【本編完結】ぎゅってしないと好きになる魔法   作:酉柄レイム

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第45話 バレンタインイベント開催

「もうすぐ、バレンタインだ」

「ちゅーわけで、作戦会議始めるで」

「バレンタインにチョコ貰えるやつって、日々の積み重ねがあるからだと思うんだよな」

「それができていて貰えないから作戦会議をするんじゃないか」

「それができてねぇから言ったんだろうが」

 

 2月初旬、昼休み。いつもの空き教室に集まった俺たちの話題は、バレンタインについて。

 

 バレンタイン。2月14日、女の子が想いを寄せる男の子にチョコを渡す日。それに限った話じゃなく、友だち同士で渡し合うとか、3学期っていう学校行事が少ない時期にある、学生にとっての重要なイベントの一つ。

 もちろん廻と拓斗は去年もらえておらず、俺も二人の影響でもらえていない。厳密に言えば母さんと姉ちゃんからはもらったけど、あれをカウントするのは男の世界ではなしっていうルールになってるから実質ゼロだ。

 

「バレンタインって、いかに数を稼いで他の男にマウントとれるかっていうイベントやろ?」

「つまり、本命じゃなくてもチョコをもらえればいいっていうわけだ」

「俺には関係ねぇ話だな」

 

 俺は彩芽からチョコ貰えるだろうし、マジで楽しみだ。もう今からホワイトデーのお返しを考えるくらいには楽しみだ。凪咲ちゃん「どういうの渡せばいいのかな?」って相談し合ってたら可愛すぎる。きっとしてる。だって昨日、天ケ瀬から「なんか最近、凪咲が放課後予定あるみたいで……」って言ってたし。彩芽も放課後予定あるって言ってたし。

 

 彩芽とのことを想像してにやにやしている俺の隣に、廻と拓斗が座る。保健室でのトラウマを刺激されて思わずファイティングポーズを取れば、廻が腕をまくって筋肉を見せつけてきた。負けた。

 

「確かに、修也は真咲さんからもらえるかもしれない」

「でもあぐらかいててええんか?」

「どういうことだ?」

 

 かいていいに決まってるだろ、あぐら。俺と彩芽のラブラブさ舐めんなよ? 付き合ってねぇってのが不思議なくらい毎日イチャイチャしてんだからな? これでチョコ貰えなかったら人間不信になるぞ俺。姉ちゃんのことを久しぶりにお姉ちゃんって呼んで慰めてもらうぞ。

 

「いいかい修也。君は今とても危険な状態にある」

「危険な状態?」

「そうや。そんなもらえて当たり前みたいなスタンスで、ほんまにあげた方が嬉しくなるようなリアクションできるんか?」

 

 ……確かに、一理ある。浮かれすぎていたのか? そうだ、俺と彩芽は付き合ってるわけじゃない。彩芽から映った俺が『もらえて当たり前』みたいな顔してたら、愛想つかされるかもしれない。なんてバカなやつだったんだ俺は。彩芽が、好きな子が俺のためにチョコを用意してくれるってのに、それを最大限ありがたく思わず『もらえて当たり前』なんて!!

 

「どうやったらもらえて当たり前から脱却できるんだ?」

「それは、演出だよ」

「演出?」

「チョコほしいなっていうアピールをしとくねん。長年考えて辿り着いた答えや」

「長年考えた割にはチープすぎるな」

 

 あれだろ? わざとらしく教室でチョコの話題出したり、「俺貰えるかなぁ」って言ってみたりするあの恥ずかしいやつ。毎年見たわけじゃないけど、一定数は見たことがある。それを見る度「わかるー」って思ってたし。あの頃の俺は本格的な敗北者だった。

 

「アホ。自分を騙すってのは一番重要やぞ? チョコ貰えるかなぁって言うといたら自然にあれ? ほんまにもらえるんか? ってなって、不安になったところで当日チョコ貰ったら、この上なく嬉しいやろが」

「でもどうすればいいんだ! どう考えても彩芽からチョコ貰えるから、不安になりようがない!」

「それじゃあ、こういうのはどうだい?」

 

 拓斗の言葉と同時に通知音。スマホを操作してロックを解除しクラスのVEINを見れば、

『バレンタインイベント開催のお知らせ

 

 みなさんお世話になっております。倉敷拓斗です。

 バレンタインが近づいていますが、みなさん準備はいかがでしょうか。バレンタインとは高校生にとって重要なイベントの一つ。男女問わず浮足立って、今か今かと待ちわびる人、緊張で当日がこないでほしいと願う人、様々かと思います。

 

 そこで、男の子は女の子からもらいやすく、女の子から男の子に渡しやすくなるようなイベントを考えました。

 

 我がクラスではこれよりバレンタインデーまでの期間、男の子からのアピール期間を設けます。

 貰えるかなと不安になっている男の子、いますよね。でも自分からほしいなんて絶対言えない。それが意中の子が相手ならなお更に。でもこのイベントがあれば、イベントだからという名目で女の子にチョコがほしいアピールをすることができます。そして、女の子は何かと理由をつけて、男の子にチョコを渡しやすくなります。

 

 これから僕と廻と修也が教室に行って、アピールのお手本を披露します。それをバレンタインイベントの開催の合図とします。

 

 みなさん。高校生活二度目のバレンタイン。このイベントを活用し、ぜひものにしましょう。

 

 2-Aのキューピッド 倉敷拓斗』

という「こういうのはどうだい?」って提案するレベルでもない代物が拓斗から送信されていた。

 

「一応聞かせてくれ。なんだこれ」

「貰えるかなっていう不安を、もしかして真咲さんにアピールする男がでるかもしれないっていう不安に置き換える。君は真咲さんの彼氏。真咲さんが君以外に渡すのは耐えられないだろう。君にとってこの期間は、自分が真咲さんにとって一番の男であるとアピールする期間だ」

「なるほどな。これやとあぐらかくわけにもいかへんし」

「そして僕たちもイベントに乗じてチョコをもらうことができる」

 

 ……なんか、めんどくせぇことになっただけじゃねぇのか? いや、せっかくのイベントだから楽しくしようっていうのは反対しねぇけど、なんか俺勝手にこれから開催の合図に代わるチョコほしいアピールすることになってるし。ってことは彩芽にチョコほしいって直接言いに行くってこと? 教室で?

