名探偵ウララと一流助手キングヘイローの事件簿   作:菜目ルナ

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スズカ衝突事件編1話 容疑者、サイレンススズカ

―――

 

 

 今から10分前くらいだったかしら。学園の周りを走り終えて、ここのコースに入って走ってたの。元々、ここのコースは予約してたから、トレーナーさんが来るまで準備運動しておこうと思って。

 走ってたら、何人かこのコースに来て、模擬レースを始めたの。カーブを曲がって、こっちまで走ってきて。怖かったけど、抜けられそうにないから、ぶつからないことを祈って走り続けてた。けど、後ろからたくさんの足音が聞こえてきて、実際にマンデーさんが追い抜いていったの。

 そしたら、急にバランスが崩れて、仰向けに倒れちゃって。何でなのかは、あまり覚えてないんだけど。

 立ち上がった後、後ろの方からドサッて音がして。振り返ったら、グランドベリルさんが倒れてたの。足を抑えてたけど気を失っちゃったみたいで、そのまま動かなくなってたわ。

 そしたら、コースの外からハヤヒデが入ってきて、その子に駆け寄ったの。肩をゆすっている間に、模擬レースをしてたホワイトマンデーさんがやってきて。2人でベリルさんの肩を持って、保健室へと運んでいったわ。

 私は、怖くて何もできなかったけど、運ばれていった後に2人から「スズカがぶつかったんだろ!」って……違うって言っても、聞いてくれなくて……。

 

 

―――

 

「え? それじゃあ、スズカさんは犯人じゃないよね?」

「ええ、私じゃないんだけど……」

 質問するウララさんに対し、胸元で両手をにぎり、うつむいているスズカさん。

「いいや! スズカがぶつかったとしか考えらんねえ!」

「状況的に、犯人は彼女以外あり得ません。さっさと白状したらどうですか」

 暗い表情の彼女を責め立てる、オレンジ短髪と、茶髪もふもふの2人のウマ娘。その後ろでもう1人、黒髪の子が真顔で静観している。

「なんてったって、模擬レースしてねえからアタイらの目を盗めるし、それに証人がいるからな!」

 2人組の1人が勢いよく指差した先には、見覚えのあるウマ娘がいた。

「おう! スズカには色々と恩があったりオフだったりするが、ゴルシちゃんは天と地とカニみそ汁の味にはウソをつけねえ! 正直に話すぜ! ウソついたらハリセンボンの天ぷら焼いてやるよ!!」

 ……相変わらずわけのわからないことを言っているわね、ゴールドシップさん。

「キングちゃん! 誰の言うことが本当なの?」

 不安そうにこちらを見つめるウララさん。正直、現段階ではスズカさんが無罪だと言い切れない。

 

 さかのぼること数分前。風は肌寒いけど、日が高い時間帯。私とウララさんも学園周りを走り込んだ後、学園内に戻ってきた。次のトレーニングのために、空いているコースを探している途中、サイレンススズカさん達を見かけ、首を突っ込んでいたところだった。が、ここまでの話を総括しても、わからないだらけ。

 

 けれど、これだけはハッキリとわかる。

「これは事件よ、ウララさん。誰かがグランドベリルさんにぶつかって、自分がやったことを隠しているわ」

「おぉー! じゃあ、久々の事件だね!」

 目を輝かせ、やる気満々のウララさん。久々と言っても、せいぜい何週間か空いたくらいだけど。

 とはいえ、今日はまだトレーニングが残っている。時間が惜しい。面倒事に巻き込まれるのは嫌ね。それに、私達が何もしなくても、第3者であるビワハヤヒデさんがいる。ハヤヒデさんならきっと、難なく解決してくれるでしょう。……だけど。

 

「違う、私じゃない……」

 スズカさんは、友人にとって、とても大事な存在。彼女が、他人にぶつかりにいくような人とも、他人にぶつかったことを隠すような人だとも、思えない。それに今、ここで何もしなければ、私、彼女に顔向けできないわ。

「やりましょう、ウララさん。この事件、私達で犯人を見つけ出すわ!」

 やってやる。やってやるわ。じゃなきゃ、納得できないもの。それに、ウララさんと私なら、解けない謎はないわ!

