名探偵ウララと一流助手キングヘイローの事件簿   作:菜目ルナ

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バクシン穴事件編5話 開かれたオペラオー推理劇

「これより、世紀末推理王テイエムオペラオーによる華麗な推理劇をご覧に入れよう!」

 事件の関係者達と、生徒会の何人かが教室に集まった時。オペラオーさんは教壇に立ち、高らかに宣言した。皆はそれぞれ、教室の座席に座っていた。私とウララさんも、隣同士の席についていた。

「オペラオー。その推理が真実かどうかは、我々生徒会が吟味する。推理を外した時は、わかっているな?」

 彼女を鋭い目でにらむエアグルーヴ先輩。

「わかっているとも! 外れた時にはお詫びの品として、バラ風呂1か月分と、テイエムオペラオー像を贈ろうではないか!」

 いや、オペラオー像はいらないんじゃないかしら……。

「どうするかは、犯人呼ばわりされた者次第だろう。では、さっそく聞かせてもらおうか。貴様の推理を」

 先輩の言葉を受け、一礼するオペラオーさん。顔を上げると、表情が引き締まっていた。

「まずは事件についておさらいしよう」

 

 オペラオーさんは事件概要をまとめて話した。

 

「注目すべきは、犯人がどうやって壁を壊したのか、だ」

 片目を閉じ、人差しを上に向けるオペラオーさん。

「犯人は昨日より前に穴をあけ、それを埋めた。その上に壁紙を貼り、外にはベニヤ板を置いてごまかしていたのさ。そして今日、バクシンオーさんが来たタイミングで崩した。ボクは考えた。壁を触らずに崩す方法を。そして答えにたどり着いた。これさ」

 そう言い、彼女はポケットから何かを取り出した。それは白い糸だった。

「これはボクが用意した物だけどね。犯人は糸状の物を使って壁を崩したのさ。その証拠として、廊下の窓枠には傷が入っている。疑うようなら、後で確認してくれ」

 取り出した糸は、現場にあったわけではないらしい。証拠を独占されてなくて安心したわ。

「糸を壁の破片の1つに巻き付けておく。事件を起こすタイミングでそれを引けば破片が取り出され、穴を埋めていた破片達がバランスを崩し、落ちていく。これが事件のトリックさ!」

 意気揚々と説明するオペラオーさん。彼女も、このトリックには気づいていたようね。

「しかし、このトリックを使ったとして問題がある。それは、バクシンオーさんが走ってくるタイミングがわからないと、同時に壊すことができないということさ」

 ここも、私と同じことを考えていたのね。けど、彼女の答えと私の答えは、どこかが違うはず。

「では、犯人はどうやってそのタイミングを知った?」

 エアグルーヴ先輩の質問を聞き、目を閉じてニヤッとするオペラオーさん。人差し指を左右に振っている。

「逆ですよ、エアグルーヴ先輩。タイミングをどうやって知ったのか? そうじゃなくて、タイミングを知っていた人物こそ、犯人なのさ!」

 この発言に、あちこちで困惑の声が聞こえてきた。

「知っていた人物だと? 一体誰だ?」

「その前に、事件前の居場所についてもおさらいしましょう。シャインメイカーさんは補習教室の横。バクシンオーさんが補習を終えたタイミングはわかっても、廊下は見えないから走ったタイミングはわからないはず」

 それを聞いたシャインさんは、相変わらず目を閉じたままだった。トレーナーの方は、胸をなでおろしている。

「メルトスイーツさんは、事件当時に校舎内に入り階段を上っていた。タイミングの確認は可能だが、そうなれば階段の窓から糸を引いたことになる。しかし、そんな形跡はなかった」

 メルトさんは穏やかな表情で聞いていた。階段の窓枠は調べなかったけど、さすがに傷は無かったようね。

「ライスシャワーさんとミホノブルボンさんは、壁を崩すことは可能でも、バクシンオーさんが来るタイミングはわからない」

 ライスさんとブルボンさんは互いに見合い、うなずき合った。

「それじゃあ、犯人ってまさか!」

 柏田先生が息をのんだ。

「そう、犯人は……」

 オペラオーさんは、ビシッと指を差した。

 

