「あ、修也と彩芽ちゃんにかけてた魔法解いておいたぞ」
「おう」
もうすぐ期末だし三年生になるからと、貴重な休日に勉強をしていた俺の部屋にやってきた父さんが一言。それに軽く返事をすれば「勉強頑張れよ」とまともな父親らしいことを言って、父さんが部屋から出て行く。
ったく、俺と彩芽にかけてた魔法を解いたくらいでいちいち部屋くんなっての。飯んときでいいだろそういうのは。
とはいってもいつもみたいに変なことはしてこなかったからよしとして、机の上に広げたノートに再度筆を走らせ、
「今なんつった!!!!!!?????????」
あまりにも普通に言うから軽く返事しちまったけど、とんでもねぇこと言わなかったか!? 俺と彩芽にかけてた魔法を解いた? ってことは、もう俺は彩芽に好きって言ってもいいってことか!? そういえば最近あの不思議なぎゅってしたいって感覚ねぇなって思ったし、なんならキスしなくても離れられそうだったけど、俺がしたいからって黙ってやってたけど、マジで解いたのか!?
「うるさいぞ修也。近所迷惑だろ?」
「誰のせいだと思ってんだよ! 魔法解いたってほんとか!?」
ドアを蹴破って、壊れたドアを魔法で修復しながら俺を注意する父さんに掴みかかれば、「うん」と軽く頷いた。テメェ、軽く頷きやがって……魔法にかけられた俺がどんな気持ちだったか考えたことねぇのか……!!
「つか、結構早かったな、魔力溜まるの」
「親切な男の子に会ってな。超ド級ハイパーマックストリケライナーHDMIのパーツをあげたら、魔力を供給してくれた」
……この際考えないようにしよう。そういや夏祭りの時ずっと向こうにいる両親を見つけて、俺と彩芽じゃ見えねぇみたいなこと言ってたなとかそういうことは気にしちゃだめだ。というか超ド級ハイパーマックストリケライナーHDMIってもしかして魔法アイテムだったりすんのか? 無駄にパーツ散らばってたし。
「よし、彩芽に連絡するから出てけ」
「そんなこと言わないでぇ! あたち、さみしい!」
本気で蹴ってクソ親父を部屋から追い出して、彩芽に電話をかける。今すぐ声を聞きたい。今すぐ好きって言いたい。この日を俺がどれだけ心待ちにしていたことか。やっと、やっとだ!!
「彩芽!!」
『わっ、ど、どうしたの?』
もしもし、と言う前に名前を呼べば、困惑した声が聞こえた。相変わらず可愛い声だ。寝る時に耳元でささやいてくれたら毎日安眠できること間違いなし。嘘、興奮して眠れないから不眠症になる。チクショウ彩芽め、俺を不眠症にしてどうするつもりだ……!?
「魔法が解けた!」
『え、ほんと?』
「マジだ! さっき父さんが部屋にきて、魔法を解いたって」
『……』
「それでさ、彩芽。俺」
トゥルン、と電話が切れる音。
……? あれかな、焦って通話を切っちゃったとかそういうのだろ。それかめちゃくちゃな急用ができたとか。
前者ならかけ直してくれるだろうし、後者なら申し訳ないからと待っていれば、彩芽から『ごめん、ものすごい急用ができた!』というVEIN。おいおい、俺を焦らしやがって……どうなっても知らねぇぞ?
まぁそれなら、気長に待とう。大丈夫、魔法にかけられてた期間に比べたら、彩芽を待つ時間なんて屁でもない。
というかそうだ。好きなんて言葉電話で済ませるのもなんだし、直接会って言おう。
『おっけ。どっか時間取れそうか?』
『ごめん、無理そう』
『じゃあ休み明けにするか』
『はい』
……? 様子が、おかしい? うん、とかじゃなくて、はい? 告白の返事だってわかってるから緊張してるだけ、とかか? ありえるけど、ちょっと違和感あるような……。
次会った時、何かあったか聞いてみるか。
「彩芽」
「!!」
俺は彩芽に話しかけた。彩芽は逃げ出した!!
「彩芽!」
「!!」
俺は彩芽に話しかけた。彩芽は逃げ出した!!
「彩芽!」
「試験中だぞ」
俺は彩芽に話しかけた。しかし試験中だった!!
「どうしてだよおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!」
「ここが亀有公園前派出所なら、窓が全部割れてたね」
「真咲さん、何があったんやろなぁ」
魔法が解けてから、気づけば試験が終わって春休みを迎えようとしていた。何が起きてるんだ!? なんで俺が避けられる!! 告白の返事を恥ずかしがってるってだけじゃあ説明つかねぇぞ!?
会って話しかけても逃げられる。目が合えば逸らされる。最初の方は「とうとうフラれたか! ギャハハ!」「まぁ修也。気を落とすことはないヨ?」と笑っていたバカ二人もあまりにも異常事態だったからか、俺と一緒に頭を抱える始末。
「ほんまに真咲さんとなんもないんやんな?」
「あそこまで避けられるようなことは何もねぇよ……」
「修也。今なら真咲さんに対して性欲の限りを尽くしたと言っても怒らないから」
「やりてぇけどやってねぇよ!!」
「よう言うた!! それでこそ男や!!」
チクショウ! 父さんが俺と彩芽がそういう仲になったら家を空けてくれるって約束までしてくれてるのに、なんでそういう仲になれねぇんだ!! おかしくねぇか? 彼女にしてくれますかって言ってきたの彩芽だぜ? てかなんだよ彼女にしてくれますかって可愛すぎんだろ俺を舐めてんのかコラ!!
……情けねぇけど、彩芽に対して困ったことがあったら姉御に頼るしかない。『彩芽、何かあったのか?』とVEINを送って、祈りを捧げる。
「……?」
「どうしたんだい? 修也」
「スマホ見て何固まって……」
『彩芽ばっか構わないで』
以上、中条からの返事。
「お前、何浮気しとんねんコラ!!」
「マジで知らねぇって!! 悪ふざけだろ、悪ふざけ!!」
「白状しなよ! 僕たちは冗談が一番嫌いなんだ!」
「じゃあなんで生きてんだ!」
「なんてこと言うんだ!!」
「ぶっ飛ばしたるわ色男!!」
クソ、何がどうなってやがる!? 彩芽の様子がおかしいどころか、中条の様子もおかしいのか!?
すぐに元通りになるだろうと思って放っておいた問題が、ずっと続いている。
「で、相談って?」
その問題っていうのは、彩芽が舞坂をずっと避け続けている、というもの。隙あらばイチャイチャしていた二人が全然イチャイチャしなくなって、まさか破局したのか、と噂にもなった。破局してたら彩芽は私に言ってくれるだろうからそれはないってわかってるけど、ついに彩芽からの相談。もしかしたら舞坂と別れたいって言うのかもと考えて、どうやって舞坂を慰めようかというところまで思考を巡らせている私に、彩芽が一言。
「その、修也が、好きすぎまして……」
放課後の教室。もちろん彩芽の様子がおかしいことを知っているクラスメイトは相談内容が気になって聞き耳を立てていた。でも彩芽がいつも通りの一言を放ったことで、「なんだいつも通りか」と一斉に帰宅を始める。
「へぇ」
「ほ、ほんとなの! 嘘じゃないの!」
「別にそれは疑ってないけど、いつも通りじゃん?」
この可愛いの、どうしてくれよう。舞坂が好きすぎるってだけで避けまくって、挙句クラスの噂話をここ最近独占して、彩芽は気づいてないだろうけど避けられまくった結果めちゃくちゃ舞坂をへこませて。この前なんか、「最近、彩芽が構ってくれないから糖分足りねぇんだよな」って言って蜂蜜飲んでたし。舞坂が病気になる前に早く構ってあげてほしい。
「いつも通りじゃ、ないの。前も好きは好きだったけど、今は大好きっていうか」
「……」
「顔見るだけで、ひゃーってなっちゃうっていうか、好きすぎて声聞いちゃうだけでその、なんというか、恥ずかしくなって」
「……」
「ど、どうしようかおり。このままじゃ、修也に嫌われちゃう」
私、今何やってんだっけ? なんで春休み前にして一生続きそうな春を見せられてんの? 本音を言うとほっときたいんだけど。舞坂が彩芽を嫌いになるなんて絶対ないし、あいつ変なところで男らしいから、私が何かしなくても勝手に彩芽を捕まえて、めちゃくちゃに可愛がるだろうし。
