姉ちゃんから「ジジイみたいでウケる」と言われた日課の散歩を彩芽と終えて家に帰ると、父さんが我が舞坂家のリビングにいた。
「おう、おかえり」
「ただいま」
「お義父さん。なんでいるんですか」
「まぁ座れ」
もう親に反抗する歳でもないからと、俺は彩芽と横並びで座った。父さんの隣に座ったら彩芽の顔を正面から見ることになるからできればそうしたいけど、そうしたら彩芽は「修也の近くにいたいのに」って拗ねるから、隣がいい。それに、正面からじゃなくてもどこから見ても彩芽は可愛いからな。
彩芽は俺が隣に座った瞬間にそっと席を近づけ、それに微笑ましくなった俺も彩芽に席を近づける。その様子にため息を吐いたのは、俺たちの正面にいる父さんだった。
「早く座れ」
「座ってんだろうが」
「あぁ、イチャイチャしすぎてて座ってないのかと思った」
「お義父さん。じゃれ合いはいいから本題」
「マジで可愛いな彩芽。もしかして俺と父さんのじゃれ合い見て嫉妬した?」
「毎日修也とイチャイチャしてるから、そんなことで嫉妬しないもん」
勝ち誇った表情で笑う彩芽。いつもからかってくる俺に勝ちたいのが透けて見える。そういうところも可愛くてにこにこしていると、「なに」と言って不満な様子。
「いや、可愛いなぁって」
「そろそろ可愛いって言葉のありがたみがなくなってくるんですけどー?」
「結婚してんのにまだありがたみあったのか。ありがとな」
「なっ、だ、だって、嬉しいから……」
「待てお前ら」
「なんだよ父さん。そもそも俺たちが父さんと関わったらろくなことがねぇからって避けてんの知ってるだろ? なに勝手に家あがってんだよ」
「俺実は魔法使いなんだ」
「逃げよう修也!」
「おう!」
いつか聞いたような流れに嫌な予感がした俺たちは、立ち上がってリビングから出ようとする。しかし、目の前に藍色の薄い壁が現れて、押しても殴ってもびくともしない。
父さんはそんな俺たちの様子を見て不敵に笑い、立ち上がって、両手でハートを作りながら近づいてきた。
「待て父さん! 今度は何の魔法使う気だ!」
「俺は早く孫の顔が見たいんだ!」
「それは俺たちのペースでいいだろ!?」
「安心しろ。今からかけようとしているのは『夜、裸になってぎゅってしないと、夜、裸になってぎゅってしたくなる魔法』だ。強制力はない」
「強制力しかねぇじゃねぇか!!」
どうあがいても夜、裸になってぎゅってすることになんだろそれ! 確かに結婚して二年経って、子どもができても暮らしていけるような稼ぎはあるけど、それはそれとして「もうちょっと二人でいたいね」って可愛いこと言ってんだから!
「父さん、その魔法使ったらマジで縁切るからな!」
「ね、ねぇ、修也」
「大丈夫だ彩芽。あの邪知暴虐な野郎は俺がぶっ飛ばしてやる」
くい、と俺の服の裾を引っ張る彩芽を安心させようと、彩芽を見る。
なんか期待した顔してた。
「あ、彩芽?」
「え、えっとね。その、ふ、二人でいたいっていうのは嘘じゃないけど……ま、魔法、いいかなーって、思ったり」
「……あれ? 俺魔法に寝取られた?」
「ちっ、違う! その、そういう魔法って盛り上がれそうですごそうだとか思ってなくて!」
「言わなくていい言わなくていい! 落ち着け彩芽! 子どもがほしいなら魔法の力借りずにゆっくり二人で頑張ろう!」
「どっっっっっっっきゅん!!!!」
「何してんだテメェ!!!!」
訪れたのは、慣れたくなかった「あ、魔法かかったな」っていうあの感覚。ただ今回のこれははっきり違和感として現れて、体が熱くなって、思わず彩芽を見たら、ドストレートに言うとムラついた。
「しまった!! ミスって『ぎゅってしないとお互いに対してだけ死ぬほどムラつく魔法』をかけてしまった!!」
「まぁいいや。俺魔法解けるし」
「ちなみに、その魔法はプロテクトをかけている。魔法を無理やり解こうとすると、死ぬ」
「死ぬ!?」
「それじゃ、アデュー」
「二度とくんじゃねぇクソ親父!!」
足元に魔法陣を展開し、一瞬で姿を消した父さんに中指を立てる。なんにも変わってねぇなあのクソ親父!!
クソ、すぐにプロテクトごと取っ払う解呪方法を研究しねぇと……! なんだよ無理やり解こうとすると死ぬって。それが息子夫婦にかけるような魔法か? マジでイカレてんじゃねぇかあいつ。
「しゅ、修也」
「ん? どうした、彩芽」
「えっと……」
する? 期待に満ちた目で首を傾げて聞いてくる彩芽に、俺はまんまと魔法にしてやられた。
これは、頭のおかしい魔法使いの父さんにかけられた魔法によって勃発した、『お前は魔法のおかげで生まれてきたんだよ』と将来できる子どもに伝えたくない俺が、『修也、我慢できない』と魔法を利用して俺を積極的に誘惑してくる彩芽と戦う奮闘記録である。
というわけで、完結です。
今回のテーマは『メインヒロインを目立たせる』一点のみ。前作はあまりにもギャグを書くのが楽しすぎたのと、ラブコメのラブの部分を書くとすぐに話終わるな、と思ってできなかったことです。
なので、本作は『ラブコメのラブの部分でギャグをする』ために生まれました。それが『ぎゅってしないと好きになる魔法』です。バカみたいな魔法を主軸にすることによって、ラブコメのラブの部分でギャグができたんじゃないかな、と思っています。
ただ、ラブコメのラブの部分に弱すぎて、とにかくヒロインが可愛く見えるようにだけ書きました。ちゃんと可愛く見えていたのなら幸いです。
失敗したなぁと思ったのは、ギャグをしようとしすぎたあまり不快感を与えてしまったこと。これは非常に申し訳ございません。勉強になりました。基本頭が空っぽな状態で書いているので、私の人間性が問題だと認識しています。人間として成長し、次作に生かしたいと思っています。
私が書く作品で目指しているのは、笑っていただくこと。だからこそ、ラブコメを書いたら、ラブを書いた反動で強いコメディを書きたくなる悪癖があります。ちなみに私が本作で一番お気に入りの話は『第32話 ハイパーブラックすごろく』です。忘れもしません。お風呂に入って髪を洗っている時に、「あれ? 罰ゲームがあるすごろくって面白くね?」と思いついて、その勢いのまま書きました。最初に思いついたのは『ヌタート』でした。天才かと思いました。
ただ、私の感性はズレていることが証明されているので、面倒でなければ、どういうお話がみなさまに好評なのか後学のために知りたいので、教えていただければなんて厚かましいことを思っていたりします。
色々書きましたが、現代/恋愛は嘘をついていないのかなと思っています。ここまで読んでくださって、笑っていただけて、キュンってしていただけたのなら、少なくとも成功ではあると信じています。
それでは、あとがきは以上とさせていただきます。今後はまた現代/恋愛を書くか、何か書くとしても多分ギャグ書いてると思います。
最後に。ここまで読んでいただいてありがとうございました。少しでも笑っていただけたなら嬉しいです。声を出して笑っていただけたならもっと嬉しいです。爆笑していただけたなら最高です。
本作イメージ曲:reunion(ClariS)