丑三つ時。多くの者が眠る時間でありながら、雨の中を一人の男が歩いてた。その面持ちは重く表情はない。それは刀のような鋭い眼か、黒き面頬のせいか、はたまた…
赤い角をはやしており、それは見る者がいるならば大抵のものは恐れ慄いたことだろう。腰に下げた太刀を握り、雨の中をビチャビチャと音を立てながら歩く。稲妻が鳴り響くほどの大雨であるにも関わらず、鬼は笠の一つもしていなかった。ふと、泥まみれになった鬼の足が止まる。鬼の止まった場所は旅館であった。ここに鬼の獲物達がいるのである。宿の戸には「貸し切り 停泊お断り」と看板が立っていたが、鬼はそれを全く意に介さず、握っていた太刀の鯉口を切る。そして、もう一方の手で戸を壊れるほどの力で開けた。
「!?、曲者じゃ出会えでぁ…」
戸を開けた瞬間。神の目を持っていた男が仲間に聞こえるよう耳がつんざくように叫ぶ。しかし、男はその刹那斬られ、神の目の光を失う。男の声を聴いて急いで駆け付けた仲間たちが階段を下ってその鬼の姿を凝視する。
「貴様が鬼刀斎だな!」
「………」
そう叫んだのは誰だったか。その名を聞いた仲間の一人が仇を撃たんと神の目の力を鬼刀斎に向かって発動しようとしたが、
「ぐはっ」
其の者の腕は斬られ胴に深々と鬼刀斎の刀身が刺さる。そして、また一人神の目の光が失われる。
「…よくも我らの仲間を…許さん!」
次々と神の目の力を使って鬼刀斎に立ち向かう反逆者たちだったが、一人また一人と、多くの者が斬られ、倒れていく。やがて、その旅館には血と屍以外何も残っていなかった。この鬼刀斎をの退いて。
「……」
鬼刀斎は懐から紙を取り出し屍の上に投げる。そして納刀し。幕府の侍と入れ違いになるように宿を去っていく。血で染まりながら鬼刀斎が投げ捨てた紙にはこう書いてあった。
“天誅”
そして、鬼刀斎は雨が降る夜の帳の中を去っていく。稲妻の光にて白髪を照らしながら
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異界の旅人が現れるより幾年も前、稲妻の国にて将軍である雷神バアルが「鎖国」と「目狩り令」を出した。「鎖国」を受け入れる者は多く入れど己が信念たる「神の目」を剥奪されることには多くの者が反発した。かくして将軍に弓を引いた神の目持ち達だったが、たった一人の剣客にその多くが斬られてしまった。いかに稲妻幕府の侍や三大奉行たちとも引けを取らない実力者たちであれども、たった一匹の剣の鬼には勝てなかったのである。その剣客の名は「鬼刀斎」稲妻幕府に雇われた剣客であり、辻斬り。当時に政策により、
「……というのが、知る人ぞ知る鬼刀斎の説明じゃ。お主たち理解したか?」
八重堂の編主長にして、鳴神大社の宮司である八重神子が件の旅人にそう説明する。
「う-ん。わかったような?わからなかったような?旅人はわかったか?」
旅人の案内役兼非常食であるパイモンが旅人に尋ねる。
「うん。なんとなくわかったかな。でも、この事件の解決には繋がらなそうだね」
旅人と呼ばれた少女。蛍がそう答える。二人はある事件を追っていた。それは、稲妻城城下町にて神の目を持つものが次々と襲われるという事件であった。その調査を冒険者として依頼された蛍は物知りである八重神子に聞いたのである。そして、今に至る。
「そうだな~オイラたちが知っていることと言えば“天誅”って書かれた紙よ神の目持ちが狙われてるってことだけだもんな?」
「そうだねパイモン。まだ情報が少ないからこんどは影の所に行ってみようか」
まだ情報が少ないと今度は雷神バアルゼバブこと、雷電影に聞こうと稲妻城へと向かうのであった。
「いったか。さて、あやつらはあの男の謎を解けるかの?」
そう妖しく、されど艶めかしく笑うのであった。