【本編完結】ぎゅってしないと好きになる魔法   作:酉柄レイム

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第33話 わがまま

 修也とぎゅってしたい。でも、修也がお家で一人だって知ってるから、すごく行きづらい。なんかそのまま一緒にいることになって、あわよくば……じゃなくて、流れで泊まることになっちゃったら、その、色々、問題があると言いますか……。

 

 っていうのをかおりに魔法のことは伏せて『今修也のとこ行ったら迷惑かな』って相談したら、『女は度胸』ってだけ言われた。悩む暇があったらとりあえず行ってみろってことだよね。そうに違いない。別にせっかく修也が一人なんだからご家族の目とか気にせず色々できるなーとかそういうことは一切考えてない。

 

 なんて言い訳を繰り返していたら、いつの間にか修也の家の前にいた。……朝きたら迷惑だったかな。迷惑だよね……なんで朝にきちゃったんだろ。朝からずっと一緒にいられるとかそういうことは考えてないのに。ほんとに。

 

「……よし」

 

 意を決して、インターホンを鳴らす。ふふ、寝ぐせとかついてたらいいなぁ。

 

 

 

 

 

「ひでぇ朝だ……」

 

 リビング。焼肉を楽しんだ俺たちはそのまま大盛り上がりし、適当に布団を引っ張り出してリビングに敷いたところまでは覚えている。ただ、もう10月なのに全員パン一で寝てるのは意味がわかんねぇし、罰ゲームで体に書いた文字は油性だからほとんど消えてない。俺と拓斗は服着たら隠せるけど、廻は顔中花丸まみれだからもう外出られねぇだろ。

 

 土曜日の朝。俺の目の前には、パン一で寝る廻と拓斗。家族っていうストッパーがない男子高校生はこうなるのかと身をもって知ってしまった朝だった。

 

 休みだし起こすのも悪いから、一人洗面所に行って歯を磨いて顔を洗い、ウンコを捻り出して洗濯機を回す。その間に朝食の準備……とはいっても適当に買っておいたパンを引っ張り出して牛乳をコップに注ぐくらい。子どもの頃父さんが飲んでるコーヒーを飲んでみて、クソ苦くて意味がわかんねぇ飲み物だったから俺は毎朝牛乳派だ。

 

 そうしていれば、廻と拓斗が目を覚ました。「おはよう!!」「いい朝だね」とすぐに立ち上がっていってくるこいつらは、寝起きがめちゃくちゃいい。普通目を覚ましてすぐってちょっとだるいとかあっていいのに、すぐに0から100になるんだこいつら。まぁ「うーん……まだねむい」とか言われたらクソムカつくからむしろこっちの方がいいけど。

 

 廻と拓斗が洗面所に行くのを見送って、朝食を食い終わった。そしてコップを洗っている時、ドクン、と心臓が大きく鼓動を打つ感覚とともに、アレがやってきた。

 

 彩芽とぎゅってしたい。マズい、なんであいつらがいる時に!! あいつらがいなきゃ彩芽とぎゅってした後なんだかんだでイチャイチャできるのに!

 いつの間にかパンを食って牛乳を飲んでいる二人を見ながら作戦を立てる。こっそり彩芽のところに行く? そうしたら彩芽が「えっと、その……おうち、いってもいい?」って可愛らしくおねだりしてくるに違いない。でも家にはこいつらがいる。「いや、廻と拓斗がきてるんだよ」って言って「あっ、そうなんだ……うん、わかった! 楽しんでね」って彩芽が我慢して無理をするところを見たくない。でも、俺がぎゅってしたいってなったってことは、彩芽も俺とぎゅってしたくなってるってことだ。そして彩芽は俺が家に一人だと思ってる。それなら、俺が家に招かないのは不自然だ。

 

 ぐるぐる思考を回していると、チャイムが鳴った。まさかと思って走ってモニターを見に行けば、彩芽がいた。彩芽がいた!!

 

「彩芽! 今の俺は何するかわからねぇ! 頼む、ここは引き下がってくれ!」

『え、えぇ!? な、何するかわからないって』

 

 思わず通話ボタンを押して変なことを口走ってしまった。モニターの中の彩芽が面白いくらい狼狽えて、『……なに、するつもりなの?』って期待を孕んだ目で俺を見てくる。クソッ、なんて可愛いんだ!

