【本編完結】ぎゅってしないと好きになる魔法   作:酉柄レイム

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第65話 変わった関係性

「で、どうすんの?」

「どうすんのって?」

「彩芽。魔法解けたんっしょ?」

 

 中条と彩芽にかけられていた魔法が解けて、翌日。

 

 教室に入って中条を見た時は一瞬気まずくなりかけたが、中条がいつも通り「よっ」と片手をあげてくれたのを見て、「触れないでくれ」っていうことだと判断した俺は、「おう」といつも通り返事をして隣の席に座った。

 

 あの後。中条は逃げるように俺の家を出て行って、VEINで『まだ好きとかないから』と一文だけ送られてきた。中条の中ではあれで終わりにしてくれってことなんだろうな。

 

 そんな中条から聞かれたのは、色んなことがありすぎて引き伸ばしになっていた彩芽への告白。思えば、修学旅行で彩芽から告白されて、『好き』をお預けされてから随分経った。半年以上経ってるってマジか?

 

「そりゃするけど」

「ふーん。どうやって?」

「どうやってって……」

 

 どうやってだろう。普通に好きって言えばよくないか? 『魔法が解けた=好きって言ってもいい』ってことだから、彩芽に「大事な話がある」って言って時間とってもらえば、それでいいだろ。

 

 それをそのまま中条に言えば、「ふーん」と適当な返事。なんだよ、やめてくれねぇかそういう返事。まるで俺が彩芽に告白するのが面白くないみたいな態度。そういうのじゃねぇってわかってても、昨日までの中条が脳にこびりついてそういう風に考えちゃうから。

 

「フラれたら慰めてあげる」

「ありえねぇ……とも言えねぇなぁ……。最近の俺、とんでもねぇ浮気もんだったし」

「私の体、好き勝手味わってたもんね」

「おい、どういうことや修也」

「説明してくれるかい?」

「最低のタイミングできやがった……!!」

 

 こいつら、さっきまで二人で「花札の絵柄に名前があるって知ってる?」「知っとるわ。流石に草とかやろ」ってバカな話してたのに、中条が「私の体、好き勝手味わってたもんね」の「わ」のタイミングで一気に距離詰めてきたぞ。バトルマンガ出身か? あと流石に草はちげぇよ芒に月とか桜に幕とかだろ。語感だけ覚えてんじゃねぇよ。

 

「いや、えっと」

「聞いてよ赤谷、倉敷。舞坂、私を抱きしめて背中と頭を撫でて、『他に撫でてほしいところあるか?』って聞いてきて、私、怖くて怖くて……!!」

「おいテメェふざけんな!! あれはお前が俺とイチャイチャしたいって言ったんだろうが!!」

「修也。お前がそんなやつやと思わんかったわ」

「女の子二人を侍らせるその器、見直したよ」

「そっちかよ」

 

 てっきり浮気するとは何事だみたいな感じでボコボコにされるのかと思った。中条もにやにやしてたのに、ぽかんってしちゃってるじゃねぇか。表情で『まさかここまでイカレてるなんて……』って言ってるじゃねぇか。

 

 廻と拓斗は納得したように頷いて、俺の机に腰かけた。勝手に座ってんじゃねぇぞ。俺が感じる温もりは彩芽の温もりだけでいいんだよ。なんで野郎のケツの温もりを授業中に感じなきゃいけねぇんだ。

 

「せっかく舞坂をひどい目に遭わせようと思ったのに」

「マジでやめてくれよ……」

「修也をひどい目に遭わせるんやったら、黙ってられへんな」

「これでも親友だからね」

 

 お前ら……。そうか、さっきのもふざけた感じで言ってはいたけど、俺のことを信じてくれたんだな。やっぱり持つべきものは親友だぜ。ごめんな。中条があまりにも彩芽の親友として完璧すぎて、なんで俺の友だちはお前らみたいなやつなんだって頻繁に思っちゃって。

 

「どういう風にすれば修也が苦しむかは、俺らが一番知っとる」

「これでも親友だからね」

「そっちかよ」

 

 やっぱだめだこいつら。勝手に親友名乗ってんじゃねぇぞぶっ飛ばすぞ。大学行ったら縁切ってやる。

 

