【本編完結】ぎゅってしないと好きになる魔法   作:酉柄レイム

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第47話 風紀、乱れる

 バレンタイン当日。

 

 イベントの効果か、見た感じ本命渡しそうだなぁって女子をちらほら見かける。イベント主催だからか、お礼として廻と拓斗も何人かからチョコ貰ったみたいだし。チョコほしいとかもらえないのがおかしいとか言ってたあいつらも本当に貰えるとは思っていなかったのか、「致死量の毒入ってんちゃうか?」「廻は多分毒が入ってても平気だろうからいいよね」と失礼なことを口走っていた。

 

 かくいう俺は、一つも貰っていない。多分彩芽に気を遣ってるからで、証拠に「いつもバカのお守りお疲れ様」「クラスの平和の一因は舞坂だよね。ありがとう」っていう言葉だけもらっている。それですら面白くなさそうな顔をしている彩芽が可愛くて、彩芽から貰うチョコへの期待がぐんぐん増していった。

 

 ……ただ、なんかめちゃくちゃ照れ臭くて彩芽を全然見れない。すげぇ意識しちまう。恋愛初心者か? 俺は。なんだこの胸のドキドキは。『え、もしかして私のこと好きなの……?』って勘違いしてる時の結菜くらいドキドキしてる。

 バレンタインは、好きが明確に表れる日。好きを伝える勇気を後押ししてくれる日。それじゃあ、元から好きってわかってるなら、好きに押しつぶされる日と言ってもいい。言っていいのか? 俺が恋愛のなんたるかをわかってないだけか?

 

 クソ、なんでこんなときに限って廻と拓斗が「うわ、雪野さんに呼び出された!!」「ご褒美だってさ。死んだね、僕ら」って言って教室から出て行ってるんだ! そうじゃなきゃあいつらと話して気を紛らわせられたのに。なんでもいいからびっくりすること起きねぇかな。頭がサイの人間が何食わぬ顔で教室に入ってくるとか、そういうの。

 

「中条!! 俺と付き合ってくれ!!」

 

 なんて考えてたら、望んでるびっくりとは違うびっくりが教室中を支配した。

 

 大胆な告白につられて見れば、中条に頭を下げている男子と、明らかにめんどくさそうにしている中条。そしてびっくりして目を丸くしている彩芽が視界に映った。正直彩芽に目を奪われて中条への告白が思考の彼方へ消え去りかけた。

 

 中条が俺を見る。これ、あんたらのせいでもあるからね、と目で訴えかけてくる中条に、早く返事してやれと男子を指せば、いや、ごめん、八つ当たりした。と手をひらひら振ってくる。

 

「ここじゃなんだし、場所うつそっか」

「お、おう」

 

 みんなの前でフるのは可哀そうだから、だろうなぁ。これからフラれる男子に小さく敬礼して、中条と二人で教室を出て行った後、まだ放心状態の彩芽に声をかける。

 

「彩芽」

「……あ、修也」

「おう」

 

 ちら、と彩芽が自分のカバンに視線を向ける。なるほど、そこにチョコが入ってるのか。俺が話しかけた瞬間チョコを気にするとか可愛いかよ。そろそろ辞書で『可愛い』を調べたら意味に『彩芽』って書いてんじゃねぇか? は? 俺の彩芽を勝手に辞書載せてんじゃねぇぞ!!

 

「かおり、どうするのかなぁ」

「断るだろ。あいつ彼氏いらねぇっつってたし」

「……一緒に帰ったときに話したんだ」

 

 彩芽がむっとした。おいおい、ぎゅってしてよしよししてキスもしたのに嫉妬か? この欲張りさんめ! ホワイトデーは俺という存在をお返しであげようかな?

 

 ……あぶねぇ。バレンタインだからって浮かれすぎだろ俺。父さんのキモい遺伝子が発揮されてキモいこと考えちまってた。父さんの遺伝子だけ抜くことできねぇかな。なんかこのままだとなんだかんだで変な魔法使えるようになりそうだし。魔法って血統が大事みたいなイメージあるから。

 

「あぁいうのが出ねぇように壁役なってたんだけどなぁ」

「かおり、大丈夫かな……。何もされてなきゃいいけど」

「あぁ、それなら大丈夫」

 

 そろそろくるかな、と教室の入り口に目を向ければ、ちょうどそいつらが入ってきた。

 

 『風紀』と書かれた腕章をつけた廻と拓斗。そして中条に告白した男子が簀巻きにされて二人に抱え上げられ、その後ろから頭痛に耐えるように頭を抑える中条。

 

 さっきVEINを見たら、雪野さんから『二人はバレンタインに浮かれる不埒者を取り締まる役を与えました』ってきてたから、その時点で中条は大丈夫だろうなって思ってた。

 

「クソ!! 離せ!!」

「アホ!! フラれたくせに迫るようなやつ、野放しにするわけないやろ!!」

「そんなことしたら僕たちが雪野さんに殺される!!」

 

 不届き者を壁に押し付けて「オラ!! もう女の子が嫌がるようなこと二度とやりませんって誓え!!」「待ちなよ廻。そんなにチョコがほしいなら、さっきチョコを食べた廻がこいつにディープキスしてあげるっていうのはどうだい?」「名案や!」「う、ウワアアアアアアア!!!!」と騒ぐ集団から離れた中条が、ふらふらしながら俺たちのところへやってきて、彩芽の膝に座った。

 

「お、お疲れ様?」

「マジでひどい夢かと思った……」

 