 

『別に、修也が相手なら、何されても……』

「修也、どないしたん?」

「ん? 真咲さんじゃないか。おはよう」

『……』

 

 もじもじして視線を逸らしながら言った彩芽に、俺の後ろから廻と拓斗がひょっこり顔を出す。その瞬間、彩芽が固まって、顔が真っ赤になった。

 

『……ご、ごゆ、っくり』

 

 さっきの自分の発言が聞かれたと思ったのか、カチコチになった彩芽がゆっくりと家の前から去っていく。……まぁ、仕方ないか。

 

「廻、拓斗。ちょっと待っててくれるか?」

「ええよー」

「しばらくなら家を空けるけど」

「いいよ別に。むしろ彩芽と家で二人きりになる方がマズい」

 

 あと服着ろよ。と言い残して家を出る。ドアが開いた音が聞こえたのか、彩芽が立ち止まって俺の方を見ていた。

 そのまま走って、彩芽をぎゅってすると腕の中で彩芽が跳ねた。いや、いやらしい意味じゃなくてね?

 

「え、えと、修也。赤谷くんと倉敷くんは」

「待ってもらってる」

「そ、そう、なんだ」

 

 だから早くぎゅってしちまおう。そう言ったつもりだったが、彩芽は一向に俺をぎゅってしない。なんでだ? ちゃんと『パラダイス・アロマ』って書かれた腕は服で見えないようにしてるし、今の俺におかしなところなんて何もないはず。いや、まさか焼肉臭い!? ありえる。ちゃんと換気してブレスケアもしたけど、焼肉の臭いはかなりしつこい。「うわ、焼肉臭い……ぎゅってしたくないな」って思われてんじゃねぇか!?

 

「彩芽、一瞬ぎゅってするだけでいいんだ。な?」

「やだ」

「やだって」

「ぎゅってしたら、修也帰っちゃう」

 

 違った。俺が焼肉臭いからじゃなかった。彩芽が可愛いからだった。なんだ、いつものことか。

 

 俺が帰っちゃうからぎゅってしないって、何それ? めちゃくちゃ可愛いんですけどー!! 土曜の朝から可愛さで俺を殺しにきたのか? 参ったぜ。俺の幼馴染はどうやら殺し屋だったらしい。もちろん俺専門の、な。

 

 危ない。彩芽が可愛すぎて気色ワリィこと考えちまった。なんか無意識に彩芽の頭撫でてるし。彩芽が俺の手に頭ぐりぐりしてるし。俺の手にマーキングってか? そんなことしなくても俺の手は彩芽に触れるためにあるんだぜ?

 誰か俺を殺してくれ。なんでこんな気持ち悪いことをポンポン考え付くんだ俺は。

 

「彩芽。このままだと俺が一方的に抱き着いてる不審者に見えちまう」

 

 しかも休日の朝に。ご近所で有名になっちまうだろうが。想像できるか? 旅行から帰ってきた両親が、気づいたら自分の息子が不審者だって噂されてるところ。俺が親なら耐えらんねぇよ。多分あの両親なら大丈夫だけど。

 

「あー……なんなら彩芽、うちくるか? あいつらいるから、思ったようなことできねぇだろうけど」

「お、思ったようなことって、なんにも思ってないですけど!」

「さっき俺相手なら何されてもいいみたいなこと言ってなかったか?」

「言ってない」

 

 明らかに言ってたのに認めない彩芽は、俺の胸に顔を埋める。あー。我がままってめちゃくちゃ鬱陶しいはずなのに、めちゃくちゃ幸せだ。幸せな我がままってあるんだな。人生は勉強の連続だ。そして可愛いの連続だ。

 

「……ごめん。我がまま言っちゃって」

「いいよ。こういう可愛い我がままなら大歓迎だ」

「じゃあちょっとしゃがんで」

「ん?」

 

 言うとおりにしゃがめば、頬に柔らかい感触。そして彩芽にぎゅってされて、いや、ぎゅー! ってされて、俺から離れていった。

 

「今日はこれで我慢する!」

「……」

「じゃ!」

 

 走って去っていく彩芽の背中を見ながら、頬を撫でた。今のって、えーっと、ははは。

 こんなことしといて返事は保留ってなしじゃねぇか……? 拷問かよ。

 

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