大晦日。大体の人は家族か恋人か、大切な人と過ごし新年を迎えるっていうのが普通だと思う。
でも俺は違った。両親は「正月くらいラブラブさせろ!」と言ってどこかへ出かけ、姉ちゃんは「お父さんいないの? ラッキー」と言ってどこかへ出かけ。何が悲しくて一人で新年迎えなきゃなんねぇんだと思った俺は、何を思ったのかバカ二人に連絡し、ちょうど『一緒に年越ししたら縁起が悪いから』という理由で叩き出されていた二人はそれを快諾。
そして今。暇だからまたハイパーブラックすごろくでもするかと言ってさっきそれが終わり、猫耳をつけてケツから尻尾を生やし、『ノブリン突撃部隊』と胸板に墨で書いている廻、バニーガールの恰好をして、むき出しになった背中に『2割引き』と墨で書いている拓斗、体中にキスマークをつけて、サンバの衣装を身に纏う俺という地獄絵図ができあがっていた。
考えうる限り最悪の年越しだ。
「まさか年末に男の体にキスすることになるとは思わんかったわ」
「もし今新年迎えてたら、男の体で書初めすることになってたんだな……」
「後ろを向くのはやめよう二人とも。そんなことより年越しと言えばなんだと思う?」
「隣やろ?」
「そばだろ。クソくだらねぇ」
年越しそば。食べなきゃいけないってわけじゃないけど、なんとなく食べておくかとコンビニでカップ麺のそばを買って、キッチンに置いてある。
リビングにはこたつ。そして俺たちはあのゴミみたいなすごろくのせいでほぼ裸同然。もちろん誰も動くことはなく、睨み合いと同時にゴングが鳴った。
「……ここは、さっきすごろくで負けたやつがそば作りに行くってのはどうだ?」
さっき負けたのは廻。『猫になったから10回休み! その間、ずっと猫の真似をすること!』という罰ゲームを引いて、そのまま敗北した。ちなみに廻が10回休みになる前、俺は『サンバに参加したから10回休み! その間、ずっとサンバを踊ること!』という罰ゲーム、拓斗は『バニーガールになったから10回休み! その間、艶めかしいポーズを取り続けること!』という罰ゲームをくらっていたから、数十分の間俺たちは地獄の深淵を体験した。
「まぁ待てや。そら俺が作るそばが一番おいしくて死ぬほど食べたい言うんはわかるけど」
「んなこと一言も言ってねぇだろうが」
「君にカップ麺を作る知能があるかどうかも怪しいのに」
「何言うとんねん。どっからどう見ても頭ええやろが」
「猫耳つけてケツから尻尾生やして、胸に『ノブリン突撃部隊』って書いてるやつはどう考えても頭ワリィだろうが」
わかってはいたけど、すごろくで負けたからっていうのは納得させられない。すごろくを始める前に『負けたやつがそばを作る』って決めてたら納得しただろうけど、終わった後で負けたやつがっていうのは後出しじゃんけんだ。負け犬は黙って言うこと聞いてりゃいいのに。
「よし、それじゃあ平等に行こう。全員でそばを作るっていうのはどうだい?」
「全員で?」
「そう。かといってポットは一つ。お湯を入れる待ち時間が発生する。だから一人ずつ行こうじゃないか」
「ほーん。まぁせやったら俺から行くわ。さっき負けたし」
廻がこたつから出て、「さむっ」と言いながらキッチンへ向かう。
「廻。ちょうどいいから俺たちの分も作っておいてくれ」
「お前らは俺を怒らせた」
廻、キレる。拓斗の提案にバカみたいに乗せられた廻にそばを作ってくれって頼んだだけなのに、俺と拓斗はこたつから引きずり出された。やめろ! 今ここにいるのがお前らだけだってわかっててもサンバ衣装はずいんだよ! てかなんで猫耳と尻尾とバニー衣装とサンバ衣装があるんだよ!
「こうなったらこたつに入る権利をかけて勝負や! 負けたやつが全員分のそばを作る!」
「ならさっさとするぞ! サンバ衣装は冷える!」
「ならじゃんけんでいい! 行くよ、じゃん、けん!」
ポン!
ポン!
ポン!
ポン!
ポン!
「なんで五回連続同じ手出すんだよ!! 仲良しか僕たちは!!」
「お前らが俺の真似してんやろうがボケ!!」
「真似して同じ手出す技量があるなら勝ちにいくに決まってるだろクソ猫チクショウが!」
なんの冗談だ!? 五回連続三人が同じ手を出すってどんな確率だよ! 年末にくだらねぇ奇跡見せてんじゃねぇぞ!
