【本編完結】ぎゅってしないと好きになる魔法   作:酉柄レイム

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第7話 正直なところ

 月曜日。

 

「おはよう中条」

「おはよー。あれ、あの二人は?」

「傷が癒えないらしい」

「あぁ……」

 

 というわけで、廻と拓斗は今日休みになった。

 

 鬱陶しかった梅雨の時期は過ぎ去って、本格的な夏が近づいてきている。地球温暖化の影響か、既にクーラーが必要になるほど暑くなっていて、制服も結構前からほぼ全員が夏服になっていた。いつもなら「隙が増えるからええよな、夏は」「いいや、隠れていることに意味があるのさ。だから冬が一番いい」と言い争うバカがいないから平和でいい。

 

 校門前でばったり中条と会って、『二人の傷が癒えないこと』に対してお互い深堀せず、並んで教室へ向かう。あれを思い出したいやつなんて、あれを見て笑えていた姉ちゃんくらいだろう。

 

「そういや勉強あんまり見てやれなくて悪かったな」

「いいよ別に。勉強は口実だし」

「ん?」

 

 上履きに履き替えながら謝ると、気になる一言。口実? 勉強を口実に俺の家へくるってことは、まさか!

 

「舞坂が彩芽と付き合ってる、それかそれに近しい関係なんじゃないかって思って」

 

 あ、そっちか。そっちね。まぁ何も残念じゃないけど。ふーん。

 

 っていうことは、彩芽が何かボロを出したんだろう。同じく俺も。昨日はぎゅってしたから、今は好きっていう気持ちがマシだ。よかった、中条がこの話をするのがこのタイミングで。

 あ、昨日ぎゅってしたって言えば、なんだかんだ土曜もタイミング逃してぎゅってできなかったからそれはもう彩芽可愛かったなぁ。あれ? 何もマシになってなくね?

 

「どしたん舞坂。急に黙り込んで」

「あぁ悪い、カッコよくて」

「それはいいけど」

「おい冗談で言ったんだから肯定すんなよ。男ってのは簡単な生き物なんだぞ? すぐ勘違いするんだぞ?」

「舞坂には彩芽がいるからしないっしょ」

「いや、付き合ってねぇって」

 

 あと、いくら心に決めた人がいても他の女の子から思わせぶりなことを言われればいくらだって勘違いする男はいる。男ってのは『モテている自分』が好きなやつが多いからな。まったく、男の風上にも置けねぇぜ。男たるもの、心に決めた人一筋だろ。俺にそんな人が現れたことはないけど。

 

 疑いの目を向けてくる中条から目を逸らして、中条を先に上がらせて縦に並んで階段を上がる。すると、中条が振り向いて首を傾げた。

 

「なんで後ろ?」

「スカート短くしてるだろ」

「何? 覗こうとしてんの?」

「ちげぇよ。壁になってやってんだろうが」

「へー。建前?」

「正直に言うとちょっと建前。でもさっきのがほぼ本心」

「正直じゃん。許す」

 

 よかった、俺が正直で。あと中条がいいやつで。いや、本心だぞ本当に。中条見た目いいから、警戒しすぎなくらいでちょうどいい。それに、彩芽の友だちならそれだけで守る理由になるしな。は!? なんで俺が彩芽の友だち守らなきゃいけねぇんだよ!!

 あぶねぇ。危うく俺が彩芽のこと嫌いだっていうのを忘れるところだった。マジでこの魔法解けてくんねぇかな。最近嫌いが好きに塗り替えられてる気がする。本当に気のせいであってほしい。

 

「でもそっかー。付き合ってないかー」

「でも勘違いするのも無理ねぇよ。前までなら彩芽うちにきてなかっただろうし、なんかあったって思う方が自然だろ」

「じゃあ何があったん?」

「それを言ったら俺は死ぬ」

「何その嘘」

 

 それが嘘じゃねぇんだよ。口外したら死ぬんだよ。俺も嘘だと思いてぇよ。

 

 ……中条がそうやって思うってことは、クラスに勘づかれるのも時間の問題だな。俺はとあるバカ二人のせいで教室にいることは少ないけど、彩芽と中条がそういう話をしていたら、聞かせるつもりじゃなくても耳に入るだろうし。もしかしたら何人かは既に勘づいているかもしれない。

