【本編完結】ぎゅってしないと好きになる魔法   作:酉柄レイム

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第58話 『戯』

「この世で最強の遊びって、なんやと思う?」

「何……?」

「そんな神妙な顔するような疑問か?」

 

 いつもの空き教室。

 

 日曜日には結菜の両親が帰ってくるらしく、今日と明日が終われば、彩芽と中条と結菜の三人から好意を向けられて破壊されそうだった脳が、幾分かマシになる。

そんな俺を助けてくれるのが、いつも通りを思い出させてくれるこいつらだ。今日も意味のわからない疑問を廻が抱き、拓斗が真剣にその疑問に答えようとしている。落ち着くぜ……。

 

「それはもちろん、遊びが『(ザレ)』っていう能力になっていて、それを用いて戦う場合においての最強が何かってことだよね?」

「当たり前やろ」

「お前らのもちろんと当たり前の定義を聞かせてくれ」

 

 なんでそんな意味のわかんねぇのが共通認識なんだよ。なんだ? 最近の漫画かアニメでそういう設定のやつがあるのか?

 ……いや、そんなわけない。そんなものがあるなら、こいつらなら俺にすぐ共有するはずだ。だったらマジで意味わかんねぇよ。ザレ? ちょっとありそうなもん考えてんじゃねぇぞ受験生だろお前ら。

 

「言い出しっぺの廻から聞かせてもらおうか。最強の『戯』が何か」

「じゃんけんや」

「ヤベェほど薄いな」

 

 その設定聞いたらすぐ浮かびそうなやつじゃねぇか。そもそも、じゃんけんって遊びなのか? 小学生が遊ぼうぜ! つって一日中じゃんけんしてるとこ見たことあるか? 普通鬼ごっことかだろ。

 

「考えてみぃや。相手の指全部切り落としたらもうパーしか出されへんやろ?」

「ろくでもねぇ思考だな。そんな実力行使してる時点で『戯』の必要ねぇだろ」

「いや、修也。相手が手を出す前に何を出すかわかるほど動体視力を鍛えれば、じゃんけんは最強かもしれない」

「いや、そんな動体視力あるならじゃんけんせずに勝てるだろ」

「じゃんけんやない、『戯』や」

「野蛮すぎんだよ。遊びって言う割には」

 

 指切り落とすって『戯』の流儀無視してんじゃねぇか。遊びで戦うんだろ? なんでバイオレンス持ち出してきてんだよ。『戯』の流儀は遊びで戦うことで、相手の『戯』が何か考察しながら戦うのがいいんじゃねぇか。じゃんけんは見て一発でわかるから面白くない。

 

 『戯』の流儀ってなんだよ。

 

「じゃんけんはなしかぁ」

「次、僕行きます」

「進んで発表するようなことか?」

「僕が思う最強の『戯』は、『愛してるゲーム』だ」

 

 ……ちょっと面白そうじゃねぇか。

 

 愛してるゲームって確か、愛してるってお互いに言い合って照れた方の負けってやつだっけ? よく知らねぇな……ゲームじゃなくて素で言いたい相手はいるけど。へへへ!

 

「愛してるゲームのルールってなんやっけ?」

「結構シンプルなはずだぜ。愛してるって言って照れた方の負けみたいな」

「甘いね。それはちゃんとしたルールじゃない。その点が最強だって言ってるのさ」

 

 !!

 

 まさか拓斗に納得させられる日がくるとはな……。

 

 そう、俺は愛してるゲームのルールを詳しくは知らない。それが『戯』での戦いにおいては致命傷になる。『戯』は相手に遊びのルールを強制し、それに則らなければダメージを負う。

鬼ごっこみたいな『タッチされたら鬼になる』だけで、敗北のルールが明確になっていないやつはまだマシ。ただ、ルールをよく知らず、何をしたら負けなのかもわからない状態で『戯』を仕掛けられ、知らない間に『戯』で負けていたら、それは敗北に直結する。

 

「愛してるゲームは、それ自体はよく知られている。だけどね、そのルールまで詳しく知ってる人はいないんだ」

「だから、ルールを知らない相手に仕掛ければ最強ってことか」

「ほな試しに俺と拓斗でやってみいひん?」

「『戯』の勝負か。いいよ」

 

 廻と拓斗が向かい合う。まさか、目の前で『戯』の勝負が行われるなんて……。

 

 ……よく考えりゃこれ、廻と拓斗が「愛してる」って言い合うところを見なきゃいけねぇのか? 罰ゲームじゃねぇか。もしかして罰ゲームの『戯』か? 罰ゲームって遊びなのか? どっちかっていうと遊びで負けたやつが受けるやつっぽいから、『戯』には分類されないような気がする。でも、『ゲーム』ってついてるしな……。

 

「ほな、じゃんけんでどっちが先やるか決めよか」

「……! 『戯』だね」

 

