【本編完結】ぎゅってしないと好きになる魔法   作:酉柄レイム

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第40話 勘違いの元旦

 1月1日、元旦。

 

 初夢を何も見なかったのは、とんでもない疲労があったからだろうなと考えながら顔を洗い、サンバ衣装を身に纏った自分を見て昨日の地獄を思い出す。

 昨日は俺が俺じゃないみたいだった。早くこのサンバ衣装を脱がねぇとサンバになっちまう。体中キスマークついたまんまだし着替えるついでに洗い落とすために風呂に入って上がって着替えてリビングに戻って化け物どもが寝ているのを横目にスマホを確認すれば、彩芽からVEINがきていた。

 

 まさか、初詣のお誘い!?

 

『お幸せに』

「なにィィィィイイイイイイイ!!!!!!!?????」

 

 きていたのはそんなメッセージ。初詣のお誘いかと思って舞い上がっていた俺は、一気に地獄へ落とされた。昨日から地獄ばっかだな。

 

 お幸せに? なんだ、なんかフラれる時の言葉としか思えねぇぞ。彩芽になんかやっちまったか? 昨日ちゃんと日付が変わった瞬間に『あけましておめでとう』って送ったし、寝る前までずっとVEINのやり取りやってたし、少なくともあの時は『お幸せに』なんて言われるような雰囲気じゃなかった。

 

「うっさいなぁ。せっかくケツァルコアトルになったお前らと運転免許証の更新する夢見とったのに」

「僕らはまだ免許証を持っていないから、正夢にはならなさそうだね」

「そもそもケツァルコアトルになんねぇよ」

 

 ……いや、ギリギリなる可能性はあるか? 父さんなら『ぎゅってしないとケツァルコアトルになる魔法』くらい使ってきそうだ。いよいよ目的がわからない魔法だけど、父さんなら多分使う意味のない魔法何種類かあるだろ。

 寝起きが死ぬほどいい廻と拓斗は俺に起こされても機嫌を悪くせず、むしろ俺を見てにやにやしている。なんだこいつら。ぶっ飛ばされてぇのか?

 

「その様子だと、真咲さんからVEINがきたみたいだね」

「いやぁ、ええことした後は気分ええわ」

「待てお前ら、なんか知ってんのか?」

 

 聞けば、二人は親指を立てた。

 

「好きな人の寝顔見たいやろって思って」

「昨日、修也が寝てから寝顔の写真を送ったんだ」

「何してくれてんだテメェら!!!」

「何怒ってんねん。ちゃんと全身撮ったで?」

「なおワリィわ!!」

 

 昨日の寝てる時の俺って、サンバ衣装で全身にキスマークがあった時ってことだろ!? ってことはその姿を彩芽に見られたってことで……お幸せにっていうのは、キスマークがついてたから? にしたってサンバ衣装の説明ができねぇだろ。

 とりあえず誤解を解こうと彩芽にVEINを送って通話をかけても、既読にならないし通話にも出ない。クソ!! なんで新年一発目からサンバ衣装で全身にキスマークをつけていたせいで彩芽から嫌われなきゃなんねぇんだ!!

 

「チッ、お前ら適当にしてろ! 彩芽んとこ行ってくる!」

「いってらー」

「お幸せにー」

「うるせぇよ!!」

 

 スマホ片手に家を飛び出して、彩芽の家へ向かう。朝っぱらから迷惑だとわかりつつもインターホンを鳴らすと、彩芽のお母さんが出てくれた。

 

「俺です、修也です。彩芽いますか?」

『あら、修也くん? ごめんねぇ、彩芽ったら出かけちゃってて……てっきり修也くんと初詣に行ったと思ったんだけど』

「……わかりました。ありがとうございます」

 

 会話を終えて家の前から離れる。出かけた? どこに? いや、彩芽が俺と会いたくないって言ってて、お義母さんが嘘をついた可能性もある。どういう勘違いをされたかは知らねぇけど、彩芽の中では俺が浮気したと思っているはずだ、多分。キスマークつけてたからそう思っても無理は……いやでも、やっぱりサンバ衣装の説明がつかない。

 

 彩芽に会って誤解を解きたいと思っても、どこに行ったかがわからない。どうしようかと途方に暮れていた時、スマホに通知が届く。見れば、結菜からVEINがきていた。

 

『あんた、サンバ隊のみなさんと浮気したってほんと?』

 

 よりにもよって結菜に相談してやがる……!!! 俺がサンバ衣装で全身にキスマークがあったからって、サンバ隊のみなさんと浮気したって勘違いを彩芽はしないはずだから、気が動転して結菜に相談して、頭が回んねぇままだから結菜の勘違いを鵜呑みにしたってことか!?

 

『それは勘違いだ』

『じゃあサンバ衣装で全身にキスマークついてたのはどう説明すんのよ』

『罰ゲームなんだ。そういうすごろくがあって』

『流石の私でも騙されないわよ。最低ね、あんた』

 

 そういうすごろくがあるんだよ!! 二回やってる俺でも信じらんねぇよ!!

