「修也。なんか優と付き合うことになったわ」
1月11日、土曜日。1が三つも並んでいるのに、細長いお菓子の日からの選考漏れとなったその日。超ド級ハイパーマックストリケライナーHDMIを愛斗に渡し、「あんがと!! 残りのパーツ見つけたら教えて!!」って言われたから、暇だしネットの海に潜って探してみるかとスマホを覗いていた俺にもたれかかりながら、姉ちゃんはいつもの調子でとんでもないことを言った。
優と付き合うことになった? 優って高宮さんだよな? 高宮さんって姉ちゃんの財布だよな? 天ケ瀬と凪咲ちゃんに続いて、姉ちゃんも?
これは、マズい。何がマズいかって、このことが父さんに知られたら気分が最高潮にならなくなる。そうなったら魔力が回復せず、俺と彩芽にかけられた魔法が解けずに、俺は彩芽に好きだって言えない。
「姉ちゃん。俺の恋路を邪魔して楽しいか?」
「え……修也、もしかして優のこと好きだったん?」
んなわけねぇ……いや、そうだった。俺、父さんへの言い訳で『高宮さんは俺のことが好き』って嘘ついたんだ。勘違いされる要素俺から提供してんじゃねぇか。
そうか、それならなおのことマズい。父さんが姉ちゃんと高宮さんが付き合ったって知ったら、「修也。お前、雅を狙うカスはお前のことが好きだって言ってたよな……?」って修羅になりながら俺を殺しに来る。
姉ちゃんと高宮さんが別れるのが俺にとって一番いい。でも姉ちゃんがあまりにも可哀そうだ。父さんの魔法がなきゃ手放しで喜べるのに、マジで邪魔だな父さんの魔法。
……よし、姉ちゃんと高宮さんが付き合ったってことは、父さんにはなんとしてでもバレないようにしよう。
「まさか父さんには言ってないよな?」
「当たり前じゃん、鬱陶しいし。お母さんにも話してない」
俺に話してくれたのは、俺なら父さんに言わないって思ってくれたからだろう。母さんに話してないのは、どうせ父さんとラブラブしながら口を滑らせるに決まってるからだ。
だとすると、念のため俺にも言わないようにした方がいいような……何か、他の目的がある?
その俺の予想は、当たっていた。
「そんで、優がまた修也と会いたいってさ。せっかくだし彩芽ちゃん呼んで、ダブルデートでもしない?」
「するー!」
父さんにバレたらどうとか、今はどうでもいいや!
翌日。ちょうど全員の予定が空いていて、それなら我慢できないしすぐに集まっちゃおうっていうことで、俺たちは今『ラウト』の隣にある、色んなアミューズメントを楽しめる施設『ディポルタ』にきていた。
ディポルタはソフトテニスやフットサル、バスケなど、色んなスポーツを楽しめるほか、漫画喫茶もある。体を動かしたいとか、とりあえず遊びたいとかっていう目的で行くには最適な場所だ。
「久しぶり。修也、真咲ちゃん」
「お久しぶりです。高宮さん」
「……」
「彩芽?」
「や、なんか、雅さんが男の人と手つないでるのが全然慣れなくて……」
「なーに? お姉ちゃんが遠くにいっちゃったみたいな?」
「あ! そんな感じです!」
無意識に可愛さを披露した彩芽に姉ちゃんがKOされ、せっかく高宮さんとつないでいた手を振り払い、彩芽を抱きしめた。それぞれの彼女……俺はまだ彼女ってわけじゃないけど、彼女を取られた俺と高宮さんは、顔を合わせて笑った。
「修也。そういえばよかったのか? 俺は修也のことが好きってことになってたんだろ?」
「あぁ、父さんには死ぬ気で隠すつもりなんで大丈夫です」
「いつか挨拶しなきゃって思ってるんだけど」
「テメェ、俺と彩芽を引き裂こうってのか!」
「待って、なんで?」
はっとした俺は、頭を下げて謝罪した。最近彩芽に好きって言いたすぎて、行動言動がおかしくなってきている。これじゃああのバカ二人と同じ穴の狢だ。同じ穴の狢だから一緒にいるような気もするけど、それは確実に気のせいだろう。
俺の謝罪を受けた高宮さんから「まぁ、修也の様子がおかしいのは前からだったし」と嫌な納得の仕方をされ、高宮さんではなく彩芽と手を繋いだ姉ちゃんの「じゃあいこっか」という号令に従って歩きだす。
……あれ? ダブルデートって、俺と高宮さん、姉ちゃんと彩芽のダブルだっけ?
「彩芽ちゃん、最初何したい?」
「えーっと……」
彩芽が俺をちらちら見ている。なるほど、俺とチームになれるようなやつがいいってことだな? なんて可愛いんだ! 高宮さんのがいて言いづらいだろうから、仕方ねぇから俺から言ってやるか。
「え、エスケープアクション……」
言うのかよ。
エスケープアクション。前テレビで見たことがある。映像に映る壁の穴と同じポーズをとり続けるシンプルなゲームだ。確か最大二人までだったから、なるほど。エスケープアクションを利用して俺とぎゅってしたいってことだな!?
「じゃあ二人ずつで分かれよっか。私は彩芽ちゃんと」
「えっ、あ、いや、その」
「なにー? 言いたいことあるの? お姉ちゃんに言ってみ?」
「……なんでもないです」
俺とやりたいと言い出せず、縮こまる彩芽。彩芽をいじる姉ちゃんを指しながら「あんなんでいいんですか?」と高宮さんに聞けば、「可愛いだろ」と惚気て……いや待て、テメェまさか彩芽のこと言ったんじゃねぇよな? 俺はエスケープアクションを利用してテメェを血祭りにあげたっていいんだぞ?
