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保健室に着くと、事件の関係者達がベリルさんのベッドの前に待っていた。ハヤヒデさんにも協力してもらい、なんとか全員集めた。
「なんだよ、急に呼びやがって」
「何か知りませんが、手短に済ませてください」
トパーズさんとジルコンさんが振り向き、不機嫌な表情で文句を言ってくる。
「この流れだと、犯人がわかったのでしょうか?」
マンデーさんは、ニコニコしながらこちらを見つめる。
「はい。これから犯人が誰なのか、お話しします」
「本当に、犯人を発表するんですか……?」
ベッドから、ベリルさんが不安そうに言う。
「ええ。スズカさんに濡れ衣がかかったままにはできません。それに発表することが、犯人も含め、皆さんのためになると思っていますから」
ウララさんと顔を合わせ、うなずき合う。
「ということは、スズカ君が犯人ではなかったと?」
「はい。スズカさんではありません」
ハヤヒデさんと私との会話を聞き、スズカさんは不安そうに胸を抑える。
「でも、ゴルシのヤツがスズカを見てるんだろ? スズカで決まりじゃないのか?」
トパーズさんの難癖に、スズカさんはうつむいた。
「違うんだよ! 犯人はトリックを使ったの! ね、キングちゃん?」
ウララさんがこちらへ視線を向ける。
「ええ、そうね」
私はうなずき、前に出る。
「謎を解く前に、改めて事件の概要を説明します」
事件前、スズカさんがコースを軽く走っていた。そこへ、トパーズダガーさん、ジルコンフラッグさん、ホワイトマンデーさん、グランドベリルさんの4人が入ってきて、ベリルさん以外の3人が模擬レースを始めた。ベリルさんはゆっくり走っていた。
模擬レースの途中、スズカさんとベリルさんの横を、3人が通り抜ける。その際、犯人はスズカさんに軽くぶつかり、次にベリルさんと衝突したの。
その後、犯人はそのまま走ってゴール、後からベリルさんが倒れているところに遭遇。ベリルさんが保健室に運ばれた後、立ち尽くしていたスズカさんを犯人だと決めつけた。こんなところね。
「質問していいだろうか?」
ハヤヒデさんから聞かれる。
「先程、犯人はスズカ君にもぶつかったと言っていたが、その根拠は?」
「スズカさんは走っている途中、仰向けに倒れたんです。普通によろけたなら、膝や手をつくか、前のめりになって倒れる。後ろを向いて倒れることはないでしょう」
「なるほど。続けてくれ」
ハヤヒデさんはうなずいた。
「加えて、犯人はレース中、左から2番目のレーンを走っています。その根拠は2つ。1つは、ベリルさんのレーンの隣だからです。コースには横向きの足跡が無く、斜めもほとんど無い。犯人は前に走りながらぶつかった、としか考えられないんです」
ほとんどの人がうなずいていた。ただ1人、マンデーさんを除いて。
「しかしキングさん。足跡であれば、誰かが後から消すこともできます。犯人が斜め向きのものを消した可能性もあるのではないですか?」
微笑みながら指摘される。まあ、否定はできないわね。
「ええ。その可能性は否定できません。けど、根拠はもう1つあります」
そう言い、私はスズカさんに視線を向けた。
「もう1つは、スズカさんがぶつかった衝撃で倒れていることです」
「え、私が倒れたこと……?」
スズカさんを含め、ほとんどの人が首をかしげている。
「おいおい? なんでスズカが倒れてたら、そのレーンで走ってたことになるんだよ?」
トパーズさんから反論された。
「スズカさんは犯人とぶつかってはいますが、ベリルさんのように気を失うこともなければ、ケガもありません。おそらく肩か腕に当たったんでしょう。それでも、全速力の人とぶつかった衝撃で体が回ってしまった。これが、仰向けに倒れた理由です」
「そして、その回った向きが重要なんです。左回りだったら、スズカさんは倒れていなかったと思われます」
「は? 左回り?」
ぽかんとするトパーズさん。
「スズカさんは、左回りが得意なんです。時々部屋でクルクル回っていると言っているくらいには」
そう、同室の友人から、スズカさんの回り癖については聞いていた。だからこそ、犯人が彼女の左を走ったと気付けた。
「犯人とぶつかった時に、スズカさんが左に回ったなら、ここまでの倒れ方はしません。つまり、スズカさんには右回りするような力が加わったの」
「んん??」
トパーズさんは首をかしげている。他の人はわかっているようで、うなずいたり、不動のまま聞いたりしていた。
「ん~? キングちゃん、どういうこと?」
……ここにも1人、わかってない人がいたわ。
「右回りは、右手を中心に回る。つまり、体の左側が前に押されたってことよ。スズカさんの左を走っている人がぶつかれば、そうなるでしょ?」
体を動かしながら説明した。それを聞き、トパーズさんは「ああ!」と漏らす。
「あ、なるほど……」
スズカさんもそうつぶやいた。いや、わかってなかったの……? 自分のことでしょう……?
