【本編完結】ぎゅってしないと好きになる魔法   作:酉柄レイム

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第35話 スイーツになるかと思った

 文化祭が終わって二日間の休みを挟み、登校日。教室に入ったら彩芽がメイド服で迎えてくんねぇかなとキショイ妄想をしながら教室に入れば、当然彩芽は制服姿だった。

 文化祭の日、ベストカップル決定戦が終わってから『宣伝効果すごそうだから』という理由で俺と彩芽は二人で校内を練り歩かされ、彩芽の思考がダダ洩れになっている状況をなんとか耐えるのはかなりの地獄、もとい天国だった。もちろんその様子は文化祭にきていた姉ちゃんに撮られて、父さんには《二人のおかげで魔力がたまった》と、脳内に直接声を届ける魔法を使って魔力を消費しながら伝えられた。あいつマジでバカなんじゃねぇかな。

 

「おはよう修也」

「はよー、舞坂」

「おはよう彩芽、中条」

 

 彩芽はにこにこしながら、中条は手をひらひらさせながらの挨拶に、手をひらひらと振って挨拶を返すと、彩芽がむっとした。何? 中条と一緒の挨拶の仕方したからむっとしたってことか? むっとするハードル低くねぇか?

 

《かおりの真似してる……》

「そんなのでいちいち拗ねんなよ」

「えっ、声に出てた!?」

 

 彩芽は魔法のせいなのかなんなのか、口を滑らせやすい。っていうかマジで中条と挨拶の仕方が一緒だったからむっとしたのかよ。もしかして彩芽って嫉妬深い? そんなところも可愛いぜ!

 彩芽の可愛さを再認識していると、中条から視線を感じた。にやにやと口元を緩めているのを見て、なんかからかわれそうだなと身構える。

 

「朝からアツいねー。何? 喋らなくても考えてることがわかるっての?」

「ん? 彩芽普通に喋ってただろ」

「え? や、喋ってなかったっしょ」

《え? 喋ってなかったの? それじゃあ、修也が私の考えてることがわかったってこと? ……ちょっと恥ずかしいけど、嬉しい》

 

 彩芽の声が聞こえ始めた瞬間、彩芽を見た。彩芽の口は動いていない。喋っていない。じゃあ俺が聞いている彩芽の声は、いったいなんなんだ?

 答えはいやでも理解できた。文化祭、ベストカップル決定戦で父さんからかけられた魔法。彩芽の考えていることがわかる魔法。でもあれはその日限りだって話だったし、なんなら今は意識しなくても彩芽の思考が読めるから、パワーアップ……いや、制御が効いてねぇのか?

 そんなことは今はどうでもいい。自分の席に鞄を置いて、「ちょっと出てくる」と言って教室を飛び出し、人目のつかないところへダッシュ。スマホを取り出して電話をかけた。

 

 相手はもちろん、クソ親父。

 

「おいどういうことだクソ親父! 魔法解けてねぇじゃねぇか!!」

『そうだと思って、父さんは修也に会うのが怖くて旅に出ることにした』

「責任取れやテメェ!! どうすんだよ意識しなくても彩芽の考えてることわかっちまうんだぞ!! あんなあっまいのずっと浴び続けてたらスイーツになっちまうだろうが!!」

『修也、人間はスイーツにはならない』

「わかってんだよンなことは!!」

 

 好きな子の考えていることがわかる。聞く人が聞けばいいことなんじゃないか、むしろそうなりたいって言う人がいるかもしれない。でも考えてもみろ。彩芽はめちゃくちゃ可愛い。男心をくすぐるプロだ。俺の心も彩芽にくすぐられすぎて「ちょっ、やめ、やめてください(爆笑)」って常日頃腹を抱えている。そんな彩芽の考えていることがわかるっていうのは、真正面から可愛いを浴び続けて男心がくすぐられ続けるのと同義だ。もしかしたら、保留にされている好きを伝えちまうかもしれねぇ。

 それの何が問題かって、彩芽は『魔法が解けるまで、気持ちが本物かわからないから』っていう理由で俺の答えを保留にさせている。それなのに『思考を読める』っていう魔法が原因で俺が好きって言おうもんなら、今後俺の口から発せられる『好き』の信用度がガクッと落ちる。

 

 じゃあ我慢すればいいんじゃないか? なんて舐めたこと考えるやつはこの世に一人もいねぇよな。好きな子からの好意を浴び続けて、それに応えないようにするなんて並大抵の男じゃ絶対無理だ!