……でも、そうならなかった時。彩芽が自己嫌悪に陥って、これ以上こじれたら面倒か。彩芽にはできるだけ早く笑顔になってほしいし。
「それに、修也ってカッコいいし優しいし面白いし、私以外の女の子から好きって思われてても……ムカつく!」
「落ち着きなって。舞坂が彩芽を嫌いになることなんてないし、どんなやつに誘惑されようとなびくことなんてないから」
「なんか修也のことわかってる……。かおり、もしかして」
「私に矛先向けんな。ないから」
よし、早くなんとかしよう。このままじゃ暴走しそうだし、病みそうだし。舞坂が他の女子と話してるだけで怒り狂ったりしたら、流石に目も当てられない。今だって自分で想像して勝手にムカついて、持ちだした矛をいきなり私に向けてきたし。既に片鱗はある。
「顔合わせて話すのが無理なら、VEINとかは?」
「むり。文字がカッコいい」
文字がカッコいい。
「じゃあ、手紙とかにして一方的に送ったら?」
「むり。絶対返事くれるし、文字がカッコいい」
文字がカッコいい。
「……いっそいきなりぎゅってしちゃえば? 一回やればあとは平気になるでしょ」
「か、かおりは修也のカッコよさを舐めてる!!」
「帰るかんね」
「わー! 待って!」
訳の分からないことを言う彩芽に付き合いきれず立ち上げれば、彩芽が私に飛びついてきて強制的に席へ戻される。しかも彩芽が私の上に座ってきた。正面から抱き合う形になって、流石に男子の目は払っとかないとな、と周りに視線を向けて男子に中指を立てれば、「うおおおおお!!」と大盛り上がり。ウケる。
「彩芽、スカートの中見えるよ」
「だ、大丈夫! 何があってもいいように、上下そろえてるから!」
「そんな心配はしてないけど……」
脳内ドピンクじゃん。恥ずかしがって舞坂と直接どころか文字でも話せないくせに、そういう準備はしてるんだ。幸運なのは、彩芽の変な発言を聞いた男子が、記憶を失うために殴り合いを始めていることか。そうしないと、バカ二人を使役した舞坂に襲われるし、賢明な判断と言っていい。
「ほんとにむりなの。修也が好きなの。ねぇかおり、私どうしたらいい?」
「めんどくせー……」
「うっ……わかってるけど、自分でもおかしいこと言ってるって」
「もうオカルトに頼れば? 魔法とか」
「それだ!!」
私の胸に顔を埋めて沈んでいた彩芽が急に顔を上げる。目と鼻の先にいる可愛いのにびっくりしていると、彩芽はスマホを取り出した。
「もしもしおじさん? ちょっと相談に乗ってほしいんですけど……そうです!」
おじさん? あれだよね、舞坂のお父さんだよね? なんか怪しいおじさんとかじゃないよね?
「私に、『修也とイチャイチャする魔法』をかけてほしくて!」
怪しすぎるおじさんだったわ。
イカレたことを言い始めた彩芽からスマホを取り上げて、耳に当てる。
「どこの誰だか知りませんけど、彩芽に変なことしないでくれません?」
『ぷっちゅん!!!!!!!!!』
死ぬほど気持ち悪い声が聞こえてきて、思わず通話を切って彩芽にスマホを返す。何今のおぞましいの。彩芽、悪い人に騙されてない?
「あ、もう! 何するのかおり!」
「さっきの誰?」
「え? 修也のお父さん」
あれと家族にならなきゃいけないなら、彩芽と舞坂を結婚させていいのか本気で悩む。何? 息子の彼女に『ぷっちゅん!!!!!!!!!』って。わけわかんないけどとりあえずろくでもないことだから、警察に連絡しようかな。いや、もしかしたら彩芽は留置所に電話かけてたのかもしれない。
「はぁ、とりあえず舞坂に言っとくかんね。変なことになったら嫌だし」
「わー! 待って! 一番恥ずかしい!」
「おとなしくしな」
私のスマホを取り上げようとする彩芽をぎゅっとして抑え込んでスマホを見れば、ちょうど舞坂からVEINがきていた。
それを見た瞬間、鼓動が早くなって、体が熱くなってきた。
「……あれ?」
気づけば、舞坂に『彩芽ばっか構わないで』と送っていた。
「……!!!!????」
「ど、どうしたの? かおり」
「……えっと、彩芽」
舞坂のお父さん、マジもんの魔法使いだったりする? 私が聞けば、彩芽はわかりやすく目を逸らして冷や汗を流し始めた。