「むむむ~……」
ウララさんは、頭を抱え始めてしまった。とにかく、今は話を先に進めましょう。
「そして、左から2番目のレーンを走っていた人は、2人。1人はマンデーさん。もう1人が、犯人です」
そう告げると、全員が息を呑んだ。
「お、おい。それじゃあよ、犯人はまさか……?」
トパーズさんの顔が、青くなっている。
「ええ。ベリルさんにぶつかった犯人は……」
私は、すぐ近くにいるその人へ、指を差した。
「ジルコンさん。あなたですね?」
そう言った瞬間、ジルコンさんの顔が引きつった。
「えっ!?」
ベリルさんが声を上げる。
「彼女が、ですか……」
マンデーさんは、厳しい視線を向ける。
「おいおいおい! ウソだろジルコン!?」
トパーズさんも、身を乗り出し、彼女に迫る。それに対し、焦るようにキョロキョロしていたジルコンさんだったけど、やがて、彼女はフッと笑った。
「キングさん、でしたっけ? 今、私を犯人と言いましたね?」
これまで見たことない、不敵な笑みを向けてくる。
「ええ。あなた以外考えられないわ」
「その物言い、名誉毀損になることはご存知? 多数人が認識できる状態で、人の社会的評価を害しているもの」
なるほど。プレッシャーをかけてくる気ね。けど残念。その程度で怯むような私達じゃないのよ。
「その言葉、そっくりそのまま返すわ。あなた、スズカさんを犯人だと決めつけて言いふらしていたでしょう? アレこそ、名誉毀損になるんじゃない?」
「っ!!」
再び顔を引きつらせた。加えてもう一押し、言っておきましょう。
「あなたが本当に犯人だったなら、スズカさんを犯人呼ばわりしたことを訴えるわ。そうして欲しくなかったなら、今のうちに謝ることね」
ここで自白してもらえれば、証拠を確保する手間が省ける。証拠がつかめない可能性も少しだけあるから、言ってくれればいいのだけど……。
しばらくして、ジルコンさんの口角は上がった。
「いいですよ。その代わり、私が犯人だと誰もが認める証明できなければ、あなたを訴えます。それでいいですね?」
こちらの目をまっすぐ見ながら、そう言った。大見得、切ってきたわね。いいわ、受けてやろうじゃない。キングの相手としてふさわしいわ!