 それを避けるためには、彩芽に話しかけないようにしないと。あとは俺に話しかけないよう彩芽に言っておくか。ちょっと心苦しくもあるけど、そうしないと元に戻った時お互い苦しくなる。

 

「ちなみにさ」

「うん?」

「ずっと私たちについてきて、遠くから様子見てるあのかわいいの見ても、まだ付き合ってないって言える?」

 

 中条の指す方を見れば、彩芽がいた。いつからつけてきていたのか、彩芽がいた。俺たちにバレたことに気づくと、視線をあっちこっちへ投げてわたわたした後、一つ咳払いして何事もなかったかのように俺たちのところへ歩いてくる。

 

「おはよう。かおり、修也」

「おはよう」

「おはよ。何してたの?」

「ちっ、違うの! なんか修也がかおりと仲良さそうで気になったからとかじゃないの!」

「あぁなるほど。中条が俺に取られるんじゃないかって思ったってことか」

「そう!! それ!! まったく、かおりが可愛いからってデレデレしちゃってほんとだらしない。ま、まぁ? かおりを守ろうとして階段を先に上がらせてたのはポイント高いっていうか褒めてあげないこともないけど、で、でも! そんなことしたってかおりは靡かないし、かおりみたいないい子に修也はもったいないんだから諦めた方がいいよ!」

 

 中条が笑いながら俺を見てきた。いや、まぁ。こんなのと毎日喋ってたらそりゃ勘づくわな。わかりやすすぎる。目は口程に物を言うとはよく言うけど、目でも口でも物を言うのは彩芽くらいだろ。

 中条が彩芽を撫でながら「私もこんな珍獣ハンターはごめんだから、大丈夫だよ」と安心させ……おい待て、誰が珍獣ハンターだコラ。心当たりしかなくてもそれを受け入れるかどうかは別の話だからな?

 

「うーん、見れば見るほど付き合ってるように見えるんだけど」

「またまたー! かおり、疲れてるんじゃない? ほら、ぎゅってしてあげるからおいで!」

「なんで舞坂の方向いてんの?」

「しまった!!!!!!」

「お前ほんと何やってんの?」

 

 あのクソみてぇな魔法にかけられてからほぼ毎日ぎゅってしてたから、癖がついていたんだろう。それはわかる。それはわかるけど、なんでこのタイミングでやらかしちゃうかなぁ……。やらかすのは百歩譲っていいとしても、「しまった!!!!!!」はねぇだろ。「えへへ、冗談冗談」って言えばまだ誤魔化せたのに。

 まぁ、仕方ねぇ。ここは俺がフォローするしかないだろ。癪だが俺と彩芽は一蓮托生みたいなもんだ。どっちかがミスをしたらどっちかがカバーする。

 

「俺と仲良くするところを見せて、中条を嫉妬させようとしたんだろ? 相変わらずくだらねぇこと考えてんな」

「そんなつもりなかったけど」

「マジでバカじゃねぇのお前」

 

 ちょっと遅れて「あ、そういうことか!」みたいな顔してんじゃねぇよ俺のフォロー無駄にしやがって。「ま、まぁ、そうだけどね? どう? 嫉妬した?」って中条にすり寄りやがって。中条が俺を見て「何が正解?」って目で問いかけてきてんじゃねぇか。

 マズいな、最近彩芽の知能の低下が著しい。成績的な意味じゃなくて、普段のポンコツな言動が目立ってきている。あのクソみてぇな魔法の弊害じゃねぇのか? そろそろ本気で父さんに魔法解いてくれってお願いするべきか……?

 

「……なんかよくわかんないけど、これ以上突かない方がいい感じ?」

「そうしてくれると助かる」

「おっけ。今度甘いもの奢ってね」

「あー! デートの約束でしょそれ! 私も行く!」

「何をとは聞かないけど、隠す気あんのこの子」

「これが恐ろしいことに、隠す気はあるんだよ」

 

 中条に撫でられながら大量に『?』を浮かべている彩芽に深くため息を吐こうとして、目の前でため息を吐かれたらうぜぇかとぐっと堪えた。いや、彩芽に気を遣ったわけじゃなくてもちろん中条に気を遣ったんですけどね?

