【本編完結】ぎゅってしないと好きになる魔法   作:酉柄レイム

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第64話 イチャイチャ

「よっ」

「おう」

 

 翌日。

 

 朝になったらもう既に家族はいなくて、リビングに『頑張れ』とだけ書かれた置手紙があった。『頑張れ』っていうポジティブな言葉がこんなにムカつくことってあるんだな。

 

 そうやってムカついていると、インターホンの音。玄関に行ってドアを開ければ、案の定中条がいて、いつもみたいに片手を軽くあげての挨拶。こんなにいつも通りな感じなのに、その内側は湿度高いなんて誰が信じられるんだろうか。

 

 まぁ、朝早くきてる時点でその片鱗は見えている気もする。

 

「おじゃましまーす」

 

 中条は俺の隣を通り抜けて家に上がり、二階に直行。結構短めのスカート履いてるのに俺より先に階段を上がるのは信頼の表れか、それとも別の何かか、それともそのどちらもか。できれば信頼の表れってだけだといいなと思うけど、昨日通話した感じそれだけじゃなさそうなのはなんとなく想像がつく。

 

 もちろん上は見ないようにして階段を上がると、廊下に中条の姿はなく、俺の部屋の扉が開いていた。部屋の主に断りもなく入るのは中条らしくないなと思いながら部屋を覗けば、俺のベッドで寝転がっている中条。

 

「何してんの?」

「んー? ふふ、何してると思う?」

 

 うつ伏せになっていた中条はわざとらしく転がって、それを見ないように目を逸らした俺を笑いながら聞いてくる。あの、高校生男子の部屋でそういうえっちなことしないでくれませんかね? しかもベッドだからなお前がいる場所。何されても文句言えねぇぞそのポジション。

 

「朝早いからまだ眠いのか?」

「ぶー」

 

 ぶー、て。

 

「俺の体臭バカにしようとしてんのか?」

「ぶー。ウケる。卑屈すぎじゃん?」

 

 枕を抱きしめながら、中条が楽しそうに笑う。ぶー、て。可愛いなお前。さては普段のさっぱりしてる感じのやつ嘘だろ。こういうめんどくさい感じのクイズするのとか、さっさと答え言えばいいのに俺に答えさせようとするのとかギャップありすぎる。ギャップありすぎて可愛い。普段は「私、めんどくさいの嫌いなんだよね」って言いそうなのに。

 

「わかんね。正解は?」

「ほんとにわかんない?」

「ほんとにわかんない」

「正解はー、マーキング」

 

 マーキング。

 

「寝る時、私の匂いがするって思ってほしいなぁって」

 

 あと、舞坂の匂いしてドキドキするし。そう付け加えた中条をなぜか直視できなくて、また目を逸らした。

 

 はぁ、まったく失礼なやつだぜ。人のベッドに我が物顔で潜り込んでマーキング? 礼儀に欠ける行為だ。実にすばら……しくない。男が女の子にやってほしいことランキング上位に食い込むわけでもない。食い込まないけど言われてみればそれいいよねっていうものでもない。ないったらない!

 

 嘘。普通に可愛い。なんだよマーキングって俺の匂いしてドキドキするって。枕抱きしめて幸せそうな顔してベッドでゴロゴロしてんじゃねぇよお前スカート履いてんだぞ? いや、俺がドア付近で立ってるから悪いんだ。中条のスカートの中が見えないような位置にいけばいいだけだ。

 

 冷静になった俺は机の側にある椅子に座る。ここに座れば、どう頑張ったってスカートの中は見えない。頑張ることなんてないんだけどね?

 

「いいのに」

「よくねぇよ」

「彩芽のなら見るくせに」

「彩芽のでも見ねぇよ。なんつーか、悪い気分になる」

「そういう紳士的なところ好き」

 

 普通に照れる!! なんだこれ!! これがギャップってやつか!? 廻と拓斗が言ってたギャップ萌えってやつなのか!? いっつもさっぱりしてる中条が甘々になったことによるギャップに萌えてるのか俺は!!