「クソ、このままじゃ仲良く凍え死ぬ!」
「ほなあれや、『この夏、赤谷廻と一緒に行くとしたらどこ?』みたいなお題に回答して、一番共感得られへんかったやつがそば作りに行くってのはどうや!」
「例題が最悪だけど、仕方ない。ちょうどフリップもあるところだし」
「ちょうどフリップがある意味がわかんねぇけど、待て。三人で決めるってなったら一人が集中攻撃受けて平等じゃねぇだろ」
俺はサンバ衣装で、廻は猫耳をつけてケツから尻尾を生やし、拓斗はバニーガールの衣装で考える。俺たちは納得のいく敗北じゃないと難癖付けて認めない。そうなるとサンバ衣装のまま凍え死ぬことになる。やだぞ俺、『1月1日、男子高校生三名がド変態な衣装で死亡している姿が発見されました』ってニュースに出るの。
「こうなったら誰かにお題出すのと敗北者を決めるのを頼んでみるか……」
「でも誰に? 大晦日にそんなバカなことを聞いてくれるような人がいるとは思えない」
「それはほんまにそう」
「いや、多分中条あたりならなんだかんだでやってくれる。迷惑かけるのにちょうどいい相手だしな」
「それはほんまにそう」
「マズい! 廻が凍えすぎて『それはほんまにそう』しか喋れなくなってる!」
「待ってろ廻! 今助けてやるからな!」
サンバ衣装の胸の部分に挟んでいたスマホを抜き取り、中条へ電話をかける。コール音が3回鳴った後出てくれて、すぐにビデオ通話へと切り替える。
『は?』
「頼む中条! 今から『【え】から始まるサンバの衣装は』みたいなお題を出して、それに俺たちが回答するから一番共感できなかったやつを選んでくれ!」
『とりあえず尋常じゃない事態ってことはわかったけど、それほんとにやんなきゃいけない?』
「見てわからねぇのか! 人の命がかかってんだぞ!」
『見てわかんないから聞いたんだけど』
中条のやつ、大晦日だからって浮かれて頭が回ってないのか……? いつもなら俺たちの状況を見て、なんなら俺が言う前にお題を提供してくれるはずなのに。
でも仕方ない。浮かれている中条には悪いが、俺たちの回答が見えるようにスマホを固定して、フリップとペンを手に持った。『うわ……』という中条の声が聞こえてきたが、時間がないから気にしている余裕もない。
「さぁ頼む中条」
「それはほんまにそう」
「僕たちには中条しかいないんだ!」
「それはほんまにそう」
『……私が断ったら犠牲者が増えそうだから、しゃーなしね。【あ】から始まる甘いものは?』
【あ】から始まる甘いもの?
考えろ、これは一番共感できなかったやつが負けるゲーム。言い換えれば、中条に共感してもらえれば負けないゲーム。だとすると、中条が共感してくれそうな回答をするのが一番だ。そして幸いにも、中条は彩芽の親友。中条のことは彩芽を介して色々聞いてるから、何が一番共感を得やすいかなんてサンバを踊るようにわかる。間違えた、手を取るようにわかる。
「俺は書けたぞ」
「僕も書けたよ」
「それはほんまにそう」
『そ。早くして』
「何を言ってるんだい中条。それでは一斉にオープンって言う約束だろう?」
『そんな約束してないけど。フィッシング詐欺のやり口じゃん』
「頼む。見てわかると思うけど、言ってわかるようなやつらじゃないんだ」
『それはそっちが言うセリフじゃないと思うけど、それは見たらわかる』
中条はため息を吐いて、『……それでは、一斉にオープン』と小さい声で言った。それに合わせて俺たちは手に持っていたフリップを一斉にオープン!
俺『彩芽』、拓斗『あんこ』、廻『アップル』
『まず倉敷は抜けていいよ』
「ハッハッハ! ハッハッハ! ハッハッハッハッハッハッハッハ!」
「なんか意味のある言葉喋れよ! 笑うだけが一番ムカつくんだよ!」
「マジでキレるぞ」
「怒りで廻が復活した……」
なんで俺が抜けられないんだ!? 中条なら彩芽が甘いって知ってるだろ? 知ってるっていうかそう思ってるだろ? まさか、親友とは名ばかりで、彩芽のことよく知らねぇんじゃねぇのかこいつ!
いや、そんなことはない。彩芽と中条は確かに親友で、だとすると俺と中条の間で彩芽に対する認識に相違があった。ミスった! もしかしてサンバ衣装のせいで開放的になっちまってるのか!?
「よぉ考えろ中条! これは一番共感できひんやつを選ぶゲーム! せやったら、まだ俺の方がわかるやろ!」
「待て中条! 彩芽がいかに甘いか、お前にならわかるだろ! アップルなんかとは比べ物にならないくらい、つーかアップルってなんだよアップルって! お前日常生活でりんごのことアップルって言ってんのかよ!」
「リンボーのことアップルって言うわけないやろ!」
「言ってねぇだろうが! 俺がサンバ衣装だからって舐めてんじゃねぇぞ!」
「常識から外れたやつらの争いは醜いね」
『あーもうめんど。赤谷でいいよ、一番共感できないやつ』
「何ィ!?」
「よっしゃあ!!」
やっぱり俺は間違ってなかった! 『あーめんど』って聞こえたから適当に決めた可能性もあるけど、中条は彩芽のことを甘いと思っていて、でも最初に俺に対して『抜けていいよ』って言ったらあんこよりも彩芽を甘いって思ってるってことになって、恥ずかしくなったんだよな? 俺にはわかるぜ。でも気にしなくていい。彩芽が甘いなんてことは彩芽と一緒にいたら当然のことだ。
「突然悪かったな、中条」
『こんなに突然が似合う状況初めてだった……。さっさとあったかくして寝なね』
「あぁ、ありがとう」
「よいお年を」
「それはほんまにそう」
『えげつない初夢見ちゃったら恨むかんね』
その言葉を最後に、中条との通話が切れる。やっぱり中条はいいやつだ。大晦日にこんな迷惑なお願いを聞いてくれるなんて。
「それじゃあ廻、そば作ってくれ」
「しゃあないなぁ」
俺と拓斗がこたつに入り、廻がキッチンへ向かう。しばらくして廻が手ぶらで戻ってきて、こたつに入った。
「……おい廻。そばは?」
「作ってきたで?」
「なんで持ってきてないの?」
「忘れてきたで?」
「……」
「……」
「……」
ゴング、二回目。その後俺たちは激闘を繰り広げ、伸びたそばを食いながら新年を迎えた。マジで最初こいつらじゃなくて彩芽に電話すればよかった。