 なんて思っていても、こいつらが近くにいるのが慣れすぎてて、何か物足りなくなることは目に見えている。多分、大人になってもなんだかんだちょくちょく集まるくらいの関係は保ってるんじゃねぇかなって。

 

「彩芽に何かしたらぶっ飛ばすぞ」

「アホか。苦しめるなら修也に対して非道の限りを尽くすに決まってるやろ」

「わかってないな。実害を与えても許してくれるのは修也だけなんだよ?」

「中条。こいつら警察に突き出すから、証言してくれ」

「私を彼女にしてくれるならいいよ」

「お前触れるなって感じだっただろうが……!!」

 

 周りからすれば、俺と中条の関係は知ってるから「いつもの冗談だろうな」みたいな感じで受け取ってくれるけど、俺からすれば冗談じゃねぇんだよ! 触れない方がいいんじゃねぇの? 思い出したくもねぇだろ俺とイチャイチャしてたことなんか。

 

 もちろんこいつらを警察に突き出すのは冗談だから、「冗談だよ」と言えば、中条は「……ふーん」とまたも面白くなさそうな返事。やめろよお前勘違いしちゃうだろうが。結菜と同じ血流れてるから俺にも勘違いの才能がある可能性あんだよ!

 

「なんか中条、ジメジメしてへん?」

「そういうのは思っても言わないもんだよ。ノンデリすぎ」

「いやぁ、へへへ……」

「廻、今のは褒め言葉じゃないよ?」

「え? カタカナの言葉って全部褒め言葉ちゃうん?」

「ってことはジメジメも褒め言葉のつもりだったってことか……」

 

 廻の感性は特殊すぎて対応に困る。なんで俺、結菜の勘違いは完璧に理解できて、廻の感性は理解できないんだ? もしかしてやっぱり俺にも勘違いの才能があんのか? 

 ……彩芽がいてくれてよかった。彩芽がいなかったら、俺は女の子からのちょっとしたボディタッチとか女の子とのちょっとした会話とかで「こいつ、もしかして俺のこと好きなのか?」って勘違いする痛い野郎になっていたかもしれない。

 

「中条、マジで勘弁してくれ。彩芽に聞かれたらすごいことになるから」

「じゃあ、さっさと言いなよ。ダラダラして、私が変な気分になっても知んないから」

「……」

 

 これ、背中押してくれてるって捉えていい、のか? さっきまで勘違いだなんだって考えてたから自信がなくなってる。

 

 でも、今までの中条なら、今のは『彩芽もだいぶ我慢してんだから、さっさと決めて安心させてあげな』ってことだと思う。中条も彩芽に我慢させてた側だから、それも気にして背中を押してくれてるんだろう。

 

「ありがとな」

「お礼ならここにくれてもいいけど?」

 

 自分の唇をちょんちょんと指す中条に、「今度飯奢るわ」と返せば、「100-0」と俺にしか伝わらない返事。

 

 ……背中、押してくれたんだよな?

 

 

 

 

 

「彩芽、帰ろうぜ」

「あっ、は、はい!」

 

 放課後。

 

 中条にあれだけ言われてすぐに行動しなかったら俺はとんでもないクソ野郎になり下がるから、早速一緒に帰ろうと彩芽のクラスに行けば、めちゃくちゃそのことを意識してそうな彩芽が椅子を倒しながら立ち上がって、周りにぺこぺこ頭を下げながら俺の前に立った。

 

「で、ではいきましょう」

「畏まりすぎだろ」

「うっさい」

 

 可愛らしくパンチされ、それを受け止めた俺はそのまま手を引いて下駄箱へと向かう。「えっ、わっ……」と慌てながら、周りを気にしてきょろきょろしている彩芽がめちゃくちゃ可愛い。

 

「しゅ、修也。ここ、学校だよ……?」

「それマジで天然で言ってんの?」

「?」

 

 体育倉庫で暴走した俺に対して言うみたいなトーンで言ってくんじゃねぇよ。いいか? 俺、彩芽の誘惑に耐え続けてまだその色々が溜まったまんまなんだからな? 