 

「いいからすぐに魔力溜めて、この魔法だけでも解きにこい!!」

『それが、その魔法は時間制限でしか解けないんだ』

「なんでそうクソみてぇな魔法しか使えねえんだよ!!」

『そしてその時間設定をミスってしまったようでな。俺にもいつ解けるかわからん』

「次顔合わせた時覚悟しとけよ」

『彩芽ちゃんとそういう仲になった時、二人きりになれるよういくらでも魔法を使うし、大学は一人暮らしできるようにして彩芽ちゃんといつでもいちゃいちゃできるようにしてやろう』

「早く帰ってきてね、お父さん」

『流石俺の子だ』

 

 嬉しいことを言ってくれる父さんに笑顔で頷き、電話を切る。つかなんだ最後のセリフ。感情の高ぶりで目が赤くなる一族かテメェは。

 いつこの魔法が解けるかわからない。ただ少なくとも今日は解けないと思っておいた方がいいだろう。気合い入れねぇと、俺が俺でなくなるかもしれねぇ……!

 

 自分の頬を両手で叩いて気合いを入れて、教室に戻る。

 

《あ、修也だ! おかえり》

 

 にやけないように頬の内側を噛んで、視線だけ彩芽に向けた。彩芽は中条と他のクラスの女子と話している。ってことはなんだ。話中断して俺におかえりって言うのもなんだから、心の中でおかえりって言ったってことか? 可愛いがすぎるだろ。マジでふざけてんじゃねぇぞ。

 クソ、せめて彩芽の思考がダダ洩れになるなら、それが気にならなくなるくらいのものとかねぇのか……!

 

「お、修也やん。聞いてや。エナジードリンクってしょんべんみたいやんなって言うても、拓斗認めへんねん」

「このバカになんとか言ってやってよ。おしっこに炭酸があるわけないだろう?」

「助かった……!」

 

 現れた救世主二人の肩を抱き、「ありがとう……!」と言えば、「ええよ」「構わないよ」と返された。なんでお礼言うんだとか聞かねぇってことは、こいつら普段からお礼を言われてしかるべきって思ってるってことか? どんだけ図々しいんだよこのカスども。

 

 そうだ、俺にはこの二人がいた。こいつらがいれば、彩芽の考えていることがわかろうともなんとか乗り切れる。よかった、こいつらが友だちで。呪いのアイテムって限られた場面だと強いもんな。そういう理屈だろう。

 

「でもおしっこって一部の界隈やったら元気の象徴やろ? エナジードリンクやん」

「確かに、一理ある」

 

 ねぇよ。

 

「エナジードリンクはみんながみんな飲むわけじゃない。一部の人たちが愛飲しているから、あながち間違いじゃないね」

「ってことはしょんべんとエナジードリンクは似たようなもんってことやろ」

「朝っぱらから小便の話してんじゃねぇよ」

「え? さっきありがとうって言ってたから、てっきりおしっこの話をしてほしいのかと」

「俺らもこんな話したくなかったのに」

「さっき廻から『聞いてや』っつって話始めたよな?」

 

 言えば、廻は「ぶーっ! ぶーっ!」と口先をすぼめて空気を噴き出している。口笛のつもりか? へたくそってレベルじゃねぇぞ。

 ったく、朝っぱらから汚い話しやがって。彩芽の楽しい会話が汚れちまったらどうすんだ。

 

《……一部の界隈なら、元気の……修也はどうなんだろ》

「俺はちげぇからな!!!??」

「えっ!! な、なにが!!?」

 

 彩芽に恐ろしい勘違いをされそうになって慌てて否定する。

 

 ……どうなんだろって、ギリそういう趣味持ってるように見えてるってことか? めちゃくちゃショックなんだけど……。

 どうやら、考えていることがわかるっていうのは甘いだけじゃないらしい。スイーツになる心配はしなくてよさそうだ。

 

 

 

 

 

 訂正。スイーツになる。

 