「せっかくだしこのカップルモードってやつやってみよっか」
「せっかくだしっていうセリフは、男女でやるときに使うもんじゃねぇの?」
「だって彩芽ちゃんといちゃいちゃしたいんだもん」
「もんとか使うなよ、気色ワリィ」
気づけば、カップルモードのエスケープアクションをしていないのに高宮さんに介抱される形で密着していた。仮にも彼氏の前で弟に暴力振るってんじゃねぇよ……。
彩芽と姉ちゃんは手を繋いで、モニターの前に立った。二人の前には動きを捉えるためのカメラがあり、二人が試しに動けばモニターに映る人型の光が二人の動きを反映し、同じ動きをする。それが面白くて腕をぱたぱたしている彩芽が可愛くてにこにこしてしまう。
「可愛いね、真咲ちゃん」
「高宮さんは姉ちゃんだけ見てもらえません? あの子、俺のなんで」
「修也! 恥ずかしいからやめて!」
「嬉しいからもっとの間違いじゃないのー?」
にやにやする姉ちゃんから逃げるように彩芽がスタートのボタンを押すと、映像が動き出す。最初は、どう考えても二人で向き合って密着しないと抜けられなさそうな穴。
「こっちおいで」
「わっ」
姉ちゃんは彩芽の腰をぐっと抱き寄せて、空いた腕を彩芽の背中に回す。そのまま抱きしめて静止。
は? 羨ましいが過ぎるだろ。そこ変われやテメェ。あんな合法で彩芽に触れられるやつを彩芽と一緒にできないってどんな冗談だ? なんで俺は高宮さんとやんなきゃなんねぇんだ? 高宮さんも「なんで修也とやるんだろう……」って顔してんじゃねぇか。
……でも、彩芽が可愛いからいっか! 動画撮っとこ。姉ちゃんに振り回される彩芽が可愛すぎる。寝る前にこれを見て、興奮して寝られなくなるのを日課にしよう。
「それ、あとで俺にも送って」
「彩芽が映ってるから嫌です」
「今俺が真咲ちゃんを見てるのはいいの?」
「目を潰してもいいなら潰しますけど?」
「やめてくれ。これでも真咲ちゃんと遊んでる雅を見てほっこりしてるんだから」
うげぇ、と嫌な顔をした俺を見て、高宮さんは爽やかに笑った。
いや、なんかなぁ。姉ちゃんは姉ちゃんっていうか、高宮さんから見たらそりゃ女の子なんだろうけど、違和感がすごい。あれ、俺ってもしかしてシスコン?
「お、もう終わり?」
「つ、疲れた……」
終始姉ちゃんに振り回された彩芽は肩で息をして、姉ちゃんは首を傾げて、モニターには90点の表示。ちなみに彩芽は姉ちゃんから後ろから抱かれている。から、その、えっちだ……。
「お疲れ、二人とも。90点なんて流石だな」
「当たり前でしょ。私と彩芽ちゃんにかかればこんなもんよ」
「彩芽、タオルと水」
「あ、ありがと」
姉ちゃんと彩芽が揃ったら、どうせいじり倒されるんだろうなと予測していた俺は、タオル数枚と水を何本かを持ってきている。彩芽にそれを渡せば、姉ちゃんが「流石私の弟」と言った後に高宮さんへ視線を送る。
「汗一つかいてないだろ?」
「ふーん。ま、そうだけど。汗拭いてあげるーって言って体触るくらい許してあげんのに」
「修也。真咲ちゃんを連れて離れてくれるか?」
「ふざけんな! 汗かいてる彩芽と二人きりにされたら俺が発情しちまうだろうが!」
「よかったじゃん、彩芽ちゃん」
「よくないです! 修也、変なこと言わないで!」
変な、こと……? 汗かいた彩芽に興奮するのは俺として正常だろ。人としてどうかと思うけど。
俺の隣まできて叩いてくる彩芽の腕を掴んで止めていると、姉ちゃんに頭を掴まれて、モニターの前に押し出される。彩芽の腕を掴んでたもんだから、彩芽も一緒に。
「ちょ、あぶねぇだろ!」
「ごめんごめん。あ、そうだ! ちょうどいいし、二人でやってみれば?」
「!!!!???」
めちゃくちゃ棒読みな姉ちゃんのセリフに、面白いくらい動揺する彩芽。「あ、汗かいてるのに、修也と!?」みたいなことを思ってるんだろう。俺の背中に隠れて匂いチェックしてるし。ちなみに、俺は背後にいるのが彩芽なら背中に目が生える。
「た、高宮さん! 修也と一緒にしたいですよね!」
「いや、俺は雅の隣がいいかな」
「あれー? 彩芽ちゃん、修也とこれがやりたかったんじゃないのー? いじわるしちゃって私とさせちゃったから、悪いなーって思ってたんだけど」
「だ、だって今私」
「はいスタート」
鬼畜生の姉ちゃんは彩芽が喋っている途中でスタートさせた。
そして、その瞬間。あの魔法がやってきた。彩芽が逃げ出した。しかし俺が回り込んだ!
「ま、待って! ほんとに待って!」
「おいおい彩芽、見ろ。ありゃどう考えても密着しないと抜けられない穴だぞ」
「あ、あとで! あとでなら、いっぱいぎゅってしてあげるから、ね?」
「うるせぇ!!! しよう!!!」
麦わら帽子を被ったゴム人間が如く叫んだ俺は、彩芽を抱きしめた。ずっとぎゅってしてたから点数は低い、なんてことはなく、通りすがりのスタッフさんが「ラブラブすぎて100点!」と最高得点を与えてくれた。やったぜ。