「やったー! めんたんていウララ、しゅつどう! スズカさん、ゼッタイに真犯人を見つけるからね!」

「え、ええ……ありがとう……?」

 それだと麺の探偵みたいになってるわよ、ウララさん。

 とりあえず、まずはゴルシさんの話を詳しく聞いてみましょう。早めに聞いておかないといなくなりそうだし。

「おうおうオメエら! またダンディごっこやってんのか? いいぜ! アタシもやるよ、ダンディ・ダンシング!! オ・レ?」

 急にくるくる回り、ポーズを決めるゴルシさん。

「うおー! かっこいい!! ウララもやるー!」

 ノリノリで真似してる場合じゃないわ、ウララさん。仕方なく両肩に手をかけ、彼女の動きを止めた。

「ダンディじゃなくて探偵! 早くスズカさんがぶつかったことを証言なさい!」

「なんだよつまんねーな。えー、あれはたしか……」

 ゴルシさん宙を見つめて固まったが、すぐに口を開いた。

「そん時アタシは、遠くのコースで腕立てスクワット400回チャレンジに挑戦してたんだよ。したら、このコースでスズカの姿が見えてよ。カーブを曲がった後に1回よろけたんだよな。でも、すぐ立て直してよ。そのままスゲエ速度でベリルとかいうヤツにぶつかってたぜ」

 なるほど。スズカさんが1回よろけた、ねぇ。

「質問しますが、それはスズカさんで間違いないんですか?」

「おう、間違いないぜ。オレンジのロン毛は、この中じゃスズカだけだろ?」

 たしかに、ここにいるメンバーの中ではそうね。けど。

「髪以外にスズカさんだと判別できる要素は?」

「ねえぞ?」

 ……はい?

「さっきも言ったけど、遠くから見てたんだよ。他のとこまで細かく見えねえよ」

「それじゃあスズカさんだとは限らないじゃない!」

「いやスズカしかねえだろ? この場から逃げたヤツもいないし、他に誰がいんだよ?」

 ぐっ……たしかに、今の時点ではそうとしか考えられないわね。

「もういいか? 今日はタコとイカの仕入れをやるんで、ちょっちゴルゴル星のダチを呼んじまってるからよ。またな!」

 そう言い、ゴルシさんはいきなり走り去ってしまった。やっぱり、嵐のような人ね……というか、ゴルゴル星のダチって誰よ……。

 

「キングちゃん、次はどうするの?」

 顔を覗き込んでくるウララさん。

「そうね、ひとまずここまでの情報を整理してみましょうか」

 スズカさんがコースで走っていた時、4人のウマ娘がやってきた。被害者グランドベリルさん。そして、ホワイトマンデーさんと、残りの2人。この4人はコースに入り、模擬レースを始めた。その途中、スズカさんはバランスを崩して倒れ、その後ベリルさんが倒れる。通りかかったビワハヤヒデさんが駆けつけ、次にマンデーさんが駆けつけた。そして2人でベリルさんを保健室へ運んだ。時系列で並べればこんなところかしら。

 気になるのはやはり、ゴルシさんの目撃証言。ぶつかったのがスズカさん、もとい、オレンジ長髪のウマ娘。このことを覆すのは難しい気がするけど……なんとか考えてみましょう。

「そうしたらキングちゃん。次は?」

「とりあえず現場を見てみましょう。足跡は残ってるし、証拠があるかもしれないわ」

 

 そう言って、コースのトラック近くまで足を運ぶ。事件発生後、誰もトラック内に入ってないようで、レース中のものと思われる足跡がくっきり残っている。大きなくぼみになってるところが、スズカさんとベリルさんが倒れたところね。スズカさんの話と合わせると、手前側のくぼみがスズカさんの、奥のくぼみがベリルさんの倒れた跡ね。

 倒れた場所から、スズカさんは右から2番目のレーンを走っていたと推測できるけど、ベリルさんの走ってた位置はよくわからない。横向きに倒れているから。あと、模擬レースの足跡だけじゃなく、倒れたベリルさんのもとへ駆けつけた人の足跡も残っているはず。とりあえず、1番右のレーンを使ったのは1人みたいだけど、他のレーンは複数人が走ったみたいね。

 そして、スズカさんは、ベリルさんにはぶつかっていない。倒れた場所から先の足跡が無いから、倒れた後、彼女は走っていない。ぶつかりようがないはずよ。可能性があるとすれば、スズカさんが倒れた瞬間に、ベリルさんとぶつかってしまったケース。あるいは証言にウソがあって、実はスズカさんが奥のくぼみに倒れてたケース。そうでなければ、スズカさんは白になる。現状、足跡からわかるのはこんなところね。

 聞き込みでは、その人がどのレーンを走ったのか、ベリルさんが倒れてた位置が奥側であってるのか、確認しましょう。犯人はウソをつく可能性もあるから、慎重に判断しないといけないわ。

 けど、どうしてゴルシさんは、スズカさんだと見間違えたんでしょう? 犯人は、自分をスズカさんだと思わせる何かをした? もしくは、口裏を合わせて、スズカさんがぶつかってるように見せかけた? ここのトリックもわからないわ。いずれにせよ、証拠か証言が欲しいわね。

