【本編完結】ぎゅってしないと好きになる魔法   作:酉柄レイム

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第52話 実家のような安心感

「舞坂っていい男だね」

「……」

「無言で睨むのやめてくんない?」

 

 昼休み。自分のクラスで食べると私と舞坂がフリーになるから、最近は昼休みになった途端にうちのクラスに突撃してきて、私を引っ張って食堂に連れて行く。「あーんとかするといやだから」なんて言ってるけど、流石の私でも教室でそんなことはしない。はず。

 

 で、今私は思いきりミスってしまった。イチャイチャする魔法は、無意識に舞坂についてのマウントを取るようにできている。それを発揮した結果、彩芽からめちゃくちゃ睨まれてるというわけだ。

 でも、嘘は言っていない。私が割り切って舞坂をからかえてるのも舞坂が彩芽一筋だからだし、私が彩芽に気を遣って我慢してる時も、こっそりイチャイチャしてくれる。前の手を握ってきたときなんかがいい例だ。普通にきゅんってしたし。キャラじゃない。

 

「好きになることはないって言った」

「好きにはなんないよ。でもいい男だなって思ったのは事実だし」

「私の」

「わかってるって。可愛いなぁ」

 

 私も彩芽に勝てるなんて思ってない……いや、勝てる勝てないとかじゃないんだけどね。彩芽を裏切りたくないし、舞坂も裏切りたくない。

 でもほんと、舞坂って可哀そうっていうかなんていうか。赤谷と倉敷さえいなければ、結構モテそうだなってイチャイチャしてわかった。あの父親から生まれたとは思えない。もしかしたらあの父親を知ってるから、そのせいでよく見えてるのかもしれないけど。

 

 ……っていうことを、最近よく考えてしまう。イチャイチャする魔法は舞坂と彩芽がかけられた『ぎゅってしないと好きになる魔法』とは違って好きになる効力はないはずだけど、イチャイチャしたいって思うんだからそりゃ舞坂を好意的に想ってしまう。好きではないけど、好きではないんだけど。

 

「そんなに信用ない? 私」

「信じてるけど。でも、かおり可愛いもん。おっぱいだっておっきいし、太ももほどよい肉付きだし」

「なんかおっさんみたいなこと言うね」

「クラスの男の子がね。そういうこと言ってた」

 

 ……まぁ確かに、舞坂も時々胸とか脚とか見て、自制なのか自分を殴ってたりするけど、男ならそれくらい普通だって思ってる。彩芽がいるのに目移りすんなってのは、いっぱいぎゅーしたりよしよししてもらったりしてる私は絶対言えないわけで。

 

「かおり、太ももすりすりとか興味ある? とか修也を誘惑しそうだし」

「彩芽、私をとんでもないドエロ女だと思ってる?」

 

 この可愛いのは私を痴女だと勘違いしてるかもしれない。っていうか、イチャイチャする魔法は彩芽の願望をベースにしてるから、彩芽はそういう風にイチャイチャしたいってこと? ふーん。女の武器使ってドギマギさせたいんだ。

 じゃあ危ないじゃん私。今のところそんな感じのことは……無意識にしてるかもしれないけど、思い返す限りではしてない。これから先そういう風なこと舞坂にしちゃうかもってこと? 流石に割り切れるレベルじゃなくなってくる。ないとは思うけど、それで舞坂に手を出されたら、今の私なら拒否れるとは言い切れないし。

 

「もしそれを私がやっちゃって舞坂が触ってきたとしても、舞坂怒んないでやってよ。私が悪いから」

「……じゃあ私も触ってもらう」

 

 思わず周りを確認する。大丈夫、誰も聞いてない。舞坂も聞いてない。今のを舞坂が聞いてたら、興奮しすぎて体調不良で早退するところだった。舞坂の成績のためにも、そういう誘惑しないように気を付けないと。

 

 ……彩芽、私が舞坂とイチャイチャしてるからか、最近我慢が溜まってきているように見える。学校に行くようになってから私がイチャイチャしたから彩芽も、っていう機会減ってきたし、舞坂が足りてないのかもしれない。聞いた話だと魔法が解けたら恋人になる予定だったって言ってたし、余計に。

 

「ねぇ、舞坂とデートとかしないの?」

「したいけど……」

「勇気が出ない、と」

 

 こくん、と可愛らしく頷く彩芽。本当に初心すぎる。これなら、舞坂を突いて彩芽をデートに誘えって言った方が早そうだ。

 ……なんかチクってしたんだけど。マジで厄介すぎるこの魔法。これから先まともな恋ができなくなりそう。

 

 どうしたらいいかなぁ、と呟く彩芽に「任せな」と胸を張って、舞坂にVEINを送ると、すぐに返信がきた。

 

『デートしよ?』

『え?』

 

 マズい。イチャイチャする魔法が出た。デートって単語で呼び起された。

 

『その、違くて』

『あー、彩芽をデートに誘えってことか』

 

 理解早すぎる。普通の人なら『デートしよ?』でその答えに辿り着けないのに。流石魔法でおもちゃにされてただけのことはある。舞坂がおもちゃでよかった。「任せな」って言っといて人の男を取るクソ女になるところだった。

