【本編完結】ぎゅってしないと好きになる魔法   作:酉柄レイム

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第59話 あの頃を思い出す魔法

 状況を整理しよう。

 

 俺は昨日一人で寝たはずだ。それは間違いない。無意識に彩芽と結菜をベッドに引きずり込んで、クソいやらしい富豪みたいに両手に美少女抱えて寝るなんてことしてないはずだ。

 

 でも今、しっかり彩芽と結菜が両隣にいる。なんでだ?

 

 彩芽は、わかりたくないけどまだわかる。素直になる魔法の影響で素直になったんだろう。じゃあ結菜は? 結菜にかけられた魔法って、俺を好きだった頃を思い出すだけで、直接行動に影響が出るようなものじゃなかっただろ? それがなんで俺の隣で寝るなんてことになったんだ?

 

「……」

 

 両隣から寝息が聞こえる。意識が段々覚醒していくのと合わせて、両隣からの柔らかい感触が伝わってくる。なぜか二人とも俺の方向いてるし、なぜか俺に抱き着いてきてるし、あ、なんか俺が風邪ひいた時のこと思い出しちまったわ。

 

 理由が知りたい。なんでこうなったのか理由が知りたい。どうせ魔法のせいだって思っていても、この状況はかなりマズい。彩芽と一緒のベッドにいるってのもそうだし、いとことはいえ結菜と一緒のベッドにいるのそうだし、何より俺の鋼の理性がバキバキに折られそうなことが一番マズい。

 

 こういう時は、目を閉じるに限る。二人を見ようとしちゃダメだ、その時点で理性が折れるどころか粉々に砕け散って、俺が俺じゃなくなるかもしれない。二人の両親に信頼してもらってるのに、その信頼を裏切るような真似だけはしちゃいけない。

 

 クソ、なんでこんな時に限って姉ちゃんはきてくんねぇんだ!! 普段からダラダラしてるくせに土曜日日曜日ってなったらちゃんといつもよりダラダラしやがって、ちゃんと朝起きろよチクショウ!! この場面写真でも動画でもなんにでも収めていいから、早くきてくれ!!

 

「ん……」

 

 彩芽が小さく声を漏らし、身をよじるのが伝わってくる。そりゃあもう色々伝わってくる。何が、なんて意識したら俺のマグナムがビッグウルトラサンダーマグナムになるから意識の外に追いやって、この前疲労された廻の右半身裸落語を思い出すことにした。「斬新やと思うんやけど、どうや?」って言ってきた廻に、「右半身だけねぇ服、どこで買ってきたんだ?」って興味をそそられたのは記憶に新しい。

 

「……ふぁ」

 

 あくび、かわいっ!!!??

 

 あぶねぇ、彩芽のあくびが可愛すぎて廻の右半身裸落語の記憶が消えるところだった。よく考えたら消えた方がいい記憶だった。もう一回あくびしてくんねぇかな。この記憶が消えたとしても、気分を紛らわせるような記憶はいくらでもあるし。

 

「……修也、起きてる?」

「……」

「……かわいい」

 

 なんか、廻が「囁きボイスって知っとるか?」って言ってたなぁ。あの時は話半分に聞いてたけど、確かにいいもんだわ。脳から溶かされるような感じがする。なんだよかわいいって、かわいいのはお前だよ!!!

 

「修也、修也。起きて」

「……起きてるよ」

「!!!」

 

 もしかしてさっきの聞かれてた!!? と叫びそうになって、慌てて自分で口を抑えた後、人差し指を口に当てて「しーっ」とやってくる彩芽に、いつの間にか目を開けてしまっていることに気づいた。参ったぜ、彩芽が可愛すぎるがあまり、その姿を見たくなって目を開けちまったらしい。

 

「どういう状況?」

「えと、あのね」

 

 俺だけを起こしたってことは、結菜に関することなんだろうなと予想して、結菜を起こさないように小声で話す。彩芽の囁き声可愛すぎないか? 俺、今世幸せすぎて来世が訪れねぇんじゃねぇかって心配になってんだけど。こんなに幸せでいいのか? 