「しかし、キング君。彼女の見た目はスズカ君とは似ても似つかない。彼女はなぜ、ゴールドシップからスズカ君だと誤認されたんだ?」
横から、ハヤヒデさんが質問してきた。
「それはね! 犯人は、変装したんだよ!」
「ほう?」
ウララさんの言葉に、ハヤヒデさんはニヤッと笑う。後は私から補足しましょう。
「ゴルシさんがスズカさんだと判断した理由は、髪型と髪色です。つまり、彼女の髪に似せられれば、なりすますことが可能なんです」
そう言いながら、私はウィッグを見せる。
「それは?」
「現場のコースの柵の外に落ちていたウィッグです」
「スズカさんにそっくりだよね~」
みんな、スズカさんとウィッグとを交互に見ている。
「ふむ。似ている。遠目に見れば、間違いなく見分けがつかないだろう。だが、キング君」
ハヤヒデさんがメガネを上げ直す。
「ジルコン君の毛量は、私と同じくらいあるぞ。その上にウィッグを被るのは不可能だ。君の言うことは破綻していないか?」
来ると思ったわ、その指摘。そしてこれが、この事件最大のトリック。
「このウィッグですが、実はベリルさんの意識が戻る前に見つけたんです。そして、写真だけ撮ってあえて放置し、保健室に向かいました。しかし保健室から戻った後も、ウィッグは元の場所にあったんです」
「それがどうかしまして?」
ジルコンさんは余裕そうにこちらを見下げてくる。
「保健室に行く前は私達が調査しているから、ウィッグを回収できなかった。しかし、保健室からあなた達が出た後、現場には誰もいません。犯人は、この隙に回収してしまうべきです。偶然居合わせる人がいなければ、誰にも目撃されずに証拠を消せるんですから。しかし、実際にはそうしなかった。それはなぜでしょう?」
「へっ、そいつは誰かの落とし物だったんじゃないか?」
今度はトパーズさんが答えた。
「たまたま、あのコース近くに落ちてただけで、レース中にそのウィッグを被ってたヤツなんていなかった。そうじゃないとは言い切れないよな? 残念だがキング、そのウィッグは証拠にはならないんだよ!」
まあそうね。警察が捜査すれば持ち主は特定できるでしょうけど、私達素人では無理よ。だけど、それは問題にならない。
「その話、半分は当たっているわ」
「は? 半分?」
首をひねるトパーズさんとジルコンさんに向かって、二ヤリと笑ってやった。
「模擬レース中、このウィッグを被っていた人は、いないのよ」
「なっ!?」 「えっ!?」 「どういうことだ?」
みんな、口々につぶやく。
「犯人がウィッグを回収しなかった理由。それは、ウィッグを犯行に使ったと思わせるため。これを現場に置いておくことで、ウィッグを被れる人が犯人だとミスリードさせることができる」
そう、このウィッグの存在自体が、犯人のトラップ。ウィッグを被った人物が犯人であるという、ミスリード。
「実際、私は最初、ウィッグを被れるトパーズさんしか犯行が行えないと考えていたわ」
「げっ、そうだったのか……」
トパーズさんは苦い顔で身を引いていた。
「だがキング君。これでは話が振り出しに戻る」
ハヤヒデさんがこちらをにらむ。
「ジルコン君は、どうやって自分をスズカ君だと偽ったのか。これを説明してもらおう」
「どうやって? 簡単よ。地毛で走ればいいんだもの」
私の言葉に、みんな首をかしげる。
「ジルコンが地毛のまま走ってたら、どうやったってスズカには見えねえだろ。このふわふわ茶色を、どうやってサラサラオレンジと見間違えるってんだ?」
またトパーズさんが反論してくる。さあ、言ってやりましょう。犯人が仕込んできた「悪意」を。
「ジルコンさん、ウィッグを外してください」
それを聞き、ジルコンさんの表情が険しくなる。
「何言ってんだよ、お前!? ジルコンはウィッグなんて被ってねえし、被れねえよ!?」
「その髪の毛がウィッグだって言ってるのよ!!」
声を荒げるトパーズさんに、同じ声量で言い返してしまった。
「なるほど……今ある茶髪がウィッグで、地毛のオレンジ髪を隠している、というわけか。あり得るな」
ハヤヒデさんはうなずいてくれている。これならいけそうね!
