【本編完結】ぎゅってしないと好きになる魔法   作:酉柄レイム

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第57話 ネットでよく見る部屋

「へー、そんなことがあったんだ。大変だね」

「姉ちゃんのせいなのになんでそんな他人事みてぇに言ってんだよ」

 

 帰宅後。彩芽と結菜は朝ほどの熱量はなくてもまだ決着がついていなかったからか、再び口論を始めた。姉ちゃんが帰ってきてから姉ちゃんの目の前でやるのは避けたかったのか、今は二人仲良く風呂に入っている。めちゃくちゃ仲いいじゃねぇか。女の子って友だち同士なら一緒に風呂入んの? 友だち同士でも家の風呂一緒に入んのは嫌じゃねぇの?

 

 朝起きたことを話したわけでもなく、俺の心を読んで「大変だね」と言ってのけた姉ちゃんは、うーん、と唇に指をあてて首を傾げる。うわ、キツ。

 

「何か言うことない?」

「すみませんでした……」

 

 いつの間にか椅子にされていた。もしかして時間停止の魔法使えるのか……? あり得る。父さんも最初俺たちに魔法かけた時「エロ漫画の導入みたいな魔法」って言ってたし、そういう魔法があっても不思議じゃない。

 

「……」

「変なこと考えてるとこ悪いけど、ないよ」

「ハァ!? かっ、勘違いしないでよね! 別に変なことなんて考えてないんだから!」

「お姉ちゃんに甘えられて嬉しいのはわかるけど、キモイこと言うのやめな?」

「姉ちゃんこそキモイこと言うなよ。甘えられて嬉しい? 俺がいつ姉ちゃんのおっぱいを欲しがったんだよ」

「甘えるのラインがキモすぎでしょ。何? お父さんの影響でも受けた?」

「俺たちの間で父さんの影響を受けたって言葉は禁句のはずだろ」

 

 あれに影響を受けたってことが分かった瞬間、俺は犯罪する前に自首しなきゃいけなくなる。俺は父さんのことをまだ捕まってないだけの犯罪者って思ってるからな。だって、結果的にはいい関係になれたからよかったものの、人の気持ちを弄ぶ魔法使うやつなんてまともじゃねぇし。あ、姉ちゃんのことじゃないよ? あぁ、そんなわけないだろ?

 

「話戻すけど、なんとかしてくんねぇか? このままじゃ俺気まずくてウンチできなくなる」

「確かに、そんなことになったら全国の笑いものだもんね」

「規模でけぇんだよ。コメディスターか俺は」

「ははは。スターの器じゃないでしょ」

「喧嘩売ってんのかテメェ……」

 

 コメディスターの器じゃないならともかく、スターの器じゃないだと? ……まぁ、確かにそうか。あの父さんの血を引いてる時点でスターの道は閉ざされたと思っていい。別に歩んでもねぇし。

 

 じゃねぇよ。そんな話がしたいんじゃなくて。

 

 彩芽と二人で帰ってる時、「俺は彩芽以外眼中にねぇよ」と言ってみたら、「そんなことない!」って否定されて、中条と結菜の可愛くてすごいところを延々聞かされた。これは俺が何言っても不安が取り除かれることはなさそうだから、元凶である姉ちゃんに責任取らせたいんだよ。

 

「姉ちゃん、責任取ってくれ」

「弟からそのセリフ言われる姉の気持ち考えて」

「それはごめん」

「まぁいいけど。じゃあ魔法でちょちょいとやっちゃうね」

「……信用していいんだよな?」

「もちろん。これでもお姉ちゃんだから」

「父さんの娘だろ?」

「それだけは言うな」

「それだけは認めてやれよ」

 

 父さんが可哀そうだろ。

 

 

 

 

 

「修也。スマホリビングに置きっぱなしだったわよ」

「おう、サンキュー」

 

 姉ちゃんの椅子になり終えて……じゃなくて、姉ちゃんへの相談を終えて部屋に戻って勉強していると、風呂から上がった結菜がスマホを持ってきてくれた。あの、風呂上りに男の部屋くるのやめません? いとことはいえ俺のこと好きだからちょっと意識しちまうだろうが。