「マリンストライドさん! あなたですね!!」

 周囲の視線が、ストライドさんに集中する。

「え、ええ!? 私ですかぁ!?」

 指名されたことに、ストライドさんは驚きを隠せないようだ。

「バクシンオーさんは、あなたに目がけて走ってきたんです。来るタイミングがわからないはずがない。彼女が転んだ時を見計らって、手に持った糸を思い切り引いた! そして後ろの壁が崩れ、バクシンオーさんのシルエットが浮かび、彼女に罪をなすりつけたのさ!!」

「そ、そんなことありません!」

 当然、彼女は自分が犯人だと認めない。

「あなたはバクシンオーさんの机にいかがわしい本が入っていたと言っていたが、それを目撃している人物はいない! これはウソの証言で、実際は自分で持ってきた物を抱えていただけだった! 違うかい?」

 問いかけてくるオペラオーさんに対し、ストライドさんは机を叩く。

「違います! 本当にバクちゃんの机に入っていたんです! そもそも、私がこんなことをしたって言うなら、動機はなんですか!?」

「ストライドさん。あなたはバクシンオーさんのことが大好きだ。学級委員をやりたがるほどに、ね」

「……!」

 ストライドさんが初めてたじろいだ。オペラオーさんは笑みを浮かべたまま続ける。

「他にもやりたがる人はたくさんいた。しかし、バクシンオーさんは例外として、毎回必ず学級委員に選ばれている。一方のあなたはじゃんけんで負け、一度もなったことがないというのに」

「それは、確かにあったけど……! でも!」

 ストライドさんは言葉に詰まっている。

「ああ、マリンストライドさん。なんてかわいそうなヒロインだろうか。しかし、時として愛は憎しみに変わる。あなたが過去に壊していた壁を、バクシンオーさんのせいにすることで復讐を果たしたのさ!!」

「待ってください!」

 ストライドさんは、再び机を叩いた。

「さっきから好き勝手言ってますけど、私がやった証拠はあるんですか!?」

 ストライドさんの反論に対しても、オペラオーさんは笑顔を崩さない。

「あなたが犯行に及んだのであれば、不自然な点が1つ。バクシンオーさんが転ばなければ、犯行を目撃されてしまう点だ。しかし、それを解決する証拠品があるのさ!」

 そう言い、オペラオーさんは右手の拳を前に突き出す。そこには、1枚の紙が握られていた。

「テスト用紙。ストライドさん、あなたの名前が記名された物です」

 見ると、国語の解答用紙のようで、点数は24点……赤点だ。しかし、現場にこんな物は落ちていなかったはず。

「裏側に靴の跡が残っています。これを踏んだから、バクシンオーさんは転んだんじゃないですか?」

「そんなわけないじゃないですか!」

 自信満々のオペラオーさんに一切怯まないストライドさん。この証拠は独占していたわね、オペラオーさん……!

「彼女の隙を作り、その間に糸を引いた。引いた糸と破片は放置し、周りに人がいなくなったタイミングで引き上げたのさ。だから、調査が始まってから一度、3階に行ったんじゃんないかな? 回収した破片を捨てに、ね」

 あれ? オペラオーさん、どうしてそのことを知っているの? ゴールドシップさんはずっと3階にいたはずよね? オペラオーさんも来ていた? ならば、3階窓枠の傷の話が出ないのは不自然。もしかして……!