 

「ねえキングちゃん!」

 考え込んでいると、ウララさんに顔を覗き込まれた。

「なに? なにかあった?」

「どうしてスズカさんは倒れたの?」

「どうしてって、単にバランスを崩しただけじゃ…………」

 言ってから気付く。たしかに変ね。ちょっとバランスを崩したなら、手や膝をついたりするんじゃないかしら? まして、仰向けになって倒れるなんて、やっぱり変よ。速度を出して走っていたなら、転んだ拍子に倒れてもおかしくないけど、スズカさんは軽く走っていた。

 倒れるほどバランスを崩したのなら、何か理由がある気がするわ。あるとしたら、強風に吹かれた? あるいは、横を抜けられた衝撃で、よろけた? マンデーさん達は模擬レースをしてたんだし、全速力で走ってたはず。その速さで、ギリギリぶつからない距離で横を通過すれば、バランスを崩してしまう…………うーん、ないとは言い切れないけど、可能性としては半々ってところかしら。

 いえ、そもそもすり抜けたんじゃなくて、スズカさんも誰かとぶつかったとしたら? 模擬レース中、全速力で走ってた誰かとぶつかっていたなら、バランスを崩してもおかしくない。腕や肩が当たった程度なら、はね飛ばされてないことにも説明がつくわ。この線で考えましょう。

 そして、ベリルさんをぶつかった犯人は、スズカさんが倒れるよう、わざとぶつかった可能性があるわ。そうすることで、自分がスズカさんだと錯覚させたのかも。そうだとして、スズカさんをよろけさせた人は、右を抜けた人? それとも、左を抜けた人? どうにかして判別できないかしら……。

 ……いや、ある。判別する方法。どっちを抜けた人がスズカさんにぶつかったのか、わかったわ。その人がベリルさんにぶつかったかはわからないけど、今後の証言は気を付けて聞いた方がいいわね。

 しかし、このコースを見てるだけでは、誰がどこを走ってたのかハッキリしない。足跡の大きさもほとんど同じ。ここを見てるだけじゃ、解決できないわね。

「この辺で切り上げて、聞き込みに行きましょうか」

「よーし、かしこみだっけ? がんばるぞー!」

 ……なぜか、フクキタルさんに引っ張られてるわね、ウララさん。

 

 

 

「犯人探しなんか必要ねえって! スズカ以外考えられねえよ!」

 そう言って、腕を横に広げる、短髪オレンジ髪のウマ娘。

「トパーズダガーさん、証言してください。じゃないと、犯人がスズカさんなのかも判断できません」

「ちぇっ、誰が見てもスズカだって言ってるのに……」

 口を尖らせ、こちらをにらんできた。結構強情な人ね。

 聞き込み開始前、スズカさんから事件の関係者の名前は聞いておいた。クラスは違うみたいだけど、スズカさんと同学年らしい。

 

 彼女はトパーズダガーさん。さっきからスズカさんを大声で責め立ててる人。身長も髪色もスズカさんそっくりだけど、前髪ぱっつんのショートヘア。ゴルシさんは、彼女をスズカさんと見間違えたわけではなさそうだけど、どうなのかしら。

 

「ウララ、探偵なんだよ! トパーズダガーだから、ダガーちゃんでいい?」

 今度はウララさんが話しかける。

「お? そっちで呼ぶヤツは初めてだな。もちろん、ダガーで構わないぜ」

「わかった! じゃあダガーちゃん、事件の時のこと、教えて!」

「しょうがねえ。特別に教えてやるよ!」

 トパーズさん、ウララさん相手にはニコニコしている。扱い方がわかって助かったわ。

「アタイらは3人で模擬レースしたんだ。実はベリルのやつは軽く走りたいって言ってよ、参加しなかったんだ。スズカには悪いが、横を抜ければいいかと思ってさ。レースはマンデー先頭で、アタイとジルコンが拮抗してたな。で、ゴールしてからこっちの直線にもう一度戻った時、ベリルが倒れてるってわかった。こんなとこか」