 

「えっ」

「いや、風呂上がりのお前を見て女を感じて、直視すると襲っちまいそうになるから目ぇ逸らしたわけじゃねぇからな?」

 

 気まずくなって目を逸らしただけでとんでもねぇ勘違いしてんじゃねぇよ。俺が結菜の勘違い理解できてなかったらとんでもなく関係こじれるからな? 俺に感謝しろよマジで。

 

「ったく、朝は普通に彩芽と喧嘩できてたのに、なんで俺と話す時は勘違いすんだよ」

「ご、ごめんなさい……」

「マジで謝ってんじゃねぇよ。俺がいじめてるみたいになんだろうが」

 

 このセリフもモラハラみたいだし。なんでめちゃくちゃ勘違いするのに純粋なんだよこいつ! 何をどうしたって傍から見たら俺が悪いみたいじゃねぇか!

 ……いや、勘違いも結菜の個性だ。それに対して呆れた感じのことを言った俺が悪い。本当にそう思ってる。別に謝った結菜が小動物みたいで庇護欲をかきたてられて、まぁいっかってなったわけじゃない。

 

 頭の中で変な言い訳をしていると、結菜がドアを閉めて近づいてきた。え、な、何?

 

「な、なに警戒してんのよ」

「いや、その、ワリィ。だってさ」

「……私、修也以外の人と話すときは、勘違いしないように気を付けてるの」

「俺相手でも気をつけろよ。なんだ? 喧嘩売るためにドア閉めたのか?」

「違う。だって、修也、私が勘違いしてもわかってくれるから。その、私のことわかってくれてるんだって思って、嬉しくなる、から」

 

 こういう時は勉強だ。えっと、なになに? 雅は言い寄ってくる男どもに対して、「お父さんが大好きだから!」と言いました。さて、りんごは何個でしょう? ダメだ、これ俺が小学生の時に作ったオリジナルの算数問題だ。オリジナルすぎて算数の体をなしてねぇじゃねぇか。あとなんで俺はこんな汚物をまだ大事に取ってんだ。

 

 結菜が俺のこと好きってわかってなかったら、可愛いこと言うなぁで済んだのに。今それを聞いたらどういう意味で言ったかを想像してしまう。なんでだよ結菜。朝言ってたじゃん。彩芽にあんまイチャイチャすんなって。

 

「……ご、ごめん。変なこと言ったわね。忘れて」

 

 心が痛い。

 

 しゅんとして、心配をかけまいと笑って結菜が背を向ける。その背中にかける言葉が見つからなくて、俺が言葉を探している間に結菜がドアノブに手をかけた。

 

「……?」

「……?」

 

 が、出て行かない。まだ何か言ってくるのかと身構えていても、そんな様子じゃなさそうだ。

 

「しゅ、修也。ドア、開かない」

「え? 別に鍵とかついてねぇぞ」

「ほんとなの! 全然びくともしなくて!」

 

 嘘を言っているようには見えない。焦る結菜のところまで行ってドアノブを握って動かそうと力を籠める。

 

「……動かねぇ」

「わ、私、壊しちゃった?」

「もしそうだとしても、結菜は悪くねぇよ。普通の使い方をして壊れるんならドアが悪い」

 

 申し訳なさそうにする結菜を撫でて宥めて、「い、今の私にそういうことすんじゃないわよ!」と怒られる。ほんとにごめん。だってお前、全身で可愛がってくださいってアピールしてるみたいだったから……。

 

 にしても、なんで出られねぇんだ? 結菜が乱暴にドアを開けたとかならまだしも、普通に開けて普通に閉じただけだし……。

 

《修也ー? 聞こえる?》

「テメェか……!」

「えっ」

「結菜じゃない。ごめん」

 

 はじめて正当な勘違いを見た気がする。

 

《おい、結菜が怖がっちまっただろうが。ドア動かねぇの、魔法か?》

《なんで普通に返事できてるのかは、まぁ家族だからっていうことで納得するとして……そうだよ》

《そうだよじゃねぇよ。どういう魔法なんだこれ》

《ドア見てみ》

 

 ドアを見る。

 

