【本編完結】ぎゅってしないと好きになる魔法   作:酉柄レイム

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第46話 壁役:親友の彼氏

「チョコくれ、中条!」

「中条、チョコくれ!」

「中条くれ、チョコ!」

 

 倉敷発案バレンタインイベント。そのせいでアホ男子どもが毎日アピールしてくる。理由を聞けばどもるか、一番くれそうだからの二択。正直マジでめんどくさいけど、一部ふわついた空気を感じるから、いいイベントにはなってると思う。

 

「マジで人気者だな、中条」

「ふっつーにあんたのせいだと思うんだけど」

 

 放課後。彩芽は目の前の男にあげるチョコの研究で忙しいのか、「今日も先帰る! ごめん!」と言ってすぐに教室から出て行って、ここ最近の日課になっていた男子どもからのアピールをさばききると、ちょっと申し訳なさそうにしている舞坂が近づいてきた。視界の端では、赤谷と倉敷がタキシードを着て花束を持ち、女子みんなに渡している。

 

「あれ止めなくていいの?」

「明らかに嫌がりそうな女子は先に教えといたから大丈夫」

 

 今日も今日とて完璧に手綱を握っているようだ。いや、おかしな行動は止められてないから完璧に握ってるっていうとちょっと違うかもしれないけど、それでもこの学校で、というかこの世界であの二人をコントロールできるのは舞坂くらいだと思ってる。

 そんな舞坂は、私の前に立って、じっと見つめてきた。何? 最近彩芽と放課後一緒に帰れないからって、私を彩芽と見間違えてんの?

 

「なに」

「帰んねぇの?」

「帰るけど、何? 一緒に帰んの?」

「なんか声かけられんのめんどくさそうにしてたから、防波堤に立候補しようと思って」

 

 さらっと言った舞坂に、少し動揺する。周りが聞けばバレンタインのアピールだって思われても仕方ない。こいつ、ちょっと天然で人をたらしこむとこあんだよね。そうじゃなきゃあの怪物二人も懐かなかっただろうし。

 とはいえ、男避けになってくれるのはありがたい。荷物を持って立ち上がり、「じゃ、お願い」と言えば、ふざけておおげさに万歳し始めた。当選確実かよ。

 

 教室を出て、隣に並ぶ。階段を下りて靴を履き替えて、校門を出たところで舞坂が口を開いた。

 

「いやぁ、発案拓斗とはいえ、俺も乗ったからさ。それで中条に迷惑かけたら、彩芽に申し訳ねぇなって」

「まず私に申し訳ないって思えよ」

「彩芽の次に申し訳ねぇとは思う」

 

 口を開けば彩芽彩芽彩芽。蜂蜜の中に砂糖をぶち込んで、ミルクチョコレートを溶かした脳でもしてんのかな。彩芽の可愛いところを見せてくれるのは感謝してるけど、二人がイチャイチャしている姿を見せ続けられたら、甘いものが食べられなくなりそうだ。というか実際に最近甘いものを避けてしまっている。

 

「てかあんた、私と一緒にいて彩芽に怒られないの?」

「もちろん連絡済みだ。ほら」

 

 舞坂が見せてきたスマホに、彩芽とのVEINのトーク画面が表示されている。そこには、舞坂から『中条が男連中に声かけられてめんどくさそうだから、男避けになってくるわ』と送られていた。既読だけついてて返信がないからそれを指摘しようとすれば、ちょうど私が見ているタイミングで彩芽から『今度、ぎゅってしてなでなでしてくれたらいいよ』と返ってきた。

 

「……」

「どうした? 中条」

「彼氏いない私への当てつけ?」

「なんだ? 彼氏ほしいのか」

 

 意外だな、と言いながらスマホを見た舞坂は、「ごめん」と謝罪を一言。タイミング悪く私に蜂蜜を直飲みさせたことに気づいたようだ。

 彼氏、ほしくないわけじゃない。ただ、なんとなく想像できないだけ。正直なところで言えば、彩芽と舞坂みたいに自分がイチャイチャするところを想像したら寒気がする。でも、ちょっといいなって思うのも事実だった。

 

「別に。今はいいかな」

 

 というのが、今の私の結論。ちょっといいなって思うだけだし、どうせもう受験シーズンだし、彼氏ができたところで楽しめるとは思えない。むしろ、イチャつきたがる彼氏に向かって「受験大丈夫? 軽く見てんなら改めた方がいいよ」って冷たく言う自信しかない。

 

「へー。まぁ中条なら急がなくてもいい彼氏できるだろうしな」

「大学行ってよさそうなのいたら紹介してよ」

「化け物でいいなら」

「もう化け物としか知り合わない覚悟してんだ」

 

 そういう星の下に生まれてそうなのは否定しないけど。まぁ天ケ瀬はいい子だったし、化け物ばっかり集まってくるわけじゃないと思う。舞坂自体はいい男……ちょっと悩むところあるけど悪い男じゃないし、舞坂が私に紹介していいレベルの男なら、間違いないとは思えるくらいの信頼はある。

