【本編完結】ぎゅってしないと好きになる魔法   作:酉柄レイム

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第34話 ベストカップル決定戦!

 文化祭、当日。

 

『さぁはじまりました! 祭嘉(さいか)高校ベストカップル決定戦!』

 

 なぜか俺と彩芽は執事服とクラシックなメイド服を着て、体育館の舞台に上がり、テレビでよく見る回答席みたいなところに座らされていた。

 

 うちの喫茶店の制服は「どうせ男子こういうの好きっしょ?」という女子のノリの良さによりメイド服(ただしいやらしくない)に決定し、どうせならと男子も執事服を着ることになった。ただ、俺と彩芽は実行委員だから何か起きた時に動きやすいようにと泣く泣く着るのを見送った。

 しかし、文化祭当日を迎え、多くの客をさばいている時に「舞坂! 彩芽! 大変! こっちきて!」と女子に呼び出され、呼び出したくせに走って逃げだし、それを追えば体育館。そこで俺と彩芽は確保され着替えさせられ、いつの間にかこんなことになっていた。

 

「修也、なにこれ……」

『ルールは簡単! 与えられたお題に回答していき、ベストカップルだと思う組に投票! 見事ベストカップルに選ばれれば、スイーツキングダムの無料券がもらえます!』

「らしい」

 

 恥ずかしそうにしていた彩芽は、『スイーツキングダムの無料券』と聞いて姿勢を正し、やる気を見せた。現金で可愛い。

 俺たち以外の参加者を見れば、本当にカップルなんだろうなっていう距離感。もう付き合ってないなんて言っても誰も信じねぇし、やるからには勝って無料券を彩芽にプレゼントしたい。

 

『ちなみに、お題はお互いのことに関するものが多いです! というかほぼそれです! みんなの前でラブラブを見せつけるチャンスですね!』

 

 なんていう意気込みは不安に塗り替えられた。

 俺たちは付き合ってないけどお互い好き合っている。それは間違いない。ただ、最近忘れそうになるけど長い間お互い嫌い合っていた。その期間のことはお互いがお互いのことをほとんど知らないし、知識とかそういう理解度でいえば、本物のカップルに大きく劣る。

 

「修也、恥ずかしいけど頑張って勝とうね!」

 

 でも、ぎゅって拳を作ってやる気を見せる彩芽が可愛いからなんとしてでも勝ちたい。っていうかメイド姿可愛い!!!?? 今初めてちゃんと見たけどエグすぎる。こんな可愛い彩芽を舞台にいさせたら求婚するやつらが出てくるに決まってる。これは一刻も早く終わらせて、俺が独り占めにしないといけない。

 

『それでは早速第一問! パートナーが書いた答えと一致させましょう! 一致すれば見事ラブラブ! お題は『今日、相手のことを好きだと思った回数』です! 答えを書くのは彼女さん! さぁ、彼氏さんは彼女さんからの愛に気づけるか! それではお手元のフリップにどうぞ!』

 

 マズい、一問目からものすごくはずかしい問題がきた。こういうのって最初はジャブみたいな感じで『好きな食べ物』とかそういうのじゃねぇの? 彩芽、目ぇぐるぐる回して恥ずかしさで倒れそうになってんじゃねぇか。

 このお題は彩芽も恥ずかしい思いをする。彩芽が恥ずかしい思いをして書いた答えを当ててやりたい。考えろ、彩芽なら何回って書く? ストレートに本当に好きって思った回数……だとすると何回なんだ? 恥ずかしさを誤魔化すために1回とかがベターなんじゃねぇのか? いやでも、俺が1回って書いて彩芽が20回とか書いてたら彩芽がめちゃくちゃ恥ずかしいやつみたいになる。は? 人を想う気持ちに恥ずかしいなんてあるわけねぇだろ!!

 

 そうやって混乱していると、体中を何かが走り抜ける感覚があった。この感覚、勘づきたくねぇけどもしかして……!

 

《どうやら、俺の魔法が効いたようだな》

 

 脳内に響くクソ親父の声。客の中からその姿を探せば、いた。俺に向かってハートを作って、得意気な笑みを浮かべている。今度は何しやがったぶっ飛ばすぞテメェ。

 

《今お前にかけた魔法は、今日一日、意識すれば彩芽ちゃんの考えていることがわかる魔法だ。お前からなんとしてでも勝ちたいっていう思いを感じ取ってな。勝手ながら手助けをさせてもらった》

 

 それはまぁ、ありがたいようなありがたくないようなだけど、テメェ魔力無駄遣いしてんじゃねぇよ。俺らに魔法かけといて、まさかそんな軽い感じで魔法乱用してねぇよな?

 

《この相手の脳内に念を送る魔法は魔力消費が激しいから、これ以上は話せない。あとは頑張れ》

 

 テメェ魔力無駄遣いしてんじゃねぇか!! 俺たちの魔法解くための魔力を今無駄に消費したよな!? クソ、あのクソ親父……いや、今はブチギレてる場合じゃない。ちょっと気は進まないけど、彩芽の思考を読んで回答を書くのが優先だ。

 

 魔法使いの父さんの息子だからか、やり方は感覚で分かった。目を瞑って隣にいる彩芽を脳内で思い浮かべる。そうすれば、瞼の裏に彩芽の姿が描かれて、音が脳内に反響した。

 

《うぅ……修也のこと、ずっと好きって思ってるから何回かわかんない……》

 

 俺は死んだ。

 

クソ、彩芽のやつ、表に出る態度も破壊力抜群なのに、脳内も破壊力抜群なのか!? そりゃそうだ。だってその態度を出してるのは脳なんだから。

 いや待て、集中しろ。いくらずっと好きって思っていようと、わかんないから5回にしちゃえ! みたいなことを考えるはずだ。俺くらいになれば、彩芽がそれを思うタイミングなんて手に取るようにわかる。そのタイミングで思考を読む。ずっと読んでたら俺が可愛さで死ぬ。

 

 よし、今だ!

