名探偵ウララと一流助手キングヘイローの事件簿   作:菜目ルナ

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にゃーさん事件編1話 盗まれたにゃーさんの謎

「むむむ? 『にゃーさん』が無くなったの~?」

「はいぃ……私がドジなばっかりに……」

 グラウンドの脇で落ち込むドトウさんと、いつも通りのウララさん。

「ロッカーの奥にしまったはずなので、勝手に落ちることはないと思うんですぅ……」

「え、それじゃあ……!」

「はい……だ、誰かが盗んだのかもしれないって……」

 その言葉を聞いた瞬間、ウララさんの目は輝いた。

「キングちゃん! 事件だよ、事件!」

 張り切る彼女の前で、私はため息をついた。

 

 

―――

 

 

 事の始まりは、今朝のこと。

「キングちゃん! わたしね、名店タイ? をやりたい!」

 その言葉で私は目覚め、ベッドからむくりと起き上がった。目覚めたばかりに大きな声を出されたものだから、私も寝覚めが悪かった。

「いきなりなに? それを言うなら、『名探偵』でしょう」

「そうそう! それだよ! ウララもやってみたーい!」

 元気なウララさんの様子に、低血圧の私はげんなりした。

「なろうとしてなれるものじゃないわ。さっさと支度しなさいね」

「えー? でも、漫画みたいにビシっと犯人を当てたいよー!」

「わかったわ。今度の人狼ゲームは誘ってあげるから、早く行きましょう」

 ウララさんの言葉をあしらいながら、準備をし食堂へと向かった。授業が終われば、飽きっぽいウララさんのことだから、忘れてしまうと思っていた。

 

 しかし今朝だけで話は終わらず、放課後も同じ調子だった。

「やろうよキングちゃん! 事件が起こってないか、学園中をパトロールしよう!」

「パトロールは警察でしょう。そもそも、事件が起きなきゃ名探偵は必要ないのよ」

「えー? 事件がない時って、名探偵は何するのー?」

「普通に生活するだけよ。さ、用が無いなら部屋に戻りましょう」

「それじゃあつまんないよー! 名探偵やりたいなー! 事件起こらないかな~?」

 そんな教室でのやり取りを聞き、近づいてきた人がいた。

「す、すみません……も、もしかしたら私、事件にあってるかもしれないんですぅ……」

 

 

―――

 

 

 そうして、メイショウドトウさんの話を聞くことになり、今に至る。

「そ、その……迷惑だったら、大丈夫ですので……」

「えー! そんなことないよ! むしろやらせてよ! いいよね、キングちゃん!」

 私の気分を他所に、やる気マンマンのウララさん。こうなった時のウララさんは、飽きるまで止まらないのよね……。けど一日も経てば大抵飽きるから、今だけガマンしましょう。

「はあ……まあいいわ。話だけでも聞かせてちょうだい」

「は、はいぃ! 話しましゅ、話しますぅ~!」

 ドトウさんは焦りつつも、事件について話し始めた。

「私、先月からチームに入ったんです。そのチームの部屋にロッカーがあるんです。フクキタルさんからいただいた『初代にゃーさん』を、ロッカーの奥にしまってたんですが……そのにゃーさんが、昨日なくなってたんですぅぅぅぅ!!」

 ドトウさんは両手で顔を覆った。

 無くなったにゃーさん……フクキタルさんの勝負服の一部で、背中に担いでいる招き猫のこと。初代ということは、今の勝負服のにゃーさんは二代目ということなのかしら。

「大変だね! にゃーさんはどこに行っちゃったんだろう?」

 話を聞き終わり、首をかしげるウララさん。むむむ……と唸りながら止まってしまった。このままだと話が続きそうにない。私からも質問することにした。

「今の話だけだとわからないところが多いわ。まずロッカーって言ってたけど、カギはしてなかったのかしら?」

「最初はしてたんですけど、チームのみなさんはカギをしてなかったので、3日前から外しましたぁ……そのせいでこんなことに……」

「もう1ついい? それなら、泥棒が入って盗んでいったんじゃないかしら? ウマ娘の勝負服って、他所で売ったら高く売れそうだもの。警察に頼るべきじゃない?」

「あの、それが……その……」

 ドトウさんはうつむき、言い淀む。

「? どうかしたの?」

 

「その、私のチームの部室棟、出入口は1か所なのはご存知ですよね……?」

「ええ。そうね」

 ドトウさんのチームの部屋が割り当てられた部室棟は、大まかに言えば長方形に広がっていて、その真ん中に玄関があるT字型の建物。スペシャルウィークさん達の部室とは打って変わって、トレーナー寮とグラウンドを挟むような位置にある。見取り図はこんな感じね。

 

【挿絵表示】

 

「玄関のところで私、お話してたんです。タイキさんとフクキタルさんと一緒に。だから、部室棟を出入りした人がわかるんですぅ」

「なら、ドトウさんは犯人を見てるんじゃないの?」

「それが……」

 再び言い淀むドトウさん。一呼吸置いて、彼女は大声で言った。

 

