【本編完結】ぎゅってしないと好きになる魔法   作:酉柄レイム

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第38話 今日はクリスマス

 クリスマス。街を歩けばカップルカップルカップル時々家族。天気に恵まれて空に輝く太陽は、今日という日を祝福しているようにすら思えた。

 そんなクリスマスという日。スイーツキングダムを訪れた俺たちは、早速ぎゅってしていた。

 

「……」

「……」

 

 不定期にぎゅってしたくなる魔法、その効果。それによってぎゅってしたくなった俺たちは席に案内され、店員さんが離れた瞬間、「カップルばっかだし、ぎゅってしてもいいんじゃないか?」という甘い考えのもと抱き合って、結果注目を集めた。そりゃそうだ。きた瞬間抱き合うカップルなんて見たことねぇし。

 どうやら、クリスマスっていう特別感と、学校でも街中でもなく、カップルが多いからっていう油断で判断力が鈍っていたらしい。そっと体を離して、次からはちゃんと場所を考えようと頷き合った俺たちは、スイーツを取りに向かった。

 

 スイーツキングダム。前に彩芽と凪咲ちゃんときたラウト内にある、バイキング形式でケーキやプリン、チョコレートフォンデュなど、様々なデザートを楽しめる場所。クリスマスだからかチキンやポテトなどもあって、もちろんそれ以外にもスイーツだけじゃなくてカレーとかパスタとか、甘いものばっか食べられない人も楽しめるようになっている。

 

「のに、清々しいくらい甘いもんばっかだな」

「この日のために絞りましたから!」

 

 彩芽の前にあるのはスイーツの山。正直見るだけで胸やけしそうだけど、彩芽が嬉しそうに「いただきまーす!」と言っている姿を見れば……いや、余計胸やけしそうだ。何もかも甘すぎる。コーヒーを飲めないのを後悔したのは初めてだ。

 

「そういや、クリスマスのキャンペーンってなんなんだ? 結局内容聞かずじまいだったけど」

「え、えーっと、その、それがですね……」

 

 彩芽は食べる手を止めて、スマホをいじってから俺に見せてくる。そこにはスイーツキングダムのホームページがあり、『仲のいいカップルがいらっしゃれば、店員が「宣伝用の写真を撮らせていただけませんか」とお声がけさせていただくことがあります。ご了承いただければ、ラウトでご利用いただける福引券をプレゼントいたします』と書かれていた。

 

「ま、まぁ、福引券はお買い物しても手に入るし、修也が嫌なら断ってもいいんだけど?」

「声かけられるかどうかもわかんねぇし、むしろ彩芽は嫌じゃねぇの?」

「……」

 

 黙ってしまった彩芽に首を傾げる。試しにポテトを口元に運べば、ぱく、と咥えて食べ始めた。夏祭りの時もそうだったけど、小動物みたいでマジで可愛い。黙ってたのに「おいし」と呟くのも可愛い。

 

「どうした? 彩芽」

「……店員さんが声かけてくれるってことは、仲いいカップルに見えたってことでしょ」

 

 可愛くて甘すぎて、ポテトを口へ運んだ。

 

 つまり、なんだ? 『仲のいいカップル』に店員さんが声かけるってことは、声かけられたら仲のいいカップルに見えたってことで、嬉しいなって思うってことか? とんでもなく可愛いなこいつ。それを期待してクリスマスにここへきたかったってことか。

 だとしたら、彩芽に喜んでほしいから声かけてもらいたい。とはいってもまさか店員さんを捕まえて「俺たち仲いいですよ!」っていうわけにもいかねぇし、普通にしてるしかないけど。でも、俺たちカップルってわけじゃねぇから、望は薄いだろうなぁ。

 

「あのー、少しお時間よろしいですか?」

 

 声かけられたよ。

 

 恥ずかしそうに俯いていた彩芽と、そんな彩芽を可愛いなと思いながら見つめていた俺は、かけられた声に反応してそっちへ顔を向けた。そこにはやはり店員さんがいて、その手に立派なカメラを握っている。

 