 

 ……そろそろいいかな。

 

「で? 他に用あんでしょ?」

「あ、バレてましたか」

 

 へたくそな笑みを浮かべて敬語を使う舞坂。彩芽も舞坂も、時々敬語を使う癖がある。それは大体気まずいときとか、何かしらの感情が高まったときとか、そういう時。今はなんとなく恥ずかしそうというか、気まずそうな感じがする。それなら多分、彩芽関連のことのはず。

 

「言ってみ。別に何言われてもバカにしたりしないから」

「いや、その心配はまったくしてねぇんだけど……うーん、じゃあさ。俺、彩芽をぎゅってしたらキスする決まりがあるんだけど」

「バカじゃん」

「バカにしてんじゃねぇか」

 

 決まり? したくなるとかじゃなくて? なんでそれを私に言ったんだ。今のところぎゅってしたらキスする決まりに関する相談だっていうことしかわかんない。もしかして世のカップルはそれが普通なの? ぎゅってしたらキスする決まりを作って、「いつものは?」って聞いたりしてイチャイチャするとか?

 ……やりそうではある。

 

「中条にこういうこと言うのもなんだけどさ。ほら、俺も男なわけで、ぎゅってしたら密着するし、キスするってなったら唇で彩芽に触れるわけだろ?」

「それで我慢できなくなりそうっていう話?」

「流石、話が早い」

 

 理解できなくもない。彩芽は女の私から見ても可愛いし、信頼している相手、特に好きな相手……舞坂にならなんでも許しそうな雰囲気がある。なんというか、ガードが緩い。よく私の膝の上に乗ってきて「えへへ」って笑ってくるし、お返しをしたいのか私を見て自分の膝をぽんぽん叩いたりするし、その度私と舞坂は可愛すぎて死にかけている。

 あれだ、信頼している人が相手だと幼くもなる。母性本能をくすぐるっていうのが適切かもしれない。そんな子にぎゅってしてキスして、向こうがノーガードとは言わずとも隙だらけだったら、そりゃ男だったら我慢できなくなっても仕方がない。

 

「別に、いいんじゃないの? 彩芽なら受け入れるだろうし」

「いや、ダメなんだ。詳しい事情は説明できねぇけど、今は裸のまぐわいをしちゃダメなんだよ」

「キショイ言い方はスルーしてあげる。でも、そうか……」

 

 色々事情はあるとして、ぎゅってしたらキスしなきゃいけなくて、舞坂は我慢できそうになくて、彩芽はそれを受け入れてくれるだろうけど、その先には進んじゃいけない。

 まず舞坂を褒めたい。私が舞坂と同じ立場なら、すぐに理性を壊されて彩芽をめちゃくちゃに抱いていると思う。あんな可愛いのを自分の手でめちゃくちゃにできるっていう状況が目の前にあるならそれが当然。っていうのを考えたら、マジでちゃんとしたやつなんだなぁとこっそり舞坂の評価を上げた。

 

 結論から言えば、我慢するしかない。ただ、その我慢ができなくなりそうだっていう話で、じゃあ我慢したいって思えるようにすればいい。

 

「あ、それじゃあ舞坂が我慢できなかったら、私が教室で舞坂にキスするっていうのは?」

「待て、それじゃあ俺めちゃくちゃ最低な男になるじゃねぇか。それに中条に迷惑かけたくねぇし」

「だからじゃん。私も彩芽の前でそんなこと絶対にしたくないし、あんたもそれがわかってるから絶対に我慢してくれる」

 

 流石に、舞坂とキスするのは嫌じゃないとは言わなかった。実際嫌じゃないけど、変な勘違いされたら困るし。私は友だちで、一定以上の清潔感があって、ちゃんとしたやつだって思ってたらまぁできるってだけだから、『もしかして俺のこと好きなのか……?』みたいな勘違いをされるのはごめんだ。舞坂に限ってそんなこと思わないだろうけど、結菜と同じ血が流れてるっていうなら警戒して損はない。

 

「なんか、地味に俺の評価高い?」

「彩芽の彼氏になるのを許してやってんだから、当然でしょ」

「なんか、照れますね……」

「キモ」

「女の子にキモって言われるのマジで傷つくからやめてくれ」

「じゃあキモいのやめて」

「はい」

 

 そこで一度会話が切れて、改札を通る。ホームが違うからと「じゃ、頑張って」と言って別れようとすれば、「中条」と呼び止められた。

 

「ありがとな。中条が彩芽の親友でよかった」

「私も、舞坂が彩芽の幼馴染でよかったよ」

 

 少し笑って手をひらひら振って今度こそ別れれば、私の背中に「姉御!」と舞坂の言葉が投げられる。誰が姉御だ、コラ。

 

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