 

「さぁ行こう、二人とも」

「チョコが待っとるからな」

 

 ……一瞬でも乗せられたのがマズかったなぁ。

 

 

 

 

 

「真咲さん。僕にチョコくれない?」

「俺も俺も」

 

 教室についた瞬間彩芽に話しかけやがった拓斗と廻を引きはがし、締め上げる。

 

「何してやがんだテメェら……!!」

「一番押し切ったらくれそうじゃないか!」

「なんだかんだよう話してるし、いけるやろ!」

「拓斗にしちゃあちょっとはマシなイベント考えたなって思った俺が間違いだった! 俺の彩芽に手ぇ出しやがって!! それにな、お前のイベントには穴がある!! おい男ども!! 俺についてこい!!」

 

 俺の覇気に押されたのか、教室にいる男子が整列する。それを見て頷いた俺は「少し待っていろ、現状青春戦争敗北者の弱者どもが!!!」と怒号を飛ばして、まだぽかんとしている彩芽をよしよししてから中条に声をかけた。

 

「中条。女子に説明頼む」

「……あー、ね。おっけ。イベント乗るってことでいいの?」

「あぁ。高校生活でバレンタインあげたもらったっていう経験は、いい思い出になるしな。そういう意味ではいいイベントだし」

「了解。あとテンションおかしくなってるから気をつけなね」

 

 中条なら俺が言った『穴』も理解してるだろうから、説明を任せて、自分じゃなくて中条に声をかけたからかむくれている彩芽をまたよしよししてから男子の前に戻る。

 

「行くぞ!!」

 

 俺の号令で男子が動き出し、2-A男子生徒が空き教室へと大移動。全員を床に座らせて、その正面に椅子を置いてそこに座る。そして、俺を挟むようにして隣に廻と拓斗が立った。

 

「あのイベントは、『アピールするハードルを下げる』ことに意味がある。これをどう使うかがイベントの鍵だ」

 

 男子がざわつき始めた。はえぇよ。まだ核心に触れるようなこと言ってねぇだろ。

 

「イベントだからって、クラスの子全員に声をかけたらどう思われる? 廻」

「王の器やと思われて、敬われるかもせえへんな」

「あぁ。もしお前らに意中の子がいた場合、その子からの印象は悪くなる」

 

 その通りやな、と頷く廻。お前俺と言ってること全然違っただろうが。

 

 そう、それがこのイベントの穴。バレンタインを楽しむという意味では成立するが、意中の相手と結ばれるっていう意味では悪手になりかねない。このままだと意中の子がいなくてとりあえずもらいたいっていうやつ向けのイベントだ。

 

「だ、だったら、好きな子からもらうにはどうすればいいんだ!」

「だからこそその子だけにアピールする。そこにイベントが効いてくるんだ。みんなにアピールできるのに私にだけ? え、それってもしかして……って思わせることで、遠回しに好意をアピールできる」

 

 何人かの男子がはっとした。ふっ、この程度のアプローチを考え付かないなんて、やはり青春弱者。しかし、このイベントは青春弱者を強者へ引きずりあげるためにある。

 

「さて、それだけ言われたら結局アピールするハードル高くね? って思うことだろう。そこに効いてくるのもこのイベントだ。この中に、意中の子がいなくてただ単純にチョコをもらいたいだけっていうやつは何人いる?」

 

 何本もの腕が聳え立つ。清々しいぜ。恋人じゃなくてチョコをもらったっていう結果だけがほしい情けない男がいるなんて。廻と拓斗も手ぇ挙げてるし。

 ただ、何人かは手を挙げていない。それを見て、俺は立ち上がった。

 

「いいか、チョコをもらいてぇだけのクズども! お前らが女子全員にアピールすることで、声をかけやすい雰囲気を作り上げる! そうすれば、好きな子にアピールしにくいシャイボーイどもが声をかけやすくなる! これはチョコをもらいやすくなるイベントっていうだけじゃねぇ! 好きな子がいる俺たちの仲間の背中を押すイベントでもある!」

 

 教室では、中条が「面白そうだし、恵まれないやつが可哀そうだからあげるくらいの気持ちでいようよ」みたいなことを女子に言っているはずだ。このイベントの穴はもう一つ、友だち同士で楽しむつもりだった女子が、あまりいい気分をしないっていう点。そこはなんとしてでもチョコがほしい男子連中が面白おかしくアピールすることと、女子側で受け入れ体制を作ることでカバーする。

 

「改めて、2-Aバレンタインイベントの開催だ! 気合い入れろ、テメェら!!」

 

 男たちの咆哮で教室が揺れる。

 

「ちなみに、彩芽に声かけるなら……こいよ。俺が相手してやる」

 

 全員がどこからともなく取り出した白旗を振り出した。勝ったぜ。

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