【本編完結】ぎゅってしないと好きになる魔法   作:酉柄レイム

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第42話 とんでもない魔法

「修也、話がある」

 

 朝。いつもならもう家を出ている父さんに呼び止められる。母さんと姉ちゃんが家にいるタイミングで声をかけてこなかったことに嫌な予感を抱きつつも、相手してやらないとめんどくさいから父さんの正面に座った。

 

「まぁ、座れ」

「なんでいつも座った後に言ってくんだよ」

「すまん。少し義憤に駆られていてな」

「文字でしか見たことねぇよその言葉。つかなんでキレてんだよ」

 

 言いつつ、心当たりはあった。まさか、姉ちゃんと高宮さんが付き合ってるってことがバレた? いや、そのはずはない。姉ちゃんはバレたらめんどくさいからってちゃんと隠してる。家にいるとき高宮さんを電話は一切しないし、父さんから「どこに行ってたんだ?」って聞かれても「うっさい」って返してたし。どこに行ってたか言わないのは普通なら怪しいだろうけど、姉ちゃんはいつも通りだから何も違和感はなかったはずだ。

 

「やっぱり、雅が男と付き合ってるのか」

「あ? んなわけねぇだろ」

「修也。俺は人の心が読めるということを忘れたのか?」

 

 こいつ、俺に敢えて抽象的なことを言って、姉ちゃんと高宮さんのことを考えるように誘導しやがった! めちゃくちゃ悔しい。なんで俺は日常生活でバトルマンガみたいなやりとりさせられてんだ。

 心を読まれるなら、何を取り繕っても仕方がない。問題なのは、父さんの気分を最高潮に保てなくなること。しかも今心を読む魔法使ったから、俺たちにかけた魔法を解く魔力が無駄遣いされた。そこに更に気分が最高潮にならなくなるってんなら、俺たちにかけられた魔法が解かれるのは随分先になっちまう。

 

「修也、お前は言ったな。雅を狙うごみうんちは俺のことが好きだ、と」

「そんな呆れ果てるほどの蔑称使った覚えはねぇけど、言った」

「それなのに雅と付き合い始めた」

「……」

 

 やばい。生まれてきて今までの中で一番父さんがブチギレてる。ブチギレすぎて父さんの背後に『ゴゴゴゴゴゴ』ってひび割れたゴシック体の文字が浮かびあがってるように見えるくらい……いや、実際に浮かび上がってねぇか? 何くだらねぇことに魔力使ってんだこのクソ親父!

 

「修也、別にな。雅が誰かと付き合おうと、そいつがいいやつならとやかく言わない」

「……じゃあなんでブチギレてんだよ」

「それは、高宮という男が雅と修也の姉弟丼を狙っているからだ!!!!」

 

 父さんの背後に『丼!!!』という文字が浮かび上がる。『ドン!!!』だろうが。何自分のセリフとかけた文字出してんだよ。

 

 つか、姉弟丼? 高宮さんが? なんだってそんな話に……。

 

 もしかして、高宮さんが俺のことが好きって話信じてんのか?

 

「いや、父さん。高宮さんが俺のことが好きって言ってたのは」

「ちなみにそれが嘘だったら、お前に『好きな子を見ると無限に興奮する魔法』をかける」

「本当なんだよ」

 

 いやぁ、高宮さんマジで俺のこと好きだからなぁ。むしろ俺を狙うために姉ちゃんと付き合ったみたいなところが、うそうそ。そんな怖い顔すんなって。ほら、あれだよ。性別の壁があるからって俺のことは諦めて、本気で好きな姉ちゃんと結ばれたんだよ。クソ、めんどくせぇな心読んでくんの! 常時読んでんじゃねぇよ! 魔力大事にしろよ!