 落ち着け。魔法にかけられている中条が万が一暴走した時、止められるのは俺しかいない。中条も俺が暴走しないって信頼してくれているからここまで緩み切ってくれているんだ。一日経ってタガが外れたのも考えられなくもないけど。

 

「舞坂ぁ」

「な、なんだ?」

 

 甘えた声で俺を呼ぶな……!! あと甘えた声なクセして彩芽に悪いからって俺を苗字で呼ぶ理性見せつけてくんな! なんかそういうとこ見るとキュンってしちゃうんだよ。マジで彩芽の親友なんだなって思ってほっこりもしちゃうんだよ!

 

「どっちがいい?」

「何が」

「私がそっち行くか、舞坂がこっちくるか」

 

 枕に頬を乗せて、期待した目で俺を見てくる中条に、「中条がこっちにきてくれ」と即答した。俺がそっち行ったら、短期間で三人の女の子と同じベッドに入ったクソ野郎になっちまうだろうが。

 中条も俺がそう答えることはわかっていたのか、「残念」と笑いながらベッドから降りて、俺の目の前まできて俺に背を向ける。

 

「!!?」

 

 そのまま、俺の膝の上に座ってきた。座る位置が浅かったのか、俺の胸と自分の背中が密着するように深く座り直される。ちょ、マズい、その位置はマズい!!

 

「ねぇ舞坂。ぎゅってして」

「いや、その、中条さん」

「ぎゅってして」

「いやだからその」

「……」

「……」

「ふふ」

 

 俺の方を見て、本気で悲しそうな目をされたから、負けてしまった。変なところは触らないように中条のお腹に両腕を回すと、ご機嫌な様子で足を軽くぱたぱた動かしている。少女の一面もあんのかよ。

 

 いやでも、マズいな。何がマズいって言いたくないくらいマズい。雑念は振り払え。心頭滅却すれば火もまた涼し。心を無にすれば、俺の下半身に伝わる中条の柔らかさは気にならないはずだ。俺は日本男児、そして魔法使いの子。どんな不測の事態だって、俺にとっては屁みたいなもんだ。

 

 屁みたいなもんならこんなことにもなってなかったはずなんだけどな。

 

「舞坂」

「なんだよ」

「揺れた方がいい?」

「お前ほんといい加減にしろよ?」

「ごめんなさーい」

 

 流石に中条もマズいと思ったのか、マズくなる前にやめようって決めていたのか、俺の上から降りた中条は、俺の手を掴んで引っ張り上げ、無理やり立たされる。起立って意味ね?

 

 そのまま、小さく首を傾げて両腕を広げる。あぁこれ、彩芽もおねだりするときよくやる姿勢だ……。甘え上手な女の子は、こういうことを自然とできちゃうんだろうか。中条なら、ある程度男のツボをわかっていそうな気もする。

 

「はやく」

「はいはい」

 

 今の中条は言うことを聞かないとすぐに機嫌を損ねてしまう。今だって体を揺らして催促してきた。

 これ以上機嫌を損ねないように抱きしめると、すぐに中条が俺の背中に腕を回して、ぐっと抱き寄せられる。かと思えば、俺の耳元で「好きなところ撫でて」なんて囁いてきやがった。

 

 もちろん思春期男子が考えるような『好きなところ』を撫でるはずもなく、ただどこかは撫でないとまた中条が機嫌を損ねちゃうから、とりあえず背中を撫でる。

 

「背中が好きなの?」

「いや、そういうわけじゃ」

「じゃあ好きなところ撫でてよ」

「背中が好きです」

「ふぅん。私の背中はどう?」

「……勘弁してくれ」

「ふふ、ごめん。勘弁してあげる」

 

 あと俺をじっと見るのもやめてくれ。俺どこを見たらいいのかわかんなくなるから。どういう視線だ? なにかのおねだりか? あと「ふふ、くすぐったい」って言って身をよじるのもやめてくれ。わかってんのか? 女の子の体って柔らかいんだぞ? その度に俺の彩芽に対する罪悪感が抉られんだぞ? 

 

いや、むしろそれを抉ることで独占欲を楽しんでるのか? そんなまさか、中条がそんなことするはずがない。だからこれはシンプルに中条が可愛いだけだ。

 

「……」

「……な、なんだよ」

「なでなでして」

「頭を?」

「頭を」

 

 仰せの通りになでなですると、「手つき優しくて照れる」と嬉しそうにしてくれる。誰だお前? 中条か。中条だよな?