「うぅ……! すみません、すみませんぅ!!」

 ドトウさんの方を見ると、彼女はこちらを見ながら机に頭を何度も下げていた。おそらくドトウさんが私達を尾行して、話を聞いていたのね。全然気が付かなかったわ。

「さあ、ストライドさん。なぜ3階のトイレに行ったんだい?」

「それは、落とし物を思い出したからです! 美術の授業前に、ヘアピンを落としちゃったかもって思って……!」

「苦し紛れのウソは良くないね。ボクの前では隠し事はできない。そして!」

 オペラオーさんがストライドさんを指差す。同時に、その表情が真剣になった。

「その糸の方は今も、彼女が隠し持っているはずだ! それが出てくれば、ボクの推理は立証される!!」

「なるほどな。貴様の言いたいことはわかった」

 腕を組みながら、エアグルーヴ先輩がうなずいた。

「ストライド、お前の荷物と体を調べさせてもらおう」

「えっ、エアグルーヴ先輩……!?」

 唖然とするストライドさんのもとへ、生徒会の子達が向かっていく。そして、1分ほど彼女の服とバッグの物を探っていた。次々とバッグ内の物が取り出されていく。筆箱、教科書類、トレーニングノート、そして……。

 

「副会長! カバンの中から糸が見つかりました!」

 生徒会の1人が手を挙げる。

「ウソ……!? そんなわけないですよ!!」

 ストライドさんは信じられないといった様子だ。しかし、生徒会の子達の手には白い糸が握られており、それを伸ばし始めた。

 報告を受け、エアグルーヴ先輩はうなずいていた。

「うむ。犯行は可能だな。破片が3階から出れば、立証されるといわけか」

「そんな! 違います! 私は犯人じゃない! あの糸は、前の裁縫で使った物を入れっぱにしてて……!」

 ストライドさんは抵抗している。

「キングちゃん、ストライドさんは犯人じゃないんでしょ? いいの?」

 ウララさんが私の顔を見た。これ以上、オペラオーさんから情報は出てこないでしょうし、ストライドさんが犯人だという雰囲気ができあがっている。もう、ここでいくしかない! さあ、私の推理、見せてやろうじゃないの!

「ああ、ボクという太陽の前には、いかなる隠し事もさらけ出されてしまう! マリンストライドさん、早く罪を認めたまえ!」

 オペラオーさんが生き生きしているところに、割って入ろうと思ったその時。

 

「待て! ソイツは犯人じゃねえ!!」

 急に、違う場所から大声が上がった。そして、イスを引き立ち上がる音が聞こえた。私は目を見開いていた。声の主は、なんとシャインメイカーさんだ。

「は、犯人は……その壁を壊した犯人は……」

 不安そうな表情で、何かを言おうとする彼女。その場にいた誰もが驚きのあまり、黙って見守っていた。

「犯人は、私なんだぁ!!!」

 迫真の表情で、言い切るシャインさん。突拍子の無い告白に、誰も理解が追いつかない。

「お、おい。シャイン! そんなわけないだろ……!」

 沈黙を破ったのは、彼女のトレーナーだった。

「事件当時、君は僕といたじゃないか! どうやって壁を壊した!?」

「そうじゃねえ。一昨日、壁を壊したのが私なんだ」

 シャインさんは、うつむいたまま話し始めた。

 

「2日前。バクシンオーのヤツに説教されて、ムシャクシャしてたんだ。ケンカはしたが、難癖つけてきたのは相手の方だったのに、私ばっかり説教しやがったからな」

 話すシャインさんの表情は怒りに満ちている。

「同時に、今まで受けた言葉を思い出したのさ。『イライラする時や悩んでいる時は、とにかく走るのです! バクシンすれば、すべて解決します!』って。誰もが走れば解決って、うまくいくわけねえだろ。なおさら、腹が立った」

「ちょわっ!?」

 それを聞いたバクシンオーさんも、うろたえているようだった。

「あの日のトレーニング後、壁の近くを通った時にバクシンオーを見かけちまった。それで、怒りがぶり返してきた。気づけば、私は壁を殴っていた」

 急に、シャインさんは笑う。

「驚いたよ。壁がゴロっと崩れちまったんだからな。そんなにボロい壁だと思ってなかったから、ビビったぜ。崩れてきた破片はなんとか押し込んだが、それでも落ちてきてダメだった」

 

