【本編完結】ぎゅってしないと好きになる魔法   作:酉柄レイム

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第51話 愛と恋

「相談があるんだ」

 

 いつもの空き教室。トランプタワーを作って息を吹きかけて倒した方の負けという遊びに興じていた俺と廻に、深刻な表情の拓斗から相談を持ち掛けられる。どうせ拓斗の相談なんてくだらないものに決まってるから話半分に聞いておこうと思っていたら、「パワーナックル!」と言って廻が右ストレートをぶっぱなし、トランプタワーを破壊する。

 

「友だちからの相談事やのに、遊んでるわけにはいかんからな」

「ありがとう廻。見習えよ、そこのゴミ」

「それが相談相手に対する呼称か?」

 

 仕方ねぇからトランプを直しながら拓斗の相談を待つ。なんだろう、進路とか? そんなことで悩むような脳は持ってねぇだろうし、だとすると……ダメだ、何かで悩むようなやつには見えない。切れ痔とかか?

 

「実は、一年生に僕のことが気になってる子がいたみたいなんだ」

「!!」

「!!」

 

 廻と目を合わせ、頷き合う。

 

「で、その被害者はどんな子なんだ?」

「待て修也。ここは拓斗に加害者の自覚あるかどうか聞くのが先やろ」

「僕をなんだと思ってるんだ?」

 

 ついに恐れていた事態が起きたか……!

 拓斗は入学してから今まで、浮いた話がなかった。あるわけがなかった。だって問題行動ばっか起こしてるし、学年またいで拓斗はおかしいっていうのは有名な話だったから。

 でも、新一年生は拓斗がそういうやつってことを知らない。しかも最近マシになってきてるから、新一年生から見れば普通にイケメンな先輩なんだ。とんでもねぇ詐欺だな。

 

「それで、相談なんだけどさ」

「おう」

「凪咲ちゃんが天ケ瀬の求めてることが何か知りたいらしくて。協力してやってくれない?」

「さっきの話どこいってん」

「自慢」

 

 俺と廻で一発ずつピンタして、さっきの話は終了。そういえばこいつ年下が恋愛対象になるわけがないから、心配する必要もなかった。もし万が一告白されたとしても、「僕年上にしか興味ないから」って言って、やばいやつだってことが一年生の間で広まって、二人目の被害者が出る前に終わるだろうしな。

 

「つか、凪咲ちゃんから拓斗にそういう相談されたってことか? 珍しいな」

「修也は受験生だからって言ってたよ」

 

 拓斗も受験生じゃねぇのか……? 受験生ってくくりで見て、迷惑かけていい方とかけちゃいけない方って見方したのかな。別に、凪咲ちゃんからのお願いなら無条件で聞くのに。

 

「何を求めるてるかって、具体的には?」

「そらあれやろ。手ぇつなぎたいとかディープキスしたいとか」

「その二つを並べる神経を疑うけど、まぁそういうこと」

 

 恋人として相手に何を求めてるか、みたいなことか? いじらしいなぁ。天ケ瀬なら絶対凪咲ちゃんのペースに合わせてくれるのに。でも、凪咲ちゃんもそのことはわかってても天ケ瀬がしたいことをしたいって思ってるんだろうな。それを直接言えば天ケ瀬もちゃんと答えてくれるとは思うけど、恥ずかしいから直接言えないんだろう。可愛い後輩だぜまったく。

 

「そんじゃ、天ケ瀬呼び出すか」

 

 天ケ瀬に『空き教室にきてくれ』とVEINを飛ばせば、扉が開いた。

 

「きたっス!」

「早くね?」

「なんかアニキが呼んでくれる気がしたんで!」

 

 にこにこ笑いながら椅子を引っ張って俺の隣に座る天ケ瀬。マジで可愛いなこいつ。心が綺麗な天ケ瀬の教育に悪いから、廻と拓斗は一刻も早くここから出て行ってほしい。

 「で、なんかあったんスか?」と首を傾げる天ケ瀬に、拓斗が頷く。一応凪咲ちゃんから相談を受けたのは拓斗だからここは任せるかと身を引けば、拓斗は懐から0.01と書かれた箱を取り出した。

 

「これ、使いたい?」

「もっとうまい聞き方あんだろうが」

 

 あまりにも直球すぎる拓斗のやり方にキレて、箱を掴んで拓斗に投げる。確かにそういうことしたいのかって聞きたい気持ちもわかるけど、致命的にへたくそだ。やっぱりこいつに任せるべきじゃなかった。

 箱がヒットした額を抑える拓斗を無視して、天ケ瀬に向き直る。いきなりの出来事に天ケ瀬はついていけていないようで、「あの箱なんなんスか?」と聞いてきた。ゴムだよ。

 

「最近凪咲ちゃんと仲良くやってるか?」

「やってるっス!」

「ヤっててゴムの存在知らんかったんか!? やるなぁ、天ケ瀬さん」

「ちょっと黙ってろ」

 

 不名誉な敬称をつけられた天ケ瀬が「なんか知らねぇけどあざっス!」とお礼を言う。どこまで純粋なんだお前は……。

 

 ゴム自体の存在は流石に知ってるはずだ。ただ、使おうなんて思ったことがないから、どういう風に売られてるか知らなかったってだけだろう。高校生にもなって存在知らないなんてなったら、現代教育の敗北だし。いくら少子高齢化だからといって、性教育をやめたわけじゃないからな。

 

「実際、どこまでいったんだ?」

「舌いれたっス!」

 

 突然あまりにも生々しい言葉がでてきたことに動揺した俺は、トランプタワーを作り始める。拓斗は頭を抱えていた。そりゃそうだよな。義妹がそういうことしてるって知ったらそうなるよな。俺だって姉ちゃんがそういうことしてるって知ったらそうなるし。いや、してるんだろうけど。

