【本編完結】ぎゅってしないと好きになる魔法   作:酉柄レイム

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第8話 直談判

 父さんに直談判すると決めてから、そう都合よく父さんだけが家にいる状況は訪れず、二週間経った今日。やっと母さんと姉ちゃんが家を出て、父さんが一人になった。

 家族の予定は既に把握しており、今日父さんが一人になることも彩芽に伝えている。なんかこうやって言うと父さんを殺害する計画でも立てているように聞こえるけどそんなことはまったくない。いくら魔法を解くための方法の一つだとしても、流石に手を汚したくない。

 

 彩芽に『父さんが一人になった』と送ると、『今から向かうね』と返ってきた。あとやることと言えば、父さんが出て行かないように相手をすること。

 

 リビングに向かい、座禅を組んでいる父さんの正面に座る。父さんは俺が座るとゆっくりと目を開く。

 

「修也。どうしたんだ? せっかくの休みなんだから彩芽ちゃんと仲良く出かけたらどうだ」

「彩芽はもうすぐうちにくる」

「何っ!? 早く言えそういうことは! 父さんは息子の恋愛は邪魔しないと決めているんだ! ちなみに、娘の恋愛は大いに邪魔する」

「頼むから姉ちゃんを自由にしてやってくれ」

 

 姉ちゃん美人なのに浮いた話一つも聞かないのはそういうことに興味がないか、うまく隠してるかのどっちかだと思ってたらこのおっさんのせいか。どうせクソみてぇな魔法で姉ちゃんに近づく男を蹴散らしてたんだろ。どう考えても姉ちゃんが可哀そうだ。こんなわけのわからない親父の手によって行き遅れるなんて。

 

「つか、別に逢引しようってわけじゃねぇよ。父さんに話があるんだ」

「えー! 父さん嬉しい! 二人が一緒になって俺に話があるなんて!」

「テンション上げるな気持ちワリィ」

「これが喜ばずにいられるか。あれだけ嫌い合っていたのに、今じゃ休日に会う約束をしているなんて」

 

 父さんは純粋に喜んでいるように見える。元々俺と彩芽を昔みたいに仲良くさせることが目的だったからそりゃそうなんだろうけど、てっきり「父さんは邪魔者だから、風呂を沸かしてゴムを置いて外出してくる」くらい言うと思ってたのに。そんなクソウザいことは言わず、スキップしながらお茶菓子を用意している。

 

「彩芽ちゃんはいつくるんだ?」

「さっき連絡送ったところ。でもおせぇな、家近いのに。道草でも食ってんのか?」

「おいおい。虫じゃあるまいし」

「植物としての道草の話してねぇんだよ」

 

 くだらないボケかと思いきや、父さんは首を傾げた。その年でその知識……。

 

 俺が父さんの知能に絶望していると、チャイムが鳴った。「父さんはここで待っておくから、迎えに行ってあげなさい」と言う父さんになんとなくムカついて舌打ちを一つかましてから、玄関に行ってドアを開けた。

 

「よっ」

「おう」

 

 軽く手を挙げる挨拶に同じように返して、彩芽を中に入れる。律儀に靴を揃える彩芽を待って、言葉を交わすことなくリビングへ向かった。

 

 リビングに入ると、当然だけど父さんがいた。微笑んで「いらっしゃい」と快く迎え入れた父さんは、クソみたいな魔法をかけたやつと同一人物とは思えない。もしかして今更地に落ちた評価を取り戻そうとしてるのか? 無理だろ。思春期にかける魔法としては最悪なものかけたんだから。

 

「おじゃまします、おじさん」

「おじゃましますなんてやめてくれ。ただいま、パパと言ってくれればそれだけでいい」

「それだけでいいっていうレベルの要求じゃねぇよ」

「わかった。パパと言ってくれればそれでいい」

「彩芽。パパはハードルが高いだろうからバカって呼んでやれ」

「そ、そんな呼び方できないよ! 一応大人の人なんだから」

「彩芽ちゃんは礼儀正しいなぁ」

「一応ってつけられてたのが聞こえなかったか?」

 

 彩芽と並んで父さんの正面に腰を下ろす。目の前にいる父さんは本当に嬉しそうで、ニコニコしながらデパ地下で買ったクッキーの詰め合わせを丸ごと彩芽に差し出していた。大量のクッキーに「もらえません!」と彩芽が慌てている間に、父さんは指を鳴らし、キッチンへ行って冷蔵庫からジュースを取り出し、人数分のグラスを持ってくる。魔法使うんじゃねぇのかよなんで指鳴らしたんだ今。

 

「特別上等なお菓子ってわけでもないが、遠慮せず食べてくれ。お菓子のカスは後で修也に吸い込ませる」

「俺のこと掃除機だと思ってんのか?」

「何言ってるんだ。そんなわけないだろ?」

「そんなわけないのはわかってんだよ」

「それに、カスなんてこぼしません! ちゃんと綺麗に食べられますから」

 

 ふん、と意気込んでクッキーの包装を開ければ、既にその時点でカスがテーブルにこぼれた。彩芽はそれを見て数秒固まると、指で掬って俺に差し出してくる。

 

「ん」

「舐めてんのかテメェ」

「舐めるのは修也だろ?」

 

 父さんの戯言は無視してティッシュを取り、彩芽の指に付いたカスを拭きとって丸めて父さんに投げつける。それを口で受け止めて、数回咀嚼した後飲み込んだ。なんだ、俺の父さんは化け物だったか。