 

《すき》

 

 俺は死んだ。

 

 流石だぜ彩芽……こんな早いスパンで輪廻転生を体験させてくれるなんてな……。こうなったら、ずっと思考を読み続けるしかない。大丈夫、俺が耐えるだけでいいんだ。俺が耐えるだけでスイーツキングダムの無料券が手に入って、彩芽の喜ぶ顔が見れる。

 

 俺が決意を固めた瞬間、あの感覚に襲われた。

 

《あ……ぎゅってしたくなっちゃった!!?》

 

 不定期にぎゅってしたくなる魔法。それが今発動した。目を開いて彩芽を見れば目が合って、お互い慌てて逸らす。マズい、目を合わせるだけで死ぬほどぎゅってしたくなったのに、こんな状態で彩芽の思考を読めってか!? そんなことしたらぎゅってしたくなりすぎて、いざぎゅってしたらもう離さねぇぞ!!

 

『さぁ答えは書けましたでしょうか! それでは、一斉にフリップをどうぞ!』

 

 ヤバい、彩芽が可愛すぎて全然書けてなかった! 焦った俺は何も考えずペンを走らせて、彩芽と同時にフリップを出す。

 

『舞坂・真咲ペア! 今回のお題は好きって思った回数ですよー! 二人とも『ぎゅってしたい』って書いているのは非常に仲良しで結構ですが、お題に沿っていただけると助かります!』

 

 クラスの連中が俺たちを煽る声が聞こえる。前を見れば、廻と拓斗が『修也♥彩芽』という横断幕を掲げていた。もちろん雪野さんに見つかって逃亡を開始。よかった、彩芽が横断幕を見る前に粛清されて。

 

「彩芽、悪い。思ったこと書いちまった」

「私も、ごめん。……あとでしようね」

 

 『あとでしようね』をそっと顔を寄せられて耳元で言われた俺は、体中に快感が這いずり回り、可愛すぎて死ぬほどぎゅってしたくなった。わかっててやってんのか? わかってねぇでやってんのか? どっちにしろとんでもねぇ。早く終わらせないと、冗談抜きで俺の命が危ない!

 

『それでは第二問! 先ほどと同じくパートナーと書いた答えと一致させましょう! お題は『彼女のどこが好き?』です! 答えを書くのは彼氏さん! 彼女さんは、普段彼氏さんがあなたのどこを見ているか考えてみてください! あ、全部っていうのはやめてくださいねー! それではスタート!』

 

 彩芽のどこが好き、だと? 全部以外の何があんだ舐めてんのか? ふざけやがって……。

 

 そうじゃない。俺にとっての正解は、彩芽の思考を読んで彩芽の回答と自分の回答を合わせること。目を閉じて、隣にいる彩芽を意識する。そうすればすぐ彩芽の思考が流れ込んできた。

 

《……………………》

 

 ダメだ! 俺が自分のどこを好きなのか考えて、恥ずかしくなって脳がショートしてやがる!! 可愛いぜ!!

 

 まさかこういうゲームで思考を読むのが役に立たなくなるなんて思いもしなかった。予想ガール、いや予想ボーイ、いや予想外だ。あまりの事態に俺自身も気が動転している。

 彩芽は自己評価が低い。こういう時は相手が一番自身のあるところを書いて回答を合わせに行くのが普通だろう。ただ、彩芽なら「私のいいところって……?」って考えて、結果無難な答えになると見た。思考が読めなくても、彩芽の思考は読めるんだって証明してやるぜ!

 

『はい時間です! 一斉にフリップをどうぞ! あー!! 舞坂・真咲ペア! 彼女の『体』という大胆な回答を、彼氏が『彩芽なところ』というお前じゃなきゃダメだとこれまた大胆な回答で躱すー!』

 

 無難ってなんだよ!! 思いつかねぇんだよチクショウ!! あとなんで体って書いてんだ! まさか姉ちゃんと結菜が教えやがったのか!? さっき脳がショートしてたのは体って言ってたってことを思い出したからか!? 彩芽に恥ずかしい思いさせやがって、許さねぇ!!

 

『大体ベストカップルがわかってきましたね! さぁ最終問題です! 問題とはいっても、それぞれのアピールタイム! 何を言ってもいいですし何をしてもいいです! ただし、ここは高校の体育館その舞台上であるということは留意した上でお願いします! ではまずは』

 

 あ、これって一組ごとなのか。やらかしたと思った時には、彩芽とぎゅってしていた。

 

 俺と彩芽は『何を言ってもいいですし何をしてもいいです!』と聞いた瞬間お互いを見て、『ではまずは』という前に立ち上がって抱き合っていた。そりゃそうだ。何をしてもいいなんて言われて、ぎゅってする大義名分が得られた俺たちがやることなんて、これしかない。恥ずかしいなんて気持ちも、ぎゅってしたいっていう気持ちに打ち消されて、幸福感と安心感が生まれてくる。

 

「修也」

「ん?」

「……えっとね」

「行くか。スイーツキングダム。無料券なくてもいいだろ」

「!! うん!」

 

 思考を読まなくても、言いたいことがわかった。どうやら俺に思考を読む魔法は必要なかったみたいだ。

 

 あと、なぜか無料券はいただいた。

 

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