《修也、こっち見ないかなぁ》

《修也、かっこいい……すき》

《デートいつ行こっかなぁ。手、つないだりしたいなぁ》

《あっこっち見た! 修也! 好き!》

 

 以上、今日の授業での彩芽の思考から抜粋。もし今日の授業を中心とした試験があれば、俺は生まれて初めての0点を取る自信がある。

 なんなんだこの可愛い生き物は? あまりにも《こっち見ないかなぁ》って声が寂しそうだったからちらって見たら、満面の笑みでちょこちょこ手ぇ振ってきたし。もしも俺が赤ん坊だったとしても惚れるぞあんなことされたら。もう惚れてるけどな!!!!!

 

 しかも、何回も好きって思ってるってマジだったし。好きすぎじゃねぇか? まだ嫌い合ってた頃から一年経ってねぇぞ? ……いやでも、父さんはぎゅってしないと好きになる魔法をかけてきたとき、好意がないと効果がないって言ってたから、気づいてなかっただけってのも……。

 

 やめよう。彩芽のことを考えたら、好きが溢れすぎて暴走しちまう。

 

《修也、何考えてるんだろ? 私のことだったらいいなぁ》

 

 今も可愛いのが隣にいるし。

 

 学校が終わって、下校。もちろん彩芽と帰り道が同じだから一緒に帰らないはずもなく、さっきからしきりに俺の口めがけて砂糖をぶち込んでくる。甘すぎる。

 

《あっ! も、もしかしてどこか変なとこあるとか!? こいつ可愛くねぇなぁって思われてたらどうしよう!?》

「可愛いぞ、彩芽」

「!!!??」

 

 目を白黒させてから俯いた彩芽は、ぼそっと「ありがと……」と呟いた。《え、なに、嬉しい、嬉しい!! えへ、可愛いだって。えへへ》って喜んでくれてるから、いきなり可愛いって言ったことに不信感は抱いてないっぽい。よかった。可愛くねぇなんて思うわけねぇから咄嗟に言っちまったけど、不信感よりも嬉しさが勝ってくれた。今も考えてることが隠しきれずに「ふふ」って嬉しそうに笑ってるし。

 

《……どうしよ、ぎゅってしたくなってきちゃった。魔法、じゃないけど。うー、いっぱいぎゅってしてたから、一日一回くらいぎゅってしないと落ち着かない……》

 

 おい、俺の袖きゅって握ってんのは無意識か? ぎゅってしたいからって俺の腕に意識がいってるってか?

 

《ま、魔法のせいにして、ぎゅってしたいって言っちゃおうかな? でも、いやらしい子だって思われちゃったらどうしよ》

 

 いやらしいのレベルが低すぎて可愛い。したいって言ってくれたらすぐにするし、なんならしたいって言ってくれなくてもしたい。好きな子とぎゅってしたくない男なんてこの世に存在しねぇんだから。

 

《……んーん。よくないよね。私から修也に告白の返事しないでって言ってるのに、困らせるようなことしちゃったら。それに、修也の隣にいられるだけでも十分……だけど、からかってやろ》

「修也っ」

「ん?」

 

 からかってやろって何するつもりだ? てかよくないよねって言っといてからかってやろって矛盾してねぇか?

 ……いや、あれか。ぎゅってしないって決めたけど、それはそれとしてイチャイチャしたいみたいな、そういうことだろ。

 

「どう? そろそろ私とぎゅってしたいとか思わない?」

 

 したいです!!!!!! という言葉はぐっと飲み込んで、「まだ魔法の効果は出てねぇよ」と返す。あぶねぇ。彩芽の目が「したいって言ってくれないかなぁ」って目ぇしてたし、なんなら《したいって言ったら仕方ないよね!》って思ってたし。わかった、彩芽は俺を殺す気なんだな?

 

「ふーん、そっかぁ。いいのかなー。したいって言えば、ぎゅってしてあげるのになー」

「……」

「あ、もしかしてドキドキしすぎてぎゅってできないとか? ぷぷ、可愛いね修也」

「ぎゅってしたいなら素直にそう言えよ」

「違うし!!!!! バーカ!!!!!」

 

 一瞬で顔を真っ赤にして、彩芽は走って逃げて行った。からかってきたくせに弱すぎだろ。

 

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