 

「それで、話があるんじゃなかったか?」

「あぁ。父さんに話を促されんのはかなり癪だけど、俺たちにかけた魔法あるだろ?」

「ぎゅってしないと好きになる魔法か。それがどうかしたか?」

「どうかしかしねぇだろうが」

「というか、どうかするためにかけたんじゃないですか」

 

 ぶつけたはずの不満と怒りはジュースを注ぐ父さんには聞こえていなかったらしい。父さんから話があるんじゃなかったかって聞いておいて無視してんじゃねぇぞ。

 俺と彩芽にオレンジジュースを入れ、自分のコップにはオレンジジュースとリンゴジュースとぶどうジュースを混ぜて入れている。家で色んなジュース混ぜるやつ聞いたことねぇよ。そういうのってドリンクバーでやるんじゃねぇの?

 

「そろそろ解いてくれよ。魔法が解けたとしても、前みたいに嫌い合うなんてことねぇからさ」

「お願いします、おじさん。なんか、その、色々苦しいです」

「でも今解いちゃうと面白くないからなぁ」

「このクソ野郎! いいからとっととこのクソ魔法解けつってんだよ!」

「おい、俺は韻を踏むのを許した覚えはないぞ」

「踏んだつもりもねぇし許されねぇ意味もわかんねぇよ」

 

 面白くないとか言いやがったか? このクソ親父。人の気持ちをなんだと思ってんだ。そりゃ傍から見たら面白いかもしれねぇよ。恋バナとか大好きだもんな、みんな。

 でも、俺たちは本当に好き合ってるわけじゃない。それなのに付き合ってるって思われて、それを否定し続けるのは正直めちゃくちゃ疲れる。だから、そうなる前に魔法を解いてもらいたい。

 

「いいだろ父さん。もう昔みたいに仲良くできるんだから」

「えー? じゃあちゅーとかもできるってことか」

「え?」

「だって昔やってただろ」

 

 彩芽を見る。同じタイミングで彩芽も俺を見ていたようで、目が合った。ちゅー。キス。なぜだか直近だと嫌な思い出しかないけど、確かに小さい頃、彩芽とキスした記憶がある。でもそれは子どもの遊びっていうか、そんな男女だとかそういうの意識していない頃のことだ。

 

「い、今と昔じゃ話が違うと思います!」

「なんでだ? 俺は『昔みたいに仲良くしてほしい』って言ったんだ。今と昔じゃ話が違う? 友情に今も昔もあるのか。ふっふっふっふっふっふっふっふっふっふ。『昔みたいに仲良く』できないなら、魔法を解いてやることはできないなぁ?」

「こんの屁理屈こねやがって!」

 

 マズい、父さんがかなり調子に乗ってる。昔みたいに彩芽とキスなんて、できるわけがない。だって、今俺たちにはぎゅってしないと好きになる魔法がかかってる。好意をリセットしたとしても、男女を意識するくらいには関係が修復されている。そんな状態でキスなんて、友情以上の意味を持つに決まってる。

 どうする。どうすれば父さんを納得させられるんだ? っていうかなんでこんなことしなきゃなんねぇんだ。マジで人の親なのかこのジジイは。

 

「……とはいえ、俺も鬼じゃない。わかってるさ。お前らくらいの年齢なら、キスすなわち超エッチだ」

「さいてーです」

「何を言うんだ彩芽ちゃん。キスは素晴らしい行為だぞ?」

「あんた自身に最低って言ったんだよ」

 

 くだらない勘違いを正してやれば、流石に娘のように可愛く思っている彩芽から『最低』だと言われたことはショックだったのか、しゅんとして縮こまってしまった。おい、俺の気持ち考えろ。息子の前で縮こまるのはいいとしても、彩芽がいるんだぞ。幼馴染に父親が縮こまってるところ見られるなんて最悪だろ。

 

 いや、大丈夫か。もうそれ以上に最悪なことされてるし。

 

「でもな、実際解けないんだよ」

「あ?」

「魔法を使うには魔力がいる。そして魔力は有限だ」

「え、もしかしてものすごく燃費が悪いとかですか……?」

「俺は気分が最高潮の時しか魔力が回復しないんだ」

「父さんなら大体最高潮だろ?」

「最近娘が冷たいから気分が落ち込んでいる」

 

 多分っていうか絶対父さんの自業自得だろ。

 

「あーあ! 雅がお父さんちゅき! って言ってくれたら、最高潮になるのになぁ!」

「どうしよう修也。修也にこの血が流れてるって思ったら、ちょっと嫌いになっちゃったかも」

「別に責めねぇよ。俺も成長したらこうなる可能性を感じて、自分のことが嫌いになってる」

 

 うまいこと母さんの血を強く受け継いでると思いたい。俺はここまで頭がおかしくないし、もし流れてるとしても反面教師にしてちゃんと育っているはずだ。

 ……つか、なんだ? 父さんの魔力を回復させるためには父さんの気分を最高潮にさせる必要があるってことか? よくそんな回復方法しかねぇのに自分のこと魔法使いだって言えたな。

 

「彩芽。それなら魔力が回復するのを待とう」

「だね。おじさん、魔力が回復したら解いてくださいね?」

「あぁ、約束しよう。俺は約束しか守らないんだ」

「父親ならもっと守るものあるだろうが」

 

 ……とりあえず、姉ちゃんにもうちょっと父さんと仲良くできないか聞いてみよう。どうせ無理だと思うけど。

 

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