 

「性別の壁があろうと、愛の前では無意味だ。むしろ、障害が多い恋は燃えやすい」

 

 あんたにかけられた魔法とかな。

 

「ただ、雅が選んだ男なら良識も常識もあるはず。修也に恋人がいれば身を引くだろう」

「高宮さん、俺と彩芽が付き合ってるって思ってるから大丈夫だって」

「障害が多い恋は燃えやすいって言っただろうが! 人の話を聞け!」

「さっき恋人がいれば身を引くだろうって言っただろうが!」

 

 支離滅裂すぎる。何が目的なんだ? そもそも、高宮さんが姉弟丼を狙ってるって勘違いしたとして、俺にそれを言う意味がわからない。高宮さんに会いに行って心を読めば解決するはずだ。そうしないってことは、父さんの頭がめちゃくちゃ悪いか、何か他に目的があるか……。

 

「ふ、気づいたようだな」

「何か別の用あるならさっさとやってくんね? 遅刻しちゃうだろ」

「ぶっちゅん!!!!!」

 

 両手で拳を作り、頬に当てながら悍ましいセリフを叫んだ。

 

 瞬間、俺の体が強く発光し、すぐに光は収まった。体にはなんの変化もない。今のところは何の魔法をかけられたかわからない。でも、どうせろくでもない魔法をかけられたんだろうなってことは理解できた。

 

「今お前にかけたのは、『ぎゅってするとキスしなきゃいけない魔法』だ。ぎゅってするとキスするまで離れられない」

「テメェなんてもんかけてくれてんだ!!」

「大丈夫、キスする場所はどこでもいい。つま先でも内ももでも尾てい骨でもいいんだ」

「なんでそんな変態的な場所なんだよ! 普通首筋とか耳たぶとかおへそとかだろうが!」

「そうかっかっかっかっかするな。この魔法をかけたのには理由がある」

「かっかっかだろうが! どこが笑ってるように見えんだよ!」

 

 あと俺キレすぎて性癖露呈してなかったか? 相手が父さんだったからよかったものの、普通の人に聞かれたらドン引きされるところだった。手とかおでことかでいいんだよ。何ワンちゃん性感帯攻めようとしてんだよ俺はよ。

 

 それに、『ぎゅってするとキスしなきゃいけない魔法』をかけた理由? どうせ姉ちゃんが男と付き合ってることで落ちたテンションを、俺たちを使ってなんとかして上げようってとこだろ。

 

「正解。最近ぎゅってしてるところ見るだけじゃ満足できなくてな」

「待てテメェ。もしかして見てやがんのか?」

「俺の目は特殊でな。自分の欲を満たしてくれる対象ならどこにいても見ることができる」

「キモ……マジでクソみたいな魔法しかねぇな」

「そう言うな。ちなみに今彩芽ちゃんは、修也がいつもの時間にこないからって寂しがってるぞ」

「魔法最高!!」

 

 可愛い彩芽に会うために家を飛び出した。普通に遅刻した。

 

 

 

 

 

 普通にマズいということに気づいたのは、今日一日の授業が終わって、廻から「段々畑ってまだ畑ちゃうってことやんな?」と聞かれた時だった。

 

 「あながち間違いじゃないね」という拓斗の言葉を聞き流しながら、考える。今日かけられたのは『したくなる』とかじゃなくて『しなきゃいけない』魔法。そして、『不定期にぎゅってしたくなる魔法』はまだかけられたまま。彩芽は俺が『ぎゅってするとキスしなきゃいけない魔法』をかけられたことは知らない。じゃあ伝えるか? 伝えても『キスしたいって言えばいいのに、魔法のせいにする男らしくないやつ』って思われるんじゃないか?

 いや、彩芽はいい子だから、信じてくれるはず。ちょうど6限の終わりあたりでぎゅってしたくなったから今日は一緒に帰るだろうし、その時に話してみよう。どっちにしろ魔法にかけられたことには変わりはないから、ぎゅってしたらキスしなきゃいけないんだ。

 

「雷ってお米をおいしくする働きがあるから、密接な関係にある『雨』に『田』んぼで『雷』って書くんだよ」

「ほーん。ほなら雷はうまいんやな」

「あながち間違いじゃないね」

 

 あとさっきからなんで畑とか田んぼとかの話ばっかしてんだこいつら。農家にでもなろうってか? こいつら何かの間違いで超巨大な野菜作って有名になりそうだな。

 

