【本編完結】ぎゅってしないと好きになる魔法   作:酉柄レイム

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第61話 ゴールデンウィーク (2)

「部屋割りじゃんけんだ!!」

「受けて立ちましょう」

 

 また父さんとお義父さんの勝負が始まった。

 

 芝桜を楽しんだ後、滝を見に行ったり硫黄臭い山に行ったり、自然をたっぷり楽しんでホテルに到着。チェックインを済ませたかと思ったら、ホテルのロビーで戦いが始まった。流石に寝泊りするってなったら家族で分かれることになるだろうし、このじゃんけんマジで意味ねぇと思うんだよな。

 

「さ、修也もこい」

「は?」

 

 なんて思っていたら、父さんに呼ばれた。よく見れば、父さんの手に握られているルームキーカードは三枚。ってことは、三部屋……?

 マズい、そうなると家族で分かれるっていうのは、俺と父さんがじゃんけんに参加する時点で無理になる。だとしたら俺が選ぶべきは母さんか姉ちゃんが丸くて、でもこの年になって最初に母さんを選ぶのはハズイし、姉ちゃんに対しても同じことが言える。だからって彩芽を選ぶのかってなったら、お義父さんとお義母さんの前だから死ぬほど気まずい。同じ理由でお義母さんは論外だ。

 

「修也くんとじゃんけんするのは初めてだね」

「じゃんけん自体は初めてじゃないと思いますけど……」

「いいか! 部屋は二人部屋が二つと、三人部屋が一つ! 勝った順に一緒の部屋になりたい人を選んでいく!」

 

 ……二人部屋なら、誰にする? もし二人部屋になった場合、俺が姉ちゃんを選んだとしよう。父さんが三人部屋だったら、自動的に父さんと母さんとあと一人になる。お義父さんが誰を選ぶかによって、そのあと一人がお義母さんか彩芽かが決まる。

 彩芽を父さんと同じ部屋にするのは、マジで嫌だ。それだけは避けなきゃいけない。かといって彩芽と一緒の部屋になるのも……まぁ、もし俺が三人部屋になったら姉ちゃんと彩芽にすればいいか。

 

「準備はいいか!」

「いつでも」

「あぁ」

「よし、いくぞ! じゃん! けん! ポン!」

 

 父さん、チョキ。お義父さん、チョキ。俺、パー。

 

「……!!」

「ハハハ! ザコめ! 舞坂家の男とは思えんな!!」

「じゃあやりましょうか敦也さん。三人部屋をかけて」

 

 この場合、最悪はなんだ? まず最初は母さんとお義母さんを選ぶと見て間違いない。……!! そうか、もし父さんが三人部屋で、母さんとお義母さんが選ばれた場合、俺が選ぶ相手は彩芽か姉ちゃんになる。そうなったら、俺が選ばなかった方が父さんと母さんと同じ部屋になる。だから、俺が姉ちゃんを選んだら彩芽が父さんと同じ部屋になるってことだ。

 

 そうなったら、究極の二択。お義父さんとお義母さんの前で彩芽を選ぶか、彩芽を父さんと同じ部屋にするか。個人的に嬉しいのは前者だけど、その場合俺は義両親の前で、まだ付き合ってもないのに娘と同じ部屋がいいってほざくクソ野郎になる。誠実もクソもない。だからって父さんと母さんと彩芽を同じ部屋にするのは、彩芽が可哀そうだ。

 

「お義父っ、おじさん! 勝ってください!」

「負けた」

「チクショウ!!」

 

 呼び間違いを訂正してまで応援したのに!!

 

 もちろん父さんは母さんを選んで、お義父さんはお義母さんを選んだ。俺が恐れていた状況が、今目の前にある。

 

「さぁ修也。どっちを選ぶんだ?」

 

 彩芽と姉ちゃんの視線が俺に突き刺さる。彩芽はめちゃくちゃ俺に選んでほしそうで、早く決断しなきゃ素直になる魔法のせいで「修也と一緒の部屋がいい!」って言いだしそうですらある。姉ちゃんは相変わらずにやにやしていて、その奥に「修也がいないのにお父さんと一緒の部屋は嫌だ」という絶望が透けて見える。

 

 まさか、ここまで重いじゃんけんなんて……!!

