【本編完結】ぎゅってしないと好きになる魔法   作:酉柄レイム

54 / 66
第54話 我慢はよくない

「どうしてくれるのよ」

「何が?」

 

 結菜が魔法にかけられて、三日目。学校から帰ると、結菜が玄関で待っていて、俺にスマホを突き付けた。

 そこには、俺と結菜が制服姿で一緒に歩いている写真が、結菜の友だちから送られてきているVEINのトーク画面。

 

 一緒の家に住んでいて電車の方向も一緒。それで別々で登校するのはむしろ変に意識するからと、俺と結菜は一緒に家を出て一緒の電車に乗って、押し寄せる人の波から結菜を守るために壁役を買って出ると、「今、そういうのやめて、ほんとに」と言われて気まずい思いをした。

 

「今日学校行ったら、つ、付き合ってるって噂されて」

「ワリィのは姉ちゃんだからなぁ」

「嬉しくなって肯定しちゃったんだけど! どうしてくれんのよ!」

「テメェもワリィじゃねぇか」

 

 ブチギレた俺に、結菜はしゅんとして縮こまり、「ごめん……」と謝罪を一言。そんなに素直なのになんで俺に責任転嫁しようと思ったんだ?

 

 なんか最近、色んなことが起きすぎな気がする。主に女難。最低な年越しをした覚えはあるけど、おみくじは大吉だったはずなのに。もしかして毎年大吉引いてるから効力が薄まってるとか?

 

「冗談だって言えばいいだろ?」

「言ったわよ。でも聞く耳全然持たないの。初恋が実ったんだねとか、おめでとうとか祝福ばっかりで。しかも修也の家で一週間過ごすことになったって言ったら大盛り上がりしちゃって」

「なんで言わなくてもいいこと言ってんだよ」

「仕方ないでしょ! 今の私は修也が好きだから、ぜんぶ嬉しくなっちゃったの!」

 

 あまりにも気まずすぎて目を逸らす。「とりあえず上がらせてくれ」と言えば、結菜は自然な動作で俺の荷物を受け取った。新婚か俺たちは。

 

 結菜には悪いけど、否定し続けてもらうしかない。このことが彩芽にバレたらめちゃくちゃ機嫌悪くなるだろうし。俺も悪いからな。少なくとも周りから見たら付き合ってるように見えたってことで、その時点で俺は彩芽に不誠実なことをしてしまったってことだ。

 

 ……そもそも、隠すこと自体不誠実か。

 

「結菜。悪いけど、彩芽にも伝えとくぞ」

「……いいわよ」

 

 こいつ、私の前で他の女の子の話しないでって思ってやがる……! 勘違いを理解できるから、自然と結菜が考えてることがわかる。どう考えても便利なことなはずなのに、今だけはわからなくしてほしかった。だっていとこだぜ? いくら可愛いって言ってもそういう対象には見れないのに、こう露骨に好きアピールされたら気まずくて仕方がない。しかも、結菜が俺のことを好きってわかってるから接しにくいし。

 

 結菜の許可を得て、彩芽にVEINを送る。

 

『彩芽、ごめん。結菜と一緒にいるところを結菜の友だちに撮られて、なんやかんやあって結菜の友だちの中では俺と結菜が付き合ってることになったっぽい』

『しらない』

 

 階段を上る途中だった俺は、彩芽からの冷たいVEINに死ぬほど動揺して転げ落ちた。夢かと思ってもう一度VEINを見ても、『しらない』の四文字。またも死ぬほど動揺した俺は、もう一度階段を上って転げ落ちた。

 

「ちょっ、何してんのよ!」

「もうおしまいだ……」

 

 誠実を意識するがあまり彩芽を傷つけた。誠実っていいことばっかじゃないんだな……。よく考えりゃそりゃそうだ。恋人になれず中条が俺とイチャイチャしてる上、俺と結菜が付き合ってることになるって、むしろ返事くれただけでもめちゃくちゃ優しいだろ。流石彩芽だ。俺はゴミだ。

 

「……もしかして、彩芽、機嫌悪くなっちゃった?」

「事実をありのままに伝えたら、しらないって言われた」

「……ほんとにごめん。私が悪いって彩芽に言っとくわね」

 

 結菜がスマホを取り出して、彩芽にVEINを送る。内容はわかんねぇけど、結菜と彩芽の仲がこじれるようなことにはならないでほしい。ちょっと怪しいんだよな。魔法にかけられたら普段とらないような行動とっちまうし、結菜が嬉しくなって俺とのことを色々ぶちまけたことから、結菜もその片鱗を見せている。

 

 ……まぁ、大丈夫か。結菜は俺のことが好きだけど、正気を失ってるわけじゃない。いいやつだし、この世の終わりみたいな顔をしている俺を見てまさか『修也は私のだから』ってマウントとるような真似しねぇだろ。

 

 考えすぎだと自分を笑って、スマホを見る。彩芽から画像が送られてきていた。

 

『これ、何?』

 

 短いメッセージとともに送られてきたのは、結菜とのトーク画面。俺と結菜が電車で密着している写真を結菜が送っている。

 

「テメェ!! 何マウントとってんだ!!」

「ち、違うわよ! こういうところ見られて勘違いされただけって言おうとして、どうしたら彩芽が傷つかないかなって考えてたら写真だけ送っちゃったのよ!」

「無言でツーショット写真は完全なマウント行為だろうが! どうすんだよ! 二連続で彩芽から四文字だけのメッセージきたの初めてだぞ!」

「玄関で何やってんの?」

 