 いや、流石にこれは俺が変なこと考えすぎだ。俺の思考が思春期すぎた。彩芽はただ『学校だから、手つなぐの恥ずかしい』って言っただけなのに。それを言ったら彩芽は俺の膝の上に座ってたりしてたし、文化祭じゃみんなの前でぎゅってしたりしたけど、あれは魔法のせいだからノーカンだ。

 

 靴を履き替えて校舎を出る。靴を履き替える時に離した手はそのままで、さっきは俺を諫めてたくせに俺の手をちらちら見ている彩芽に思わず笑ってしまう。ほんと可愛いなこいつ。

 

「彩芽、ここ学校だぞ?」

「知ってるもん!」

 

 彩芽、憤慨。ちょっとからかったらご立腹で、俺を置いてずんずん歩いて行ってしまった。かと思えば立ち止まって、「早く!」と俺を呼ぶ。

 

「ほんと可愛いな」

「ここ学校ですけど!」

「知ってるもん!」

「……私をいじめて楽しいですか」

「めっちゃ可愛いから楽しい。でもごめんな? 嫌だったよな」

「別に、ヤじゃないですけど」

「ご立腹じゃん」

 

 やりすぎた。彩芽がツンってしてる。別に俺たちがイチャイチャしたところで、もう周りからは「あぁ、またあいつらか」って思われるから手遅れなのに。

 でも、だからこそそういう目で見られたくないから、周りの目があるときにイチャイチャしたくないって思うのかもしれない。

 

「彩芽ー」

「なに?」

「好きだ」

「……?」

 

 だから、校門を抜けて周りに人がいなくなったタイミングで言ってみた。あまりにもいきなりだったからか、彩芽はぴたりと固まって、ゆっくり首を傾げる。

 

「彩芽?」

「……?」

「彩芽ー」

「……もっかい言って」

 

 きゅっと俺の手を握って、潤んだ目で俺を見る。

 

「好きだ」

「……ほんとに?」

「ほんとに」

「ぜったい?」

「絶対」

「好き?」

「好き」

 

 不安を埋めるように、確かめるように何度も聞いてくる。一言一言を噛みしめる度、彩芽の頬が緩んで、じわじわと目に涙が浮かんでくる。

 

「結菜より?」

「結菜より」

「かおりより?」

「中条より。つか俺が好きなのは彩芽だけだ」

「ふふ、そっか。そっか」

 

 私もね、修也が好き。そう言って抱き着いてくる彩芽をぎゅってすると、いつもみたいに頭をすりすりしてきた。

 

「彩芽、こっち向いて」

「やだ。今の私ぶす」

「彩芽がブスなわけねぇだろ」

「ふん。修也は私が大好きだからそう思うだけだもん」

「だからこっち向いてほしいんだよ。大好きな彩芽の顔が見たいんだ」

「それずるい」

 

 俺の胸から顔を離して、俺を見てくれる。涙は頬を伝っていて、なんかもうめちゃくちゃに抱きしめて可愛がりたくなる。二日連続で女の子泣かしてるなぁっていう余計な感情はしまい込んで、指で涙をそっと拭う。俺の指が頬に触れた瞬間、びくっとして彩芽が目を閉じた。

 

 そのまま。

 

「……」

「……」

「……今、した?」

「した」

「……」

「……」

「もういっか、んむっ」

 

 彩芽の言葉を遮って、数秒後に顔を離す。彩芽の顔は真っ赤になっていて、可愛いなと思いながら、きっと俺も似たような顔になってるんだろうなと思うと笑えてきた。

 

「彩芽」

「……なに」

「俺を彼氏にしてくれますか?」

「からかってる!!!!! するけど!!!!!!」

 

 めちゃくちゃ怒った彩芽にめちゃくちゃ殴られた。

 

 彩芽と出会って、十数年。そのうちの数年間は、お互い嫌い合っていた。

 

 そんな俺たちを見た父さんに、『ぎゅってしないと好きになる魔法』なんていう頭の悪い魔法をかけられて、でもそのおかげで関係は段々変わっていって。

 

 嫌いから好き、嫌いな幼馴染から大好きな幼馴染。そりゃあ文句言いたくなるようなこともたくさんあった。もしかしたら文句しか出てこないかもしれないし、実際に文句ばっか言っていた記憶がある。

 

 それでも、隣に彩芽がいる今を思えば。

 

 ちょっとは、『ぎゅってしないと好きになる魔法』にかかってよかったって思ってもいいか。

 




21:01、エピローグ更新です
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