 

「修也くん」

 

 お義父さんに優しく肩を叩かれる。「わかってるよね?」ってことか……!? そうですよね、流石に年頃の男女で同じ部屋はちょっと意味わかんないですよね!

 

「いいよ。彩芽を選んでも。修也くんが何かするとは思ってないし、何かするとしてもちゃんと責任感があるって信じてるから」

「お義父さん……」

「もう責任取る気満々だね」

 

 ここまで言われて、彩芽を選ばないのは男じゃない。懐からゴムを取り出そうとした父さんにビンタをかましてから、彩芽の正面に立った。

 

「彩芽」

「は、はい」

「結婚してくれ」

「はい!」

「ちょちょちょ、修也。間違ってる間違ってる」

 

 珍しく慌てた姉ちゃんがお義父さんとお義母さんに頭を下げ、俺の頭を叩いた。なんでだ……?

 

 

 

 

 

 部屋は立派なもので、入ってすぐのところは洋風になっており、そこから一段上がれば和室になっている。洋風と和風で区切られた空間は、ちぐはぐだけど布団で寝られない人のためにベッドを置くためだろうなって納得した。

しかも室内風呂どころか露天風呂付きで、パッと見ただけで結構な値段がしそうだなって思ってしまう。そういや父さんが「家族そろって旅行に行けるのは、あと数回くらいだろうしな」って、今回は奮発したって言ってた気がする。

 

「……」

「……」

 

 そして、俺と彩芽は一つだけ置かれているダブルベッドを前に、沈黙していた。

 

 部屋に入った瞬間見えたのが、このダブルベッド。一つしかないことに敢えて触れず押し入れを開けて布団がないか確認しても、なぜかまったくない。父さんが「布団は回収しておいてください」ってあらかじめ伝えておいたんじゃねぇかって邪推するくらいには何かの陰謀を感じた。

 

「……修也、どうする?」

「寝る時に考えようぜ。風呂行こう、風呂」

「……そうだね。いこ」

 

 落胆の雰囲気を感じとる。いくじなし、みたいな? そりゃいくじなくなるだろ。お義父さんに信じてもらっているとはいえ、「信じてもらってるから一緒に寝てもいいや!」とはならない。見られてないからって何してもいいってわけじゃないんだ。むしろ、見られていないからこそ誠実な対応をした方がいい。

 

 俺と彩芽は自分の荷物から下着と肌着、スキンケア用品等々を引っ張りだして、部屋にあった浴衣を手に取った。準備万端。風呂は流石にじゃんけんで分かれるなんてことはせず、男と女で分かれて大浴場を利用する。その後に飯食って、それぞれの部屋に解散って流れだ。

 

「……」

「彩芽?」

 

 彩芽は部屋を出る一歩手前で立ち止まって、部屋の中へ戻っていく。そして荷物を置くと、じっと俺を見てきた。

 

「……」

「……ん」

 

 そのまま顔を逸らして腕を広げる。なんだその可愛いおねだり。誰に教えてもらったんだ? 天然か? 天然だとしたらとんでもねぇな。可愛すぎて可愛いっていう概念が彩芽に追いついてきてないくらい可愛い。彩芽の後ろから「ま、待ってください!」って可愛いが走ってきているのが見える。可愛いすら置き去りにする可愛いの第一走者だ。何言ってんだ俺は?

 

 彩芽にこんなことしてもらって無視するなんて、死んだ方がいい。荷物を置いて、彩芽の前に立って、ぎゅってした。もはや懐かしさすら覚えるその感触と、彩芽から伝わってくる体温に安らぎを覚えて、あれ? もう温泉入ったんだっけ? と勘違いをしてしまいそうになる。

 

 いや、温泉なわけがない。温泉でドキドキなんてしねぇし。

 

「……ふふ」

「どうした?」

「んーん。ぎゅってしても好きだなぁって」

 

 言いながら、俺の胸に頭をぐりぐりしてくる。あー、可愛い。よかった、姉ちゃんを選ばなくて。姉ちゃんを選んだら「一緒に露天風呂行く?」ってクソ気色ワリィこと言われて、「彩芽ちゃんとはどうなの?」って寝るまで彩芽に関することで質問攻めされるところだった。元々彩芽以外を選ぶ選択肢なんてなかったんだ。