「だから、階段の脇にあったベニヤ板を持ち出して、立てかけて穴を隠した。運良く、誰にも見られなかったよ。隠せたことに安心した私は、さらに穴を作ったんだ。人の形に見えるよう、あちこち殴った。そうすりゃ、壁を殴っただけの私が犯人だとバレねえと思ってな」

 

「そんで、咄嗟に壁紙に使えそうな物を探した。これも運良く美術室のカギが開いてて、ちょうどよさそうな壁紙があってよ。廊下内から貼って穴を隠した」

「え、ウソ……おとといアタシ、カギ閉め忘れてたの!?」

 柏田先生が驚いて声を上げた。周囲の怪訝な視線を浴び、先生は頭を下げながらイスに座った。

「その壁が、バクシンオーが転んだ衝撃で崩れた。これが事件のすべてだ」

 シャインさんはうなだれている。聞き込みの時の威勢は、もう無かった。他の人も、彼女を責めるような雰囲気はなく、ただただ黙っていた。

「ふむ。つまりお前は2日前、壁に穴をあけてしまい、埋めた後にベニヤ板で隠した。それが今日衝撃を受けたことで崩れたと。だがなぜ今になってそれを言う?」

 尋ねるエアグルーヴ先輩の目は鋭かった。

「私は、筋の通らねえことがキライなんだ。怒られるのは気に食わねえが、他の悪くねえヤツが犯人扱いされてるのは、もっと見過ごせねえよ」

 憑き物が落ちたように大人しくなったシャインさんに対し、先輩はまだ怪訝そうな表情をしている。

「しかし、お前が犯人だとするなら違和感がある。なぜ、バクシンオーが転んだタイミングで壁に穴があく? 直接ぶつかったわけでもあるまい」

 

「エアグルーヴさん。それは私がお答えします」

 今度は、ミホノブルボンが口を開いた。

「本日、壁を壊した犯人は私です」

 一同は、彼女の方へ振り向く。

「事件当時、私はベニヤ板をゴミ集積所へ運ぼうと抱えました。その際、私の手の甲と壁との接触が発生。5秒後に壁が崩れています。壁に穴があいた原因は、私だと考えられます」

 淡々と述べる彼女に、みんな騒然としていた。

「シャインが隠した壁が、ブルボンが触ったことで崩れてしまった、ということか」

 エアグルーヴ先輩はそう言いながらも、指を顎に当て宙を見つめる。納得できないようだ。

「これを聞いた上で、貴様はどう考える?」

 聞かれたオペラオーさんは「フン」と鼻息を漏らしてから、笑顔で答える。

「ボクの意見は変わらない。シャインさんが壊したことでストライドさんがその存在に気づき、今回の犯行を行ったと考えるよ!」

「えぇ!? だから、違いますって!!」

 姿勢を変えない彼女に、必死に否定し続けるストライドさん。

「ふむ、やはりそうか。私も同じ考えだ。シャインのしたことは別で罰するとして、今回壁を崩した者はこの2人ではないだろう」

 エアグルーヴ先輩もオペラオーさんに賛同している。これ以上、情報が増えることもないでしょうね。

「では、生徒会の皆は3階にてコンクリート片を探し……」

  

「待った!!」

 

 教室中に響くよう、声を張り上げる。

「ストライドさんも、犯人ではないわ!」

 私はその場に立って叫んだ。それを聞いた全員が目を見開き、私を見ていた。

「おお、とうとう来たかキング君」

 オペラオーさんは相変わらず笑顔のままだ。

「では、誰が犯人だと言うんだい? タイミングがわかる人物は2人、メルトさんかストライドさんだ。メルトさんが犯人だと言うのかな?」

 余裕そうに尋ねてくるオペラオーさん。今に見てなさい! その笑顔、崩してあげるわ!