 

 なんだってこんなアホらしい理由で人生最大の危機を迎えなきゃなんねぇんだ……。このままじゃサンバ隊のみなさんと浮気した男って学校中で噂になる。それで俺に残るのは、サンバ隊のみなさんを紹介してほしがるクソ男どもだけだ。アニキと慕ってくれている天ケ瀬も、「サンバ隊のみなさんと浮気するやつは男じゃねぇ!」って俺から離れていくはず。てかサンバ隊のみなさんってなんだよ。なんで大晦日に俺の家でサンバカーニバルが開催されてんだよ。

 

『マジなんだって! 嘘だって思うなら俺の家にこいよ!』

『私までサンバ隊のみなさんにするつもり!?』

『サンバ隊のみなさんなんていねぇよ!! マジで勘違いなんだって!!』

『あんたまでサンバの衣装着ちゃって、バカみたい』

『大晦日にサンバの衣装着てるやつがバカなのは認める! でも浮気はしてねぇんだ!』

『そこまでして彩芽と別れて、私と付き合いたかったってこと?』

『んなわけねぇだろ』

 

 人にバカって言っておいてめちゃくちゃバカな勘違いをしている結菜を真っ向から否定してやると、結菜から電話がかかってきた。ラッキーだぜ。彩芽はどうせ結菜のところにいるに決まってる。このまま誤解を解いて、彩芽を初詣に誘えばハッピーエンドだ!

 

『真剣に考えた私の時間返しなさいよ!』

「俺がサンバの衣装着て全身にキスマークつけてたら『えっ、もしかして私と付き合うために……?』って勘違いされるなんて誰も予想できねぇだろうが」

『だって、そうでもしないとあんたと彩芽って別れなさそうだし……』

「よく考えろ。百歩譲って結菜と付き合うためだとしても、サンバ隊のみなさんと浮気するなんてバカみてぇな真似するわけねぇだろ」

『……』

 

 なに黙ってんだよ。俺ならギリギリあり得ると思ってんのか? やらねぇよそんな難易度高い別れ方。相手に失礼どころの騒ぎじゃねぇだろ。あと俺にサンバ隊のみなさんとのコネクションはない。なぜかサンバ衣装はあった。

 

『……悪かったわね。勘違いして彩芽に変なこと言っちゃった』

「いや、そもそも全身にキスマークつけてサンバ衣装で寝てた俺も悪い」

『今隣に彩芽いるから、代わるわね』

 

 今度から彩芽には何があっても結菜には相談しないように言っておかねぇと……。いや、相談すんなってのは結菜が可哀そうだから、結菜に相談したとしても鵜呑みにはしないように、っていうか結菜の勘違いとは逆のことが真実だって言っておこう。じゃないと今日みたいにとんでもないことになる。

 ……つーか俺悪いか? 悪いのはあいつらじゃねぇのか? 帰ったら庭に埋めよう。それくらいのことをしても許されるはずだ。

 

『……修也?』

「ごめん彩芽。不安にさせちまって」

『……私こそごめん。冷静に考えたら、修也がサンバ隊のみなさんと浮気するわけないのに』

 

 冷静に考えなくてもサンバ隊のみなさんと浮気するわけねぇだろ、という言葉は飲み込んで、「仕方ねぇよ」と返す。本音を言うと何も仕方なくねぇけど、女の子を不安にさせた時点で男が全部悪い。いい男ってのは女の子を不安にさせないやつのことを言うんだって父さんが言ってた。

 じゃあ間違いか……?

 

『んーん。修也は人の気持ち踏みにじるような人じゃないもん』

「それじゃあ一緒に初詣行こうぜ。可愛い彩芽を見たら、何もかも吹っ飛んで嬉しさしか残んねぇから」

『私が嬉しいだけじゃん。お詫びになんない』

「何言ってんだよ。俺も悪いって思ってるって言ったろ? じゃあちょうどいいだろ」

『……そっか』

 

 彩芽と初詣に行くならあいつらには帰ってもらうか。あまりにも邪魔だからな。あいつらもあれでいいことしたって思ってるってことは、気を遣えねぇってわけじゃないだろうし。

 

『ね、修也。会ったら、ぎゅってしていい?』

「いいぞ。むしろしよう」

『ふふ。そんなに私とぎゅってしたいんだ』

「したい」

『……ん』

 

 あぁ、俺のキスマークとサンバ衣装で汚れた心が浄化されていく。彩芽が新年一発目から可愛い。いつもの調子を取り戻そうとして俺をからかおうとして、カウンターくらって恥ずかしがってる彩芽が可愛い。一富士二鷹三茄子より一彩芽二彩芽三彩芽のが絶対縁起いいだろ。『縁起』って書いて『彩芽』って読むくらい縁起いいだろ。いや、彩芽いいだろ。

 

『それじゃ、おうち戻って準備するから、待っててね』

「ゆっくりでいいぞ」

『ん。またあとでね!』

「おう」

 

 それを最後に、彩芽との通話が切れる。

 

 さて、家に帰ってあの化け物どもを退治するかと歩き始めた時、また通知がきた。もしかして彩芽からの可愛いメッセージか? と期待に満ち溢れながらスマホを見れば、姉ちゃんからだった。

 

『なんかお父さんから、修也が友だちに猫の恰好とバニーガールの衣装着させて一晩楽しんだ上、自分は女の子のところに行ったクソ野郎だったって聞いたんだけど、ほんと?』

 

 最悪のタイミングで両親が帰ってきたらしい。姉ちゃんに『もちろん勘違いだ』と送って、新年一発目の全力疾走を始めた。

 

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