【本編完結】ぎゅってしないと好きになる魔法   作:酉柄レイム

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第5話 避けたかった遭遇

 土曜日。両親は今日も仲良くデートに出かけ、姉ちゃんはいつも通り家でだらだら。大学生なのに遊ばなくていいのかと聞けば、「美人な姉が家にいると嬉しいでしょ」と意味の分からないことを言い出したため、鼻で笑ったら気づけば昼だった。何があったんだ……?

 

 朝の記憶がまったくないことは置いておいて、今日は彩芽と中条が家にやってくる。つい先日、中条が彩芽を連れて「勉強教えてー」と言ってきた。こいつ、俺に気があるのか? って思ったのも一瞬だけで、その直後には自分の命の危険を感じていた。その時は周りに廻と拓斗はいなかったから大丈夫だとは思うけど、このことがバレた瞬間俺に明日はこないだろう。

 

 部屋に上げると俺がドキドキしてしまうからリビングのテーブルに勉強道具を広げ、二人を待つ。背中にべったりと張り付いている姉ちゃんがにたにたと笑っているのがかなり癪に障るが、触れれば更に癪に障ることは確実だからあえて無視しておいた。

 

「なんかワクワクしてるじゃーん?」

 

 向こうからきた。俺の肩に顎を乗せ、もはや口で「にたにた」って言ってるんじゃないかってくらいにたにたしているその憎たらしい表情を俺にぶつけ、ストレスを煽ってくる。

 

「そりゃ、可愛い女の子が自分の家にくるってなったらワクワクもするだろ」

「ふーん。ちゃんと避妊具はあるの?」

「ねぇよ」

「避妊はしないとダメだよ」

「避妊しなきゃいけないような行為はしねぇよっつったんだよ」

 

 けたけた笑う姉ちゃんにため息を吐く。姉ちゃんは俺に女の子との交流があると、すぐに下ネタへ持っていこうとする悪癖がある。「モテない弟をサポートしてあげようと思って」なんてもっともらしいことを言っているが、ただ単純に暇でからかう相手がほしいからだと俺は知っている。性格ワリィんだよこの女。

 

「まぁそっか。彩芽ちゃんと付き合ってるんだもんねぇ」

「だから付き合ってねぇって」

「そんじゃあなんでぎゅってしてたん? ぎゅって」

 

 姉ちゃんに彩芽と抱き合っているところを目撃されてから、こうして時々追及される。何度も付き合ってないって言っても納得しないようで、姉ちゃんの中では俺と彩芽は付き合っていることになっていて、彩芽も姉ちゃんと会った時「修也のどこが好きになったの?」と聞かれたらしい。

 

「だから、アレは彩芽がとてつもなく可愛かったからって言ってるだろ?」

「え?」

「ごめん、聞かなかったことにして」

 

 金曜日、彩芽が中条と遊びに行ったせいでぎゅっとするタイミングを失ったせいで、彩芽への好きっていう気持ちが溢れてしまった。っていうかマズくないか? この状態で彩芽と中条がくるって、俺か彩芽がボロを出しかねない。さっきだって「ムカつきすぎて彩芽を締め落とそうとしたから」って言おうとしたのに。よく考えたらどっちにしろマズい発言じゃねぇか?

 

「や、聞かなかったことにはできないでしょうよ」

「お願い、お姉ちゃん……」

「わかった。わかったからそのキモいのやめて」

 

 手を組んで目をきゅるんとさせれば、あまりの俺の可愛さに姉ちゃんがギブアップした。ふ、伊達に姉ちゃんの弟やってねぇぜ。参ったな、俺の弟力が高すぎてカッコよさと可愛さを兼ね揃えちまってる。なんかキモいのって言われた気がするけど気のせいだろう。

 

 図らずも姉ちゃんが俺から離れたところで、チャイムが鳴った。VEINには『もうすぐつくー』と中条からきていたから、中条で間違いないだろう。立ち上がってリビングを出て玄関に向かい、ドアを開ける。

 

「よう、心の友」

「さっきそこで中条と真咲さんと会ってここまできたんやけど、お話聞かせてくれる?」

 

 ドアを閉じる。

 

「姉ちゃん!! 今すぐ隠れてくれ!!」

「は? なんで?」

「俺の友だちの、年上好きのド変態と性に飢えた化け物がきた!! このままじゃ姉ちゃんが犯される!!」

「あんた、友だち付き合い考えた方がいいよ」

「それはほんとにそう」

 

 クソ、どうする。ドアを開けたら廻と拓斗、その後ろに中条と彩芽がいた。それは間違いない。問題は廻と拓斗が俺に対する明確な殺意を抱いていたことだ。あいつらがきたらマズいからと当然今日中条と彩芽と勉強するってことは言ってなかった。だからこそ、あいつらは殺意をまき散らしているんだろう。俺が女の子と勉強するってだけで殺しにくるのに、それを黙っていたんだ。

 

「ねぇ修也。とりあえず上げてあげな? あんま外で待たせるもんじゃないし」

「いつまで姉ちゃんはそこにいるんだ!!」

「え、マジで私犯されんの?」

 

 神妙に頷いて見せれば、「流石に高校生相手はなぁ」と呟いて、おとなしく二階に上がってくれた。いや、相手が高校生だとかそういう問題じゃないんだけど。

 