 ……父親があれだから帳尻取れてるか。安心した。

 

「結菜の、あの頃を思い出す魔法なんだけど」

「うん」

「私のせいで色々我慢させちゃってたから、その、思い出しすぎちゃったみたいで」

「うん?」

「修也と一緒に寝たいって、駄々こねちゃって」

 

 ……そういや、小さい頃は帰省したら一緒に寝てたっけ。あんときはなんで一緒の布団入ってくるんだろうなぁって思ってたけど、そういうことだったのか。てっきり姉ちゃんの近くだと色々いじめられるからだと思ってた。

 めちゃくちゃ気まずい。姉ちゃんの話だとあの頃を思い出すのは俺に対する好意だけだって話だったから、一緒に寝たいっていうのも好意からくるものだってことになる。めっちゃアピールされてたんじゃん俺。ガキなんてそういうのに鈍くて当たり前だけど、唐変木にもほどがある。あ、だから彩芽と仲こじらせてたのか。

 

「でも、なんでそれで二人が俺の隣で寝てんだ」

「……涙目になった結菜が可愛くて、だめって言えなかったから。私は、その、監視のために」

「……素直になる魔法はどうしたんだ?」

「す、素直だし。……うそです。理由つけて合法的に修也と一緒に寝れるって思ったからです」

 

 じっと見つめれば、彩芽が白状した。「殺して……」と言いながら恥ずかしがって腕で自分の顔を隠す彩芽が可愛くて思わず笑うと、弱めの力でパンチしてきた。おいおい、あぶねぇだろ。思わず「幸せー!!!!!!」って叫んで結菜を起こすところだったじゃねぇか。

 

 しかし、今日で魔法の効力が切れるはずだってのに、最後の最後でこんなことしでかすなんて……。それまではちゃんとライン引いてくれてたから文句はねぇけど、どうせなら俺が起きてる間に一緒に寝たいって言ってほしかった。マジで起きた瞬間混乱したからな。思わず服着てるか確認しそうになったし。

 

「結菜が可哀そうだけど、先起きちゃおっか」

「だな」

 

 彩芽が静かに体を起こし、ベッドから降りる。俺も体を起こそうとすると、腕が柔らかい何かに捕らえられた。

 

「……」

「……」

 

 睨んでくる彩芽に必死で首を横に振り、俺のせいじゃないと無言で弁明する。あれだよ、昔を思い出してるからその、寂しいとかそういう気持ちが無意識で働いただけだって。結菜のことだから寝たフリして俺を引き留めようとかそういうこと考えてねぇって。な? そういう小細工できねぇやつなんだから。

 

「ん……修也?」

「あ、起きちゃった」

 

 そっちのが助かる。流石に振り払うのは可哀そうだから、起きてもらって放してもらわねぇと。

 

「おはよう、結菜。腕離してくれるか?」

「や」

 

 ぎゅっと俺の腕を抱き込んで、肩に顔を埋める結菜。マズい、彩芽が笑ってる。本当にブチギレる人の一歩手前の顔してる。でもあれだぜ? 彩芽もこの状況になる手助けしたんだぞ? 俺と一緒に寝たいからってこうなることをよしとしたんだから、ブチギレるのはやめてくれ。朝っぱらから修羅場なんて誰も望んじゃいない。

 

「結菜。いい子だから、離せって」

「や」

「……確かに、こりゃ断れねぇな」

「可愛いでしょ?」

 

 すっかり駄々っ子になっている結菜にほっこりして、さっきはブチギレる寸前だった彩芽の頬もだらしなく緩んでいる。あの頃に戻りすぎたからか、好意の表し方も子どもっぽい。これなら気まずくないし、完全に妹に甘えられている感覚だ。どこの世界に同じ年齢の兄貴に同じベッドで甘える妹がいるんだって話だけど、それはほら、魔法で幼児退行してるようなもんだから。

 

「ゆーうーなー。修也困っちゃってるから、起きよ?」

「修也、困ってるの?」

「んー? 困ってないぞ?」

「修也、甘やかさない」

「どの口が言ってんだ」

「そうでした……」

 