「ではまず、犯行のトリックから説明しましょう」

「トリック? 不要だね。ボクがさっき説明しただろう?」

「確かに、部分的には合っていたわ。けど、私の推理とは違う点があるの」

 私は一呼吸置いてから、説明を始める。

「壁の破片の1つに糸を巻き付け、それを引くことで壁を崩す。この部分は合っています。しかし、犯人はこの破片を直接引いたわけではないのです」

「直接引いたわけではない? どういうことだ?」

 エアグルーヴ先輩が首をかしげている。

「教室の壁、後ろのドアの近くにセロハンテープが貼ってありました。切れて短くなったリールと共に、ね」

 私が指差す方へ、皆が一斉に振り向く。

「犯人は糸、もといリールの端を持っていたのではなく、それをテープで貼りつけていたのよ! そして、バクシンオーさんが通った時に、リールに引っかかって転ぶ。リールは室内へと強く引っ張られ、破片が飛び出し、壁が崩れたのよ!!」

「ほう? おもしろい推理だね」

 オペラオーさんは気づいていなかったようだけど、まだ余裕そうな表情だ。

「だが、そうなればボクの証拠はどうなる? ストライドさんの糸とテスト用紙は、犯行を示す証拠になるだろう?」

 反論してきたけど、焦ることはない。彼女の推理には、おかしな点があるのだから。

 

「オペラオーさん、ストライドさんは手で糸を引っ張ったんですよね? その結果、窓枠にこすれて傷がついたと」

「ああ、そうさ。我ながら素晴らしい発想だろう?」

「ならば、傷はどんな向きでつくのかしら?」

「そんなもの、すでについているじゃないか! 見ればわかるとも!」

 ……言ってしまったわね、オペラオーさん。私はうなずいてから、説明を続ける。

「ストライドさんの立ち位置は、前の扉を出たところ。そこから糸を引いたのなら、窓枠に『斜めの傷』がつくはずです。実際はどうですか?」

「なっ!?」

 驚きたじろぐオペラオーさん。

「上から見た時、窓に対し『垂直』な方向についていたな」

 エアグルーヴ先輩が代わりに答える。

「その通りです。ストライドさんが犯人なら、傷の向きがおかしいのよ!」

「ああっ!?」

 オペラオーさんは机に拳を突き立て、こちらをにらんでいる。

「そして傷の向きは、セロテープの場所へと向いている! これは、私のトリックが正しいことを示しています! つまり、オペラオーさんの推理はムジュンしているのよ!」

「ぐぅぅ!」

 思い切り、彼女へ人差し指を突きつけた。なかなか気分がいいわね、これ。オペラオーさんは机に突っ伏していたが、しばらくして起き上がる。

「ふっふっふ……見事だね、キング君」

「納得してくれたかしら?」

「残念ながら、君の推理にも穴があるようだ!」

 人差し指をこちらに向け、言い張るオペラオーさん。

「セロテープでリールを貼り、破片を巻き付けていたのなら、犯人はどうやってバクシンオーさんが来たタイミングを知った?」

 そんなの簡単よ。と答えようとしたら、立て続けにオペラオーさんが話す。

「それだけじゃない。まだ穴はあるよ、キング君!」

 なんですって? まだ何かあるの?

「君の言うトリックは、ストライドさんがいることで成立しなくなる!」

「ストライドさんがいると成立しない? どうしてです?」

「この廊下はバクシンオーさんより前に、ストライドさんが通っているんだよ? なら、ストライドさんが作動させてしまうじゃないか! しかし、壁はバクシンオーさんが来たと同時に崩れた。これこそ、ムジュンではないのかな?」

「な、なんですって!?」

 うっかりしていたわ! 確かにそう! ストライドさんが先に教室へ来ている以上、彼女がトリックを作動させてしまうはず……あれ? ストライドさんって後ろから教室に入ったんだっけ? 出た時は前だったけど……いえ、そうよ。ムジュンしないじゃない

「いいえ、オペラオーさん。ストライドさんが先に来ていても、トリックを作動するのはバクシンオーさんになるのよ」

「それはどうしてだい?」

 オペラオーさんは笑みを浮かべながら首をかしげる。

「ストライドさんは教室にてバクシンオーさんを待っていたんです。彼女の目的は、教室に入ること。補習の教室から来た時、普通は近い方のドアから入るんじゃないですか?」

「ああ。そうだね」

「その場合、後ろの扉から入りますが、リールは扉より奥に仕掛けられています。そして前の扉から出て、その場で考え込んでいた。つまり、ストライドさんはリールが仕掛けられているところを通ってないんです!」

