【本編完結】ぎゅってしないと好きになる魔法   作:酉柄レイム

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第53話 俺だけ仲間外れ……?

 無意識に、舞坂の家にきてしまった。

 

 それに気づいたのは駅を出て、舞坂の家についてインターホンを押した時、つまり今だった。

まず初めに感じたのは、恐怖。魔法の効力がエグすぎじゃない? 彩芽も「魔法にかかった状態がずっと続いてると、効力すごくなるから気を付けてね」って言ってたことを思い出す。どう気を付ければいいっての? ぼーっとしてたらイチャイチャしたくて舞坂の家きちゃうって、キモくない?

 

「はーい……あれ? かおりちゃんじゃん」

「こんにちは、雅さん」

 

 出迎えてくれたのは舞坂のお姉さんである雅さん。舞坂と彩芽曰く、舞坂をちゃんと育ててくれた人。父親の頭がおかしいのに舞坂がまともに育ったのは、雅さんの尽力あってだと聞いている。

 雅さんは笑顔で「入っていいよー」と言って手招きしてくれる。頭を下げて「おじゃまします」と言いながら家に入れば、彩芽の靴があった。やるじゃん。

 

「彩芽きてるんですね」

「結菜もね。三人とも修也の部屋にいるから、ごゆっくりー」

 

 やけににやにやしながらリビングへ引っ込んでいく雅さんに首を傾げながら二階へ上がる。とりあえずのマナーとして舞坂の部屋をノックしようとした時、部屋の中から声が聞こえてきた。

 

『いやだから、違うんだって!』

『何が違うの! 結菜と抱き合ってキスしてるところ見たんだから!』

『修也、私とは遊びだったのね……!』

 

 ……。

 

「ん? お、中条きてたの……!!?」

 

 気づけば、ドアを開いて舞坂に抱き着いていた。マジでどうにかしてくんないかな、この魔法。

 

 

 

 

 

「私も悪いけどさ……」

 

 ベッドに座る中条と、正座をする俺たち三人。

 

 俺と彩芽と結菜がやっていたのは、単なる遊び。昨日結菜が「付き合ってほしいの」と言ったのは「せっかく一週間くらい一緒なんだし、遊ばない?」っていう意味だった。テメェ勝手に勘違いする上に勘違いさせるようなことも言うんじゃねぇよとキレた俺は悪くない。

 もちろん結菜がうちに滞在するっていうのは彩芽に伝えて、それを聞いた彩芽が「私も遊ぶ!」と言って集まったのが今日。さて何しようとなって彩芽から提案されたのは、『浮気していた男に詰め寄る女ごっこ』だった。色々鬱憤が溜まっていたらしい。

 

「彩芽、ごめん。三人でそんなわけのわかんない遊びするほど我慢させてたみたいで」

「言わないで……。なんであんな遊びしようって言ったのか自分でもわかんないから」

 

 鬱憤が溜まった理由は、多分っていうかほぼ確実に中条が俺とイチャイチャするようになったから。好きを保留にしていても、俺が彩芽を好きってのは彩芽自身もわかっていて、いざ魔法が解けたってなった時に中条がイチャイチャする魔法にかけられて、更に好きを保留させることになった上、自分以外の女の子が俺とイチャイチャするのを容認しないといけない。そりゃ溜まるわ、鬱憤。

 

 そういえばなんでかおりはここにきたの? と首を傾げる彩芽に、顔を逸らす中条。そんな二人を眺めている俺の頬を、結菜がちょんちょんと突いてきた。

 

「なんだよ」

「ねぇ、なんでかおりは修也に抱き着いたのよ」

 

 あ。という声とも言えない音が三つ重なる。

 

 整理しよう。結菜は俺と彩芽が付き合ってるって思ってる。なのに、さっき中条は俺に抱き着いた。これをどう説明すればいい? 正直に話せば中条が魔法にかけられたからなんだけど、そんな話をして信じてくれるか? 中条は実際に魔法をかけられたから信じてくれただけで、その経験なしに信じるなんて無理な話。