「模擬レース中、スズカさん達を抜かす時にウィッグを外し、地毛のオレンジ髪を見せる。そして、ぶつかった後ウィッグを再び被ったの。さあ、ジルコンさん! ウィッグを外してください!」
指を差すこちらに対し、歯を食いしばり、にらみつけてくるジルコンさん。そしてそのまま、沈黙が訪れる。
しばらくしてそれを破ったのも、ジルコンさんだった。
「ウィッグ? 何を根拠に? これは地毛よ? そうよね、マンデー、トパーズ」
横目で、2人に視線を送る彼女。
「あ、ああ。ジルコンはずっとこの茶髪だぜ?」
「ええ。たしかに。彼女の髪色は変わってません」
動揺しつつ答えたトパーズさんと、顔色を変えずに答えるマンデーさん。
「ぷっ、うふっ、あっはははははははは!!」
2人の答えを聞き、ジルコンさんは笑う。
「どう!? どうどうどう!? 私はベリルにもスズカにもぶつかってないのよ! この毛だってウィッグじゃなくて地毛なのよ!! でも、地毛かどうか、無理やりたしかめるなんてことはやめてよ? そんなことをしたら、今度は暴行罪で訴えるわ! ははっ! あはははっ!」
高らかに笑うジルコンさん。
「どうだ? キング君。彼女の毛がウィッグであるという根拠は、提示できるのか?」
ハヤヒデさんからの質問に、私は思いっ切り笑顔になって答えた。
「ええ。いくつもありますよ」
「はっ! そんなハッタリ! 出せるものなら、出してみなさいよ!!」
往生際が悪いわね、ジルコンさん。お望み通り、言ってあげるわ!
「まずは、彼女が髪を伸ばした時期です。ウララさん、トパーズさんはジルコンさんのこと、なんて言ってたか覚えてる?」
「うん! 前はふわふわじゃなくって、最近髪を伸ばしたんだよー!」
ウララさんの言葉に、マンデーさんとハヤヒデさんがうなずいた。
「な、なんだ? なんでそれがウィッグにつながるんだよ?」
トパーズさんは、この意味がわかっていないみたい。
「つまり、髪を伸ばしている途中、髪をオレンジに染色した。その上に茶色のウィッグをつけていたのよ。その毛量が多いのも、地毛を見られないため」
「なっ……!?」
ジルコンさんがたじろぐ。
「おい、ジルコン……?」
それを見て、トパーズさんは驚いているようね。
「それだけじゃないわ。先月、スズカさんが1着を取ったレースがありました。天皇賞です。もし、ジルコンさんが彼女を恨んでいて事件を起こしたなら、その天皇賞の日から計画していた可能性があるわ!」
これは弱いけど、ダメ押しにもう1つ!
「また、ウララさんがオレンジのウィッグを触った時に、『ふわふわ』だと言ってました。しかし、触り心地はツルツルの人工繊維のウィッグです。なのになぜ、『ふわふわ』と言ったのか? それは、ウララさんがジルコンさんの髪を触った時の感触と一緒だったからと考えられます」
そして、これがトドメ……!