 ただ、姉ちゃんの言うとおりだ。相手が高校生っていうのが言う通りなんじゃなくて、あまり外で待たせるものじゃない。廻と拓斗はともかく、中条とマイハニー彩芽を外で放置するのはいただけない。マズい、好きが溢れた。

 

 大丈夫。あいつらはいいやつだから、ちゃんと説明すればわかってくれる。一縷の望みを持ってドアノブに手をかけて、ゆっくりと開いた。

 

「よう、心の友」

「さっきそこで中条と真咲さんと会ってここまできたんやけど、お話聞かせてくれる?」

 

 同じことを言われた。怖すぎる。これは「さっきドア閉めたのは見なかったことにしてやるから、次同じことしたらわかるよな?」っていうことだろう。俺は震えた声で「とりあえず入れよ」と言えば、二人は俺を押しのけ、バックドロップした後家へ上がった。

 

「舞坂、大丈夫?」

「あぁ、いつものことだから」

「いつものことだと余計心配すんだけど、ウケる」

「ウケてんじゃねぇか」

 

 完璧に受け身を取ったから体はそれほど痛くない。ゆっくり立ち上がって、改めて「いらっしゃい」と言うと、「いらっしゃいましたー」とけらけら笑いながら中条。彩芽は俺から目を逸らし、頬を赤く染めている。おい、もう好きじゃねぇか。

 

「とりあえず上がってくれ。つか悪いな、あのバカどもが一緒になっちまって」

「別にいいよ。他の人がどうか知んないけど、私は嫌いじゃないし」

「おい修也! 今中条が俺のこと愛してるって言わへんかった?」

「そう聞こえたんだとしたらお前うちに来てる場合じゃねぇぞ。病院行け」

「もう手遅れやって言われたわ」

「受診済みでしたか……」

 

 なんでも親に連れられて頻繁に病院へ行っているらしく、行く先々で匙を投げられたらしい。俺はもうちょっと廻に優しくしようと思う。

 

 俺たちのやり取りを見てやはりけらけら笑う中条と、やはり俺と目を合わせず頬を赤くする彩芽を連れて家に入る。と、拓斗が廊下の真ん中で棒立ちになっていた。……まさか。

 

「修也」

「どうした拓斗」

「君、もしかしてお姉さんがいる?」

 

 瞬間、俺は行動に移していた。ここで正直に答えるのが一番の愚策。最善策は、こいつを気絶させて病院送りにすることだ。近くにあった靴ベラを手に取って、一気に拓斗へ肉薄、そのまま喉に向かって靴ベラを一閃する。

 しかし、『すぐ近くにお姉さんがいる可能性』を感じている拓斗は無敵だった。靴ベラを持った俺の手を掴み、そのまま体ごと持ち上げられて床に叩きつけられる。拓斗の喉を叩こうと振るった靴ベラは今、俺の喉に押し当てられていた。

 

「真咲さん。正直に答えてほしい。修也にお姉さんはいる?」

「彩芽、答えるな!! 答えた瞬間俺の家族が増える!!」

「語るに落ちたな修也! その言葉はお姉さんがいることの証明になる!!」

「し、しまったァァアアア!!」

「ごめん、かおり。一緒に行くんじゃなくて止めるべきだった……」

「思ったより頭おかしいんだね」

 

 中条からの評価が著しく下がっているのは気のせいだとして、マズい。拓斗に姉ちゃんの存在がバレてしまった。このままじゃ拓斗から義兄さんと呼ばれてしまう! いやだ、こんな年上好きのド変態と家族になるのは!!

 

 そんな俺の願いを裏切る音が、階段から聞こえてくる。トン、トン、という音は、階段を下りてくる音。この家にはこの場にいる人間以外だと、姉ちゃんしかいない。

 

「っ、マズい! このままだと僕がお姉さんの弟である修也を床に押し倒して暴力を働いているみたいになる!!」

「みたいっつーか実際そうなんだろうが! つか今更取り繕ったところであの声量なら絶対姉ちゃんに届いてるからな!」

「中条さん、真咲さん。今から僕は運命の女性と出会うんだけど、第一声はなんて言えばいいかな? 女性としての意見を聞かせてほしい」

「テメェ!! 気安く彩芽に話しかけてんじゃねぇ!!」

「やっぱ好きじゃん」

 

 うっかり彩芽への好きが溢れ出したと同時、姉ちゃんが下に降りてきた。そして、拓斗の時間が止まる。拓斗の胸倉をつかんだまま揺らしても、びくともしない。姉ちゃんを見たまま固まっていた。

 

「……し、死んでる」

「あれ、私なんかやっちゃった?」

「いや、大丈夫。姉ちゃんのおかげでまた世界が平和になった」

 

 とりあえず凪咲ちゃんに『拓斗、うちの姉ちゃん見て死んだわ』と送ると、『先輩には申し訳ないですけど、これで母さんが無事になるなら標的が変わってほしいです』と強かな返事。

 

「彩芽。もしかしたら凪咲ちゃんが義妹になるかもしれねぇ」

「え! 羨ましい!」

「アレと結婚すればそうなれるぞ」

 

 死んでいる拓斗を指せば、彩芽は顔を真っ青にして全力で首を横に振った。

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