 

 つかマジか? 色々マジか? だって付き合ったの12月だろ? まだ4か月目じゃん。それで舌入れた? しかもその事実が天ケ瀬の口から出てくる? イメージになさすぎる。何かの間違いだろ。いやらしいキスじゃなくてもっと何か別の話だろ。きっとそうに違いない。そうじゃなきゃ俺は後輩に恋愛の速度で負けたことになる。

 

「天ケ瀬。舌入れたって、キスのことじゃねぇよな?」

「キスっスよ? バレンタインの時に凪咲がチョコ自分で食って」

「もうやめてくれ! 凪咲ちゃんがそんな積極的な子だったなんて信じたくない!」

「こっちから聞いといてワリィけど、拓斗が死にそうだからそこでやめてやってくれ」

「俺なんかやっちゃいました?」

 

 異世界主人公かテメェは。

 

 クソ、ショックだ……。もっと初心で純情だと思ってた。初々しくて可愛いなぁって感じのカップルかと思ってた。それがまさか、そんなとこまで進んでたなんて……! なんだって俺は中条と浮気みてぇなことしてんだ。早く彩芽と付き合いたいのに!

 

「せやけど、結構大胆やなぁ凪咲ちゃん」

「そういう食い方のチョコらしいっスよ?」

「集合」

 

 まっすぐな目で変なことを言い出した天ケ瀬を座らせたまま三人で立ち上がり、天ケ瀬から距離を取って内緒話を開始。

 そういう食い方のチョコ? そんなはずねぇだろ。世界中探したらもしかしたらそういうチョコ見つかるかもしんねぇけど、バレンタインは彩芽と凪咲ちゃんでチョコ作りの研究をしてた。だから、凪咲ちゃんも手作りチョコを渡したはずで、そんなトリッキーな手作りチョコなんて聞いたことがない。

 

「どう思う?」

「凪咲ちゃんが勇気を出したのは間違いない」

「天ケ瀬の捉え方が気になるとこやな」

 

 確かに。舌入れたってのをサラっという割に、0.01って書かれた箱を見てゴムだって認識していなかった。程度はわかんねぇけど、天ケ瀬は性知識が一般よりもないように思える。だから、凪咲ちゃんが「こういう食べ方のチョコだから」って無理なことを言って、天ケ瀬がそれを信じたってのが一番しっくりくる。

 

「でも、それじゃあ凪咲ちゃんが天ケ瀬の求めてることが何か気になってるのはなんでだろう」

「天ケ瀬が求めてる求めてない以前に、めっちゃ積極的やもんな」

「……そうか」

 

 凪咲ちゃんが積極的に行動を起こしたものの、天ケ瀬は素直にそれを受け取って、凪咲ちゃんが思ってたような反応をしなかった。つまり!

 

「天ケ瀬が思ったような反応をしてくれなかったから、凪咲ちゃんが自分を求めてくれてるのか不安になってる……?」

「それや!」

「伊達に幼馴染を手籠めにして好きなようにしてるわけじゃないね」

「俺を性犯罪者みてぇに言うんじゃねぇよ」

 

 っていうことは、俺たちがやるべきなのは天ケ瀬が凪咲ちゃんを求めてるか聞くことか? その上で、天ケ瀬から行動を起こさせる。俺に関しては人のこと気にしてる場合じゃねぇけど、可愛い後輩のためなら自分のことは後回しだ。

 

 それぞれ自分のところに座って、笑顔で天ケ瀬を見つめる。天ケ瀬は様子のおかしい俺たちに「なんか楽しいことあったんスか? アニキたちだけずりぃっスよ!」と怯え……てねぇな。可愛かったわ。

 

「天ケ瀬。凪咲ちゃんとこんなことがしたい! みたいなことあるか?」

「凪咲のやりたいことなら全部っスかね」

 

 即答した天ケ瀬が眩しすぎて、俺たちはサングラスをかけた。「カッケェ! 俺もほしいっス!」と言った天ケ瀬にもサングラスを渡し、四人全員サングラスをかけたところで拓斗が追撃。

 

「それはそうだろうけど、ほら。天ケ瀬自身がやりたいこととか」

「俺自身が? んー……凪咲と一緒にいられるならそれでいいっス」

 

 そうだけど、そうじゃねぇんだよな……。男でも女でも、自分ばっか相手を求めてるって思ったら不安になるもんで、多分凪咲ちゃんは今そういう状態になっている。天ケ瀬が言ってることは何も間違いじゃなくていいことなんだけど……何かうまい言い方ねぇかな。

 

「しゃらくさいわ。天ケ瀬は凪咲ちゃんとセックスしたいんか?」

 

 頭を悩ませる俺をあざ笑うかのように、男らしさの化身が立ち上がった。廻……いや、男は天ケ瀬の肩を掴んで、目を合わせる。

 

「ええか? 恋は勝手にするもんで、愛は確かめ合うもんや。天ケ瀬は凪咲ちゃんのこと好きやろ? 凪咲ちゃんも天ケ瀬のことが好き。でも天ケ瀬は凪咲ちゃんの求めてることを受け入れてばっかや」

「……」

「それやと、わかりやすい形で凪咲ちゃんに愛が伝わってへんねん。愛を確かめられてへんねん。ほんまに自分のこと好きなんかな? ってなってんねん」

「……」

「ほな、どうしたらええと思う?」

「俺、目ぇ覚めました!」

 

 天ケ瀬が、立ち上がる。

 

「俺! 行ってきます!」

 

 数日後。また拓斗から「凪咲ちゃんが、最近天ケ瀬が積極的すぎてどうしたらいいかわからないって言ってるんだ」と相談された。ちょうどいいとこねぇのかよ。

 

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