 階段から転げ落ちたから結局玄関で騒いでいると、階段を下りてきた姉ちゃんに声をかけられる。テメェが元凶のクセに何やってんの? って言われんのはムカつくけど、騒いだのは俺たちだから一旦素直に謝っておいた。

 つか、そうじゃん。元凶は姉ちゃんだからこの状況をどうにかさせよう。このままじゃ彩芽に嫌われて、俺の人生から色が失われる。

 

「姉ちゃん。結菜が俺と付き合ってるって学校のやつらに勘違いされて、それを彩芽に伝えたら機嫌悪くなって、結菜がどうにかしようとしたら俺とのツーショット写真無言で送ってマウントを取って、更に機嫌悪くなったんだ。どうにかしてくれ」

「ウケる」

「ウケねぇだろうが!」

 

 間違いなくあの父さんの娘だ! 前からそう感じることはあったけど、魔法を使うってんならもう完全にそうだ。姉ちゃんがどれだけ嫌がっても、父さんとの血の繋がりをひしひしと感じる。この人で遊んで楽しむ人でなしな感じ、まさしく父さんだ。

 

「まぁ、結菜が修也と付き合ってるって勘違いされてるのは結菜にどうにかしてもらうとして。彩芽ちゃんどうしよっか」

「私が完璧なフォロー入れてみせるから、安心しなさい」

「ここで完璧なフォロー入れられるようなやつはマウントとらねぇんだよ」

 

 これ以上余計なことをしないように結菜からスマホを取り上げる。取り返そうと近づいてきた結菜は、俺に触れずにピタリと固まって、じっと睨んできた。

 なるほどな? 俺が好きだから触れるのが恥ずかしいってか。ワリィけど好都合だ。そんな可愛い顔しても返さねぇよ。

 

「彩芽ちゃんに我慢させちゃってるのが問題かもね」

「だよなぁ。マジでどうすっか」

「ぷいぷいぷい」

「は?」

 

 姉ちゃんがいきなり指をくるくる回して、意味不明なことを言い出した。結菜を見ると、「もう手遅れよ」と言って諦めてしまっている。いや、確かにある意味手遅れではあるかもしんねぇけど。

 俺は知っている。突然意味の分からないことを言いながら、ある特定のポーズをとることの意味を。

 

「どうやら、私が使った魔法が何か気になってるみたいだね」

「やっぱりかよ……」

「雅さんまた魔法使ったの!?」

「うん。彩芽ちゃんに『素直になる魔法』をね」

 

 素直になる魔法? なんか、今までの魔法と比べたら優しそうな感じがする。彩芽に我慢させてるから、素直にして我慢させないようにしようってことか?

 でも、元々彩芽は素直だし、わかりやすい。素直になったからって状況が完全に好転するとは思えないし、なんならまた姉ちゃんが楽しむために魔法使ったんじゃねぇのかとすら思う。

 

 そんな俺の心を勝手に読んだのか、「浅いね、修也」と言って姉ちゃんはにやりと笑った。それと同時、インターホンが鳴る。

 

「……まさか」

 

 もう大丈夫そうだから結菜にスマホを返し、ドアを開ける。

 

 開けた瞬間、彩芽が胸に飛び込んできた。

 

「修也、説明して! 絶対魔法! 好き! 大好き!」

「どうなってんだ姉ちゃん!」

「素直になる魔法って言ったじゃん」

「素直にも程度ってもんがあんだろうが!」

「修也、怒ってるとこ悪いけど鼻の下伸びてるわよ」

 

 だって、彩芽が胸に飛び込んできて頬ずりして、ぴたって止まったかと思ったらちょっとジャンプして頬にキスしてくれたんだぜ? これで鼻の下伸ばすなって言われても無理だ。鼻の下を伸ばしたら死刑っていう条件でも鼻の下を伸ばす自信がある。

 とりあえず落ち着かせようと背中に腕を回してぽんぽんすれば、幾分落ち着いたのか「修也。いっぱい触って」と言ってきた。

 

 全然落ち着いてねぇじゃねぇか。

 

「早く解け! このままじゃ俺の理性がプツン……ウオオオオオオオオ!!!! しちまう!」

「その魔法、朝起きて運がよかったら解けるようになってるから。それ以外じゃ解けない」

「なんで魔法ってのはそうクソみてぇな解除条件なんだよ!」

「雅さん。私のはちゃんと時間経てば解けるのよね?」

「うん。本当に修也のことが好きになっちゃったら別だけど」

「だめ!! 修也は私の!」

 

 本当に『素直になる』だけなのか? そもそも『素直になる』ってなんだ? 正直者になるとはちょっと違う気もする。なんか、やりたいことを我慢しなくなってるような感じだ。それが一番しっくりくる。

 

「正解」

「心読んでんじゃねぇよ」

「まー、多分今は色々溜まってた我慢を発散してるだけだから、もうちょっとマシになるはずだよ」

「学校でこれだったら俺の学校生活終わってたわ」

「……っていうことは、もしかして彩芽が満足するまで今日はこのままってこと?」

 

 結菜が聞けば、満面の笑みで姉ちゃんが頷く。

 

「姉ちゃん。俺に鋼の精神になる魔法かけてくれ」

「そんな都合のいい魔法あるわけないじゃん」

 

 都合のいい魔法しか見たことねぇんだよ!!!!

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。