 

『そうそう。ごめんね、変なこと言って』

『いいよ。つっても勉強したいしなぁ……』

 

 そういえば、受験生だったことを思い出す。舞坂、さらっと国立行くとか言うようなやつだから、ちゃんと勉強してるのか。舞坂のことだから、彩芽に将来苦労させないためにいい大学入りたいって思ってるだろうし、デートより勉強を優先したい、みたいな言い方するのはそのためだろう。

 

『それなら彩芽と勉強したら?』

『可愛すぎて集中できねぇだろ』

『確かに。それなら、週一でも月一でもいいから、どこか彩芽に時間使ってあげなよ。一日思いきりイチャイチャするとかでもいいしさ』

『だな。悪い、気ぃ遣ってもらって』

『こっちも迷惑かけてるし、お互い様ってことにしよっか』

『いい女かよ』

 

 えへへ。

 

「かおり?」

「なんでもない」

 

 舞坂のせいだ。あいつが無意識にイチャイチャを仕掛けてくるから頬が緩んだ。いつもの調子で冗談っぽく「いい女かよ」って言ったつもりなんだろうけど、普通に効く。魔法にかけられる前なら「でしょ?」って笑えたのに、にこにこしてしまった。キャラじゃない。キモ。

 

「舞坂が時間取ってイチャイチャしてくれるってさ。よかったじゃん」

「え! ほんとに!」

「ほんとほんと」

「かおり、ありがと! じゃあVEIN見せてくれる?」

 

 思わず頭を下げれば、「じょ、冗談だよ冗談!」と彩芽が慌てた。冗談にしては目に光がなかったけど、私の気のせい?

 ……今思ったけど、付き合ってないのにイチャイチャするのはいいんだろうか。それ、もう付き合えばよくない? 

 

「彩芽。舞坂と付き合わないの?」

 

 シンプルに気になって聞いてみれば、彩芽が固まった。そのままもじもじして、かなり言いにくそうにちらちら私を見てくる。

 ……なるほどね。

 

「えっと、修也と付き合ったら、仕方ないってわかっててもかおりに嫌な態度とっちゃいそうだから」

「別に気にしないって」

「でも、絶交したくない」

「そのレベルかよ。じゃあ魔法解けるまで待ってて」

 

 存外、彩芽は嫉妬深いらしい。なんとしてでも私と彩芽と舞坂のために早く魔法解かないと。

 超ド級ハイパーマックストリケライナーHDMIだっけ? 探してみよっかな……。

 

 

 

 

 

「ただいまー……お?」

 

 昼に中条からVEINがきて、早速今日の放課後彩芽から「あの、その……ぎゅってして耳元で名前呼んでくれませんか……?」って難易度の高いおねだりをされ、なんとか暴走しないように達成し、帰宅。言いようのない達成感と疲労感を抱えながら玄関にある靴を見れば、家族以外の靴があった。ローファー?

 ……父さんが未成年に手を出したか、姉ちゃんが友だち連れてきてるかのどっちかだな。この先に広がっている未知の光景に胸の前で十字を切って、リビングに足を踏み入れる。

 

「おかえりー」

「お邪魔してるわ」

「結菜?」

 

 そこには、姉ちゃんと結菜がいた。よかった。父さんが未成年に手を出したわけじゃなくて。

 

「なんかやってたのか?」

「なんかね、結菜のご両親がどうしても外せない仕事があって、一週間くらい家を空けるらしくて」

「それで、一人じゃ心配だからってしばらくお邪魔させてもらうことになったのよ。……え?」

「いや、結菜と同じ屋根の下で過ごすことを意識して、お前に女を感じたわけじゃねぇし、俺からアクションしてねぇのに何勘違いしてんだよ」

「な、なんだ。ったく、キモいこと考えさせんじゃないわよ」

「勝手にキモいこと考えたんだろうが」

 

 いつも通りで安心するわぁ……。最近神経擦り減らしてたから、実家のような安心感がある。実家だけど。

 いや、マジで安心感がある。同い年の異性で、魔法にかかっていない。これがどれだけ安心か。結菜まで魔法にかかったら俺は脳がパンクして破裂して、そこから再生して俺が増える自信がある。

 

「結菜はどこで寝るんだ?」

「そ、それはまだ早いっていうか……」

「いや、俺の部屋で寝ろって言ったわけじゃねぇよ」

「私は面白そうだからいいけど」

「よくねぇよ」

 

 私の部屋だよー、とへらへらする姉ちゃん。よし、とりあえず風呂と姉ちゃんの部屋には勝手に入らないようにしよう。万が一結菜が着替えてる時に入っちまったら、いつの間にか結婚させられそうだからな。

 

「あ、そ、そういえば修也」

「ん?」

 

 聞きたいことは聞いたから部屋に行こうとすると、結菜に呼び止められる。結菜は俺と目を合わせずに目を泳がせて、めちゃくちゃ様子がおかしい。しかも、姉ちゃんがなんかにやにやしてるから嫌な予感がする。

 

「その、修也に頼むのはちょっと申し訳ないと思うんだけど」

「おう」

「えっと……付き合ってほしいの」

「……」

 

 え?

 

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