 

「……!」

「いや、本当は中条と付き合ってるわけじゃなくて、彩芽をカモフラージュに使ってる最低野郎じゃねぇよ」

「修也のそれ、いつも思うけど神業だよね」

「結菜、舞坂がいないとまともに生きていけないんじゃない?」

 

 あぶねぇ、さっさと結論を出さないから変な勘違いされるところだった。結菜が考えてることをそのまま表情に出してくれるやつでよかったぜ。

 でも問題は解決したわけじゃない。彩芽と中条に視線を送り、どうする? と目線で聞けば、正直に話した方がいいと思う、と二人から返答。

 

 やっぱそうだよな。変に嘘ついてこじれても面倒だし。

 

「結菜、信じられねぇかもしんねぇけど、中条は今魔法にかけられてるんだ」

「あんた、最低ね」

「いや、俺が魔法っていう名の催眠を中条にかけて俺のことを好きにさせて、彩芽にも催眠かけて浮気を容認させるようにしてるわけじゃねぇよ」

「えっ……」

「二人と付き合ってるわけでもねぇよ。マジで魔法なんだって」

「ねぇかおり。私たち何ターンか会話聞き逃してる?」

「逃してないと思う。魔法使ってんじゃない?」

 

 俺を父さんと一緒にするな。

 

 まぁそりゃ信じてくれねぇか……。ここに父さんがいれば魔法見せてもらって信じてもらえたんだけど、おいしいものいっぱい食べにいくって言って、ついでだからって休みとって母さんと旅行行ってるし。仕事しろよマジで。つか父さんがなんの仕事してるか俺知らねぇな。

 結菜に魔法を信じてもらうためには、魔法を見せる必要がある。俺が悩んでる間に中条が俺の背中に背中を合わせてくっついてきてるし、彩芽がむすってしながら俺の手ぇ握ってきてるし、結菜が「えっ……」って言って『二人と付き合ってるわけじゃなくて、二人に言い寄られてるのに宙ぶらりんにしてるクズ……?』って勘違いしてるし、どうしたらいいんだ俺は!!

 

「修也ー。コンビニ行くけどなんかいる……ゴムか」

「姉ちゃん、説明させてくれ」

 

 最悪のタイミングで姉ちゃんがきた。こんなのどっからどう見ても女の子を侍らせてるハーレム野郎にしか見えない。

 けど、姉ちゃんはにやにやしている。姉ちゃんは俺たちで遊ぶ癖があっても常識人だから、本当に俺が浮気者でハーレム野郎だったら怒ってくれるはずだから、少なくとも俺がクソ野郎だとは思ってない?

 

 にしたってゴムはねぇだろ。

 

「み、雅さん! 修也が女の子の好意にはっきりしないクズになってます!」

「ちげぇよ! だから魔法だっつってんだろ!」

「魔法なんてあるわけないでしょ! あんた頭おかしいんじゃないの!?」

「あるよー、魔法」

 

 結菜が立ち上がって姉ちゃんを盾にし、俺を睨んでくる。そんな結菜のおでこをちょんと突いた姉ちゃんが、魔法を肯定した。魔法を肯定した。魔法を肯定した?

 

「……もしかして、魔法知ってるんですか?」

「うん」

 

 彩芽の質問に軽く答えて、結菜を抱えて俺の膝の上に乗せる。

 意味わかんねぇことした姉ちゃんにブチギレながら結菜を膝の上から降ろして、彩芽と中条が俺の膝を見ているのに気づかないフリをしながら、ふと違和感を抱く。結菜、俺の膝の上に乗せられたのに何の反応もしなかった?