「な、なんだってぇぇぇ!?」

 オペラオーさんは叫び声と共に、その場に倒れてしまった。

 

「ふむ。ではキング。マリンストライドが犯人ではないなら、誰が犯人なんだ?」

 エアグルーヴ先輩に尋ねられたけど、答える前に説明しなきゃいけないことがある。

「その前に、トリックの説明を続けさせてください」

「トリックの説明? 一通り済んでいたように思ったが」

 先輩は首をかしげているけど、説明をさせてもらいましょう。

「実は、3階のトイレから釣り竿が見つかりました。同時に、3階廊下の窓枠にも傷跡がありました」

 私とウララさんがスマホ画面を皆に見せる。釣り竿と傷の写真を見て、各々がいろんな声を上げていた。

「先程のテープで貼られていたリールは、おそらくこの釣り竿の物です。リールの中腹に破片を巻き付け、壁の中に埋めたんです。そして、片方の端を教室後ろの壁へ、もう片方は釣り竿につながっていた。バクシンオーさんがリールに足を引っかけて転んだ時、リールは室内に向かって強く引かれ、破片が引き抜かれる。その後、犯人はリールを巻き上げて、証拠を回収したんです」

 私の説明を聞き、みんな納得し、うなずいている。

「あの短いリールが釣り竿の物である証拠として、PEラインであることが挙げられます。このリールは、急に働く力に対しては弱く、切れてしまうことがあるそうです。そのため、転んだ時の急な力によって切れ、テープに短いリールが残ったんです!!」

 

「異議あり!」

 机に腕をかけ、立ち上がるオペラオーさん。というか、もろなセリフ出したわね、あなた!

「君の推理にはまだ穴がある。今日の午後、3階に行った者は3人いるはずだ。ストライドさん、メルトさん、柏田先生の3人。ストライドさんの犯行は可能だよ!」

 ゴールドシップさんの証言のことね。というか、ストライドさんの線、まだ諦めてないの……?

「オペラオーさん。犯人はセロテープでリールを貼ったんですよ?」

「うん? それがどうかしたのかな?」

 あら、気づいていないのかしら。

「ストライドさんは持ってなかったでしょう? 先程、カバンの物を出して調査していたけど、テープは出てこなかった」

「ああっ!!」

 オペラオーさんはまたもたじろぐ。

「見たところ、この教室にもセロテープはありません。ストライドさんがトリックを仕掛けられる時間は、バクシンオーさんが来る前の3分間のみ。他の部屋に取りに行く余裕があったとは考えられません!」

「ぬわああっ!」

 またしてもオペラオーさんは倒れてしまった。

 

「今の話だと、事件当時セロテープを持っていた人物が犯人となるわけか?」

 エアグルーヴ先輩の質問に、私は大きくうなずいた。

「ええ、そうなります」

「それなら、メルトスイーツが犯人か? 先程、テープを持っていたのを見た」

 先輩がメルトさんの方を見る。

「あら、お忘れですか? 事件当時、わたくしは美術室にセロテープを忘れていたのです」

 メルトさんは笑顔のまま言い返した。

「ああ、そうだったな。しかし、そうなればシャインやブルボンが犯人というわけか……?」

「いいえ。シャインさんもブルボンさんもライスさんも、犯人ではありません」

 私の言葉に、皆はこちらへ視線を向ける。

「キングちゃん、犯人って誰なの?」

 ウララさんも私の顔を見つめている。ようやく、この時が来たわね。

「事件当時、美術室にあったメルトさんのセロテープを使い、教室前にリールを仕掛けることができ、3階に行っている人物。それは、1人しかいません!」

 満を持して、私は犯人へと人差し指を突きつけた。

 

 

 

「柏田先生! あなたよ!!」

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