「失礼ですが、カップルですよね?」

「えーっと」

「来店して席へ案内した直後にぎゅってしてましたもんね! 暖房いらずのおアツさ、ご馳走様です!」

「カップルです……」

 

 厳密にいえばカップルじゃないよね、と口をもごもごさせていた彩芽は、店員さんの言葉にこれでカップルじゃないっていうのは流石に無理があると察して降参した。ちら、と俺を見てきたのは「勝手に言っちゃってごめんね」っていうことだろうなぁと思いつつ、「いいよ」というつもりで笑ってみせれば、目を見開いた後俯いてしまった。なんだ? 俺の笑みが見るに堪えなかったってか?

 

「実はですね、仲のいいカップルのお写真を宣伝用に撮らせていただいておりまして、許可いただければラウトで使える福引券をプレゼントしています!」

「あぁ、知ってます。って言っても、俺じゃなくて彼女がそれを知ってて、俺が知ったのはついさっきですけど」

「おや? 何か面白そうなお話ですね」

「はい。どうも、『仲のいいカップル』に見られたいって思った彼女が、どうしてもここにきたいと」

「修也!」

 

 彩芽、復活。顔を真っ赤にしてプチシュークリームを俺の口にぶち込んで、言葉を遮ってきた。遮り方がパワーすぎる。シュークリームを咀嚼して飲み込んで、「ごめんな?」と謝ろうとすると、また俺が余計なことを言うと思ったのか、人差し指を当てて阻止してきた。

 

 は? 可愛い。

 

「はい、いただきました! 勝手に撮るので自然にしてくださいと言ってもぎこちないカップルが結構多いんですけど、そんな心配いりませんでしたね!」

「えあっ」

 

 今更店員がいることを思い出したのか、俺の口から人差し指を離してまた恥ずかしそうに俯いた。目を凝らせば湯気が見えてきそうなくらい顔を真っ赤にする彩芽に、もう受け答えできなさそうだなと判断した俺は、「いい写真撮れました?」と聞けば親指を立てて頷かれる。この人、ノリよさそうだな。

 

「こちら、福引券になります! おひとり一つずつです! それではごゆっくり!」

 

 店員さんから福引券を受け取って、お礼を言ってからまた彩芽を見た。

 すると彩芽は、さっき俺の口に当てていた人差し指をじっと見て固まっている。その視線の先に福引券を持って行ってやれば、はっとして手をわたわたさせ始めた。

 

「ちっ違うの! その、えっと、か、間接キスとかそういうの全然考えてなくて、あっ、福引券! あとで行こうね!」

「気をつけろよ。めちゃくちゃ可愛いぞ」

「うっさい!!!!!」

 

 彩芽は追い詰められたら「うっさい!!!!!」というクセがあるらしい。何から何まで可愛いなこいつ。彩芽のお母さんが産むときに『世界一可愛くなる魔法』でもかけたのか? そうじゃないと説明つかねぇぞ。

 

 勢いよく食べ始め、喉を詰まらせている彩芽に水を渡すと、「何!!?」と言って睨まれた。「結局間接キスしてんじゃん」とからかってみれば、「っ! へ、へー。修也、間接キスとか気にするんだ。可愛いとこあるんだね」と反撃され、「彩芽のが可愛いに決まってんだろ」と返せば、静かになった。

 

 勝ったぜ。

 

 

 

 

 

 修也が余裕そうでおもしろくない。

 

「どうした? 彩芽」

「なんでもなーい」

 

 スイーツキングダムでいっぱいいじられて、やりすぎってことをわからせるためにむすっとした態度とってるのに、修也はずっとにこにこしてる。それどころか、前から人がきてどっちに避けるか慌てる私を、「こっちおいで」って肩を抱き寄せられて、私の余裕を奪ってくる。何、「おいで」って! いつもそんな優しい口調じゃないじゃん! 子どもだと思ってんの!