 なるほど、じゃんけんの『戯』の使い手である廻は、愛してるゲームが始まる前に決着をつけようってことか。男らしい。誰にでもルールがわかるじゃんけんで相手を打ち砕く。じゃんけんは最強にはなれないけど、これほどわかりやすく相手を下せる『戯』はそうそうない。

 ここで廻が勝てば廻の勝ち。でも、廻が負ければ廻の『戯』で自分自身が負けることになる。じゃあどっちにしろ愛してるゲームやんねぇじゃん。よかったー。

 

「負けた時の言い訳は用意できてるかい?」

「最後に言い訳添えるような勝負、俺がやると思うんか?」

 

 拳をぶつけ合い、じゃんけんのためのセットが終わった。

 

「勝った方が勝ち。用意はいいか二人とも」

「もちろん」

「いくで! じゃん、けん! ポン!」

 

 廻、パー。拓斗、チョキ。

 

 じゃんけんよえぇな。

 

「ふっ、僕が『戯』に脅えて、手を開けないと思ったのかい?」

「……やるやないか」

「勝ったけど、愛してるゲームやんのか?」

「やらないよ。やるまでもなく、愛してるゲームが最強だってことが証明されたからね」

「……ほんまにそうか?」

 

 開いたパーをグーにして、廻が立ち上がる。ここから逆転の目はないように思えるが、廻の目は死んでいなかった。

 愛してるゲームはそのルールの詳細が知られていない。これは完全に強みで、一見最強に思える。廻はそれを否定できるってのか?

 

「『戯』は『負け』の自覚が強ければ強いほど効力を増す。でもルールを知らんかったら『負け』を自覚できひんちゃうか?」

「……かなりの弱点だな、それ」

「廻のくせに、痛いところをついてくる……!」

 

 『戯』の特性上、愛してるゲームは最強にはなり得ない。その点、廻のじゃんけんは明確に勝敗が決する。確かに、そこだけで言えばじゃんけんは最強かもしれない。ただ手の形を変えて前に突き出すだけなのに、そこに勝敗のすべてが詰まってるんだから、その一撃に対する緊張感も半端じゃない。『負け』の自覚もかなりのものだ。

 

 逆転の目は、あった。愛してるゲームの『戯』を持つ拓斗は、悔しそうに震えている。

 

「……認めよう。愛してるゲームよりじゃんけんが強いってことを」

「じゃんけんが最強やっただけや。愛してるゲームも負けてへんで」

「でもお前じゃんけんで負けてただろ」

「ほな見せてもらおうか。修也の『戯』」

 

 やっとお披露目するときが来たか、俺の『戯』。

 

 とはいっても、もう勝敗は決定している。じゃんけん? 愛してるゲーム? そんなものより最強だと言える俺の『戯』、それは何か。

 

「お前ら、もう負けてるぜ」

「何やて!?」

「なんだって言うんだ、修也の『戯』は!」

「しりとり」

 

 廻と拓斗が腰を抜かし、椅子を倒しながら尻もちをつく。俺の『戯』により『負け』を自覚したみたいだな。

 

「まさか、僕たちはずっとしりとりの『戯』を仕掛けられていたのか……!」

「あぁ。しりとりのルールくらい知ってるよな?」

「……相手の最後の文字を先頭に持ってくる。それだけの遊びや」

「それと、『ん』が最後につくと負けだ」

「っ!」

「まさか!」

「拓斗、『もちろん』って言ってたよな?」

「か……! はっ……!」

「廻、『じゃん、けん、ポン』って言ってたよな?」

「がっ……!」

 

 二人が胸を抑えて倒れこむ。『戯』による強烈な『負け』を自覚した者は、ひどい場合は死に至る。

 愛してるゲームの『戯』の使い手が、「愛してる」を一言も言うことなく散っていく。これこそが、最大の『負け』じゃないか? フフフ、ハハハ、ハーッハッハッハッハッハッハッハ!!!

 

「お、予鈴鳴ったわ」

「よし、じゃあ戻るか」

「そうだね。いい暇つぶしだった」

 

 

 

 

 

 俺と結菜が『イチャイチャしないと出られない部屋』に閉じ込められて、無事出られなかったことで、彩芽と結菜のギスギス、というには少し可愛らしかったあれも、あの時以来起きていない。結菜も魔法なんかで仲をこじらせるのが嫌なのか、俺とも前と同じように接してくれる。そんな結菜に気を遣ってか、彩芽も素直になりすぎることはなく、可愛らしいイチャイチャで済ませてくれる。

 

 そんな数日を過ごしていて、俺は油断していた。魔法にかかっていて、その効力を我慢することの意味を忘れていた。

 

 『戯』ってあんのかなって一応スマホで検索し、なかったことを確認して寝て、起きて、土曜日。

 

 俺の両隣に、彩芽と結菜がいた。

 

 ……色仕掛けの『戯』か?

 

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