12月に入り、「最近寒くなってきたねぇ」の時期を通り越してすっかり冬。街の様子は本格的にクリスマス仕様に姿を変えて、学校へ行けばクリスマスの過ごし方についての話がそこら中から聞こえてくる。
そして、俺の目の前にいる天ケ瀬は、クリスマスの過ごし方についてめちゃくちゃ悩んでいるようだった。
「クリスマス、どうやって倉敷誘えばいいスかね……」
この前姉ちゃんと結菜にアドバイスを受けていた俺は、アドバイスする側になっていた。
凪咲ちゃんからちょくちょく天ケ瀬の話を聞くくらいには関係は良好なようで、まっすぐすぎる天ケ瀬と、しっかり者な凪咲ちゃんは相性がいい。二人が並んでいる姿を見ればカップルっていうよりかは姉弟みたいな感じに見えるけど、時々天然で天ケ瀬が凪咲ちゃんを照れさせたりと、しっかり年頃の男女の関係を築けている。
そんな天ケ瀬が、勝負する男の目をしている。先輩として男として、相談に乗らないわけにはいかなかった。
「ゴムはもう準備したんか?」
「ホテルの予約は? まだなら両親に言って僕の家を空けるけど」
最悪なのは、俺がバカ二人と一緒にいるときに相談しにきたことか……。
バカ二人は勉強をやっていなかっただけで吸収は早かったのか成績の向上が見られ、雪野さんから「成績を維持、もしくは順調に向上できなければまた教育しますね」と脅しに似た何かを受けた二人は、地獄から解放された。
それならばと空き教室に集まり始め、「やらないと殺されるから」という理由で期末試験の勉強をしているバカ二人の面倒を見ている時にやってきたのが天ケ瀬。雪野さんの教育で恋愛方面の相談もなんとかこなせるようになってねぇかなという願いは、バカ二人の第一声で粉々に打ち砕かれた。
「まだそこまでする気ねぇっスよ! ちゃんと告白して、彼女になってもらいてぇんス!」
しかし、常人であれば「は? キショ」とはねのけるであろうバカ二人の言葉に、天ケ瀬は明るく返す。その姿はまさしく聖人であり、「根性あらへんなぁ」「凪咲ちゃんが魅力的じゃないとでも言いたいのか?」と言うこいつらは人でなしだった。
「でも意外だな。天ケ瀬なら相談もせず直球で凪咲ちゃんを誘いそうなもんなのに」
「いつもの俺ならそうしてたんでしょうけど、ほら。一回告って向こうがそれ意識してるから、流石の俺でもちょっと恥ずかしいっつーかこえーっつーか」
「わかるわぁ」
「廻にそんな経験ないだろ。わかった風なこと言うなよハゲダルマ」
「確かに、俺ちょっとやそっとじゃへこたれへんしな」
ハゲダルマをちょっとやそっとじゃへこたれないっていう褒め言葉として受け取るのお前くらいだぞ。
天ケ瀬の気持ちは、まぁわかる。凪咲ちゃんは天ケ瀬が自分に好意があるってわかってるし、その状態でクリスマスに誘われたら『そういうこと』だって意識する。でもそれって、OKした時点でもう告白は成功したようなもんじゃねぇのか? いや、だから怖いって言ってるのか。そこで断られたらまだダメってことだし……。
「いや、気にする必要ねぇんじゃねぇか? むしろ、一回好きだって言ってんのにクリスマス誘わねぇのは失礼だろ」
「! 確かに! 俺ちょっと行ってきます!」
「ちょ、早」
天ケ瀬は立ち上がって、教室を飛び出していった。行動力の化身かよ。
「どうやら、俺のアドバイスで決心ついたみたいやな」
「いや、僕のアドバイスじゃないかな」
「ワリィけど、お前ら一ミリも貢献してねぇぞ」
さっさと勉強しろと言えば、血相を変えて勉強し始めた。なんかごめん。そこまで雪野さんに恐怖を植え付けられてるとは思わなくて……。
前に凪咲ちゃんから『告白された』と相談を受けた時と同じ、食堂その一角。そこに前と同じように俺と彩芽、そして凪咲ちゃんで集まっていた。
「あの……また天ケ瀬くんから告白されまして……」
「早すぎんだろ」
頬を赤く染めて俯きながら言った凪咲ちゃんに、もう少し落ち着きを持てって天ケ瀬に言った方がいいかと本気で悩む。なんかクリスマスどうやって誘うかみたいな話じゃなかったっけ? それがなんで告白になるんだ?