 

「……よし! もう十分! いこっか!」

「もういいのか?」

「うそ。十分じゃないけど、待たせちゃいけないから」

 

 素直になる魔法の破壊力すごくねぇか? 物理的な破壊力にしたら、今頃俺の骨粉々になってるぞ。すごすぎてもう一回ぎゅってして「露天風呂で済ませようぜ」って言いそうになったし。それ言ったら今の彩芽なら頷きかねないからほんとに危なかった。

 

 照れくさそうな彩芽と一緒に部屋を出て、大浴場に向かう。脱衣所の前には俺たち以外全員いて、「よかった。もうちょっと遅かったら信頼が間違いだと思うところだった」とお義父さんからからかわれた。

 

 

 

 

 

「それで、修也くんは彩芽のことが好きなんだよね?」

 

 大浴場に入って、三人で頭と体を洗って、父さんが「ルルンルルンルルルン♪ ルルンルルンルルルン♪ ルルンルルンルルルン♪ い・い・気・持・ち♪」って温泉の中で歌い出したから、一緒のグループだと思われたくなかった俺とお義父さんは露天風呂に移動した。その先での一言に、動揺を隠しきれず「おじさんもですか?」と訳の分からないことを聞いてしまう。わけはわかるけど質問の意味がない。

 

「それはもちろん。修也くんが彩芽に抱くそれとは好意の種類が違うけど」

「……隠す意味もないんで、まぁ、好きです」

「やっぱりそうか。最近、蕾と彩芽が修也くんの話で大盛り上がりしていてね。最近と言っても、去年の夏くらいからだけど」

 

 それは、嬉しいけど恥ずかしい。娘と母親ってそういうもんなのか? 姉ちゃんも時々そういう話してるし、そういうもんなのかもしれない。父親が聞いてるところでっていうイメージはあんまりないけど、それは父さんが過激派すぎるからかもしれないし。

 

「正直、安心してるんだ。一時期修也くんと彩芽、かなり仲悪かったし。彩芽も『修也にひどいこと言っちゃった』ってずっと後悔してたし」

「初耳なんですけど」

「俺が言ったってことは内緒で頼むよ」

 

 彩芽がそんなこと言ってたのか……。そういや小学生の頃、周りに夫婦だってからかわれた時、彩芽から先に「ありえない! ふざけんな! なんで私がこんなやつと!」って言ってきたんだっけ。

 ……先に言ったのがどっちとかじゃなくて、あれは俺も悪いから気にしなくていいのにな。父さんの『ぎゅってしないと好きになる魔法』で、お互いに好意があったっていうのはもうわかってることだし。今考えたらマジでハズイな。

 

「大学は実家から?」

「両親が寂しいって言って出してくれないんで」

「はは、そうか。一人暮らしするなら彩芽と同棲でもって思ったんだけど」

「……」

「説得なら手伝うよ?」

「俺は許さんぞ!」

 

 お義父さんの甘い誘惑……って言い方するとちょっとアレだな。すばらしい提案を吹き飛ばしたのは、露天風呂にやってきた父さんだった。なぜかタオルで股間じゃなくて胸を隠し、堂々と歩いてくる父さんに「タオルで隠すなら胸じゃなくて股間にしてください」とお義父さんから冷静なツッコミが入る。

 

「許さないって、いいんじゃないですか? 確かに子どもが家を出るのは寂しいですけど」

「いーや、俺は基本的に俺の遺伝子を信用していません。学生のうちに間違いがあっちゃダメだ」

「父さんがおかしいっていう自覚があってよかった。それでいうと俺も同じ意見だから、別にいいよ」

「なるほど。修也くんがしっかりしてるのは、敦也さんの遺伝子が信用ならないからだったんだね」

「なんてこと言うんですか!!」

「自分で言ったんだろうが」

 

 でも、ちょっとくらいハメ外してもいいんじゃない? 再びのお義父さんからの甘い誘惑を振り切るために、俺はあえて父さんの真似をして胸にタオルを巻いて露天風呂を出た。

 

どうだ、信用ならねぇだろ! 撤回しろ!

 

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