 

 

 

 

 

「おじさんに直談判?」

「そろそろなんとかしねぇとだろ。いつまでもこの状態ってわけにもいかねぇし」

 

 あいつらがいないからちょうどいいと思い、空き教室に彩芽を引っ張ってきてこれからのことについて話す。話題はもちろん、忌々しい魔法のこと。

 

 ぎゅってしないと好きになる魔法。父さんが言っていた頭の悪いそれの効果は絶大で、一日空けばかなり好きになってしまうとんでもない代物。ぎゅってすればリセットされるかと思いきや、彩芽を見る限りどうも日が経つにつれてリセットの効果も薄れてきているように見える。かくいう俺も、魔法をかけられる前と今とではリセットされてからすぐでも彩芽に対する嫌悪感は薄れている。

 

「確かに。かおりもそろそろ勘づいてもおかしくなさそうだし」

「もう勘づいてんだよ。親友のことちゃんと見てやれよ」

 

 中条はまだいい。問題は廻と拓斗で、あいつらに勘づかれでもしたらすぐさま俺の命はなくなる。クソ、それもこれも彩芽が可愛いから……! あとあいつらが死ぬほどモテねぇから……!

 

「正直さ、ぎゅってしても前みたいに大嫌いみたいな感情はないんだよ、俺」

「……それは、私も」

「だから、父さんが言ってたことはもうクリアしてると思わねぇか?」

「昔みたいに仲良くしてるところが見たい、っていうの?」

「そう。すぐに仲良くは無理でも、前みたいに嫌い合うことはもうないだろ」

 

 父さんは昔みたいに仲良くしてほしいって言ってただけで、付き合ってほしいなんて一言も言っていない。だったら、もう解いてくれていいはずだ。俺は魔法がなくても彩芽と普通に会話できる自信がある。よく考えたら、意地で嫌い合ってただけで別に悪い奴じゃないしな。

 

「父さんだけ家にいるとき狙ってみる。日にち決まったらまた連絡するわ」

「おじさん、解いてくれるかなぁ」

「……いきなり変な魔法かけてくるくらいだから、あんまり期待はできねぇな」

 

 だよねぇ、と彩芽と二人でため息を吐く。そうしてから、彩芽は誰もいないのにきょろきょろと周りを見て腕を広げた。

 

「ん」

「軽率に可愛いのやめろよ。もっと好きになっちゃうだろうが」

「そ、それならリセットすればいいでしょ」

 

 それもそうかと納得して、彩芽を抱き寄せた。うん、やっぱり好きっていう気持ちは薄れても、前みたいに嫌悪感が湧き上がることはない。むしろ、嫌悪感が湧き上がることがなくなって、別の変な気持ちが湧き上がってきそうだった。いや、別に、こいつも女の子なんだなぁって思う程度ですけどね?

 

「どうしたの?」

「……いや、なんでも」

 

 真下から見上げてくる彩芽から誤魔化すように目を逸らす。

 

「……」

「……」

 

 そこに、いた。ドアの隙間から俺たちをじっと見つめている中条と目が合った。俺と目が合った中条の手にはスマホが握られていて、俺の勘違いじゃなければレンズが俺たちに向けられているような気がする。

 

「……中条、違うんだ、これは」

「え!? かおり!?」

「うわ、無視しなよ。雰囲気台無しじゃん」

 

 俺が声をかければ、中条は録画の停止音とともに中に入ってくる。おいお前、やっぱり撮ってやがったな? 何ちゃっかり証拠収めてんだお前。

 中条の登場に驚いた彩芽は俺から離れ、どうやって言い訳をしようかわたわたしている。腕をばたつかせながら「あ、う」と音を漏らすだけのマシーンと化した彩芽に代わって、この場を切り抜けるために言い訳でもしてやるか。

 

「中条。さっきのは抱き合ってたんじゃなくて、絞め殺そうとしてたんだ」

「ヤバ。カップルじゃなくて殺人未遂の現場撮っちゃった」

 

 どうやら俺もかなり気が動転していたらしい。「でもすっごく優しく抱き合ってるけど」と証拠映像を見せられた俺たちはすべてを諦めて無言で頭を下げれば、中条がにやにやしながら彩芽を撫でる。

 

「安心しなって。言いふらすつもりもないし、これで私の前では隠さなくてよくなったじゃん? ならむしろラッキーっしょ」

「彩芽。お前はなんていい親友を持ったんだ」

「へへ、でしょ!」

「なんで俺の友だちはあんなのなんだ?」

 

 彩芽と中条が目を逸らした。おい、なんとか言えよ。

 

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