 流石に廻からディープキスされるのは可哀そうだと思ったのか、女子数人が「何したかわかんないけど、可哀そうだからチョコあげる」「死刑よりキツイことはやめてあげなよ、赤谷」と救いの手を差し伸べているのを横目に、「何があったんだ?」と聞くと、中条は深いため息を吐いた。

 

「普通に断ったんだけどさ」

「うん」

「俺のどこがダメなんだって、ダメなやつが吐く典型的なセリフ言われて」

「おう」

「そもそもよく知らなかったから『そういうとこ』って言ったら逆上されて」

「えっ、大丈夫!? 怪我とかしてない?」

「気づいたらあいつが簀巻きにされてて、その周りで赤谷と倉敷がバレエ踊ってた」

「なるほど、ひでぇ夢だな」

 

 だからさっき雪野さんから『あの二人、風紀とバレエに因果関係があると思ってるんですが、なぜでしょう』ってVEINきてたのか。多分『風紀』を『優雅』だと思ってて、『優雅』な『バレエ』を連想したんだろう。だからって簀巻きにしたやつの周りでバレエする意味わかんねぇし、そもそもなんでバレエできんだよ。

 

 彩芽がお疲れ様の意味を込めて中条を撫でれば、珍しく中条が彩芽に頬ずりする。まぁ仕方ない。興味のない男子に告白されて断ったら逆上された上、意味不明なバレエを見せられたんだからその心労は計り知れない。今も簀巻き状態の男子の前で廻と拓斗にくるくる回られて、「ごめんなさいいいいいい!!!!」って男子が叫んでるくらいだし。

 

「悪い中条。相手の気持ち考えろって男どもに叩きこんでおくべきだった」

「正直迷惑だったけど、流石にもう可哀そうだから助けに行ってやって」

「……まぁ、せっかくのバレンタインを地獄に変えられちゃ困るからな」

 

 いってきます、と彩芽に行って、いってらっしゃいを聞いてから変態バレエコンビのところへ向かう。まだ回り続けていた二人は俺に気づくと、俺に手を差し伸べてきた。

 

「shall we dance?」

「うるせぇよ。そろそろやめてやれ」

「でも修也。こいつが反省の色を見せないんだ」

「言いすぎなくらい謝ってただろうが」

 

 変態バレエコンビを押しのけて縄を解けば、「ありがとう、ありがとう……!!」と膝をついて感謝された。よっぽど怖かったらしい。

 

「悪いな。アプローチの仕方を教えてやるべきだった」

「俺が悪いんです……もうしません……」

「よっぽど俺らの説教が心にきたみたいやな」

「バレエだろ」

 

 同情を込めて肩を叩いてやれば、「よくこんなのと一緒にいて正気を保ってられるな」ともっともなことを言った後、男子は去っていった。わかる。俺もそう思う。

 

「悪は去ったね」

「俺にはまだ二人残ってるように見えるけど……」

「おいおい。『風紀』って書いてる腕章が見えへんのか?」

「『風紀』の意味を理解してんのか?」

 

 むしろ乱してる側だろ。騒いだのがうちのクラスだったから「あ、いつのものか」ってみんなが納得してくれたからよかったものの、これを学校中の生徒全員から見える場所でやってたら風紀はぶち壊れる。

 こいつらに暴れる大義名分を与えるとろくなことにならない。いや、まぁ、中条を助けたのはいいことだけど、結果的に心労がものすごくあったっぽいし、いいことだけどワリィことだ。

 

「いいか、絶対やりすぎるなよ?」

「大丈夫や。さっきの見事な手腕見てたやろ?」

「見てたから言ったんだろうが」

「ゾウのウンコには草木の種子があるから、自然の再生に役立つらしいよ」

「なんでそれを今言ったんだ?」

 

 それじゃあ、僕たち忙しいから。廻と拓斗はグランフェッテ・アン・トゥールナンをしながら教室を出て行った。まだバレエやってんじゃねぇか。

 

 ……めちゃくちゃ不安だから、俺も行こう。教室を出てすぐ雪野さんがいて、笑顔で『風紀』と書かれた腕章を手渡されたのに恐怖しつつ、それを受け取った俺はグランジュテを繰り返すバカ二人を追いかけた。

 

 

 

 

 

 どういう、ことだ……!!?

 

 放課後、帰路、あと数メートルで家に着く。それなのに隣に彩芽はいなくて、チョコも貰っていない。何が起きてる? そんなに俺がノリであいつらとピルエットしたのがダメだったのか? それを雪野さんに見られて、バレエの指導されたのが見るに堪えない光景だったのか?

 

 ちなみに廻が一番うまかったらしい。あいつ、体使うのは死ぬほどうまいからな。

 

「……あ」

 

 あいつにバレエで負けたことに悔しさを感じていると、見つけた。俺の家の前に、彩芽がいる。俺に気づいていないのか、前髪をちょこちょこ直す姿が可愛らしい。少しでも可愛く見られたいってことだろ? なんでそんないじらしい子がいるのに、俺ってやつは学校でバレエやってたんだ。

 

「彩芽」

「……!」

 

 声をかけると、彩芽が俺を見た。何も言わないことを不思議に思いながら近寄れば、手に持っていた可愛らしい包装がされている箱を俺に勢いよく手渡して、

 

「ほ、本命!!!!!」

 

 それだけ言って、走り去っていった。

 

 

 

 

 

「……お母さん。修也、なんでずっとアラベスクしてんの?」

「彩芽ちゃんが可愛すぎたらしいわよ」

 

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