 

「結菜?」

「……はっ! な、なに? 修也」

「……? どうしたんだ? なんか顔赤いぞ」

「み、見ないで。ちょっと、ほんとに。今私おかしいから」

「雅さん。結菜に何したんですか?」

「あの頃を思い出す魔法使った」

 

 あの頃を思い出す魔法……? って、なんだ? つか魔法使えんのかよ。そういや姉ちゃんに何の説明もしてないのに俺の身の周りで起きたこと把握されてたこと何回もあったし、時々狙ったように俺が見られたくない状況の時に突撃してきたりするし、あれ全部魔法だったのか?

 ……それは今考えなくていい。あの頃を思い出す魔法ってなんだ? 抽象的な歌詞みたいな魔法かけてんじゃねぇよ。

 

「……そういや、結菜って初恋が舞坂なんだっけ」

「あ」

「あ」

 

 中条の言葉で、俺と彩芽が答えに辿り着く。

 

 俺に対して言った、見ないでという言葉。赤くなった顔。見慣れた恋する乙女の表情。

 

「お、鋭いねかおりちゃん。結菜の修也に対する好意だけ、あの頃に戻しましたー」

「何してるんですか雅さん!! 修也は私のなのに!!」

「大丈夫大丈夫。一週間経ったら元に戻るし、その一週間の間に抱いた修也に対する好意は綺麗さっぱり忘れるから」

「父さんの魔法と比べて便利な設定できるんだな」

「お母さんに教えてもらったから」

「俺以外全員魔法使いかよ……!!」

 

 衝撃の事実に頭を抱える。ここ現代日本だよな? なんで俺の周りに魔法が溢れてんだよ。なんだよ魔法って。誰か説明してくれよ! 何が起源で何のために生まれて何に使われてんだよ! つかどうせなら俺にも教えてくれよ! 仲間はずれじゃん俺。

 

「……雅さん。それじゃ私、修也のことを好きなまま、一週間一緒の家にいるってこと?」

「ドキドキだね」

「今すぐ解きなさいよ! 彩芽に嫌われたくない!」

「大丈夫だよ、結菜。かおりも修也とイチャイチャする魔法にかけられてるし、今更。あはは」

「マズい! 彩芽が壊れた!」

「舞坂。ぎゅってしてあげたら?」

「俺が愛しすぎて余計壊れるかもしんねぇだろ! バカが!」

「バカじゃん」

 

 彩芽が俺の手を掴んで、自分の頭に持っていく。撫でろとのご命令を下された俺はそのまま彩芽を撫でると、少し落ち着いたみたいだ。おい結菜、いいなぁみたいな目で見てんじゃねぇよ。俺今現実逃避するので忙しいんだから。

 結菜が俺のことが好きな一週間? 中条みたいに行動を強制されるわけじゃねぇからまだマシだけど、普通に気まずい。あと彩芽にマジで申し訳ない。

 

「ほんとごめん、彩芽。俺の家族が魔法使いで」

「んーん。魔法で修也と、その、元通りどころか……色々、なったし、いいよ」

「私にも謝りなさいよ」

「悪い結菜。俺には彩芽がいる」

「そっちじゃないわよ!」

 

 ちょっとは気ぃ遣いなさいよ! と言って俺を殴ってくる結菜の腕を掴んで防御し、「あ……」とまた顔を赤くした結菜に死ぬほど気まずくなって手を離す。マジで気まずい! 助けてくれ! あと中条がイチャイチャしたそうにこちらを見ている! イチャイチャしますか?

 

「あー、ウケる」

「覚えとけよ」

「まぁいいじゃん。修也が浮気するかどうかのテストとでも思えば」

「それ、私が譲歩して許すときのセリフですからね?」

「ごめんごめん。危なくなったら魔法解くから」

「……あれ、姉ちゃんって中条にかけられた魔法解けるんじゃねぇの?」

「だめだめ。父さん自分の魔法にプロテクトかけてるから」

「プロテクト?」

「無理やり解こうとしたら性転換するプロテクト」

「マジかよ」

「修也が」

「マジかよ!!?」

 

 怪しいやつがいたら全力で逃げてくれ、と中条に頼むと、しばらく悩んでから「まぁ」と一言。まぁじゃねぇよ!!!!!

 

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