「さらに、ジルコンさんは私達の聞き込みには一切答えず、ウララさんが髪を触ろうとした瞬間に怒り、彼女の手をはたいています。これは、その髪がウィッグであるとバレたくなかったから。違いますか、ジルコンさん!!」
「あっ、あっ…………」
余裕そうな笑みはどこへやら、ジルコンさんの顔は真っ青になり、膝をついた。
「ふむ。これだけ根拠があれば、地毛かどうかをたしかめる必要性はあるだろう。ジルコン君、髪を触らせてもらうが、いいだろうか?」
ハヤヒデさんの問いかけに、ジルコンさんはただただ口を震わせて固まっていた。
「失礼する」
ハヤヒデさんが髪に指を絡め、持ち上げると、茶色い髪の毛はごっそりと持ち上がった。そして、その中から、オレンジのストレートヘアが見えた。スズカさんそっくりの。
「つまり……そういうことだな」
ハヤヒデさんは、彼女の横にウィッグを置く。
「マジか、ジルコン……」
「信じがたいことですが……」
トパーズさんとマンデーさんが絶句している。
「じゃあ、本当に、ジルコンさんが……」
ベリルさんがそうつぶやいた時。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
急に、ジルコンさんが奇声を上げ、頭を抱えた。
「ああ、ああああ!! ああああああああ!!!」
奇声を上げ続け、頭を振り回している。正直、驚きというか、なんというか。その様子に、周囲の人もドン引きしていたようだった。
そして、奇声が終わった次の瞬間。
「ベリル!! ごめんなさい!! ごめんなさい!! ごめんなさい!!!」
ベッドに横たわっている足にすがり、ジルコンさんは泣き始めた。
「私は、わたじは、こんなことになるなんて、おもわなくで、ごめんなざい! あなたにまでぶつかって、ほんとうに、ほんとうに…………」
…………何よ、それ。
「いや、いいんです、私は。あの、ケガもなかったですし」
「ごめん! 本当にごめんなさい……!」
ベリルさんは、彼女の様子に戸惑っている。
「ごめん!!! もう一生かけてつぐなうから、だから許して! 誰にも、誰にも言わないでぇ……!」
ベリルさんに向かって何度も頭を下げ、涙をボロボロ流し、必死に懇願するジルコンさん。そんな哀れな姿を見ても、全然スカッとしない。
なんで。なんで謝るのよ。なんで今。なんで、そっちばかり……。
「違うでしょう!!!?」
私は、ジルコンさんをベリルさんから思いっきり引き剥がした。
「はっ、ひぃぃ!?」
「何がごめんなさいよ!? 謝る相手が違うわよ! あなたが謝るのは、スズカさんでしょう!!?」
「ひいぃぃぃぃぃぃ!?」
怒鳴りつけると、ジルコンさんは崩れ落ち、そのまま這いつくばって、スズカさんのところへ向かう。そして、彼女の足をつかんで、再び泣き始めた。
「ごめんなざい! ごめんなざい!! ごめんなざいぃぃぃぃ!!!!」
「あ、あの、え、えぇ……?」
スズカさんは戸惑い続けている。私は構わず、床にひれ伏すジルコンさんに近寄る。
「もう誰かにぶつかったり、自分の罪をなすりつけたり、しないって誓える!!?」
彼女の両肩を持ち上げ、目の前まで顔を近づける。
「はい! しません! しませんぅぅぅ!!」
ジルコンさんは壁まで後ずさりし、再び土下座したまま動かなくなった。
「キングちゃん、こわいよ……」
振り返ると、ウララさんがハヤヒデさんの影に隠れていた。
「キ、キング君……少々やりすぎかもしれんぞ、それは」
ようやく冷静になってきた。怒りのあまり、私、とんでもないことしちゃったわ!?