「その間に出入りしたのは、お、同じチームの方だけなんですぅぅぅ!!」

 

「!? それって……」

 思わず息をのむ。絶対にそうとは限らないけれど、彼女の話が意味するのはつまり、チームメイトの誰かが犯人であるということ。

「? どうしたのキングちゃん?」

 ウララさんはピンと来てない様子。

「ドトウさん。あなたが玄関で話していた時間は?」

「えっと、昨日の3時頃からですぅ。トレーニングを早めに終えて、着替えた後にタイキさん達と会ったんです。それから長話になってしまって、1時間ほど……」

「じゃあ3時まで、にゃーさんはあったのね?」

「はい。ロッカーにありました。話を終えた後に、忘れ物を取ろうとしてロッカーを開けたら、奥のにゃーさんが無くなっていて……」

 ようやく状況が見えてきたわ。

 昨日の3時。トレーニング後、ドトウさんは部室を出て玄関へ行く。そこでタイキさん達と1時間おしゃべりする。その間、部室棟を出入りしていたのはチームメイトだけ。4時、部室にもう一度戻ると、にゃーさんは無くなっていた。

「えっと、つまり……」

 ウララさんは首をかしげたまま。まだよくわかってないみたい。

「ウララさん。これは窃盗事件、泥棒よ。ドトウさんのチームメイトがやったの」

「おおーっ!」

 私の言葉を聞いて、ウララさんの目が輝く。

「そういうの『よーぎしゃ』って言うんだよね? よーし、犯人をがんばって探すぞー!!」

 すっかり事件を解決するつもりでいるらしい。

 

 しかし、それは私も同じだった。

 

「ドトウさん、犯人は必ず探し出すわ。一流の名に懸けて、絶対に捕まえてやるんだから!」

 

 

 

「おや、ドトウさんにウララさん! 何を話しているんです?」

 ふと、聞き覚えのある声がする。フクキタルさんだ。

「あっ! フクちゃん! 今ね、うらら達は名探偵なんだよ!」

「ほほう? 何か事件が起こったのですか? それなら、神社で神のお告げを……」

 2人が話している間、私は嫌なことに気づいた。

「ドトウさん。にゃーさんが無くなったこと、フクキタルさんは知ってるの?」

 私はドトウさんに近づき、耳打ちする。

「あっ! ま、まだにゃーさんのことは伝えてなくて……」

「なっ!? にゃーさんがどうされたんですか!?」

「ひぇぇぇぇっ!?」

 ドトウさんが普段の音量で話したため、フクキタルさんにバレてしまった。

「ちちち、違います! にゃーさんが無くなったわけじゃなくて、えっと……!」

「むむ!? 私が差し上げた、あの『にゃーさん』が無くなったのですか!?!?」

「ひ、ひえええええ!? なんでそれを!?」

 震えあがるドトウさん。こうなったら、全部話すしかないわ。

「フクキタルさん、実はですね……」

 

 

 

「なんと! にゃーさんが盗まれたのですか!?」

「は、はいぃぃぃ! わた、私がカギをかけないせいで、すみませぇぇぇぇん!」

 事情を話し終わり、平謝りするドトウさん。

「謝ることはないですよ、ドトウさん。悪いのは盗んだ人ですから。ドトウさんは悪くありません!」

 一方、フクキタルさんは真剣な表情で聞いていたけど、落ち込んではいなかった。気になっていること、聞いても問題なさそうね。

「フクキタルさんは、どうして初代にゃーさんをプレゼントしたんですか?」

 思い切って聞いてみると、フクキタルさんは話し始める。

「先月、ドトウさんは落ち込み気味だったのです。毎日、どこかで泣いているように見えまして。それで、励みになればと思って、私が最初使っていた初代にゃーさんをプレゼントしたのです。汚れてはいますが、割れたりはしていなかったので」

「はいぃ……その、にゃーさんをフクキタルさんだと思って、大事にロッカーにしまってましたぁ。そうすれば、フクキタルさんが一緒にいる気がして、部室にいるのがつらくなくなったんですぅぅ……!」

 ドトウさんが笑顔になる。彼女がチームに馴染むためには、大切な物だったのね。

「それに、トレーナーさんに部屋の開運グッズとかを処分しろと言われていたので、一石二鳥でした!」

 ……今の発言で台無しよ、フクキタルさん。

「そんなにゃーさんを盗むなんて、シラオキ様も許しませんよ!必ず犯人は見つけてみせます! このこっくりさんが!!」

 フクキタルさんは5円玉と紙を取り出した。先輩相手だけれど、ため息が出てしまった。

「ただ犯人を見つけるだけじゃダメです。平然と他人の物を盗むような相手ですから、決定的な証拠がないと、にゃーさんは帰ってきません」

 そう。相手は犯罪者。それも同じチームメイトの物を盗むような人。そんな人が、あっさりと自分の罪を認めるわけがない。やるなら徹底的にやる。絶対、追い込んでみせる!