 修也がそうくるなら、私は子どもじゃないってことをわからせてあげなきゃいけない。修也の腕をぎゅって抱いて、ちょっとやりすぎかなと思いながら胸を当てる。ふふ、びっくりしてるびっくりしてる。私をからかうからそうなるんだ。

 

「彩芽」

「人多いから!」

 

 かくいう私も更に余裕がなくなってしまった。策士め。

 

 自分からやってなんだけど、かなり恥ずかしい。周りを見ればカップルがこうするのは珍しくないんだろうけど、私たちはカップルじゃないし、そうだったとしても恥ずかしいのに変わりはないと思う。どうしよう。私からやったから引っ込みつかないし、修也喋んなくなっちゃったし、し、失敗した?

 

 不安になって修也を見上げれば、目が合った。咄嗟に顔を逸らそうとしたら、「彩芽」と名前を呼ばれて、なぜか顔を逸らせなくなる。

 

「な、なに?」

「……えーっと、胸、当たって、ます」

 

 かわいい。うれしい。やっぱり、意識してくれたんだ。ふん、これに懲りたら私を子ども扱いしないこと。ちょっと余裕戻ってきた。当たってます、だって。敬語使うなんて変なの!

 

「ふふ、当ててるんだよ」

「は? あんま可愛いこと言ってんじゃねぇぞ直接触るぞコラ」

「えっ、あっ、う、ご、ごめんなさい……」

 

 怒られた、の、かな? 直接触るぞって言わなかった? そ、それはまだちょっと早いと言いますか、私はまぁ、ちょっと、覚悟してきたけど、やっぱり早い。むり。そんなことになったら恥ずかしくて死ぬ自信がある。

 

 これ以上修也を刺激しちゃいけない。腕を離して「ごめんね?」って言ったら、修也はちら、と視線を私の手に向ける。

 

「手」

「手?」

「人、多いんだろ」

 

 差し出された手の意味を理解して、修也の手を握る。うれしい、好き! かわいい! 好き!

 

 嬉しくなってぶんぶん握った手を振ったら、修也が笑って、つられて私も笑う。

 

 ……好きって、保留にしなきゃよかったなぁ。

 一瞬後悔した私の変化を感じ取ってくれた修也の「どうした?」に「なんでも!」と誤魔化して、私たちは屋上へ向かった。

 

 

 

 

 

 ラウトの屋上には庭園がある。よく手入れされた花畑が屋上一面に広がっていて、クリスマスだからかその中心にクリスマスツリーがあった。それらはイルミネーションで彩られていて、地上に星の海があるように見えた。

 

「綺麗……」

「彩芽の方が綺麗だよ……」

「さむい……」

「どういう意味だコラ」

 

 そんなに寒いなら。俺は持ってきたバッグを漁ってマフラーを取り出しそっと彩芽に巻いた。クリーム色とホワイトのチェックにブラウンのラインが入ったマフラー。巻いている間彩芽は固まっていて、面白くなって顔ごと巻けば、しばらくしてからもぐらみたいに顔を出してきた。

 

「なっ」

「クリスマスプレゼント」

 

 何かを聞かれる前に答えれば、「目瞑って!」と言われ、言われた通りに目を瞑る。

 

 すると、首に暖かい感触。「もういいよ」という彩芽の声で目を開ければ、俺の首にもマフラーが巻かれていた。しかも、彩芽にプレゼントしたものと同じもの。

 

「……」

「……」

「マジ?」

「まじ」

 

 クリスマスプレゼントに同じもの選ぶって、嘘だろ。

 彩芽と目を合わせれば、胸に飛び込んできた。そのまま抱きしめて頭を撫でれば、抱きしめる力を強めてくる。

 

「好き。好きだよ、修也」

「……俺には言わせねぇくせに」

「ふふ、気づいたんだ。保留にしてる間は、私だけの武器だ! って」

「もうよくね?」

「だめ!」

 

 だめらしい。せめてもの抵抗で強く抱きしめれば、「わっ……ふふ。なーに?」と俺の胸に顔を埋めながら彩芽が笑う。

 

 魔法は発動していない。それでも、俺たちが離れたのは数分経った後だった。

 

 ちなみに、福引券で当たったのは超ド級ハイパーマックストリケライナーHDMIの右腕と左腕だった。ここにいたのか、お前ら!!

 

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