 へぇ、ベリルさんはレースに参加してたわけではなかったのね。でも、肝心のレーンがどこかわからないとイマイチね。

「ダガーちゃんはどこを走ってたの?」

「アタイは1番右さ。大きくふくらんじまったんだが、ちょうどその直線でジルコンを抜かして、最後は2着でゴールだ! どうだ? すごいだろ?」

「2着!? すごーい! ウララはね、この前5着だったよ!」

「なんだよ、ウララも入着してんじゃねえか! すごいじゃん!」

 なかなかしゃべってくれるじゃない。聞きたいことが次々と聞けるわ。トパーズさんは1番右を走ってたのね。けど、他の人の情報も欲しいわ。

「ダガーちゃん。他の人がどこを走ってたのか、知ってる?」

 あら、ウララさんが思ってたことを聞いてくれたわ。けど、トパーズさんの方は目をそらして、後頭部を手でこすっている。

「あー……それが、よく覚えてないんだ。まあでも、みんな内側の方を走ってたんじゃないのか?」

「そっかー」

「ああ、すまないね」

 トパーズさんの謝罪後、沈黙が続く。ウララさん、もうちょっと突っ込んで欲しいんだけど……私の方から言ってみましょうか。

「トパーズさん。事件当時、スズカさんとベリルさんはレースに参加せず、ゆっくり走っていたんですよね?」

「あ? そうだって言ったじゃないか」

「そしたら、空いてるレーンって1つになりますよね? 4レーンあって、2人が使ってるんですから」

「だからなんだよ?」

 いちいちケンカ腰で突っかかってくるわね……。

「スズカさんは右から2番目のレーンを走ってます。残った左2つのレーンで、ベリルさんと、マンデーさん達、どっちが内側を走っていたか、覚えてませんか?」

「覚えてねえって言ってるだろ? それが答えだよ」

 うーん……本当に覚えてないのかしら? なんとかして、本当のことを吐かせたいけど……。

「では、スズカさんが左に走っていたのは覚えてますか?」

「あ? 覚えてないけど?」

 私から聞いてるからか、取り付く島も無いわね……。でも、すぐ隣に走っていた人を覚えてないのは、明らかにおかしい。

「トパーズさん。スズカさんが倒れるところを見ましたか?」

「見てない。というかそれ、スズカがついてるウソだろ?」

 ……なんですって? ウソ? そんなわけないじゃない。スズカさんは、そんなことでウソを言うような人じゃ……!

「いいえ! 彼女の話と一致する足跡もあります! ウソじゃないわ!」

「だからなに? その足跡が本当にスズカのか、わからないだろうが」

「あなた!! 言わせておけば、スズカさんがどんな人かも知らないで!!」

「お前こそ好き勝手なこと言うなよ!! ジルコンやマンデーがどんなヤツか知らねえだろうに!!」

 お互い、声を荒げて言い合う形になった。

 

「ぴぴーっ! ケンカは、めっ!」

 急に、ウララさんの声がする。いつの間にか、私とトパーズさんの間に入り、腕でバッテンを作っている。

「キングちゃん、ダガーちゃんと仲良くお話ししよう!」

「けど、この人は……!」

 続きを言おうとしたところで、頭が冷めてきた。

 一体何やってるの、私。今やらなきゃいけないことは、情報を集めることでしょう。対立することじゃないわ。

「へっ! こんなヤツとは仲良くやれねえ! ウララ、話をするってんなら、コイツのいないところでやろう」

「ダガーちゃんもダメー! キングちゃんに怒らないで!」

 ウララさんが説得してるけど、トパーズさんの態度的にダメそうね。

「ウララさん。私はもう一度、コースを見てくるわ。あとはお願いね」

「あ、キングちゃん!」

 不安そうな顔をするウララさんに、それだけ言い残して、その場を去った。




<事件概要>
約10分前、スズカがコースで走っていた時、4人のウマ娘がやってきた。
被害者グランドベリル、ホワイトマンデーと、残りの2人。
この4人はコースに入り、ベリル以外は模擬レースを始めた。
その途中、スズカはバランスを崩して倒れ、その後ベリルが倒れる。
ビワハヤヒデとマンデーが駆けつけ、2人でベリルさんを保健室へ運んだ。
その後、残った2人がスズカを犯人扱いする。

ゴールドシップがその光景を目撃。
遠くのコースで腕立てしていた時、スズカがベリルにぶつかるところを見た。
スズカだと判断した理由は、髪型と髪色。



<登場人物>
・サイレンススズカ
2人のウマ娘から犯人だと言われているが、容疑を否認。

・グランドベリル
被害者。何者かにぶつかったらしく、気を失い倒れていた。
ハヤヒデとマンデーがそれを見つけ、保健室に運ばれる。

・ホワイトマンデー
模擬レースをしていた1人。倒れたベリルを、ハヤヒデと保健室に運ぶ。

・トパーズダガー
模擬レースをしていた1人。
身長も髪色もスズカそっくりだが、前髪ぱっつんのショートヘア。
スズカさんを犯人呼ばわりしている。

・ジルコン?
模擬レースをしていた1人。

・ビワハヤヒデ
たまたま現場に居合わせ、ベリルを保健室まで運ぶ。


<図>
・現場のコース 足跡

【挿絵表示】

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