あれか。クリスマス誘おうとしたけど、その先のことを考えて気づいたら告白してたみたいな。まっすぐすぎて眩しい。絶対晴れ男だろあいつ。
「へー! 今度はどうするの? もうすぐクリスマスだし、やっぱり」
「そうなんです、クリスマスなんですよ!」
凪咲ちゃんは顔を上げて、両手でテーブルを叩く。「わっ、痛くない?」と凪咲ちゃんの手を取って心配する彩芽が超キュートでso cuteって感じだ。誰か俺を殺してくれ。
「わ、私がオッケーしたら、その、クリスマスも一緒に過ごすことになるでしょうし、そうしたら、その、雰囲気に流されて色々進んじゃうかもしれませんし」
彩芽と目を合わせる。持って帰っちゃだめ? ダメだろ。拓斗の下から離れられるのはいいかもしんねぇけど。
もじもじごにょごにょ。オノマトペで表せばそれが最適であろう凪咲ちゃんの姿に、俺と彩芽は可愛さで撃ちぬかれた。マジで気をつけろよ凪咲ちゃん。俺たちが有名な誘拐グループなら、今凪咲ちゃんは無事じゃねぇぞ。よく考えたら有名な誘拐グループだって知ってて話しかけたりしねぇだろうけど。
「色々進んじゃうって? どういうこと?」
「おいやめてやれって」
姉ちゃんのいじり癖がうつったのか、彩芽がにやにやしながら凪咲ちゃんに詳細を聞き始めた。いじり癖がうつったっていうか、時々俺をからかってくるから元々そういう一面がある気もするけど、今そこをつついてやるのは可哀そうだ。
興味津々な彩芽を俺が注意するとしかし、凪咲ちゃんはぽそっと「キス、とか」と呟いた。あぁ、そんな可愛いもんだったのか。最近の高校生ならそれ以上のことを想像するかと思ったけど、結構初心なんだなぁ。
「えー! それは、すごいね……」
いたわ。凪咲ちゃん以外の初心なやつ。
え、マジで? 俺らめちゃくちゃぎゅってしてんのに、「色々進んじゃう」で「キス」って言われて、「すごいね」? もしかしてちゃんと彩芽と付き合えても、色々進むスピード遅いのか……? 付き合えるなら贅沢言わねぇけど、生殺しオブ生殺しくらいそうだな。覚悟しておこう。
「まぁ確かに、クリスマス一緒に出掛けるってなったら周りカップルだらけだろうし、そういう雰囲気になってもおかしくねぇな」
「でしょう!? 付き合ってすぐにキスなんて、は、はしたないって思われないかなって」
「いや、はしたないなんて思わねぇよ。むしろめちゃくちゃ喜ぶと思うぜ? 好きな子が雰囲気に流されたとしてもキスしたいって思ってくれるなんて、それで喜ばなかったらそりゃ男じゃねぇよ」
「……そうなの?」
マズい! 彩芽も聞いてるんだった! こんなこと言ったら「喜んでくれるん、だよね?」って言ってぎゅって目を瞑りながら頑張って背伸びして、俺の頬にキスしてくるかもしれねぇ!! そんなことされたら抱き潰すぞ俺は!!
落ち着け、深呼吸だ。最近彩芽に対する妄想がひでぇぞ。こんなこと考えてるって彩芽に知られたら、敬語つかわれる上に距離を取られる。なんで俺の妄想はこう具体的かつキショイんだ。
「つーか、そういうこと考えるってことは、告白自体はまんざらでもないのか?」
「……」
「わ!」
こくん、と頷いた凪咲ちゃんに、彩芽が目を輝かせて凪咲ちゃんを見て、俺を見て、めちゃくちゃ楽しそうにしている。可愛い。
にしても、そうか。そうか! いやー天ケ瀬めちゃくちゃいいやつだからいいやつ止まりにならねぇか心配だったけど、安心したぜ。今すぐ天ケ瀬に「めちゃくちゃ脈ありだぞ!!!!!!!」って伝えたいけど、それは凪咲ちゃんに申し訳ないからやめておこう。
「じ、自分が恥ずかしい……。前断っておいて、ちょっと期間空いただけでオッケーなんて」
「気にすることないよ! 天ケ瀬くんのこと好きって思ったんでしょ?」
「……好き、か、どうかは、その、えっと」
「ぜってぇ好きじゃん」
睨まれた。もちろん怖くもなんともなく、可愛すぎて頬が緩み、それに嫉妬した彩芽が俺の服の裾をきゅっと握って睨まれて、可愛いの波状攻撃を受けた。もし今俺がリングに上がっていたら、KOで負けていたに違いない。
「そりゃあ気にはなりますよ! だって、私のこと好きって知ってる男の子が、毎日毎日態度で好きを振りまいて、何の打算もなく『かわいい』って言ってきて、そんな積極的なクセしてちょっと手が触れたら顔赤くして、どっちが可愛いんだって話ですよ!」
「どっちも可愛いと思う」
「同じく」
天ケ瀬、そんなことしてたのか。同じクラスのやつらは糖分摂取しすぎて病院送りになってんじゃねぇか?
……俺たちも同じようなもんか? そんなはずない。俺はちゃんと気を付けてる。ただ彩芽が可愛すぎて態度に出ちゃうことがあるだけだ。
「うぅ……大丈夫ですよね? ちゃんと無事にクリスマス過ごせますよね?」
「大丈夫だって。天ケ瀬ならちゃんと優しくしてくれる……言い方悪かったな。凪咲ちゃんが嫌がるようなことしねぇし、凪咲ちゃん相手なら何されても許してくれるさ」
「……わ、私も、何されても許しちゃうかもなぁ」
「おねだりが下手すぎんだろ」
「思っても言わないでよ!!」
うえーん! 修也がいじめるー! と言って彩芽はテーブルの下に潜り込み、対面に座る凪咲ちゃんのところへひょっこり顔を出して凪咲ちゃんに抱き着いた。あぶねぇ。凪咲ちゃんがいてくれたから平然とできたけど、もし二人きりだったら抱きしめてキスするところだった。おねだり大成功するところだった。うますぎんだろおねだりがよ!
「舞坂先輩。一応ですけど、えっちなことはだめですからね?」
「しねぇよ。そんな節操ナシじゃねぇし」
「……」
おい、そこで黙んなよ彩芽。違うよな? 期待してたわけじゃねぇよな? 好きを保留させたのそっちだからな? マジでやめろよ。彩芽の言葉と態度次第で俺は獣になるんだからな。