「……」

「どうしたの?」

 

 ドアを指す。結菜がドアを見る。

 

 そこには、『イチャイチャしないと出られない部屋』と書かれてあった。

 

《今度の休み、姉ちゃんが行きたいところ行こうぜ》

《命奪う前に楽しい思いさせようとしないでくれる? 別に、気持ちを弄んでやろうとかそういうのじゃないから》

《じゃあなんなんだよ! ネットで見るような変な部屋作りやがって!》

《考えてみて。彩芽ちゃんは修也が他の女の子に取られないか不安に思ってる》

《……あー、なるほど》

 

 彩芽が不安に思ってるのは、俺が他の女の子に靡かないかってことと、他の女の子が俺を取ろうとしないかってこと。信頼はしていても、不安に思わないかどうかは別の話だってことは理解できる。

 

 その不安を解消するには、そんなことはないって証明するしかない。その証明をするのが難しくて、そこで作られたのが『イチャイチャしないと出られない部屋』。

 

《つまり、出なきゃいいんだな?》

《そう。彩芽ちゃんにはその部屋に修也と結菜を閉じ込めたって伝えてあるから。頑張って》

《でも、俺たちが部屋を出られる状態になっても部屋から出なかった、みたいなことも考えられるだろ? 信頼得るには足りねぇんじゃねぇか?》

《大丈夫。出られるような状態になったら、私が「9時だよ! 9時だよ!」って叫ぶようになってるから》

《……わかんねぇけどわかった》

 

 姉ちゃんとの会話を終えて、結菜を見る。結菜は挙動不審で、顔を赤くしてあちこちへと視線を投げ、俺を見たかと思えば後ずさり、「えと、あの、その」と大慌てしている。なんでそうお前は可愛いことすんだよ。

 

「結菜」

「っ! ……その、えっちなことはだめだからね」

「俺のこと好きなところワリィけど、この部屋は姉ちゃんが彩芽を信用させるために作った部屋なんだ」

「……あ、そういうこと」

 

 俺がイチャイチャする覚悟したと思ったのか……。今度、男の前で「えっちなことはだめだからね」っていうことの意味を教えてやろう。もちろん実践じゃない。

 なんか、無防備なところあるんだよなぁ。それは俺の前だからってだけかもしんねぇけど、もし外でもこれなら変な男に捕まりそうで心配だ。俺と話すとき以外は勘違いしないように頑張っていても、どうせ結菜のことだから勘違いから恋が始まりそうだし。

 

「そういうことなら、ちゃんと彩芽を安心させましょっか」

「ごめんな?」

「自惚れんな。確かに修也のことは……好き、だけど。ちゃんと分別はつくわよ」

 

 ベッドに座りながら、俺を見上げる結菜。おい! 何『パジャマでベッドに女の子座りしながら上目遣い』してんだ! 誰だ俺の性癖を教えやがったやつは!

 

「あんたなら変なことしないでしょうし……でも、いつ出られるの?」

「……そういやそうだな」

 

 姉ちゃん、姉ちゃーん? ……ダメだ、こっちからのコンタクトの取り方がわかんねぇ。なんでこういう時だけ反応しねぇんだ!

 マズい、このままじゃ結菜と一緒の部屋で寝ることになる。イチャイチャしないとしてもそれはそれとして彩芽は納得しねぇんじゃねぇか? 一緒の部屋で寝たとしてもイチャイチャしなかったって捉えてくれたりすんのか?

 

《一緒の部屋で寝てもイチャイチャしなかったら、それは完全な親愛だからって彩芽ちゃんは納得させたから》

 

 あぁ、そう……。それってつまり、今日一日ずっとこのままってこと?

 

「……俺、床で寝るわ」

「えっ、ダメよ。私が床で寝る」

「女の子にそんな真似させられっかよ。いいからお言葉に甘えとけ」

「……一緒に寝る、とかは。ほら! 一緒のベッドで寝たとしても、イチャイチャするとは限らないじゃない?」

「イチャイチャしない自信あんのか?」

「……」

「……」

「……ない」

「おう」

 

 ケチ、という結菜の呟きは聞こえなかったことにした。

 

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