 「修也はあながち間違いじゃないと思う?」と聞いてくる拓斗に「おう」と適当に返しつつ、彩芽の姿を探す。彩芽は中条と他の友だちと談笑していて、俺の視線に気づくとちょっと頬を赤くしてから、周りの友だちに頭を下げ、荷物を持って俺のところに小走りで駆け寄ってきた。

 

「修也っ、帰ろ?」

「ん? もういいのか?」

 

 随分いきなり抜けてきたから不思議に思って聞いてみれば、彩芽がそっと俺の耳元に顔を寄せて、一言。

 

「早くぎゅってしたいんでしょ?」

 

 それだけ言って、「先行ってる!」と教室を飛び出した。「ウンコでもしたかったんかな?」「あながち間違いじゃないね」と言っているバカ二人をしばき倒してから後を追えば、校門の前で彩芽の姿を見つける。飛び出しすぎだろ。教室の前とか階段とかにいると思ってたからしばらく探しちゃったじゃねぇか。

 

「悪い、待たせた」

「んーん。なんか待ち合わせみたいでドキドキしたから、いいよ」

 

 アー。

 

 今すぐぎゅってしたいけど、ここでやったら俺の人生が終わるかもしれない。ぎゅってするくらいなら、まぁ、百歩譲っていいとしても、ぎゅってしてキスするなんて流石にやりすぎだ。だから、早く人目のつかない場所まで行ってぎゅってしないと。というかその前に『ぎゅってするとキスしなきゃいけない魔法』にかけられたって説明しないと。

 

「そういえば、今日なんで遅刻しちゃったの?」

 

 なんて思っていたら、早速説明するチャンスがきた。流石彩芽だぜ。もしかして俺が言いたがってることがわかったのか? 惚れ直したぜ。

 

「実は、父さんから『ぎゅってするとキスしなきゃいけない魔法』かけられてさ。なんか、ぎゅってしたらキスするまで離れられなくなるらしい」

「……」

「……?」

 

 彩芽が固まった。目の前で手を振っても反応がない。呼びかけても反応がない。肩に手を置いたら、反応があった。顔を真っ赤にして俺から離れて、目を泳がせている。

 え、何? もしかして魔法にかこつけてキスしたがる変態だと思われた?

 

「ま、待て違うんだ彩芽! 俺はただ」

「ほ、ほんとなの?」

「マジだ! マジ!」

「……修也」

 

 彩芽が俺を見る。口を開いては閉じて、何か言おうとして躊躇しているように見えた。「そんなむやみやたらにキスしたがるような人だと思わなかった。さよなら」とかだったら俺は死んで、異世界転生してまさかの勇者に!? ~幼馴染にフラれて始まる異世界生活~ を始める自信がある。そんで俺は彩芽のいない世界なんて意味ねぇから、勇者としての責務を果たせず世界は終わる。

 

「し、しばらく、ぎゅってするの禁止!」

 

 しかし彩芽の口から出た言葉は、ある意味俺が想像していたよりも衝撃的なことだった。

 しばらくぎゅってするの禁止? なんで? いや、なんでじゃねぇか。俺にキスされるから? えっ、俺にキスされるのが嫌ってこと!?

 

「お、俺にキスされるのが嫌なのか……?」

「ま、まだそういうんじゃないもん。だから禁止! ばいばい!」

「ま、待ってくれ彩芽! 彩芽! 俺にぎゅってしてキスさせてくれー!!!!!」

「変なこと叫ぶなバカ!!」

 

 ぎゅってしたくなる魔法にはかかっているから、俺と一緒にいるとぎゅってしたくなってしまう彩芽が走って俺から離れていく。まだそういうのじゃない? 付き合ってないからってこと? じゃあ付き合うまでぎゅってできないってこと?

 

 明日から異世界転生してまさかの勇者に!? ~幼馴染とぎゅってできなくて始まってしまった異世界生活~ が始まるかもしれない。そんな不安を抱えながら、俺は死んだ。

 

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