「……すみません、取り乱しました。ごめんなさいねウララさん。こわかったわね?」
「う、うぅ……」
ウララさん、全然近づいてこない。自業自得なんだけど、すごい傷つくわ、これ……。
「ともあれ、これで解決ですね。先程のことはまあ、あれかもしれませんが、お見事ですキングさん」
マンデーさんは、こわばった表情でそう言った。
「にしても、ジルコン! お前、スズカにぶつかった上、悪者にしようとしたなんて……ちゃんと反省しろよ」
「する! します! ごめんなさい!」
ジルコンさんは、トパーズさんへも土下座していた。しかし、いくら責め立てたからと言って、こんなに泣き崩れるとは思わなかったわ……。
「どんな形であれ、事件は解決された。これで調査は終了だ。皆、長い間呼び止めてすまなかった」
ハヤヒデさんが頭を下げる。なるほど、現場にトパーズさんとジルコンさんが残っていたのは、ハヤヒデさんが呼び止めていたおかげだったのね。
「よし、今度こそトレーニングに戻るか」
トパーズさんが部屋を出ようとする。マンデーさんも、出口に向かって歩き始めた。
「まだ、事件は終わってない」
突然、ウララさんがそう言う。みんな動きを止め、ウララさんの方を向いた。
「そうだよね? キングちゃん」
ハヤヒデさんの影から、私を見つめるウララさん。
「ええ、そうね。私の推理はまだ、終わっていません」
そう言いながら、ウララさんへと歩み寄った。
「ベリルさん、スズカさんにぶつかったのは、ジルコンさんです。しかし、この事件には、こうなるように仕組んだ『真犯人』がいます」
<事件概要>
約10分前、スズカがコースで走っていた時、4人のウマ娘がやってきた。
この4人はコースに入り、ベリル以外は模擬レースを始めた。
その途中、ジルコンとぶつかりスズカは倒れ、その後ベリルがぶつかり倒れる。
ビワハヤヒデとマンデーが駆けつけ、2人でベリルさんを保健室へ運んだ。
ゴールドシップがその光景を目撃。
遠くのコースで腕立てしていた時、スズカがベリルにぶつかるところを見た。
スズカだと判断した理由は、髪型と髪色。
<手がかり>
・ウィッグ
コースの柵近くで見つかる。
元の位置で放置したものの、犯人は回収せず。
その理由は、犯人がウィッグを使ったと思わせるため。
<登場人物>
・サイレンススズカ
トパーズ、ジルコンからから犯人だと言われているが、容疑を否認。
右から2番目のレーンを走っていた。
・グランドベリル
被害者。黒髪のおさげで、黄緑色のメッシュが入っている。
1番小柄で、何かというと自分が悪いと思ってる節がある。
戦績は良く、G1で1着を取ったことも。
夏頃から今日までは、入着できていない。
先月の秋の天皇賞でスズカと走った。他にも何度か一緒に走っている。
来週も出走予定のレースがある。
事件当時、1人に追い抜かれた後、何者かにぶつかったらしく、気を失い倒れていた。
ハヤヒデとマンデーがそれを見つけ、保健室に運ばれる。
スズカが犯人だと思っていない。
1番内側を走っていた。
・ホワイトマンデー
模擬レースをしていた1人。
楕円形メガネ、白い前髪に、黒いストレートヘア。
スズカさんを責め立てていない。
トパーズいわく、ミステリアスで速い。
倒れたベリルを、ハヤヒデと保健室に運ぶ。
模擬レース中、ずっと先頭だった。
左から2番目のレーンを走っていた。
・トパーズダガー
模擬レースをしていた1人。
身長も髪色もスズカそっくりだが、前髪ぱっつんのショートヘア。
正義感は強い。
スズカさんを犯人呼ばわりしている。
レースの戦績は良くないが、負けた相手に対して恨むことはない。
模擬レースでは、途中までジルコンと拮抗し、最後は2着。
1番外側を走っていた。
・ジルコンフラッグ
模擬レースをしていた1人であり、ベリルとスズカにぶつかった犯人。
茶色の髪は長く、ボリュームはハヤヒデほど。少しボサボサしている。
髪を伸ばしている途中、オレンジ色に染め、元と同じ茶色のウィッグをつけるようになる。
丁寧な言葉使いだが、高飛車なところがあり、高圧的な態度。
自分にも他人にも厳しい。負けたことは引きずる性格。
髪を触られそうになり、ウララの手をはたいた。
模擬レースでは、トパーズと拮抗していたらしい。
犯人だと言われ、反論できなくなった時、泣いて取り乱した。
・ビワハヤヒデ
たまたま現場に居合わせ、ベリルを保健室まで運ぶ。
彼女が事件関係者を現場に留まらせていた。
<図>
・現場のコース 足跡
【挿絵表示】