 

 しばらくそうしていると、中条が背中に回している手で俺の服をきゅっと掴んでくる。次はなんのおねだりだと身構えている俺に、唐突に「ごめんね」と呟いた。

 

「え?」

「いや、その、困らせちゃってさ。舞坂は彩芽のことが好きで、彩芽は舞坂のことが好きなのに」

「……俺と中条は彩芽に隠れてこうしてるわけじゃねぇし、彩芽もわかってくれてるし、元はと言えば父さんがワリィんだから。気にすんなよ」

 

 本当にいいやつだなぁ……。もうここまできたら「魔法にかけられてるし、仕方なくない?」って思ってもよさそうなもんなのに。

 でも多分、そう思えないくらい彩芽のことを大事に想ってくれてるってことだと思う。今度彩芽に友だち選びのコツでも教えてもらうか。こんなにいい親友、世界のどこを探しても中条くらいだろ。

 

 言葉以外でも「気にすんな」と伝えるために、背中をぽんぽん叩く。

 

「……ぐすっ」

「ちょっ、泣くなって!! お前知らねぇのか!! どんな男でも女の子の涙の前じゃ無力になるんだぞ!!」

「ふふっ、情けな。めんどくてごめん」

「謝んなって! ほら、高い高いしようか?」

「宥め方下手すぎてウケる」

 

 笑ってくれてるけど、涙は流れている。ど、どどどどどうしよう。父さんも「目の前で女の子に泣かれたら、もうどうしようもない」って情けないことしか教えてくれなかったし、姉ちゃんは「女の子を泣かすような真似はすんな」ってことしか教えてくれなかったし、どうしたらいいのかわかんねぇ!!

 

「舞坂」

「どうした? 俺はどうすればいい?」

「ふふ、慌ててるのかわいい。……ね、いっこだけ。いっこだけお願いしてもいい?」

「なんでもこい!」

「……名前、呼んで」

 

 それだけ、その言葉だけ切り取ったら、なんでもないようなこと。それでもかなりの勇気を振り絞って、かなりの躊躇を振り払って言ったんだろうなってことは伝わった。

 

「かおり」

「もう一回」

「かおり」

「もう一回」

「かおり」

「もう、一回」

「……かおり」

「……うん」

 

 中条は強く俺を抱きしめた後、そっと体を離した。指でそっと涙を拭って、ふわりと笑う。

 

「ありがと。もう大丈夫」

「……ほんとにごめん。こっちこそありがとな」

「んーん。いい男だよ、あんた」

「マジで?」

「マジで。だって、私が惚れたんだから」

「魔法のせいだろ」

「魔法のせいってだけで惚れるほど、安い女じゃないんだよ」

 

 それじゃあ俺はいい男だったらしい。中条がそう言ってくれるなら自信を持てる。その自信を披露する相手は、もう決まってるんだけど。

 

「今から言うことは冗談だけど、舞坂と彩芽、仲悪いまんまだったらよかったのに」

「冗談にしちゃ質感すごいな」

「演技派なの、私。……ね、舞坂」

「ん?」

「大」

《修也!! 魔法が解けたぞ!! 超ド級ハイパーマックストリケライナーHDMIが見つかったんだ!!》

「す、き……」

 

 脳内にブチクソテンションが高い父さんの声が響いて、時間が止まった気がした。

 

 中条が「き」と言った時の口の形を保ったまま、完全に固まっている。しばらくしてぷるぷると震え出して、顔を真っ赤にして俯いた。

 

「あ、あの」

「……」

「た、多分気づいてると思うけど、魔法、解けたみたいで……」

「……私がこじらせたら、あんたのせいだかんね」

「あっ、ハイ」

 

 ふん、と鼻を鳴らし、中条はベッドに座って彩芽に電話をかけた。その後すぐに彩芽がうちにやってきて、俺の部屋に突撃した彩芽は俺と中条を交互に見て、「よかった、脱いでない……」と胸を撫でおろした。

 

 何の心配してんだよ。

 

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