「うんうん! 犯人をズバーッと当てて、にゃーさんを取り返すぞー!」

 ウララさんも張り切っている。ここからは、事件解決に向けて聞きたいことを聞いていくわ。

「ドトウさん、チームメイトについて知りたいわ。何人いるのかしら?」

「わ、私の他に4人いますぅ……エレニカノイジーさん、アカノステップさん、マイノーンさん、メリードライさんですぅ」

 チームメイトに関しては色んな話を聞けたので、要約してメモを取った。

「その4人が容疑者ね。それぞれ何時頃に出入りしていたのかしら?」

「えっと、アカノさんとマイノーンさんが最初に通りました。それから次にノイジーさんが入ってます。それから……」

 これも要約してメモに残した。

「わかったわ。あと、そのチームメイトは何か持って出ていったりしてないかしら?」

「えっと、バッグとかは誰も持ってませんでした」

「え!? 誰もバッグを持ってないの?」

「はい。普段から、皆さん授業後すぐに寮に戻って置いてくるんですぅ。ですが、着替えたジャージは持っていってました。にゃーさんは、誰も持っていなかったと思いますぅ。ただ……」

 ドトウさんが急に言い淀む。

「ドライさんのジャージは膨らんでいたように見えました。違うとは思うんですけど……にゃーさんくらいの大きさにも見えて、その……でもぉ……」

「大丈夫よ。それだけで犯人とは決めつけないわ」

 とは言ったものの、今のところ一番あやしい。ジャージの中身については、本人に聞く必要がありそうね。

「あと、フクキタルさん。初代にゃーさんの写真ありますか? どんなものか確認しておきたいので」

「ハイ、ありますよ! ……これです!」

 フクキタルさんがスマホの画面を見せてくる。見た目は今のにゃーさんと変わりない、普通の招き猫に見える。

「実は初代にゃーさんはガラスでできてるんですよ!」

「え、そうなんですか? てっきり陶器なのかと……」

「二代目にゃーさんはそうなのですが、最初は安上がりな方にしていたんです。しかし、レースの苛烈さを考えて、陶器で作り直すことになったんです」

 確かに、ガラスより陶器の方が頑丈そうよね。意外な情報だったけど、あまり事件には関わってこないでしょうね。

 ひとまず、ここまで聞けていればいいかしら。

「お、お役に立つでしょうか……?」

「ええ。色々と話してくれてありがとうございます。また聞きたいことがあれば来ますけど、後は私達に任せてください」

「上手くいくよう祈ってますよ! このマチカネ流、幸運の舞で!」

 なにやら踊り始めたフクキタルさんを横目に、私達は部室棟へと向かった。

 

「キングちゃん、やる気満々だね!」

「ええ。そうね」

 上機嫌なウララさんだったけど、私は笑う気分にはなれなかった。

「どうしてキングちゃんも名探偵やろうと思ったの? さっきまでやらなかったのに」

 笑顔で聞く彼女に対し、答えた私はしかめっ面をしていたでしょう。

 

「この犯人は、勝負服の何たるかをまるでわかってない無礼者よ」

 

 私が許せないのは、一部とはいえ勝負服を勝手に持ち去るその心。

 ウマ娘の勝負服が、どれだけの思いで作られた物か。私は痛いほど知っている。それを知っていれば、盗もうなんて思わない。ましてや、フクキタルさんの励ましが込められた、ドトウさんの心の拠り所だったのよ。勝負服を作った人、勝負服を着た人、贈られた人。どの人の思いもバカにする、最悪の所業。それを目の当たりにしておいて……。

 

「許すことなんてできないわ! 必ず犯人を見つけて、にゃーさんを取り返すのよ!!」

「おぉー!? 今日のキングちゃん、すっごく燃えてるね! 漫画の人みたい!」

 私の言葉を聞いてはしゃぐウララさん。このキングの怒り、彼女にも伝わったのかしら?

「じゃあ、キングちゃんは助手をお願いするね!」

「はぁ!? なんで私が助手なのよ! ウララさんの方が……」

「だって、わたしは探偵やりたいんだもん! いこーいこー!」

 そう言って、勝手に進んでいってしまう。思わずため息が出る。

「待ちなさい! 行くのはそっちじゃないわよ、ウララさん!」





 キングが取ったメモ


<チームメイト>
・エレニカノイジー
 長髪で灰色、長身 落ち着いていて優しい リーダー格
 ドトウさんが心を開きやすいようにと、パーティーを企画した

・アカノステップ
 赤のショートヘア 元気で活発 声が大きい 風紀委員
 
・マイノーン
 ウェーブのかかった髪 メガネをかけてる 気弱で優しい
 ドトウさんのことを心配していたらしい

・メリードライ
 左耳に花飾りをつけている 背丈が低くかわいらしい
 しかし、性格は怒りっぽく、他人に冷たい



<部屋にいた時間>
3:10~3:20 アカノステップ
3:10~3:35 マイノーン
3:20~3:40 エレニカノイジー
3:35~3:45 メリードライ
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