 彩芽、反省。でも俺も悪かったから「ごめん」と謝ると、「許しましょう」とありがたい慈悲をいただいた。

 

 でも参った。困ってないって言ったからか、布団の中で恋人繋ぎしてきた。小さい頃こんな大胆だったっけ? 昔のことだから覚えてねぇな……。そもそも、朝になったら大体姉ちゃんか父さんが突撃してきて無理やり起こされてたし、朝の記憶なんてそれくらいしかない。

 

「……えっ?」

 

 彩芽がベッドに座って、結菜が放してくれるのを二人でゆっくり待とうとした時、結菜が『え、なんで修也と一緒のベッドに……? も、もしかして、でも服着てるし、あっ、彩芽もいる……? 私が先にダウンしちゃって、二人で服を着せてくれたってこと……?』と存分に幼児退行したからか、いつも通りの勘違いをぶちかましている。

 

「おはよう結菜」

「おはよー結菜」

「……えっ?」

「いや、やっぱり三人で楽しんだんだじゃなくて、何もなかったからな? 落ち着いて昨日のことゆっくり思い出せ」

 

 動揺しているのか、俺の手をにぎにぎしながら「昨日、昨日……?」と起き始めた脳をぐるぐる回し始める結菜。起きても庇護欲すごいなこいつ。

 

「あ……その、二人とも、ごめんなさい」

「いいよ。可愛かったし」

「いいよー。可愛かったもん」

「……」

 

 恥ずかしさを隠すためか、布団の中に逃げ込んだ結菜は「修也の匂いがするじゃない!!」と当たり前のことを言いながら俺にブチギレてきた。俺以外の匂いしたらびっくりするだろうが。

 

「うぅ……なんで私あんなこと言っちゃったのよ……」

「ねぇねぇ結菜。ちっちゃいときもあんな風に駄々こねてたの?」

「……うっさいわね」

「結菜は俺が寝てる布団に勝手に入ってきてたから、駄々こねてたわけじゃなかったな」

「わー!!!!」

 

 恥ずかしさのあまりベッドから飛び降りて、部屋を飛び出そうとした結菜は、ドアを開けた瞬間目の前に現れた姉ちゃんに捕まえられた。じたばたする姿は本当に子どもみたいで可愛らしい。

 

「どうしたの。魔法のせいで修也と一緒に寝ることになって、朝起きてまだ魔法の効果で修也に甘えちゃって段々意識が覚醒してきて、色々思い出した挙句修也と彩芽ちゃんに可愛がられて恥ずかしくなったみたいな顔して」

「ぜんぶ見てたでしょ雅さん! 悪趣味!」

 

 どうやら、面白そうだから結菜をいじりにきたらしい。マジで性格ワリィな。結菜をいじりたくなる気持ちはわかるけど。

 

「あ、それと結菜に言っておくことがあって」

「言っておくこと?」

「結菜にかけた魔法ね、実は体が熱くなるだけの魔法なんだ」

「……え?」

 

 ……待て、この人何言い出すつもりなんだ? 熱くなるだけの魔法? あの頃を思い出す魔法じゃなくて?

 

「結菜って勘違いしやすいし、信じ込みやすいから適当にあの頃を思い出す魔法だって言って体熱くすれば、信じるかなーって思って」

「え、うそ、それじゃ、私、修也のこと……」

「もちろん嘘だけど」

「ふっざけんな!!!!! 雅さんだいっきらい!!!!!」

「……そっか、ごめんね?」

「あ、え、いや、えっと……ごめんなさい。ほんとはだいすき」

「結菜の純粋さをいじくり回す醜悪さ、マジで縁切ってほしいくらい最悪だよな」

「そういうところ、本当におじさんそっくりですよね」

 

 彩芽の一言がめちゃくちゃ効いた姉ちゃんは土下座を披露し、めちゃくちゃ高い肉を食べさせてくれた。今度から金に困ったら父さんとそっくりだって姉ちゃんに言ってみるか。

 

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