にチャンスが回ってきたぜ!!」

「フラれたゴミは一生そこで止まってるんだ! この50年間履き潰したサンダルめ!!」

「俺何にも悪いことしてねぇだろうが!!」

 

 罵倒をぶつけ合い、罰ゲームを繰り返し、その間も一向にご褒美はもらえず、一瞬で追い抜かれて廻が一番乗りで二回目の『最後の関門』に辿り着いた。

 

「頼む! なんか軽いもん出てくれ!」

 

 背中に『断固たる決意』、胸板に『宇宙のプリンス』と書かれ、顔中に花丸を描かれた廻がカードを引く。頼む! 地獄に落ちてくれ!

 

『生き恥を晒す』

 

「クソッ、なんて厳しい罰ゲームなんや……!」

「どうやら、僕と修也の一騎打ちのようだね」

「あぁ。まだ俺は諦めてねぇぞ」

 

 とはいっても、状況は絶望的。拓斗は二回目の『最後の関門』が目の前にある。対して俺はまだご褒美をもらえていない。なんでだ、彩芽! 俺はただ彩芽に『部屋着でベッドに女の子座りしながら上目遣いになるアングルで自撮り』して送ってほしいだけなのに!

 

「ふっ、悪いね修也。『スタートに戻る』も、『ヌタートに戻る』ももうない! 僕の勝ちだ!」

「クソォォオオオオオ!!!!」

 

 胸板に『勘合貿易』、背中に『ニラレバイケメン』と書かれてある拓斗が二回目の『最後の関門』に止まり、カードを引く。

 

『スタートかヌタートに戻る』

 

「なんとなくわかってたさ!!!!」

「バカが!! テメェはヌタートにでも戻ってろ!!」

「僕が選ぶのはスタートだ!! 指図するな!!」

「下々民の争いは醜いわぁ」

 

 早く、拓斗が三回目の『最後の関門』に辿り着く前になんとかしねぇと!

 

 ──その時、焦っている俺は、左ポケットにしまっていたスマホの振動を感じた。

 

 すぐに取り出して通知を見れば、VEINの『彩芽が画像を送信しました』という通知。開く。

 

 もこもこした薄いピンクのパジャマ。ベッドの上。女の子座り。上目遣い。赤くなった頬。

 

 ──そして、俺は気づけば『最後の関門』にいた。拓斗はなぜか逆立ちして「大東京! 大東京!」と叫んでいた。

 

「俺は、何を……」

「戻ってきたか修也! これでお前の勝ちや!」

 

 俺の手には、ドクロが描かれたカードがあった。これは、『最後の関門』で引くカード。

 廻を見れば、力強く頷いて歯を見せて笑った。俺も頷きで返し、カードの内容を見る。

 

『ラッキーカード! ご褒美をもらっていれば、具体的な感想を相手に伝える! ご褒美をもらっていなければそのままゴール!』

 

「彩芽、自撮りありがとう。電話しても出なかったのは風呂入ってたからだったんだな。あまりにも可愛すぎてさっきまで意識がなかった。彩芽はいつも制服きっちり着てるから、パジャマっていう油断した姿がめちゃくちゃ可愛くて、もしかしてピンク好きなのかって考えたらより可愛くて、スマホを持ってる手じゃない方の手をどうすればいいかわからなくてへにゃへにゃのピースをしてたのが更に可愛い。緊張してたのかなんなのか、つま先がぎゅって丸まってたのも可愛かった。ほっぺ赤くなってたし、恥ずかしかったんだよな? ありがとう。それと」

『うっさいバカ! 知らない! バーカ!!』

 

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